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04 初めてを奪ってみたら褒美出た


「だっはっ! 満足。満足……」


 広間に繋がる扉の一つが勢いよく開け放たれた。そこから姿を現したのは、満面の笑みで闊歩かっぽするアロガンだ。

 破壊された左腕は見事に復元され、ズボンのベルトを締め直しながら歩みを続ける。


 だが、そんな彼へ険しい視線を向けるのは。


わらわの居城で好き放題にしおって……父上が戻られたら、即刻、打ち首じゃ……」


 広間の中央で待ちぼうけをくわされていたエルヴィーヌ。そんな彼女の視線を受け流し、アロガンは下卑げびた笑みを浮かべた。


「ほう。打ち首にされるのはどっちだろうな? 魔王を亡き者にして、君とこの城を、まとめて手に入れるのも面白い。悪魔王が好みそうな展開じゃないか。なぁ?」


「なんと最低な男じゃ……」


 魔導杖まどうじょうを両手で握り、怒りと悔しさをあらわにするエルヴィーヌ。


「だっはっ! そんなことを言いながら、ここで悶々としていたんじゃないのか? どうせなら入ってくればよかったんだ。俺様は、二人まとめてでも大歓迎だぞ!」


「このっ!」


 顔を狙って振るわれた魔導杖。アロガンは身を引き、それを難なく避けたのだった。


「おぉ。怖い、怖い……こんなところで俺様とやり合って、ムダに力を使っても仕方ないだろうが……少しは落ち着いたらどうだ?」


「挑発したのは御主であろうが!」


 批難の声には耳も貸さず、アロガンは開け放たれた部屋を振り返る。


「おい、レリア。早くしろ! さっさとしないと置いていくぞ!」


 呼びかけに引き寄せられたように、暗がりから伸びてきた細い腕が壁を掴む。奥に広がる闇から、体を引きずるようにゆっくりと歩み出してきた一つの影。


「どうしたのじゃ!? この男に、それほど酷い目に遭わされたというのか!?」


 腰が曲がり、おぼつかない足取りの彼女へ、慌てて駆け寄るエルヴィーヌ。その後ろ姿を見送るアロガンの顔は、なぜか誇らしげで。


 そんな彼を、恨めしそうに見やるレリア。だが、潤んだ瞳と紅潮した顔には、ない交ぜになった複雑な感情が浮かんでいた。


「悔しい……淫魔族いんまぞくがこうも簡単にとされるなんて……しかも、中に出すなんて酷いじゃないですか! 赤ちゃんができたらどうしてくれるんですか!? 大切に守ってきた初めてだったのに……もう生きていけない……」


「なんじゃと!?」


 驚きと怯えの色を浮かべたエルヴィーヌが、アロガンを振り返り、無言で見据みすえている。

 だが、肝心の当人は澄まし顔を崩さない。それどころか、何か問題でも、とでも言いたげな、不満と疑問の空気すら漂わせて。


「初めてだかなんだか知らないが、快楽に溺れて頭のネジも飛んだのか? 天使族に、異種族交配での妊娠は有り得ないだろうが……むしろ、俺様が受けた恩恵を、子種へ乗せて分け与えてやったんだ。感謝しろ!」


「子種に乗せた!? なんなんですか、その良く分からない理論は……」


 怒りのオーラと共に、レリアの全身から紫色をした気体がゆらゆらと立ち昇る。


「御主、その魔力は!?」


 エルヴィーヌが驚きの声を上げる。


「え? はれ? なんですか、コレ!? すっごい……魔力が溢れてんですけど!?」


 驚き、いぶかしむレリアを見ながら、満面の笑みで腕を組むアロガン。


「だっはっ! これを超絶ちょうぜつドーピングと名付けよう! 魔力の消費量にもよるが、最長で八時間程度は持続できるはずだ! 奴隷としてキビキビ働け! 足りなくなったら、また注いでやる! いつでもねだりに来い!」


