「カボチャとホウチョー」
カウンターの中を通り呼ばれた方へ向かう。なんとなく見たカウンターの横には作業机があった、そこには小ぶりな金槌や映画なんかで見た事がある回転する砥石なんかが見えた。
こういうのを見るとちょっとだけワクワクしてしまう。
店の奥はキッチンだった、その更に奥に扉があり、手を伸ばす。
「すみません、お待たせしました」
扉を開くと熱風が襲ってくる、裏庭のような場所に繋がっていた。そこには大きな窯と色んな道具が置かれた屋根のついた棚、他にもたくさんの物が置かれていた。
「ん。じゃあ、ちょっとこっちに来て」
手招きをされるままにコーエンさんに近寄る。
「両手を開いて見せて」
手を出すと、すぐさまにものさしをあてがわれた。ちょっとくすぐったい。
「ふむ、思っていたよりも小さいな」
彼はつぶやきながら紙になにかを書いていく。
「うん。とりあえずコレ持って」
と、立てかけてあった剣を渡された。
「んで、アレを切ってみて」
彼が指した先にあったのは机に置かれたカボチャだった。
「アレって?」
「カボチャだけど?」
いや、それは見ればわかるんだけど。
「あ、知らないのか。あれはカボチャって言ってな、野菜の一種で……」
「そう言う事じゃなくて、なんでカボチャが?」
「なるほどね。試し斬りに食べ物を使うのはよくある事だよ、それに今日はカボチャのスープでも飲もうと思ってたし」
そうなんだろうか? と、納得出来たような、なんだか腑に落ちない気分でカボチャの前に立つ。
左手に持った鞘から剣を抜き、鞘を地面へと置いて両手で柄をしっかりと握りしめた。ただ、本当にこんな持ち方であっているのか分からない。
鏡花と出会った時に剣を持った時は緊急事態でそれどころじゃなかったから気にはならなかったけど、改めて武器を持つとなんだか手が震えてくる。
「え、えーい!」
おかしな声が出たが、なんとか剣を振り下ろした。
そしてカボチャには全く傷がついていなかった。
「あれ?」
手ごたえがあったように感じたのは、机をたたいた感触だったみたいだ。
「あー、初心者か。仕方ないなぁ」
コーエンさんがこちらに近づいてくる。
「ほら、こう持つんだ。それでまっすぐに対象を見て、振り下ろす。それだけで当たるはずだよ」
そう指摘されながら構えを直していく。
「まあ、こんなもんかな。さあ、やってみて」
それじゃあ、真っ直ぐにカボチャを見て、
「やぁ!」
もう少しカッコいい感じに剣を振りたかったが、自分でも気が抜けてしまうような声が出てしまう。
けど、
「やった! 斬れてる!」
剣はカボチャの三分の一ほどの所まで切り裂いて刺さっていた。
「あー、まあいいか」
オレの結果を見たコーエンさんの話し方は、なんだか歯切れが悪く感じた。
「それじゃ少し調整するから、その辺にある椅子に座って待ってて」
辺りを見回すと小屋の中に三本足の木の椅子を見つけ、それを引き出して作業をするコーエンさんが見える位置で座る。
カンカンと金属音が辺りに響く、そのリズミカルな音は粗野なようでいて繊細さを感じる綺麗な音をさせていた。彼は手を動かしながらも剣を睨むように見て、時々こちらの方を見てを繰り返した。
そうして五分程経ったその時、彼の金槌を持つ手は空を指すようにに振り上げられたまま一瞬止まり、カーンといい音と共に振り下ろされた。
「ふぅ……出来たよ」
そう言って剣を渡される。
「さっき持ったのよりもだいぶ軽いですね」
最初に見せてもらった時と違い、柄の部分に簡単な紋様が入っていた。ただ、それ以外は素人の自分には何が変わったのか分からない。
「あんまり力のなさそう君だと重い剣なんかじゃ振り回されるだけになっちゃうし、鋭い剣だとその分いろいろな技術がいるけど、そういうのもないのなら、もっと単純で誰でも使える簡単な刃物のような剣にしてしまえばいいんじゃないかって思ってね。つまり……」
彼は刀身と鍔の辺りを指で示し、
「名前は『ホウチョ―ソード』 だ」
と、彫られた文字を見せてきた。
なんというか、そこはかとなくダサい。
「と、適当に銘をつけてはみたけどそんなに大層な物じゃないから、気にしなくてもいいよ」
と、大きくあくびをする。
「ほら、もう一回試し斬りしてみて」
そう言って机の上に置かれたカボチャを新しい物と交換する。
「じゃあ、いきますっ!」
真っ直ぐカボチャを見たままで、振り下ろす!
