神は赤毛の少女(元少年) を見ながら、笑う
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プリートを出発して二時間程経っただろうか。
「へぇ、ソフィーさん以外のお二人は転生者の方なんですか」
御者台に座るえんじ色のキャスケット帽を被ったおじさんは、オレと鏡花の方を軽く見て話した。
「お二人共かわいいですし、向こうでは相当モテたんじゃないんですか?」
鏡花は「いえいえ」 と恥ずかしそうに否定していたが、
「ハハハハ」
と、オレからは乾いた笑いしか出なかった。
※
「オレの名前は乙桐信吾。日本に住むごくごく普通の学生だったオレは高校の校外学習を実施するキャンプ場に向かう途中、バスが事故を起こして死んでしまった。死んだはずの俺の目の前に現れたのは虹色の髪と眼を持つイケメン少年。彼、シェダムに「生き返らせてあげる」 と言われ蘇ったのは見知らぬ地『トリズモ』 だった。なぜか赤髪の女性へと生まれ変わってしまったオレの前に現れたのは、同じようにこちらに来ていた親友で勇者の「宮島鏡花」 と、魔王である「真鍋海斗」 だった。街で出会った科学者「ソフィー」 の協力を得て、三柱の神々との約束『この世界を平和的に世界征服』 を達成して、日本への帰還を目指す事になったオレ達。これからどんな冒険が待っているんだろうか?」
「シェダム、ひとりでなにを言っているのですか?」
暗い神の世界で虹色の髪の子供と銀色の髪を持つ女性が話している、しかし少年の方は女性を見ずに遥か彼方を覗く様に手で眼鏡を作っていた。
「いや、なんでもないよ。女神プラケニア」
「ソイツの独り言はいつもの事ではないか」
いつの間にか神の世界に現れた椅子に黒髪の男が座っていた。
「悪神ディアネグロ、そんな言い方はないだろ? まるでボクが変人みたいじゃないか」
「変人であろう。いや、神であるから変神か。贄の事などを覗き見る価値などない事をするなぞ、変神以外なんというのだ」
シェダムは手で作っていた眼鏡を止め、ディアネグロの方を向く。
「ディアネグロ、君でもそんな冗談を言うんだね」
と、薄く笑った。
「ボクはね、この世の中で一番人類が好きなんだよ。チョットした事で怒り、泣き、笑う。そんな彼らを見ているだけで、愉快なんだよ」
「それは神としての家畜を見る目か? それとも『人間神』 としての……」
「どちらでもないよ」
ディアネグロの言葉に間髪を入れず、シェダムは返す。
「さ、彼はっと」
再度手眼鏡をして地上の様子を窺う。
「うん? あの馬車は?」
車輪と客車を繋ぐ部分がガタガタと揺れている。
「いい事思いついた。コレをこうしたら」
シェダムは指をクルクルと回す。
「シェダム、下界に干渉したのですか?」
「女神よ、そんなに気にすることではないさ。一時間だけその部分の時間を進めただけでね」
そう言って、満面の笑みを見せた。
※
「あちゃー、これは駄目だねぇ」
四輪ある内の右前輪があるべき場所には何もなかった。
「きちんと整備して来たってのに、なんだってあんな外れ方したんだか」
右前輪はガコンッ! と異音を放つと同時にしばらく馬車と並走し、ゆっくりと右に逸れて木にぶつかって止まった。おじさんは慌てて馬車を止めるとオレ達を下ろし、馬を近くの木に留めて馬車の様子を見ていたのだがあんまりいい状況じゃないってのは分かった。
「これは修理に部品がいるな、とはいえ予備の持ち合わせはないし。すまないけど、ここまでしか送れないな」
「そうですか」
一緒に馬車を屈んで見ていたソフィーが立ち上がり、答えた。
「すまないね。それと向こうについたら誰か人を寄こしてくれたら助かるんだが」
「分かりました。伝えておきます」
「助かるよ。もう半分以上は来ているからあと一時間くらい歩けばブジョニアまで着くはずだ」
ソフィーは外していたポーチを腰に付けなおし、オレと鏡花も剣を装着した。
「ここまでありがとうございます。じゃあ、行こっか?」
そう言って歩き出したソフィーの後を、おじさんにお辞儀をして追いかけた。
2話スタートです!
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