「これからのはなし」
※
翌日、オレは魔王城の客間の扉をたたく音で目を覚ました。
「シンゴ、起きてくれ」
慌てて身を起こし、ドアノブをひねる。
ドアの向こうには海斗、その隣にソフィーと鏡花が立っていた。
「どうしたんだ?」
「ブライアンから呼び出しをもらってね。ちょっと君達にもついて来て欲しいんだけど、いい?」
断る理由もないので、身支度を終えるとそのまま議会場へと向かった。
※
「ようこそお越しくださいました。今日はどのような……あ、ソフィー様でしたか。では、こちらへ」
ソルヴィさんはなんだか慌てているようで、ソフィーやオレ達の服装を指摘せずそそくさと部屋へ案内してくれた。
「ソフィー、急な招集をして申し訳ない」
ブライアンは椅子から立ち上がり、便箋を持ってこちらへ近づいてくる。
「いいわよ。それでどうしたっていうの?」
「隣の街から君宛に手紙が届いた」
「どこ? ヴィチノウ? それともノーチ?」
その言葉にブライアンさんは首を横に振る。
「手紙の差出人はテンペスト・ノーラッド」
「え!? ブジョニア代表の!?」
「はい。これを」
ソフィーが手紙を受け取る。
「えーと『拝啓ソフィー様、こちらで緊急事態が起こった。君が作ってくれたデンワの調子が悪い。こちらの技師にも見せてみたのだが、どうにも分からない部分が多いと白旗を上げた。しかし、ワシの勘ではこれは放置しておいてはいけない気がするのだ。だから制作者である君に至急こちらへとお越しいただきたい』 ね……うん、ちょうどいい機会かもしれないわ」
ソフィーは手紙をポケットにしまい、オレ達三人の顔を見た。
「みんな、よかったら一緒にブジョニアに行かない?」
唐突な話に頭がついていけない。
「ブジョニアってのはね、このプリートから南に街道を進んだ所にある街でこの辺りじゃ一番大きな都市で、別名『転職の街』 と呼ばれているの。そこではね、この街だと簡単にしかできなかった職業検査の本格的なものを出来るから、そこならシンゴ君の能力の詳細が分かるかもしれないわ」
自分の能力が分かればもっとみんなの役に立てるかもしれないな。
「ふたりは俺に構わず行ってきてくれ」
「カイト君? それってどういう意味?」
昨日の夜、海斗がオレと鏡花に話してくれた事だろう。
「ふたりには昨日話したんですが、俺はしばらく城に残ろうと思います」
「どういう事ですか? やはり魔王の事が気になるのですか?」
ブライアンさんがこちらへと一歩、足を進めた。
「いえ。ただ今回の事で仲間達の力が足りなかったのがよく分かったので、自分たちの身を護るためにも少しだけ戦い方を教えないといけないと思っています。それに、今回の事で魔王に対するみんなの反応も知ることが出来ました。その意識を改善するためにも、プリートの人達と仲良くなりたいんです」
「仲良く? いったいどうやって?」
ソフィーの疑問も当然だし、オレ達も同じ事を聞いた。
「ブライアンさん、街の中にお店を開かせていただけませんか?」
「店、ですか? この街で商売を始めるのに許可等はいりませんが……」
「それならよかったです。そこで魔王城で作った作物は食品の販売をしようかと思っています」
「作物?」
「はい。実はこの間の宴会の時にも出させてもらっていたのですが、魔王城の近くの大地は土の質が良いみたいでそこで取れた野菜はなかなかの質です」
「ええ。たしかに美味しかったですね、にんじんなんか甘くておいしかったです」
「ありがとうございます。ほかにも小麦やじゃがいもなんかも出来ているので、それを売って街の皆さんから信用を得られればいいなと思っています。あと、売り子もこちらから何名か出して親しみやすさを出せればいいかなとも」
「魔王とモンスターの商店ですか。この街の魔王に対する嫌悪は並大抵の努力じゃぬぐい切れないと思いますが、いいんですか?」
海斗はしっかりとブライアンさんの方を見て、
「商売なんて最初から信頼されてる事の方が少ないでしょうから、人一倍……いえ十倍、どうやればいいかを考えて働けばいいだけです」
当然のようにそう言ってのけた。
「そうですか。なら、こちらから言う事はなにもありません。あなたの覚悟とその結果、私の耳まで届かせてくださいね」
※
「まったく。いつの間にあんな話をしてたのよ? 私も話に混ぜなさいよ」
「すみません」
ソフィーは頬を膨らませながら「もうッ!」 と、不機嫌そうに話した。
「まあいいわ……カイト君はこっちに残って店の開店準備をするって事でいいのね?」
「はい。ふたりの事、お願いします」
「分かってるわ」
ソフィーはウインクをして見せた。
「それで、いつ出かけるんだ?」
「いますぐよ」
「「えっ!?」」
オレと鏡花の声がハモった。
「急すぎない?」
鏡花の言葉に、
