「防衛線」
※
テント村をを真っ直ぐに進み木々の間を抜けると、オレ達の視界になにかの影が見えた。
それも両の指ですら数えきれないほどの数だ。
「あれはいくらなんでも多すぎるんじゃないか?」
誰もオレの言葉には反応しないが、各々の戦闘態勢をとる音を聞いてオレも剣を抜いた。
「出来れば城まではあまり戦わずに行きたかったが、そうもいかないみたいだな」
そう言うと海斗は右手をそちらに向けたまま、聞いた事のない言葉でなにかを唱えだした。
「聞いた事のない呪文……もしかして魔導!?」
「魔導?」
オレの質問に、
「私も含めた人間が使っている『魔法』 の元になったモノが『魔導』 なの。 だけどその威力は魔法とは桁違いで、その威力は街一つすら簡単に消し飛ばせるほどと聞くわ。私も実物を見るのは初めてよ」
ソフィーは早口で答えた。
「けど、いくら魔王でも魔力の消費が多いんじゃ……」
海斗はその言葉を遮り、
「ああ。だからもう少しだけ温存しておきたかったんだけどな」
「だったら、今は止めとくんだな」
木々の向こう、オレ達がやって来た方から声がした。
「ヴィクトル!? どうしてここに!?」
鏡花の問いに、
「友達が戦いに行くっていうのに私だけ待っているってのはなんだか気が済まなくてね、来ちゃったわ。それにアイツらの狙いは私達の街なんだから、居ても立っても居られないのよ」
と、彼女は後ろを振り返った。
「魔王の手助けをしなきゃならないだなんて最低な仕事だが、お前ひとりに手柄を横取りされたんじゃ、こっちの取り分まで減っちまうからな」
と、さっき海斗に悪態をついていた男が言う。
「街の守りはどうしたの?」
「グラハムが他の地区や休憩中の人員を回してもらえるように手配している」
「流石ね」
ソフィーは笑って言った。
「さて……」
ヴィクトルはオレの肩に手をかけながら、
「これで後方は気にしなくてよくなったんだ。街の為に……暴れるぞ!」
腕を上げたヴィクトルに呼応するように、その場にいたみんなも声を出しながら腕を上げる。
「城の中は俺達、遊撃隊だけで何とかする。それと今の露払いもな」
海斗は話しながらみんなの前へと移動し、右腕を横へと薙ぎ払った。
ゴウッ! と強烈な風が吹き抜け、迫って来ていた魔物の足を止めさせ、一部はそのまま飛ばされて後方へと押し戻された。
「スゲェ……」
誰かがそう漏らす。
海斗が走り出すと、それを追うように周りも駆け出した。
「シンゴ! キョウカ! カイトの後ろへ!」
と、ソフィーの声が聞こえた。
そちらへ向おうとした時、カランと手から剣を落としてしまった。
「おっと……ん?」
剣がさっきまで持っていた時と重さが違う気がした、まるで棒きれかのような感覚で違和感を感じる。
「シンゴ、こっち!」
キョウカの声のする方を見ると、先程よりも距離が開いている。
急いで追いつこうとした時、
「シンゴくん! 右!」
ノンナが叫ぶ。
右を見るとウォルフが大きく旋回するようにこちらへと向かって来ていた。
「来る……だけど!」
何故だかさっき出会った時よりも、その動きが遅く感じた。
「このォ!」
思いっきり横に振りかぶった!
ウォルフの重さが剣を通して伝わったが、そんな事はお構いなしに振り抜いた!
