「じゃあ、行こうか!」
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ソフィーと鏡花が傷ついたスライムにその場で出来るだけの治療を施している間、海斗がグラハムさんへ連絡をすると「一旦、戻って来て下さい」 という話になったようで、オレ達はスライムを抱えたまま集合場所へと戻る事にした。
「どうなの、その子?」
鏡花がスライムを抱えたまま後ろを歩く海斗に尋ねた。
「鏡花とノンナさんのおかげでだいぶ良くはなったみたいだけど、あまり動かすのはよした方がいいだろうな」
そう言って目線を腕の中へと移す。
「……コイツは城の中にいるスライムの中でも一番幼いんだ。俺がこっちに来た後に生まれた子なんだが、相当な難産でな。無事に生まれて来てくれた時には城のみんなでお祝いしたんだ。そんな事もあったせいかみんなに可愛がられてちょっとばかり自由奔放ぎみなんだが、今回はそのお陰でひとりだけ城から逃げだせたんだろう」
そんな風に話しているとテントが見えてきた、その前にグラハムさんが『デンワ』を片手に立っているのが見える。
「あ! みなさん、こっちです!」
彼はこちらへと手を振ると「はい。分かりました」 と言って、『デンワ』 の相手との連絡を終えたみたいだった。
「みなさん、お帰りなさい。話は聞いてます、ケガはないですか?」
「私達は大丈夫」
ソフィーの言葉を聞いたグラハムさんは海斗の腕の中にいるスライムを見た。
「そのスライムが先程『デンワ』 で言っていた?」
「ええ、魔王城から逃げてきたんだって。そういう訳で、少しの間だけここで匿ってあげてくれない?」
「匿うだって!? そいつはモンスターだろ!?」
急にした大声の方へと目をやるとひとりの男性が立っていた。彼の顔には見覚えがあった、さっき海斗に対しても文句を言っていた人達の中にいたひとりのはずだ。
「そんなヤツをここに置いといて何かされたらどうするんだ!?」
「アンタ、またそんな事を……!」
ソフィーが彼に迫ろうとした時、グラハムさんが手で遮った。
「その子はこのエリアの責任者である私が面倒を見ます、それでいいですよね?」
その口調はさっきまでと大差はないが、その目は笑ってはいなかった。
「アンタがそういうなら……分かったよ」
彼は「チッ」 と舌打ちをして背を向け去って行った。
「彼も頭では理解出来てるんでしょうけどね、どうしても過去の傷が疼いてしまうんでしょう。体ではなく、心の傷が」
またこの街の過去……か。
「だったら、その悪名を魔王自身で晴らしてしまえばいいだろう?」
グラハムさんにスライムを預けながら、海斗はそう言った。
「都合のいい事に問題の魔王が居るのは俺の城だ。それに仲間であるはずの者を単なる兵器か何かのようにしか考えていないヤツを同じ魔王として許すわけにはいかないからな、絶対に」
背を向けて歩き出そうとする海斗にグラハムさんは目をむき、
「ちょっと待って! どこへ行こうとしているんだ?」
「オレの城に帰るんですよ」
「そんな!? 何の準備もしないで敵地へと向かうだなんて無茶ですよ!」
「無茶でもなんでも行くしかないんですよ、そうしないと俺の仲間達がどんな目に遭うか分からないんだから。あなただって同じ立場なら、そうするんじゃないですか?」
その言葉にグラハムさんは押し黙る。
「それにあなたのお兄さんからは遊撃隊として許可を貰っているのですから、なんの問題も無いはずですよ」
そう言って海斗は一歩歩き出した。
「けど、そうやって心配してもらった事は忘れません。ありがとうございます」
さらに一歩。
「待った」
たまらずオレは声をかけた。
「なにを勝手に話を進めてるんだよ? それに、さも一人だけで行くかのように喋ってるしさ、会議の時にも言ったけど、オレも行くぞ?」
「もちろん私も」
ソフィーは自分を指して言う。
「魔王と戦うのは勇者の使命だから」
と、鏡花も言ったけどその声が震えているのは海斗も分かったろう。
「……分かってるよ」
海斗は一瞬だけこちらを向くと、
「じゃあ、行こうか!」
まるでコンビニにでも行くかのように軽くそう言った。




