「悪の魔王」
「フンッ!」
視線をそちらへと向けると同時に声の主が手を横薙ぎに振るう。瞬間的に強烈な突風が起き、オレの体はそのまま壁へとたたきつけられた。
接触した衝撃で呼吸が出来ない……!
「ウッ!」
ソフィーの呻き声が聞こえた、鏡花も壁にもたれ掛かっているのが見える。
今この場に真っ直ぐ立っているのはふたり、海斗と階段の上に仁王立ちしている男だけ。男の頭には海斗と同じようなツノがあった。
「お前が魔王だな」
海斗が低い声で尋ねる。
「お前もだろ? 出来損ないの魔王さんよォ?」
海斗を煽るようにそう言った。
「出来損ない? その言葉はそっくりそのまま返させてもらうよ。人が留守にしている間に奪うという卑劣極まりない行動でしか乗っ取れなかった上に、その城さえもう既に陥落寸前だ。そんなの専守防衛をすべき魔王としては失格なんじゃないのか?」
舌戦。いや、ただの罵り合いのようだけどお互いに大して気にしていないかのような表情だった。
「ふん。そんな事じゃねぇよ、駒の使い方がなっちゃいないって話だ」
「駒?」
「配下のモンスターの事に決まっているだろう」
これだから転生して来たヤツは、と呟くのが聞こえた。
「城の防衛が魔王の仕事なのは基本だが、だったらその間の侵略はどうする? 配下のモンスターを近場の村へと派遣するのが常だろう? それをお前は後生大事に抱えこんで訳が分からない。あんな使い捨ての駒なんそ、使い捨ててこその価値だろうに」
「……それでか」
海斗の怒りを感じる。
「あ?」
「俺にはお前のモンスター達の声は理解できない。だけどな、その感情だけは感じられた。怒り、悲しみ、戸惑い、全部負の感情だった。その中でも特に強かったのは怨みだ」
海斗の眼光が鋭さを増す。
オレは何度かこの眼を見た事があった、それは誰かが他人を見下した時。
初めて見たのは確か小学校の休み時間……オレがクラスメイトの筆記用具を盗んだって疑われた時だった。近くにいたという事で犯人として疑われた時、真っ先に止めに入り庇ってくれたのが海斗だった。
(人を疑うのは簡単だよ、だからこそ信じてみてくれないか?)
そういってオレの疑惑を晴らすのに真っ先に手を貸してくれて、その子が失くしたと思っていた消しゴムが前の授業で使ったノートに挟まったままだった事が分かって、オレへの容疑は晴れた。
その後、海斗になんでオレをかばってくれたのか尋ねると、
(信吾がそんな事しないってのは分かっているし、なによりも疑う位なら信じる方が心地いいだろ?)
彼にとってはすごく簡単な事なんだろうけど、そうそう出来る事じゃない。
それを自分の仲間達じゃなく、敵だったモンスターにも……
「怨み? それはお前らへのだろう?」
「違う! 彼らがこちらに向けていたのは助けてほしいっていう嘆願だ! 戦った全てのモンスターの怨嗟は全てお前へと向いていたんだ!」
海斗の声が大きくなるが、
「ハッ! そんなこと知るかよ、弱いなら勝手に野垂れ死んじまえばいいだろ? それに、あんな奴らその辺にいくらでも転がっているんだ、代わりなんぞそれこそ山のようにな。そんな物を後生大事になんて、する方が馬鹿だ」
海斗の腕が動くと同時に十発以上の光弾が生成され、多方向へと移動しながら一斉に魔王の元へと向かっていく。
「フンッ!」
魔王が腕を軽く上げると体の周囲を光が覆い、光弾全てがそれに阻まれて消えてしまう。
お返しかのようにヤツが手をあげるとその周囲の空間に複数の穴が開き、黒い触手のようなモノが顔を出した。
「行け」
触手は魔王の手の動きに合わせるように海斗へと突き進む。
「フッ!」
海斗が息を吐き出すのと同時に両腕に光の刃が生まれ、演舞かのように迫り来る触手の群れを全て切り落とす。
オレは壁にもたれ掛かっていた体を起こして周りを見た、鏡花とソフィーも壁にもたれ掛かりながらも立ち上がり、息を殺してふたりの動向を見ている。
海斗が左手を真横へ伸ばすと魔王の背後から巨大なつららが現れ、魔王を目指して突き進む!
「分かってるんだよ!」
パチン!
氷柱が当たるか当たらないかの時に魔王が指を鳴らすと突き刺さるはずだったモノが海斗の正面に現れた、つららを瞬間移動させたかのようだった。
海斗はそれをいとも簡単砕いて見せた、キラキラと氷の粒が舞った。
「油断大敵だ」
今までの簡単な手の動きではなく細かく胸の前で動き、
「紅蓮の壁!」
そう叫ぶと同時に赤々とした炎の壁がホールの端から端までを一直線に結び、その高さは天井まで達していた。異様な暑さに氷の粒は一瞬にして蒸発し、熱気で皮膚が溶けているように感じる。
「みんな、こっちへ!」
海斗の言葉にオレ達は急いで彼の後ろへと回る。
「絶対にそこから動くなよ!」
炎の壁が急速に押し寄せ、体から出る汗さえもすぐさま蒸発していってるようだった。
海斗は何かを呟きながら手を素早く動かし、
「全てを阻む障壁!」
声を上げた。
迫る火炎の中央を断ち切るように金色に光る二本の帯がオレ達の周囲を覆い、互いに折り重なる。
業火は周囲を燃やし尽くしながら金色のバリアに包まれたオレ達の周りを通っていく。
「絶対にこの中から出るなよ! あれは紅蓮の壁、あの炎は生半可な生物ならば一瞬で燃え尽きてしまう魔導だ。あれに生身で耐えられるのは炎魔法に対する抵抗力の強い精霊人とエレメンツ、魔王だけだ」
「そう、だから一緒についてきたお前達は単なる邪魔でしかないんだ」