「ちゃい!」
自分でも酷いとは思うのだけど、どうしても変な声が出てしまう。
ただ、そんな事とは関係なくサクッと小気味良い音をさせてカボチャが綺麗にふたつに割れてた。
さっきまでとは段違いに扱いやすく、綺麗に切れた。
「うん、上出来だな」
そう言ってオレからホウチョーソードを受け取ると鞘に収め、店の方へと向かう。オレも後からついていき、店内へと入るとソフィーがカウンターに複数の品物を置いているところだった。
「あ、終わった?」
カウンターを抜けてソフィーの横に立ち、ふたりの会話を聞く。
「うん、これがホウチョーソードだよ。あとは細々(こまごま)とした調整をすれば終わり」
ソフィーは驚いたように目を見開き、
「名前をつけたの? もしかして、この剣ってすごく優秀?」
彼女の言葉にコーエンさんは首を横に振る。
「うんにゃ、ごく普通の消耗品さ。ただ、そこら辺の店にあるような物よりは上等だとはとは思うけどね」
と、自信満々に話す。
「それで? この上のは、プレートメイルの胸部分に背当て、それと膝当てに額当て? こんなに簡単な物でいいの? こんなんじゃ、攻撃を喰らったら大変な事になるんじゃないか?」
大変な事ってなに!?
「うーん、そうなんだけどさ。あんまり重すぎて動けなくなる方が問題でしょ? だから、最低限の守りにした方が良いかなって思ってね」
「ふーん、ソフィーがそう言うならいいけど。ただし、あんまりケガをしないでしてくれよ。その鎧や剣の出来が悪かったなんて話になったら困るから」
「分かってるって」
そう言って、ソフィーは指で丸を作って見せた。
「それじゃ、ここで着させてもらってもいい?」
「どうぞ」
その答えを聞くや否や、ソフィーはオレの腕を取り真横に広げさせた。
「はーい、そのまま動かないでね」
胸部に凹凸のある鉄板のような鎧を、同じようなより平らな板を背中側にあてがわれた。
「位置がずれないように抑えててね。そう、そのまま」
オレの横に回るとそこで何かの作業をしていた。
「イッ!」
急に上半身をキツく抑えつけられて体の中にあった空気が飛び出した。
「あ、痛かった? でも、ちょっとだけ我慢してね。あんまり緩いと意味ないからね」
と、こちらを気にする素振りもなく続ける。額に金属のついたハチマキのようなモノ……時代劇で見た事があるような、たしか名前は鉢金って言うような、それに似たものを頭に巻かれ、インラインスケートの時にするような膝当てをつけてもらう。
「最後はコレ」
と、穴の開いた皮ベルトを掴むと腰の部分に回し固定する。
その隙間にフックで別のベルトを固定して、そこに剣を差し込んだ。
「よし、出来た! ホラホラ、どう?」
と、背中を押してオレを鏡の前へと進ませた。
「どう? 悪くないでしょ?」
たしかにソフィーの言う通りだと思えた、まるでゲームに出てくる勇ましい女戦士みたいだった。実際の職業は無職だけど。
「その顔は気に入ってくれたみたいだね、選んだ私も嬉しいよ。それに……」
そういってカウンターの方を見る。
「作り手も、ね?」
彼は顔を横へと背けたが、口元には笑みが見えた。
「さて、それじゃ皆の所に戻ろうか」
ソフィーはそう言って店のドアノブを握った。
「待った」
カウンターの方からの声で、ソフィーの動きが止まる。
「お代、払っていきなよ?」
ソフィーはドアノブからゆっくりと手を離し、カウンターへと向かっていく。
「ほら?」
コーエンさんが手のひらをソフィーに向け、ヒラヒラを招くように動かす。
ソフィーはカウンターの前に立つと、横に備え付けられていた紙とペンを手に持ってなにかを書き始めた。
「はい」
その紙を見て、コーエンさんが固まった。
オレは気になってゆっくりと近づき、その紙に書かれている文字を見た。
『お代はブライアンに頼んでね』
その最後にハートマークが添えられていた。
「じゃあ、そう言う事だから」
と、そのまま店を出ていく。
ソフィーに招かれてついていくオレの背後から、
「たまにはその場で会計してくれよ」
と、悲痛な声が聞こえた。




