「気絶……?」
※
目を開けるとオレはどこかの部屋のベットに横たわっていた。いや、見覚えがあった。ここはオレの部屋か。
でも、どうして?
「オレはたしか……」
「倒れたんだよ」
声の方を見ると、そこには海斗が立っていた。
「あ……そっか」
「そっかじゃないよ、シンゴ君。心配したんだから」
窓際にはソフィーさんと……
「信吾……」
今にも泣きそうな顔をしている鏡花。
「よう」
出来るだけ自然に話したつもりだけど、なんだか言葉も動きもぎこちない。
「あー、なんというか。ごめんな、心配かけて」
「そうだよ、心配だったんだから……」
ソフィーはそんな鏡花の様子を見ながら、
「そうだよね。さっきまで『このまま目覚めなかったらどうしよう』 とか『もう見てられない』 とか、ずっと言ってたもんね」
ニヤニヤ笑いながらそう話す。
「も、もうやめて下さい!」
鏡花は、スンと鼻をすすって顔を背けた。
「それにしても、あんな所で『眠ってしまう』 なんてね」
ソフィーの言葉に理解が追いつかなかった。
「眠ってた? オレがですか?」
奇怪樹と戦っていて、海斗達が来た所までははっきりと覚えているんだけど。
「ええ。倒れたまま動かないから回復薬を飲ませようとしたんだけど、近づいてみたら寝息を立てていたのよ。覚えていないの?」
まったく記憶にない事だった。あの時はたしかに疲れてはしていたけど、いきなり意識を失うほどではなかったはずだ。
「そう……」
ソフィーはそう言うと窓の外を見ていた、まるでなにかを思考するかのようだった。
「さて、信吾も目が覚めたし……そろそろあなたが何者なのかを教えてもらおうか、ソフィー?」
海斗の声が部屋に重々しく響く。
「……なんの話?」
「まだとぼけるつもりですか?」
彼女は海斗の方を見る、その表情は鋭さを増していた。
「なんの事を話しているのか、本当に分からないのよ」
しかし、その表情は厳しいままだった。
「……カイトくん、たまに私の事をつけてたわよね?」
「バレてましたか」
海斗は反省そぶりすらを見せずに返す。
「あまり感心出来る趣味とは言えないわよ?」
ふたりの言葉はいたって冷静に話しているように聞こえるが、その奥底で腹の内を探り合っているのがなんとなくだけど分かる。
「すみません。でも、俺だけじゃないですよね? 人を追跡して観察していたのは」
「何の話をしているの?」 と鏡花が尋ねるが、ふたりとも答える事はなかった。
「あなたは信吾を追いかけて、何をしてたんだ?」
「俺を? 一体何のために? いや、そんな事よりも、本当なのか?」
急に出た自分の名前に口を出してしまった。
「……本当よ」
ソフィーさんが小さな声で答える。
そうか、だからオレの前に現れた時に「遅れた」 って言ったのか。
「なんで……そんな事を?」
オレが尋ねると、彼女はしっかりとこちらを見返して、
「単純な興味よ……ただ、それだけ」
そう言ってそっぽを向いた。
「でも、なんで俺を?」
転生者だから? それならば、海斗も鏡花だってそうじゃないか。オレは、勇者でも魔王でもないんだ。
単なる……
「無職だからよ」
無職だから? けど……
「無職っていうのは、そんなに珍しい職業ではないんだろ?」
海斗が、オレと同じ疑問を口にした。
「無職自体は、ね。けど、その本質的な部分は私が知っている無職とは違うの。転職が出来ない無職なんて、初めて見たわ。しかも、それが神様のした事ならば尚更。気にならない学者の方が珍しいわよ」
たしかに職業鑑定をしてもらった時も初めて見たって言われたな。
「だけど、たったそれだけの事で?」
「カイトくん。学者ってのはそういう生き物よ、気になったモノを見つけたら、それに向かって一直線になる。そこには大それた理由なんてモノは必要ないの」
そういってわざとらしくウインクをした。
「けど、なんにも言わなかったのは悪かったわ。こめんなさい、シンゴくん。それに、カイトくんとキョウカも」
そう言って、頭を下げた。
「本当にそれだけなのか? なら、なんでソフィーはオレが初めてこの街に来た時、あの会議の場に居たっていうんだ? それにオレが街の代表に会いに行った時にも、オレより一足先に代表に会っていたんだろ? だから、職業案内の中に魔物関係の依頼がなくなっていた。違うか?」
彼女は「ああ」 と、つぶやく。
「あれは私のもうひとつの仕事よ。サイエンティスト兼街議会の一員なのよ、私は」
俺や海斗だけでなく、鏡花も目を丸くする。
「議会の一員だって? もしかしてソフィーはこの街の有力者なのか?」
海斗の疑問に彼女は首を横に振った。
「そういう訳じゃないけど、知り合いに頼まれちゃってさ。そういう立派な仕事って面倒そうだから断ろうかとも思ってたんだけど、どうしてもって言われちゃってね。仕方なく受けたのよ」
「でも、議員としてやる事はやってるわよ」 と、つけ加える。
「本当にそんな事していたの?」
鏡花が尋ねる。
「うん。今まで言わなかったのは悪かったけど、シンゴくんの事で他意は無いわよ。単なる個人的な興味ってだけ」
興味か。尾行されていたこと自体はなんだかモヤモヤとした気持ちだったけど、
「それなら、まあいっか」
「おいおい、そんな軽く考えていいのか?」
海斗が言う。
「別にいいよ。彼女の興味ある事がオレ自身もよく分からない部分だっていうなら、その事を調べるのにもうってつけだしね。なにより、ソフィーはそんなに悪い人に思えないよ。海斗だって、そう思うだろ?」
海斗は顔を背けながらも、
「……信吾を助けてもらったしな」
と、オレの言葉に同意してくれた。
「ありがとね。それと、今度からはきちんと説明する事にするわ」
オレ達三人は頷いた。
「さて。それじゃ、早速だけどさっきの奇怪樹の事を説明しに議会へと行かないといけないんだけど、一緒に来てくれない?」




