「目の前にいたのは、自称神様」
初めて異世界転生を書きました。
まだまだ至らない所ばかりなので、感想などをいただけると幸いです。
1
「うーん……? どこだ、ここ?」
いつの間に眠ってしまったのか分からないけど、目を覚ました場所は自分の部屋のベッドではなかった。それは学校の机でもないし、全く見覚えのない真っ暗な、だけど自分の体だけははっきりと見える奇妙な場所。
そんな中で体をゆっくりと起こし、どこか怪我をしてないかと触って確かめたが至って普通のいつも通りの自分の体だ。
しかし、体に異常がないと理解して一安心したところで今度は別の不安に駆られた。
オレは誰かに誘拐でもされたのか……? と。
いや、そんな事があるはずない。
だってオレはごく普通の高校生であって頭が天才的に超良いわけでもなければ、運動部で活躍できるような抜群の運動神経を持つ逸材でもない。ウチの家族だって一般家庭の人間で、父はサラリーマンだし、母は看護婦で、弟の健太に至ってはまだ中学生になったばかりの、ごくごく一般的などこにでもいる至極普通の家庭だ。
それならば誰かの恨みでも買ったのかもしれないと少し考えたものの、特に思い当たる事もなかった。
「うーん……」
それにしてもここはどこなんだろう? こんなに暗いんだから暗室のような場所だろうか。わざわざオレなんかを閉じ込めるためにそんな場所を用意したのか? けど、自分の腕がはっきりと見える理由が分からないな。なにかの最新技術とか?
しばらくはそんな事を考えていたが、ただ座っていても事態は好転しなさそうだと立ち上がり一歩を……
「待った!」
踏み出そうと上げかけた足は、どこからか聞こえた声にフラフラと彷徨ったが無事に床を見つけた。
「誰だ!?」
オレは暗闇の中に声をかける、さっきの声は明らかに近くから聞こえたぞ。
「誰って、失礼だなぁ」
その声は少年のようにも女性のようにも聞こえて、なんだか不思議な声音をしていた。
暗闇の一部がパッと明るくなり、大きな黄金の椅子とそこに座っている小柄の人影が見えた。
「ボクは神様だよ?」
こちらに向けた顔はとても幼かったけど声と同じように性別や年齢を見極めるのが難しい雰囲気をしていて、虹色の頭髪と虹色の瞳がそれにより拍車をかけるが、パッと見だと小学生のように見えた。
ただ、そんな事よりも……
「かみさま?」
かみさまって、あの神様だよな? そんな、馬鹿な!?
「フフ……」
笑いが漏れてしまう。こんな子供が神様だなんて……たぶん、この子は遊んでもらいたいのだろう。
けど、今はここがどこなのか確認しないと。
「ごめんな、お兄さんはちょっと帰らないといけないんだ。だから、遊ぶのは今度にしよう」
と、踵を返して進もうとした。
「止めた方がいいぞ」
自称神様はそう話すと、指をパチンと鳴らした。
「え?」
その言葉で振り向いたのと同時に、見える範囲の全てのものに変化が起きた。
それまで暗闇しかなかった空間が一瞬で明るくなる、そこはどこかの部屋などではなくて森だった。
「あ、あぶなッ!」
ただし、その森は足元に鬱蒼と広がっていた。
オレの立っていた所はひと一人が横になれる分程度しかスペースのない高い山のてっぺんだった。慌てて足を引っ込めて出来るだけまんなかに立つ。
「ここはいったいどこなんだ!?」
オレのそんな様子を見て自称神様はケタケタと笑う。
「だから止めた方がいいって言ったんじゃないか。人の話は聞くものだって習わなかったのかい?」
神様は笑い過ぎて出てきた涙を人差し指で拭うと、
「ねぇ? 乙桐信吾君?」
そう、名前を呼んだ。
「なんで名前を知っているんだ!?」
オレの疑問に笑いながらも当然のように、
「だから、神様だって言ってるだろ? 神様なんだからそんな事ぐらい簡単に分かるさ」
そう答えた。空中に浮かんでいる大きな椅子にふんぞり返るようにわざわざ座りなおし、両手を広げたわざとらしいポーズで。
「それにキミをここまで運んできたのもボクだからね。大変だったよ、アチラからコチラへと移動させるのはね」
と、これ見よがしに肩を叩いて見せる。
いや、待てよ。じゃあ、やっぱり……
「誘拐じゃないか!」
オレの叫びがエコーして大空に響き渡った。
「誘拐だなんて人聞きの悪い事を言うなぁ、キミは。ボクはそんな人でなし……いや、神でなしじゃないよ? それに……」
頬杖をついてこちらを見踏みするように神様は見てくる。
「せっかく助けてあげたっていうのにね」
「助けた? お前が? オレを?」
コイツのいう事は支離滅裂過ぎて訳が分からない。一体オレがいつ、この自称神様に助けられたって言うんだ? 全く身に覚えのない事ばかり言われて、今もいつ落ちるか分からないような場所に連れて来させられ、命の危機に直面しているそんな現状。助けられたというよりは、真逆で命を狙われているとしか思えなかった。
あまりの理解不能な事態に夢なんじゃないかと試しに頬をつねってみると、
「痛くない」
ほら、やっぱり夢じゃないか! こんなタチの悪い夢なんて今すぐ醒めてくれよ、神様。
「違うよ」
自称神様はニヤリと笑いながらそう話す。
「なにが?」
「夢なんかじゃないって言ってるんだよ、紛れもなくキミは死んだんだ」
「は?」
夢だ、なんて一言も発していないのになんで? 考えていることがコイツには分かるっていうのか? そんな事よりもオレが死んだ、だって? ここにこうして生きているのに、一体どういう……?
