「身を守る術」
5
「おや! みんな、いらっしゃい!」
シャボン亭に入るなり、女将さんの元気な声が聞こえた。
「ソフィー達は見回りに行かないのかい?」
昨日の議会での話は全住人にもう伝わっているみたいだ。
「午前中は休んでてって、ブライアンが」
ソフィーのその言葉を聞いて女将さんは「ふふっ」 と笑い、
「ブライアンらしいわね」
「はぁ、ほんと困るわ。けど、ちょうど良かったんだけどね。シンゴくんに渡したい物も出来たし」
「なんの事です?」
ソフィーは笑いながら、
「それは後のお楽しみよ」
と。
少し気になったが、
「ほら、朝食だよ! たんとお食べ!」
せっかくの温かいゴハンが冷めるのはもったいないと、箸に手を伸ばした。
※
鏡花と海斗はシャボン亭を手伝うという事だったが、オレはソフィーに連れられて南区の路地にある小さめな商店の前へと訪れた。店の名前はファミリア、その店先には武器や鎧が洋服屋さんのように陳列されていた。
「いらっしゃーい……」
店内の入るとカウンター席に座る、歳は十歳位で茶髪のドワーフの少年が気だるそうにそう言った。
「と、思ったけど。なんだ、ソフィーか。じゃあ、おやすみー……」
彼はこちらを向いて座っていた椅子を横向きに回し、そのまま目を閉じて寝息を立てはじめた。
「ちょっとコーエン! 私の顔を見るなり、夢の中に戻ろうとするだなんて失礼よ」
彼は目をこすり、大あくびをしながら、
「だって、ソフィーが来る時は厄介な仕事ばかりじゃないか。寝たくもなるよ」
その言葉にソフィーの方をちらりと見ると、彼女は目を逸らしコホンと小さく咳払いをした。
「そ、それは置いといて。頼んでおいた物は出来てる?」
「ん~、どうだろ?」
なんというか雑だ。
「どうだろ? じゃ、困るんだけど? 出来るだけ急いでって言ったじゃない、『鉄の心が読める者』 さん?」
うん? めんて・で・ふぇーろ? さっきはコーエンって呼んでいたような?
「まったく、ソフィーはすぐにソレをいうんだから。出来てるは出来てるんだけどさ……ちょっと待ってて」
そういうと彼は背後にある暖簾をくぐって、店の奥に消えた。
「なあ、ソフィー? さっきのメンテ・デ・なんとかっていうのは、なに? 彼の名前はコーエン君って言うんじゃ?」
彼女はニヤリと笑った。
「メンテ・デ・フェーロ、意味は『鉄の心が読める者』 って意味で、まあニックネームよ。彼がドワーフだってのは分かるでしょ? 彼らの種族同士の繋がりは人間よりも強くてね、一族に新たな子が生まれたら全員で喜び、一族の誰かが亡くなったら全員で悲しむ、そんな種族だから自分達が一番得意な鍛冶の腕が最も優れた者には特別な称号を与えるの、それが……」
「『鉄の心が読める者』 って、訳。まあ、困ったモンを貰ってしまったよ」
いつから聞いていたのか、奥から何かを持ってコーエン君が出てきた。
「またそんな事言って。本当は嬉しいくせに」
「ふん。まあ、そんな事は置いといて。これが注文の品だよ」
そう言って包みから出てきたのは一振りの剣だった。日本刀のような刃が片側にあるモノではなくて、両刃の、洋風なRPGゲームに出て来そうなモノだった。
「注文通りショートソードにしといたんだけど、良かったのか?」
ソフィーはその剣を手に取ると「うんうん」 と、頷き、
「これくらいで良いと思うわ、使うのはこの子だし」
と、オレの肩を叩く。
うん?
「え、オレですか?」
「そうよ。これから『もうひとりの魔王』 に立ち向かうのならば、シンゴくんも戦わなくてはいけない事態は必ず来るわ。だから、少しでも自衛の為の方法を用意しておかないとね」
「でも、オレは剣なんて扱えませんよ?」
「別にいいのよ。あくまでも護身用だからね」
その言葉を聞いて、コーエン君は納得したような声を出した。
「だから『軽く細身で』 っていう注文だったのか、割とメンドーだったよ。ただ、作り甲斐はあったけどね」
と、満足そうに剣を眺めている。
「っと、それよりもコイツの最終調整に入らないと。ちょっとこっちに来て」
そそくさと剣を包みにしまうとコーエン君は奥に引っ込む。
「それにしても凄いですね、コーエン君。あんなに小さいのに」
「うん?」
ソフィーは不思議そうな顔をしたが、すぐさまに噴き出した。
「コーエンはあんな見た目だけど、年齢は百歳くらいよ?」
「えっ!?」
ドワーフが長生きなのは聞いていたけど、あんな姿でもオレの十倍近く生きてるっていうのか。
「とは言っても、コーエンはドワーフの中でも若者の分類に入るんだそうだけど」
そんな話をしていると奥からコーエンが顔を出して、
「おい、まだか? 早く来いよ」
と、短く言って奥に戻った。
「ほら、行って。私はその間に君の鎧の方を見繕っておくからさ」
そう言ってウインクをした。