「グゥゥッ!」
と、呻きながら大きく飛んでいく。
「大丈夫、シンゴ?」
ノンナは倒れたままのウォルフの眉間へと弓を撃つと、オレの方へと駆け寄って来て肩に触れた。
「はい、大丈夫です」
「そう。それにしてもさっきの凄いわ、あんな力があったなんて」
「いえ、それが自分でもよく分からないんですけど剣が急に軽くなって……あれ?」
剣の重さが戻ってる。
「どうしたの?」
「なんだか剣が重くなって……あ、あそこにウォルフが!」
ノンナさんの背後を勢い良く走り抜けようとするオオカミの姿を捉えた、彼女は背後を振り向くのと同時に矢を装填し、
「逃がさないッ!」
一射目は外れウォルフは方向を変えたが、そこへ即座に二射目が胴体へと刺さる。
「まだよ!」
三射、四射と続けざま狼へと撃ちだされ、二発とも命中すると狼は倒れた。
「シンゴ! どこだ!?」
戦いの喧騒の中でオレを呼ぶカイトの声が聞こえた。
「あ、オレそろそろ行きますね」
「え!? 今の聞こえて……」
彼女は何かを言おうとしたみたいだけど、彼女を呼ぶヴィクトルさんの声にそちらへと向かっていった。
戦っている人たちの間を抜け、途中スライムに粘液をかけられそうになったが間一髪でかわし、海斗達と合流出来た。
ただ、声の聞こえた時に想像していた位置よりも海斗達が待っていた所は遠く、こんな所の声がさっきの場所に届くのだろうか? と、首を傾げる。
「どうした?」
海斗が肩を叩く。
「いや、なんでもない。たぶん気のせいだ」
怪訝そうに眉を寄せる海斗だったが、
「ボーっとしてたら危ないわよ、ふたりとも」
銃の片手に現れたソフィーがそれを両手でしっかりと構え、引き金を引いた。そこから放たれた青白い光が空中に線を引き、一直線に向って来ていたイノシシのようなモンスターへと当たる。
ピシッ! と音を立てて氷塊が生まれ、モンスターはその中へと閉じ込められた。
「ありがとう、ソフィー……そうだ! 鏡花は!?」
傍に見えない彼女をキョロキョロと探すと、
「キョウカならあそこよ」
ソフィーが指差した先を見ると、肩から血を流し座り込んでいる男性の傍らにいる彼女が見えた。その手からは太陽のような光が放たれている。
「さっきからああやって傷ついた人達を治療しているのよ。『私には戦う力はあるけど使いこなす術は知らない、だったら今は出来る事をしたい』 ってね」
鏡花らしいな。
常に前向きで人の事を優先する、けどその事が時々心配にもなる。変な奴に騙されたりしやしないかと、そう思う。
「みんな揃った事だし、先に進みましょう」
オレは軽く頷き一歩を……その踏み出そうとする足に軽い振動を感じ振り向いた。
足元の振動は徐々に大きくなり次第に地面が隆起し始め、それはそのまま人型を成した。、ただし大きさは二倍以上もあった。
岩の巨人は体が出来上がると同時にこちらへと拳を……!
「ウッ!?」
真後ろへと吹っ飛ばされながらも意識を失っていないのはアーマーのおかげだと理解できたが、殴られた場所と、ゴロゴロ転がった時に打ち付けた背中が痛いし、口の中が切れたみたいで鉄臭い。
「信吾!」
オレの名前を叫んだ鏡花がこちらへと向かってくるのが見えたし理解できたが、オレの頭にあったのはひとつだけ。
(このまま鏡花が来たらあの岩巨人の次の攻撃は彼女へと向くんじゃないか!? それは駄目だ!)
「そうは……させるかぁ!」
伸びてくる岩腕をもう一度胴体で受ける為に目の前に飛び出した。
(もう一度、あの攻撃を喰らって鎧が持つかは分からない。そうなったら……これでオレも終わり、かもな……)
事故で死んだ、なんて言われてもいまいち実感はなかったけど、今はありありと感じる。自分でも無茶苦茶な事をしているっていう自覚はある、だけど体が動いてしまったんだから仕方ないか。
「信吾!」
海斗の声が聞こえたが、振り向いたら余計な場所にダメージを受けてそれこそ駄目だ。いくら怖くても動いちゃいけない、自分の為にも鏡花を守る為にも……!
ブンッ!
巨大な腕がこちらに来て華奢になってしまったオレの体に……当たらなかった。
オレの周りの地面が岩の巨人が現れた時のように剥がれ、自分の胴体へ浮き輪のようにへばりつき岩拳からの攻撃を防いでくれた。
「まだだ! 今度は反対が来るぞ!」
スライムと戦っている男性の声が耳に入ってきたと同時に、巨人が動くのが見えた。
反射的に右腕を出して後悔する、こんな細腕じゃ防げるわけないじゃないか!?