「混乱しているんだね。分かったよ。なら、思い出させてあげよう」
神様は人差し指と中指を拳銃のようにしてこちらに向ける。
「ほら」
パチン! と、指を鳴らした音が鼓膜の中で何度も反響する。音の響きが激しくなるのと同時に、視界が徐々に暗転していく。
「うっ……」
眩暈と吐き気にも似た感覚を覚えたが、暗くなった視界はゆっくりと眩しい日差しへと変わり、目を塞がせた。
だけどその眩しさも次第に収まっていき、気分の悪さも消えたオレはゆっくりと目を開けた。
目の前に観光バスが見える。中にはオレと同じ位の年齢で、オレと同じ学校の服を着た、オレの友人と……オレがいた。
「あれは……」
自分と目が合った気がした、それを契機にその時の記憶が濁流のように蘇って来た。
(あの時! それまでの道では一切予兆もなかったのに、山道の途中でバスは次第に蛇行を始めて……!)
パチン!
神様がもう一度指を鳴らすと同時に体験した過去が視界から遠ざかって、消えていく。
「あぁ……そうだ。そうだった」
いつの間にか、僕は山のてっぺんで両膝をついていた。
「思い出したみたいだね……信吾君」
自称神様は伸ばした腕を戻して、また頬杖をつく。
「オレは……」
「そう事故に遭ったんだよ。そしてあっけなく、死んだ」
オレ達二年生はバスに乗り、校外学習の一環で県境にあるキャンプ施設に向かっている所だった。
その途中で車が急に揺れ出して、揺れて揺れて、それから……
「それから……あれ?」
「記憶にフィルターをかけさせてもらっているからね。自分が亡くなった直後の記憶なんてのは思い出さなくていいように、さ」
なぜだか神様の表情は悲しそうに見えた。
「さて、そんな暗い話ばかりしていてもしょうがない」
神様は手を叩いた。
「ここからが本題だ」
いま自分が死んだと分かったばかりのオレの混乱を気にもしないで、神様は明るく話す。
「本題?」
「そうさ! キミは生き返るんだよ!」
「え?」
予想外の言葉に俺は戸惑ったが、神様はこちらの事などお構いなしで続けた。
「だけど地球にそのまま、って訳にはいかないんだ」
まだオレの頭は混乱したままでいるのに、更に拍車をかけるような事を言ってくる。地球じゃないなら、ドコだっていうんだ?
「それはね、ここ『トリズモ』さ!」
トリズモ? それがこの場所の名前なのか? 次々と湧く質問を神様にぶつけようと口を開こうとした、その時。
「じゃあ、行こうか」
神様は、また指をパチンと鳴らした。
「え?」
足元にあったはずの地面の感覚が無くなる。それもそのはず、山は粉々になり地上へと落下し始めていた。
「う、うわぁぁ!?」
急に足場をなくしたオレの体は宙に浮いていた。いや、そのまま落ちてるだけだった!
「助けてくれェェ!」
神様との距離が急速に開いていく、体に強烈な風圧を感じる。
「大丈夫だから安心しなよ!」
そんな馬鹿な!
「あ、自己紹介がまだだったね。僕の名前はシェダム。この『トリズモ』の三神の一柱さ」
地面が急速に近づく、このままだと顔面から激突して……!
「キミはこの世界で強くなるんだ!」
ぶつかる!
「それまで見守っているよ、信吾君!」
僕の意識は地面に接触する寸前で消え去った。