2、私、天の声! なんか手違いで一人死んじゃったみたい!
私が死んだと気づいたのは、平凡な日常の微睡みの中にファンファーレを聞いた時だ。
パパパパーンパーンパーンパッパパーン
そして真っ白な世界に男とも女ともつかない声が響き渡る。
「どうやら既に気づいているみたいですね。そう、あなたは死にました。ここは、死後の世界、ってやつですかね? まあ、中間地点って言った方がいいかもしれませんが」
このシチュエーションはもうあれだ、転生である。
「理解が早くて助かります」
天の声が言った。
「詳しい事情は聞かないでくださいね。説明できないこともないですけど、私が責められるみたいになるのは嫌なので」
つまり、私が死んだのはなにかの手違いということらしい。
「勝手にそう理解されても構いません。そのままあの世に送ってもいいのですが、色々な事情からあなたについては転生ということで上が決着しました」
あの世がどういうところかは知らないが転生先の方がマシだという保証はあるのだろうか。転生先が地獄では悔やむに悔やまれない。
「それは請合いますよ。ほら、あなたの場合まだ若すぎて、徳が足りないから、普通に死んだら良くて畜生道とかそんなじゃないですか。一方転生すれば転生先で徳を積めるからね、選択の幅ってのがまた広がりますよね」
ってことは若くして死んだ人は基本的に転生するのか。
「っていうわけじゃないですね。若くても十分徳を積んだ人もいます。ってか若くして死ぬ人ってのは基本そういう人なんで、あなたみたいに徳の足りない人がこうして死ぬというのは実は手違い、ゲフンゲフン、まあ、たまにこういうこともあるのです」
今手違いって聞こえた気が
「転生にあたって何かお好きなスキルを授けることもできます。小説でよくあるみたいにチートスキルをもって転生先で無双することだって可能ですよ。ところで、私、手違いなんていいました?」
いえ、言ってないと思います。少なくとも私は何も聞いてないですね。
「よろしい。では、何か好きなスキルをどうぞ」
私は少し考えてみた。ゲームとかもやらないし、転生ものの小説もあまり読まないので、スキルと言われてもよくわからない。
「難しく考えなくていいですよ。簡単に言えば特殊能力です。ゲームとかファンタジーとかにこだわらず、漫画とかアニメとかで好きな特殊能力があればそれをつけましょう」
そう言われ、真っ先浮かんだのは「サイコメトラー」という漫画だった。ものに残る残留思念を手掛かりに主人公が事件を解決していくというお話だが詳しいことは忘れた。
「なるほど、サイコメトリーですね」
天の声は言った。
「せっかくなんでもいいと言っているのに現実的すぎませんか?」
余計なお世話だ。どうせ私は常識に囚われた凡人代表なのだ。ファンタジーの世界にはきっと向かない。それにサイコメトラーかっこいいじゃないか。
「わかりました。それではサイコメトリーということにしましょう。ただ、忘れないでいただきたいのは、あなたはこれからなにも知らない異世界に行くのです。もちろん言葉は通じるし、水や空気や食べ物が体に合わないことはありません。それでもやはり知らない世界に一人投げ入れられるのは危険なことに変わりありません。こちらの方からスキルを授けるのはあなたの身を守るためというのもあるんです」
なるほど、理解した。つまり、サイコメトリーはカッコいいけど、それで身を守れるのかと言われれば確かに苦しい。
「そういうことです」
と天の声。
「それじゃ、回復魔法っていうのかな? 元気になるやつ、もつけてもらおうかな」
「ガッテンです。回復および治癒魔法もスキルに入れときます」
天の声、随分太っ腹である。
「それでは転生させますね」
「あ、ちょっと待ってください」
私は言った。急に不安になったのだ。
「あの、人外とかじゃないですよね」
天の声は笑う。
「望むのであれば人外でもありなんですけど、特に希望がない場合は人間にしますよ。性別や年齢もそのままにしますか? 人によっては可愛い幼女にしてくれなんてのもいますが」
「いや、このままで結構」
どんな世界に行くかは知らないが、私は私で満足している。願わくは転生先が人間中心の世界であることだ。
「安心してください。人外中心の世界にはいきませんよ。別の種族がいるかもしれませんがね。それでは、頑張って徳を積んでくださいね」
転生するときに現れるこの存在、正式になんていうのか知りません。