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「おめでとうと……」



 魔王城の地下に閉じ込められた海斗の仲間達を解放して、代わりに悪の魔王をそこに置いてきた。

 魔王を退治したオレ達を街で待っていたのは、


「おかえりなさい、皆さん」


 ブライアンさん、それと一緒に戦ったテントの人達だった。


「ただいま!」


 ソフィーの言葉にワッ、とみんなが駆け出してくる。


「よくやったな、お前ら!」


「まさか魔王を退治するだなんて驚いたぞ」


「お前らならやれるって、俺は信じてたぞ!」


 なんだか最初に受けた待遇と違いすぎて呆気にとられた。


「あ、あの後、モンスター達はどこかへと去っていきました。皆さんのおかげですよ」


 ブライアンさんは人垣を避けながらこちらへと近づいてきた。


「魔王は滅んだんですよね?」


「……いや」


 海斗の言葉に周りの人達がざわめく。


「魔王は、まだ生きている……?」


「なんだって!?」


「どうして殺さないんだ!」


「やはり同じ魔王だからと手を抜いたのか!!」


 それは……と、声をあげる前にソフィーが一歩前に出た。


「確かに魔王は死んではいないわ。けど、彼が封印を解かない限りは簡単に復活しない。そうよね?」


「もちろん。あの魔道を解くには専用のアイテムや解除魔道、それに場所や時間など非常に細かい制約があるので、それを城の誰にも気づかれずにこなすのは至難の業でしょう」


「だって。それなら大丈夫なんじゃない?」


「そ、そうかぁ?」 と、困惑した声が上がる。


「術者が言ってるんだから問題ないわよ? ねぇ、ブライアン?」


「その話は本当なんですね、海斗さん?」


 海斗は言葉を発さずに頷いて見せた。


「わかりました。ただ、もし何か起こったら協力してくださいね?」


「もちろんです」


 それに、とソフィーが鏡花の後ろに回る。


「こっちには勇者もいるんだから!」


「それもそうか。うん、そうだな!」


「よし。なら、お祝いだ!」


「討伐、じゃなかった。封印記念だ!」


 ソフィーの言葉に歓声が再び戻ってきた。


「そうと決まったら、店に行くぞ! どこにする?」


「やっぱりシャボン亭か? それともトラットリア・ガストロノミアか?」


 みんながそれぞれ歩き出し、街の方へと向かっていく。


「ちょっと待ったくれないか?」


 みんなの視線が声の主である海斗へと集まった。


「それなら、俺の城でやりませんか?」


「お! いいのか?」


 海斗は頷いた。


「よっしゃ、それで決まりだな!」


「ちょっとだけ準備するので待っていてください」


 海斗は慌てて魔王城のほうへと向かう。オレと鏡花、ソフィーはその後を追いかける。


「大丈夫なのか? 城の中だってさっきの戦闘で傷んでしまっているだろ?」


「そんなものは魔王の力をちょちょいっと治せるのさ。それに……」


「それに?」


「これも平和な世界征服への一歩だよ」



 一時間後、魔王城のホールと謁見室には長机が用意され、その上には大量の料理と飲み物が置かれていた。


「はぁ、圧巻だ」


 ホールにあった焼け焦げた跡はきれいさっぱり海斗の魔法で消え去っていた、さっきまで死闘をしていた場所とは思えないほどに。


「こんだけ広いんだから、こうやって使わないともったいないだろ? それに、ここに来てもらってみんなに会ってもらえばお互いの事が少しは分かるはずさ」


 平和な世界征服の一歩、それは飲みニケーションだそうだ。サラリーマンのしている事は分からないけど、友達と食べる食事は美味しいから仲良くなるにはいいのかもしれない。


「なんちゃってカレーライスもいい感じに出来てきたわよ、カイトくん」


 ホール横にある厨房の方からシャボン亭のマリさんが顔を覗かせた、配膳係のひとりとして手伝っているオレ達は料理を受け取りに中へと入った。

 カレーのいい香りが充満していて、それだけでお腹が空いてきた。


「わざわざお越し頂き、ありがとうございます」


 海斗が魔法で大皿に並々と盛られたカレーを持ち上げ、オレと鏡花はスプーンや皿などを持った。


「いいわよ、そんなに改まらなくったって。ソフィーやシンゴちゃんにもお世話になってるし、あなたも大切なお客様じゃない。友人から頼まれたんだから断るのも悪いじゃない」