「グッ!?」
激しい痛みを予想していたけど、そんなものは起こらなかった。
その代わりに劇的な変化が起きた。迫っていた岩巨人の片腕が消え、そこにあった岩がオレの右腕へと纏わりついていた。纏わりつくとは言ってもその重さは感じなかった。
「ストーンゴーレムの腕を奪ったのか!? なんなんだ、あのスキルは!?」
「あんなの見た事ない!」
辺りの人達がザワザワと騒がしくなるがそんな場合じゃない、ヤツが反対側の腕で殴りかかってこようとしていた。
今度はあえて右腕を出す。岩拳同士のぶつかり合いはガツン! と大きな音を立てるが、衝撃や痛みは感じない。
岩巨人はバランスを崩して大きく後方へと倒れた、オレはその上へと馬なりになってひたすらに右腕で殴りつける。胸の中心をガンガンと殴りつけているとどんどん岩巨人の体を構成している岩が抉れて、中から岩ではない物が見えた。
「なんだこれ? もしかして、これって弱点なんじゃ? だったら!」
更に殴りつける。その度に青白く光る金属の玉のような物体は徐々にひび割れ、岩巨人は苦しんでいるようにもがき始めた。
ガン! ガン! ガン! パキッ!
乾いた木のような音を出しながら玉から光が消え失せ、岩巨人の体を形成していた岩が崩れた。それと同時にその上に乗っていたオレの体も、岩から砂山へと戻ったそこへ沈み込んだ。
「ウッ、砂が口に入った」
ペッと口から唾を吐き出しながら立ち上がったが、まだ口の中がジャリジャリする。
「さっきのはなんだ?」
ポンっと海斗に肩を叩かれると体についていた岩の塊がバラバラと剥がれ落ちた。
「分からない……だけどこの前の奇怪樹の時に似てた気がする。アイツに触られたら……」
そうだ、さっき剣が軽くなった時もヴィクトルに触られた……それにノンナもだ!
「海斗、分かっ……」
話そうとした瞬間、目の前が暗転し足に力が入らなくなって海斗に寄りかかる。
「おい! どうした信吾!?」
これは奇怪樹の時にもあった急激な睡魔だ、こんな所で寝る訳にはいかないっていうのに。
「……カイト君! ……口を開けさせて、早く!」
ソフィーの叫び声がうっすらと聞こえる。
「……シンゴ君、ほら飲んで!」
なにかが喉に流れ込んで……ウグッ!?
「吐き出しちゃ駄目よ! 効果がなくなっちゃうからね!」
吐き出そうにも小瓶を無理矢理突っ込まれて上を向かされているで吐き出せない、なんだか分からないその物体の臭いが口から鼻の方へと突き抜けてくる。
「一体、これはなんなんだ?」
オレも海斗と同じ事を苦痛と睡魔に耐えながら思った、この口当たりも味も悪い物体はなんなのかと。
「栄養剤を改良した『リフレッシュン』よ。彼の症状は魔術師の魔力切れや戦闘職のスタミナ切れに似ているの、つまり過度な疲労が原因。それなら無理矢理にでも補給してやればいいって訳じゃない?」
「それって大丈夫なのか?」
「たぶん。ただ間に合わせで作ったから味とかは二の次になっちゃったけど」
ゴクリと最期の一口、というか塊が流れ込んでくる。
「マズい!」
そう叫ぶと眠気は何処かへと消え去っていた、小瓶を持ったソフィーとオレを支えている海斗が見えた。
「よし、戻ってきたわね」
片膝をついていたソフィーが手を差し出す。その手に掴まって立ち上がったが少しだけふらついた。足元がおぼつかなかったがそれもその一瞬だけの事で、まるで寝ぼけた時のような感覚だった。
「一体、オレの体になにが?」
「とりあえず走るわよ、鏡花も!」
彼女はオレの傍らへと声を投げる。
振り向くといつの間にか鏡花が立っていた、不安そうな顔で。
「あんまり、無茶はしないでね」
「うん」
「まったく。そんな憂鬱な雰囲気になるのは後よ、お二人さん。私達の目的はあそこ!」
一瞬流れた沈黙を打ち消すようにソフィーはいつも通りに喋ると、城の方を指さした。
「ほらほら、行くわよ。話すだけなら走りながらでも出来るでしょう?」
と、一足先に走りだす。
オレ達三人は慌てて彼女の後を追いかけた。




