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「目覚めた俺は少女でした」


「う……ん?」


 オレは横になった体を起こす。


「あ、あれ?」


 そうだ! オレは高い所から、自称神様によって落とされたんだった。

 だけど、


「いき……てる?」


 オレの意識はハッキリしていた。周りにあるのは木々の葉がサラサラと擦れ合う音がする、横になった時に感じた臭いは土の煙っぽい物で、手や顔には砂やら葉っぱやらがついているのを感じられた。

 ついでに、


「ペッ!」


 口の中に砂が入っているのも分かる。

 すべての感覚がオレにはあった。


「よかった……」


 オレはまだ生きている、その感覚が確かにあった。


「よかったー!」


 空を見るようにして、大声で叫びながら叫んだ。その声は木霊して、ふたたび自分の耳に戻ってきた。


「うん?」


 なんだか声に違和感があった。


「あー、あー、あー!」


 声がまるで自分のものではなかった、なんだか高くて、まるで……女の子みたいだ。


「え!? なんで!?」


 あたふたして体のあちこちを無意識に触り……


「……あれ?」


 胸が……なんだか腫れぼったく……いや、膨らんでる?


「なに、これ……?」


 自分の胸にある違和感、これまで16年もの間中ずっと聞き続けてきた声とはまるで違う高い声、そしてあるべきものがない……違和感。


「なんだこれー!!」


 これー! これー、これ…… と、オレが出したオレ以外の声音の叫びは虚しく響き渡った。


『……あーあー、聞こえる?』


 茫然自失になっているオレに、誰かが話しかけてきた。

 いや、この声は……


「自称神様!?」


『お、聞こえているね』


 のんきな声が聞こえた、不思議な事にシェダムの姿は全く見えない。よくゲームなんかである脳に直接聞こえるってのは、こういう感覚なのか。なんだかこそばゆい感触だ。

 ただ、そんな事よりもだ。


「聞こえているな、じゃない! なんなんだよ、コレ!? どこにいるんだ!? 出て来て説明しろよ!」


『出て行くのはちょっと無理かな。これでも神様だからね、何かと忙しいんだ。ただ、ちょっとした手違いが起こっちゃったからね、その補足だけしておくよ』


 手違い?


『性別、間違えちゃった。てへ』


「おい!」


『ハッハッハッ! まあ、大丈夫だよ。たぶん。それじゃトリズモの旅を楽しんでね。バイバーイ!』


「おい、待ッ……!」


 脳内と耳の中間位にあった不思議な感触が急に消え去った、それと同時にシェダムの笑い声は聞こえなくなった。


「言いたい事だけ言って話を終わらせたぞ、あの神様……」


 なんだか頭が痛くなってきた……目が覚めたら性別が変わっているし、神様はあんなのだし、前途多難というよりも既に五里霧中って感じなんだけど……ハァ。


「それにしても……」


 辺りを見回してみるが視界にとらえるのは木々ばかりで、ここが一体どんな場所なのかすら判断できない。

 というか……


「本当に死んだのか?」


 確かに事故の時の記憶はおぼろげだけどあるし、そのこと自体を疑いはしないけど『生き返る』 とか『トリズモ』 とかそんな意味不明な事を言われても、なんだか騙されているんじゃないかと思えてしまう。

 けど、


「コレが……あるしなぁ」


 自分の膨らんだ胸部に目がいく、コレがあるって事は事実なんだろうなぁ。


「はぁ……」


 なんだか現実を受け止めた途端に、色んな事が頭を過る。父さんに母さん、それと弟の健太けんた、学校のみんな、海斗カイト、それに……


「キャー!」


 考え事をしていたオレの耳に不意打ちをするように誰かの悲鳴が聞こえた。声の感じだと女性だったみたいだけど、一体どこから!?

 キョロキョロと見ると、正面の木々の間でなにかの影が見えた。


「あっちか!?」


 いつの間にかオレはその方向へ走っていた。


「あっちに行ってー!」


 その声には聞き覚えがある気がした、いつもずっと聞いていた馴染みのある声。


「お願いだから!」


 木々を抜けると少し開けた場所に出た。その真ん中には白いマントのついた西洋鎧をまとった人が、鞘に入ったままの剣のようなモノをブンブンと振っていた。


「大丈夫ですか!?」


 オレが声をかけると、彼女はこちらを向いた。


鏡花キョウカ!?」


 その顔は見間違えるはずもなかった。

 彼女の名は宮島鏡花みやじまきょうか、オレの同級生であり、幼稚園から一緒の幼馴染みのひとりだ。

 けど、どうしてここに?


「えっ?」


 彼女は急に名前を呼ばれたからなのか驚いた顔をしていた。


「あなたは……だれ?」


 ああ、そうか! 今のオレは性別が違うんだった! それなら驚きもするはずだ。


「オレだよ、信吾シンゴだ!」


 こちらを見ながらもブンブンと剣を振っていたキョウカは、その手を止めた。


「え? シンゴ? でも……女の子?」


 明らかに混乱してる。いや、当の本人であるオレだってまだ理解できてないんだし当然か。


「これには色々あってな……あー! なんて説明したらいいんだ!?」


 ふと、彼女の向こうにいるナニカと目があった。


「へっ!? なに、ソレ!?」


 なんだかモチモチとして柔らかそうな物体に目と口がついていて、プルプルと揺れていた。


「えっと。こ、これは魔王が放ったモンスターでスライムって言うんですけど……え? 本当に信吾シンゴなの?」


 だ、駄目だ。オレも訳の分からない物体に混乱してしまっているけど、鏡花キョウカの方がより酷そうだ。


「とりあえずこの場を離れよう! ほら!」


 オレは彼女の持っていた剣を掴み走ろうとした。


「うっ!? なんだこれ……重い……」


 鏡花キョウカの手を離れた剣は、まるで何かに抑えつけられたかのように地面へと吸い寄せられて、掴んでいたオレの腕ごと押しつけようとしてくる。ただ、刀身の部分だけが異様に重いみたいで、手が挟まれる事だけは回避できた。

 が、


「ムリ……重すぎる……」


 鏡花はこんな物をどうやってぶん回してんだよと思いつつも、なんとかかんとか一歩ずつ進む。

 ただ、スライムとかいうのもプルプル揺れながらゆっくりと近づいて来ていた。アレが敵なのかどうなのか分からないが、あんまり良くない状態なのは理解出来た。


「その剣は『セイントソード』 っていう、勇者にしか使えない剣だから凄く重いよ?」


 こっちの状況は一切気にしていないかのように、そう説明してくれた。

 ってか、


「そういう事は早く言えって、いつも言ってるだろ?」


「ごめん、信吾シンゴ。……あれ? 本当に信吾シンゴなの?」


「だから、そうなんだって……とりあえず、助けて?」


 彼女は慌ててオレの手から剣を受け取ると、腰にぶら下げた。


「とりあえず逃げるぞ!」


 そう言って鏡花キョウカの腕を掴んで、全速力でその場を離れた。

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