「助かります」


「いいってば。それにしても、この子達凄いわね」


 と、彼女が横眼で見たほうに目を向ける。

 そこには前髪で目が隠れて口元しか見えない、ローブを纏った女性? がふたり立っていた。


「ゴーストウイッチの魔女子まじょこ魔女恵まじょえはウチの中で数少ない人型で、魔女だから混ぜるとかこねるとか得意なんですよ」


「それに調味料の分量もバッチリ! 味見だけこっちでやれば問題ないっていうんだから最高の助手ね」


 彼女たちの口角があがる。


「ふたりとも『嬉しいです』 って、言ってますよ」


「じゃあ、もうちゃっと手を貸してもらうわよ。おふたりさん?」


 彼女達は頷くと作業へと戻った。


「あんまり邪魔しちゃいけないし、コレが冷める前に行こうか」


 オレ達が運んできた物をホールの長机に並べていると、


「カイトさんは御在宅でしょうか?」


 と、声が聞こえた。


「少しお待ちください」


 海斗はそう言うと大扉の横に待機している石像へと合図を送ると、二体の石像は扉を開けた。


「おお! こりゃ豪勢だな!」


「どうぞお入りください」


「今日はお招き頂きありがとうございます。つきましてはこちらを……あっ!」


 ブライアンさんの挨拶を遮るように大柄の男性が海斗との間に割って入る、確かこの人は海斗に文句を言っていた人だ。


「……さっきは悪かったな。ほら、ウチで飼ってる鶏の卵だ。よかったら使ってくれ、味は保証する」


「ちょ、ちょっと、バーナードさん! そんな不躾な言い方をしては……」


「兄さん、そんなに堅苦しい挨拶はいいからさ。カイト君、これおみやげね」


 それを合図にカイトの周りには人だかりが出来て、一瞬にしておみやげの山が出来た。


「みなさん、ありがとうございます」


「いいからいいから、ほら案内してくれよ」


 と、海斗がホールの中央へと腕を引かれていった。



 マスクさんの盛大な宴会芸から始まった宴は終わり……なんてことはなく、あれから数時間続いている。

 とはいえ忙しい時間は終わりオレと鏡花はご飯を食べ終えて、ちょっと休憩しようと魔王城の客間へと来ていた。

 下からは大合唱が聞こえてくる。


「みんな楽しそうだね」


「本当によかったな」


 ベランダから眺める星々は、地球で見るものより一段と輝いて見えた。

 鏡花がコップの中の紅茶を口に含み、飲み込んだ。


「……あの時はごめん」


「ん?」


 鏡花が何に対して謝っているのかわからなかった。


「私ね。魔王と戦った時、怖かったんだ。敵なんだ、倒さないといけないんだって、何度も何度も自分に言い聞かせた。けど、魔王に剣を向けた時、この人を殺すんだって思ったら……」


 彼女はカップをぎゅっと握りしめた。


「私、あんな時だっていうのに相手を倒さない方法を考えてた。そんな甘さがあったから飛ばされたし、その役目を信吾に押し付けた。だから、ごめん」


「そんなの……」


「そんなの気にする事じゃないさ、鏡花」


 声の方を向くと海斗が立っていた。


「下から抜けてくるのが大変だったけど、こっちはこっちで深刻そうな話なんかしてるなよ」


「だって……」


「いいんだって、俺も慎吾も鏡花が辛そうなのは分かっていた。だからこそ、反撃のチャンスを見つけて勝てたんだ」


「けど……」


 鏡花の言葉を遮るように、


「じゃあさ、こう考えればいい。この世界にいる間はオレ達は三人で一人のチームだ。みんながみんなのした事の責任を考えて、みんなで共有する。そうすれば一人の負担は軽くなるさ」


 オレの言葉に合わせるように海斗が、


「それに嬉しい事は三倍だ」


 そう話した。


「……ありがと」


 扉がノックされる音がして振り向いた。


「カイトさんはここにいますか?」


 ブライアンさんの声だ。


「どうぞ」


 扉が開くとオレ達がいると思っていなかったのか、少しびっくりした顔をしていた。


「すみません。みなさんが居るとは思っていなくて」


「大丈夫ですよ。それで、どうしました?」


「魔王を……見せてくれないか?」


「構いませんが、どうしてまた?」


「僕は君達のような戦闘職ではないからどうしても敵と相対する機会はほとんどないからね。街を護る者としてはきちんと敵を見ておかないと、平和に胡坐をかいてしまうかもしれないからね」


「ブライアンさんは街の事を第一に考えているんですね」


 オレの言葉に彼は照れ隠しなのか頭を掻きながら、


「生まれ育った街だからってのもありますけど、あの街の雰囲気が好きなんですよ。人が人を育て助け、日々成長していく。僕はそれに惚れこんだだけです。惚れてしまったんだからこそ、全力を尽くしたいんですよ」


 彼の言葉はただまっすぐに心に刺さった。


「では、案内してくださいませんか?」



 魔王の顔を見たブライアンさんの反応はいたって冷静だった。


「思ったよりも普通ですね、本当に」


 そう呟き、「仕事がありますので、一足お先に帰らせていただきます」 と城を去っていった。


「そろそろオレ達も帰るか、ほら起きろ」


 と、バーナードさんは辺りに寝転がっている人を起こしていた。


「私達も行きましょ、ヴィクトル?」


「そうだなノンナ。じゃあ、また明日な」


 それを合図に賑やかだった宴会も終わりを迎えた。


「じゃあな魔王、それとみんなもな」


 いつのまに仲良くなったのか、モンスター達はブライアンさんに挨拶をしているようだった。


「またいつでもおいで下さいませ、一同お待ちしております」


 と、海斗が去る人々に深々とお辞儀をするとゆっくりと扉が閉じていった。


「みんな、楽しそうだったね」


「ああ、主賓としては満足だったよ」


 海斗はモンスター達に「お疲れ」 と告げ、背を向ける。


「少しだけ話があるから、俺の部屋に来てくれないか?」

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