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「無職だー!」


「さっきからなにか喋っているようだが、こちらは手を抜かないからな?」


 魔王の周りに今までより一段と数の多い光弾が現れた。


「必要ないさ。こちらも本気でいくからな」


「今までは本気じゃなかった、とでも言うつもりか?」


「さぁ? どうだろうね?」


 海斗はこちらへ一歩近づき、小声で話す。


「次の攻撃の時にあいつの目の前へお前を飛ばす。姿は煙幕で隠すから、その剣で魔王の攻撃を防いで時間を稼いでくれ。こっちは魔導の発動に集中するから援護はできない、注意してくれ」


 オレは魔王の方を見据えてまま頷いた。


(海斗からの援護はなしか、ソフィーも鏡花を見てるから無理だろう。短い時間とはいえ魔王と1対1で戦うのか。海斗にソフィー、そして勇者の鏡花でも倒せなかった相手と……)


 脳裏に自分が吹き飛んだ姿が浮かび、嫌に冷たい汗が背中を伝っていく。


「……あんまり重苦しく考えるなよ、信吾」


 海斗の言葉にビクッと体が跳ねた。


「たったの一、二分だ。カップ麺が出来上がるより早いんだ、気楽にいこうぜ」


 そのいつものように語りかける言葉に自然と笑ってしまった。


「トリズモにカップ麺はないけどな」


「なら、ソフィーに開発してもらってもいいんじゃないか?」


「ああ、そのためにも頑張るか」


「そうしよう」


 海斗の方がオレなんかよりプレッシャーが重いはずなのに、そんなことをおくびにも出さず軽口を叩いている。

 そんな男の横にいるオレが負ける訳にはいかないな。


「相談は終わったのか?」


「まあな」


 海斗が答える。


「じゃあ、そろそろ終わらせるか」


「そうだな」


「なら、さよならだ」


 魔王の腕が動くと同時に、光弾が一斉にこちらへと向かってくる、海斗はバリアでそれを防ぐ。

 光弾はバリアにあたって消滅する、そう思ったが光弾は形状をドリルのような渦巻き型に変えてバリアの一部を侵食し、そのまま突き破ろうとしていた。


「これは……! やるぞ、信吾!」


「おおッ!」


 海斗の腕が動くと同時に、オレの体は軽くなり宙に浮かんだ。


「いけッ!」


 ドリル光弾の先端が開き、赤々と発光した。ドカン! という爆発音とともに光弾が一斉に破裂しバリアを破壊し、中にいるオレと海斗を巻き込もうとした。

 しかし間一髪で宙に舞い上がったオレは海斗の方に目をやりたかったがそんな事をしていてチャンスを逃すわけにはいかないと、目線を魔王から離す事はしなかった。


「また突っ込んでくるというのか。ならば、もう一回弾き飛ばしてやる!」


 魔王の手に炎が生まれ、その爆炎はこちらに向かって放射された!


「こんのォ!」


 宙を飛びながら勇者の剣を迫る炎に向かって突き出すと、勇者の剣は魔王の生み出した炎を裂いてくれる。

 海斗の魔法と勇者の剣のおかげで魔王の前へと無傷で降り立てた。


「それは、さっきの勇者おんなが持っていた!? なぜ、お前がそれを!? まさか、勇者が二人もいたのか!?」


 魔王は光弾を剣のような形状に変え右手に持つと、それをこちらへと振り下ろしてくる。

 オレはそれに合わせるように剣を振り回した。いや、重すぎて振り回す事しか出来なかった。


「悪いけどな……」


 勇者の剣が、光弾の剣を粉砕する。


「こっちは、ただの無職だー!」


「そんなバカなッ!」


 光弾の剣を破壊された事に対してなのか、無職に対してなのか分からないが、叫びながら魔王は反対の手にも剣を出現させる。

 だけど、そうはさせない!

 フラフラと剣に振り回されていたその反動を利用して、そのまま現れたばかりの剣も砕いた。


「クッ!?」


 魔王が一歩退いた。


「逃がすかぁ!」


 一歩進みながら振り下ろす、それを防ぐように魔王は炎を生み出したが出た瞬間に消える。

 背後からなにかの音がした。


「うぉりゃー!」


 腰をひねって後ろを見ると、二個の光弾が目の前まで迫っていた。

 剣を無理矢理に振り回して叩っ斬る!


「こ、こんな奴に! こんな小娘に押されるなんて!?」


「小娘で悪かったなァ!!」


 勇者の剣が魔王が出した光の鞭で絡めとられそうになったが、そんな事はお構いなしに引きちぎった。


「くそがッ! 分が悪すぎる!」


 魔王はこちらに背を向け、逃げようとした。


「逃がさない!」


 オレの叫びと同時に、


時の固定(フローズン・タイム)!」


 背後から海斗の声が響いた。


「こ、これは!?」


 魔王は逃げようとしているようだったが、その足元は黒い水晶のような光沢をもった物に覆われていた。


「信吾が時間稼ぎしてくれたおかげで唱え終えたんだ。魔王のお前だったら、これからどうなるかはわかっているだろう?」


「い、嫌だ! このまま永遠に動けなくなるだなんて!」


 グンと上体を動かすが、すでに魔王の腕は足と同じく水晶のような物に覆われていてその場から移動する事はなかった。


「嘘だ!? 俺様が何をしたっていうんだ!?」


「……俺の仲間を……家族達を襲った。それだけだ」


 しかし、その海斗の言葉は魔王には届いていないようだった。


「魔王として正しい事をしたんだ! なのに、どうしてこんな目に合わないといけない! 誰か……」


 水晶化は首まで達していた。


「助けてくれェ!」


 叫ぶと同時にピシッと音を立て、魔王は水晶の中に閉じ込められて動かなくなった。


「よくやったな、信吾」


 海斗の方を振り向くと、彼の服はボロボロになっていた。たぶん、光弾の爆発に巻き込まれたのだろう。


「そっちは大丈夫なのか?」


「見た目ほど酷くはないさ」


 鏡花とソフィーの方を見ると、ソフィーが銃を構え、鏡花が手を振っているのが見えた。


(よかった……終わったんだ……)


 気を抜いた瞬間、足元からゆっくりと崩れるのが分かった。

 ゆっくりと世界が横倒しになり、そのまま暗転した。


「……じょうぶか! おい……」


 誰かの声が聞こえる、たぶん海斗だろう。


「……やく! これ……飲…………」


 だんだんと意識が遠のい……てぇ!?


「グホゥァ!」


 喉の奥が葉っぱ臭い! 不味い! 苦い! そして臭い! また不味い!


「良かった! 目が覚めた!」


「大丈夫か!?」


「うぅ……あ、ありがとう」


 口の中が苦いけど、と付け加えたが誰も聞いちゃいない。


「これで、終わったんだよね?」


 鏡花が動かなくなった魔王を見ながらつぶやいた。


「いや」


 海斗が首を振る。


時の固定(フローズン・タイム)はかけられた対象をこの世界の時間から切り離してしまう魔道で、対象を倒したりするものではないんだ。つまり、こいつはまだ生きてる」


「大丈夫なの? その魔道が解けたりとか、外のモンスターとか」


「問題ない。この魔道を解くのは簡単じゃないし、即座に解除できるのは俺だけだ。外のモンスター達も命令してくる上がいなくなったら統率が取れなくなって散っていくさ。そうなったら烏合の衆だ、簡単に対処できるだろう」


 そういって海斗は歩き出した。


「ちょっと手伝ってくれ、みんなを出してやらないといけないからな」

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