「そうかもしれないけど、こういうのは即断即決しないと対応が遅れちゃうからね」
「善は急げ、って事か」
「なにそれ?」
「オレ達の住んでいた星の言葉だよ。良いと思った事はすぐにでも行動しろって、意味」
「その言葉、良いわね」
ソフィーが立ち上がった。
「じゃあ、善は急げって事で行きましょう?」
※
オレ達は街の外れでブライアンさんが用意してくれたという馬車を待つ事にした。
「ちょっとの間だけど、お別れだな」
「出来るだけ早めに解決してくるから待っててね」
「ああ。みんな、気をつけてな」
「海斗もな」
「やる事が多いからって、ご飯を抜いたりするのはナシだからね?」
「分かってるよ」
ふふ、と自然に笑いが零れてきた。
背後からガラガラとなにかが近づいてくる音がした。
「おーい、あんた達がブライアンさんの言ってたお客さんかーい?」
えんじ色のキャスケット帽を被ったおじさんが馬車の御者台から手を振っている。
「よろしくお願いします」
ソフィーが一歩前に出て頭を下げた、オレと鏡花もお辞儀をする。
「遅れてすまないね。なんだか車輪の調子が悪くなっていて、整備してたら遅れてしまったんだ」
「大丈夫ですよ。途中で動かなくなってしまっては困りますからね」
ソフィーの言葉におじさんはお辞儀をする。
「そう言ってもらえると助かりますわ。さ、乗って下さい」
馬車の客車部分は映画などでよく見る箱のようなモノではなく、簡単な屋根のついた代物だったがなんだかゲームみたいでワクワクしてきた。
二人掛けの席がふたつあり、前にソフィーと鏡花、その後ろにオレが座った。
おじさんは外に立ったままの海斗を不思議そうに眺め尋ねた。
「あなたは乗らないんですかい?」
「ええ、俺は見送りですよ。みんなをよろしく頼みます」
「任せてくださいよ。安全安心がワゴン社のモットーなんで」
おじさんは親指を立てた。
「じゃあ、行ってこいよ」
手を振る海斗が遠ざかっていく。
「ああ、行ってきます!」
オレ達は後ろを振り返りながら言葉を返した。
※
「彼ら、楽しそうでいいね。君達もそうは思わないかい? プラニケア、ディアネグロ?」
トリズモの上空、この世界の人には認知できないその一部を自分達の住処としている者、それが神。
その中で少年とも少女ともつかない幼い顔つきをした彼が笑いながら見ているのは、地上を走る一台の馬車であった。
「ただの贄ではないか。そんなものの感情なぞに向ける心は持ち合わせておらん」
「あなたはそうやってすぐに人を下に見て……」
「単なる家畜に何を感じろというのだ? 喰ってしまえば同じだろうが」
女神と悪神は言葉の端々から敵意を漂わせていた、その場に人がいたら彼らの言葉だけで寿命を削り取られる程に。
「……それにしても海斗とかいうガキはなぜ敵である勇者を守り、あまつさえ同胞である『アエシュマ』 を封印したのだ? 理解できん」
悪神ディアネグロは左手を固く握った、その中に忌々しいものでも閉じ込めたかのように。
「それは私も同意です。彼女……鏡花ならば他人を傷つける魔王など許さないと思ったのですが、躊躇うだなんて……優しすぎたのかもしれませんね」
女神プラケニアは深いため息をついた。
「まあまあ、おふたりさん。自分の選んだ者をそう簡単に失望しちゃいけないよ?」
ディアネグロの眉が嫌悪で歪む。
「お前は何を考えているんだ? 男を女にする事はこれまでも何度もあった、だからそれ自体に些かの興味も湧かん。ただ、あの力はなんだ? この世界の中に私が知らない力など有り得ないぞ。お前は何をした?」
「遺憾ですが、それについては私も同意します。一体あれはなんだというのですか、シェダム?」
悪神と女神の意見が一致することなど、これまで一度たりともなかった。
「秘密だよ」
「そうやって貴方はすぐにごまかそうとする。あなたはいったい何を考えているのですか? 彼になにがあるというのですか?」
シェダムは笑顔を崩さないまま、彼らの方に顔を向けた。
「なにも。至って普通のただの人間だよ」
「ならば何故、そこまで手出しをしたがる。今までお前が下に送った人間を気にした事などないというのに、だ」
ディアネグロの眼光が鈍く光った。
「同じモノだから、か?」
フハハ、とシェダムは大笑いした。
「ボクは人間なんかじゃないよ、それは君たちが一番知っているじゃないか」
苦虫を噛み潰したよう表情を悪神が見せ、女神は顔を逸らした。
「……そうだな『人間神』 よ。分かっている」
シェダムの口が大きく開かれた。
「なら、楽しもうよ! この世界を!」
彼の笑い声は神の空間に響いていた。
これにて一章完結です。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。




