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「街へ行こう!」


「ハァハァ……ここまで来れば、大丈夫だろう……」


 なんだかいつもに比べてスタミナがない気がする。あと、この胸が走るのにすごく負担になる。女子はよくこんな状態で走れるものだと感心してしまう。


「だいじょうぶ、信吾?」


 鏡花キョウカはゼーハーと息を吐いているオレを心配してくれているようだ。というか、同じ速度で走っているのに、なんで鏡花キョウカは疲れていないんだ?

 彼女は高校二年生ながらにバトミントン部のエースだから体力はある方だったけど、それにしても息すら上がっていないなんて。


「……うん。問題ないさ」


 とは言ったけど、実は相当にしんどい。

 ただそれよりも、


信吾シンゴって呼んでるけど、信じてくれるのか?」


 鏡花キョウカは少し困った顔をしたが、


「だってさっきの言葉、前にも信吾に言われた事だし」


「そうだっけ?」


「そうだよ。私が熱がある時にそう言って早退させてくれたでしょ?」


「ああ、あれか」


 たしか、中学の頃だ。鏡花キョウカが数学の授業中なんだか具合が悪そうにしていたから、無理矢理に保健室へと連れて行ったら、38度越えの高熱が出ていた事があった。

 鏡花キョウカはひとりで頑張りすぎなんだよ、まったく。


「けどさ、たったそれだけの事で人を信用しすぎな。もう少し疑う事をしないと駄目だろ」


 人を頼らないくせして、やけに人を信じすぎる。まぁ……そこがいい所でもあるのも事実なのだけど。


「なら、やっぱり信吾シンゴじゃないの?」


「いや、オレはオレなんだけどな。って、そうじゃなくって……まあ、いいか」


 いつものようにニコニコと笑う鏡花キョウカを見ていると、色々と緊急事態だって言うのに何だか気が抜けた。


「そういえばさ、信吾シンゴも死んじゃったの?」


「も? って事は?」


 鏡花キョウカは首を縦に振って、


「うん。私も……死んじゃったみたい。校外学習のバスでね」


「やっぱりか……」


 クラスメイトだった彼女もあの事故で亡くなったのか、相当の事故だったのかもしれない。


「けど、こうやって『トリズモ』 で生き返らせてもらったんだ。あなたは特別だって」


「特別?」


 あの自称神様・シェダムが? あの万物の全てがどうでもいいって性格をしてそうなヤツが誰かを『特別』 だなんていうなんて、相当凄いんだろうな。

 鏡花キョウカは。


「うん。でね、その時にこの服と剣をもらったんだ。女神様に」


 うん? 女神?


「でね『あなたは勇者になるのです』 って」


 勇者? なるのです? いや、アイツはそんな言葉を使わないだろ?


「それにしても綺麗だったな、プラニケア様」


「え? プラニケアって、誰?」


「プラニケア様は、プラニケア様だよ」


「いやいや、シェダムって生意気な子供だろ?」


「えー、違うよ。プラニケア様は綺麗な銀髪の女の人だよ」


 なんだか話が一切噛み合わないんだけど……


「もしかしてさ、オレと鏡花キョウカの会った神様って別人じゃない?」


 もしかしなくても、そうなんだろう。ここまで話が噛み合わないなんて、いくらなんでもおかしい。

 それにあの生意気な神様も三神の一柱と言っていたのを思い出し、他の神のひとりが鏡花を蘇らせてくれたプラケニアなんだろうと思った。


「そうなんだ」


 なんだか気の抜ける返事だった。たしかに、オレと鏡花キョウカのあった神様が違ったからといって、なにか現状が変わるとも思えないけど。

 仕方ないと、オレは頭を掻きながら、


「それで? 鏡花キョウカはどうして、あんな所でスライム? とかいうのに襲われれてたんだ?」


 まあ、襲われてるっていうよりもからかわれていたみたいに見えたけど。


「そうそう。街の人にね『最近モンスターの活動が激しいから森の様子を見て来てくれないか』 って、お願いされたから他の人と一緒に来てたんだけど」


「街? 近くに街があるの?」


 オレの質問に、彼女はさも当然の事かのように目をきょとんとさせたままで「うん」 と答えた。


「もしかして、信吾シンゴはプリートに来た事ないの?」


「プリート?」


 聞きなれない名前に疑問符が浮かぶ。


「その街の名前だよ。本当に知らないんだ」


「それはそうだよ、オレがここに蘇ったのついさっきだよ」


 そういうと、今度は彼女の方が驚いた表情をした。


「えー!? 私がここに来たの、一カ月も前の事だよ!」


 鏡花キョウカが驚いた意味が分かった。オレは鏡花キョウカもいま、こっちの世界で生き返ったのだと思っていたのだけど、そうではなかったらしい。

 一緒に亡くなったんだからといって、一緒に蘇った訳ではないのか。


「そっかそっか。なら、知らないのも無理はないよね。うんうん」


 と、大きく首を縦に振った。


「それなら仕方ないね。私が信吾シンゴを街まで案内してあげるよ」


 彼女は意気揚々と立ち上がった。


「ほら、こっちだよ!」


 と、歩き出そうとした。


「ちょっと待った」


「なに?」


 さっきの話で気になった事があった。


「あのさ、鏡花キョウカって他にも一緒に来た人がいるんだろ?」


「ギクッ!」


 わざわざギクッ! と言った意味は分からないが、まあいいか。


「なら、その人は今どこに? なんでひとりだったの?」


「そ、それは……」


 彼女はこちらを一切見ようとしないが、その行動だけでなんとなく察しはついた。


「それは?」


「はぐれちゃった」


 はぁー、と大きくため息を吐いた。


「また迷子なのか」


「ち、違うよ。綺麗な花畑を見ていたら、いつの間にかみんながいなくなってたんだよ」


「それが迷子なんだって」


 鏡花キョウカは生粋の方向音痴で、よく人とはぐれる。幼稚園と小学校の時は、オレと親友の海斗カイトがつきっきりで見張っていたもんだ。

 それなのに幾度となく居なくなっては、オレ達であちこち走り回って探すのがお決まりだった。


「はぁ~。それなら、どうやってその街に行くんだよ?」


「あ、そうだね。どうしよう?」


 それはオレが聞きたいんだよ、鏡花キョウカさん?


「仕方ないな。その街が近いならどこかに歩いて行けば何かには行き当たるだろう」


 我ながらほぼ無策に近い方法だけど、これ以外にこの事態を好転させる方法はないだろうし、仕方ないか。


「さあ、行くぞ」


 鏡花キョウカはニコッと笑い、一緒に歩き始めた。

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