「臨時勇者」
炎がオレ達の周りを抜けると、魔王は目の前に笑いながら立っていた。
ヤツは人差し指をこちらへと向け、
「貫け!」
言葉と同時に指の先端が激しく光り、回転する一本の光弾が発射される。
「マズい!」
海斗は印を切る。
「遅いんだよ!」
バリアに当たった光弾はその回転するままに、全てを阻む障壁を無理矢理引きちぎるかのようにバリバリと音を出しながら突き抜けて来た。
「そうは……させない!」
迫る光弾の前に鏡花が飛び出した。
「ハッ!」
眼前の迫る光弾へと鏡花は剣を振り下ろす。
「なに!?」
光弾は鏡花の剣とぶつかるがガリガリを音を立て必死に彼女を、そして俺達を貫こうと執念深く迫ってくる。
「消えろッー!」
バキンと小気味のいい音を立てながら、回転する光弾は左右へと分かれて吹っ飛んでいった。
「これでも……私達は足手まといだって言いたいの?」
息が切れ切れなのは丸分かりだけど、それでも鏡花は必死に魔王を見据えていた。
魔王は眉根を寄せ、
「お前、勇者か……なんだって魔王の仲間なんかにいるんだ、クソッ!」
舌打ちをした。
「……まあ、いいさ。どうせやる事は変わらないからなぁ!」
魔王が指を動かそうと手を上げた時、
「そこ!」
ソフィーが声を上げ、なにかを魔王へと放り投げる。紫色のなにかが入った小瓶が当たった衝撃で割れ、魔王の左腕全体を濡らした。
空気に触れた液体は次第に色を変えて、コンクリートのような灰色へと変化した。
「こんなモノ、何だというんだ! 喰らえ!」
魔王は威圧するかのように叫んだ。
しかし、なにも起こらない。
「う、腕が動かないだと!?」
「粘着瓶は、大型のモンスターだって十分程度なら動きを固定できるわ。たとえ魔王の力でも一瞬で剥がす事は出来ないでしょうね」
魔王は腕を動かそうとしているのだろうけど、固形化した灰色の物体はピシピシと音を立てるだけだった。
「こんな物など……!」
その声が聞こえるのと同時にダダダッ! と鏡花が駆け出し、カイトの腕が動くのと同時に踏み切り、ターン! と、跳躍する。
「これで……!」
大きく跳んだ鏡花はその手に持つ勇者の剣を振り下ろした。
着地した時の彼女の腕は振るえている。
「……ふっ」
しかし、鏡花の攻撃は浅すぎたようで魔王の服の一部を切り裂くだけに終わってしまっていた。
「鏡花!」
魔王の目が鏡花の方を向くのと同時にオレは走り出す。
「くそがァッ!」
ヤツは叫ぶと固まった腕とは反対の方で印を切り、自分の左半身ごと近くに立っていた鏡花を爆発させた。
爆風で飛ばされた鏡花の華奢な体は軽々と宙を舞う。
「駄目だ!」
鏡花が壁にぶつかる寸前で、その間へと入りこみなんとか受け止める事が出来た。ただ、その衝撃の凄まじさは代わりに叩きつけられた体のあちこちが痛む事で理解できた。
「大丈夫か、鏡花!?」
「う、うん……」
見た目ではけがや火傷を負ったような跡は見えなかったが、酷く疲弊している事は分かった。
「キョウカ、大丈夫!?」
ソフィーがこちらへと駆け寄り、彼女の顔が見える位置まで腰を落とした。
「大丈夫……だよ」
弱々しい声だったけど返事があって、少しだけ安堵した。
「鏡花、剣を」
鏡花の手に握られたままの剣を受け取る。
「なにを……するの……?」
そう言うと鏡花はせき込んだ。
「あとは任せて。ソフィー、鏡花を頼んだ」
ソフィーは鏡花の方を一瞬だけ見て、
「……分かった」
力強く頷いてくれた。
「海斗、お待たせ」
オレは彼の横に立った。海斗はずっと魔王からの攻撃を防いでいてくれたみたいだ。
「……鏡花は?」
片手間で何とかなる相手でもないだろうに、魔王の攻撃を防ぎながら余裕な風で聞いてくる。
「とりあえずは大丈夫みたいだ」
「そうか」
「これからどうするんだ? なにかいい手はないのか?」
「……ないわけじゃない。だけど、それには少しだけ時間が必要だ」
「どの位?」
「一分か二分。その間こっちへの攻撃を一切させないようにしてくれれば……いけるはずだ」
重さで剣先が床についたままの勇者の剣を見た。
「それ、持ってて平気なのか? 勇者じゃない普通の人間には持てないはずなんだが」
海斗がこちらを見て尋ねてくる。
「たぶん、鏡花の力だよ。ちょっと重いけど、これをいま使えるのはオレだけだろ? それなら、やるしかないさ」
これが魔王への唯一の攻撃手段ならばうまく使わないと……!
「任せたぞ、臨時勇者」
海斗がニヤッと笑った、それにオレもガッツポーズを挙げて答える。