 だが、レリアは複雑な表情を浮かべて。


「魔力が上昇するのは嬉しいですけど、このやるせなさはどうしたらいいんですか……」


「知るか」


 アロガンが面倒そうに言い放った直後、体を抱きすくめて全身を震わせたレリア。そんな彼女の動きをエルヴィーヌは見逃さない。いたわるような視線を向けた時だった。


「そんな風に突き放されると、なんだかグッと来ちゃいますね……キュンキュンしちゃう……って、アレ? 私、なんだかおかしいです……こんなキャラじゃないのに……」


 レリアが慌てふためいていると、その手首に填まった銀のブレスレットが発光した。


「ディートヘルム様からの通信です……」


 そう言って、置物のように固まってしまう。


「どうしたのじゃ?」


 エルヴィーヌが気遣うような不安顔を向け、ブレスレットを覗き込んだ時だった。


「私の初めてを奪った褒美と、超絶ドーピングの習得により、暴虐ぼうぎゃくポイントが500ほど贈呈されるそうです……うぅ〜……なんだか、すっごく納得いかないんですけど……」


「だっはっ! 悪魔王も気前がいいな。見事にツボを突いたらしい。だが、おまえの初めてが、たったの500ポイントとは可哀想にな……いや、超絶ドーピングのボーナスが400ポイントとして、100程度の価値ということか。この、100ポイント女め!」


 その場へ四つん這いにくずおれるレリア。悔しげに、拳を床へ叩き付け。


「くうっ……悔しいはずなのに……蔑まれることで高揚してしまう私はなんなんですか……これじゃあ、変態じゃないですか!」


 隣へしゃがみ、その肩を抱くエルヴィーヌ。


「きっと、魅了シャルメの力のせいじゃ! そなたは断じて、変態などではない!」


「いや。そこは変態だと断言してやった方が、そいつも喜ぶと思うんだが……」


 他人事のようにつぶやくアロガンを、険しい目付きで睨み返したのはエルヴィーヌだ。


「先程から勝手なことばかり……御主はこの娘を何だと思っておるのじゃ!?」


「だから、性奴隷だと言っているだろうが。いや、待てよ……」


 何かを思いついたのか、意味深な笑みを浮かべている。


「レリア。俺とエルヴィーヌの従者になれ。おまえに、新たな肩書きを与えてやろう」


「肩書き……ですか?」


 四つん這いのまま、アロガンの顔を見上げるレリア。その顔には、不安と疑問の色がありありと浮かんでいる。


「そうとも。おまえは今から、四天王筆頭を名乗るがいい。俺たちの手足となるには、最適のポストだろうが」


「四天王って……他には誰が?」


「知るか。おまえが集めろ。奴は四天王最弱、なんて言われないよう、せいぜい頑張れ」


「また、突き放された……」


 彼を見上げた体勢のまま、緩む口元。その光景を目にして、複雑な顔のエルヴィーヌが。


「なんと恐ろしい力なのじゃ……最早、この男を始末する以外に手立てはないのか……転生者よりも恐ろしい、最悪の存在じゃ……」


「だっはっ! 最悪、と来たか。いいじゃないか。これ以上ない賛辞だ!」


 高らかに笑い、二人の女性へ背を向ける。


「出発だ! 異世界転生なんて浮かれているゴミどもに、現実の厳しさってヤツをたっぷりと思い知らせてやらないとな……一人残さずだ……皆殺しにしてやるぞ……」


「アロガン様。ついに始まるんですね……」


 立ち上がったレリアが、その背を見つめてつぶやきを漏らした。


「ゴミどもめ……何の気なしに転生して、面白半分で魔王退治なんて始めたんだろうが、絶対に後悔させてやるからな」


 肩を揺らして笑うアロガンの背に向かい、声を上げたのはレリアだ。


「でも、エルヴィーヌ様までいなくなったら、この城はもぬけの殻ですよね? 警護は必要ないんでしょうか?」


「構わぬ。どうせ、宝も全て奪われた後じゃ。今更、盗られて困る物もあるまい」


 開き直ったようにあっけらかんと言うエルヴィーヌを見て、困ったように微笑むレリア。


「安心しろ。万が一、ここに侵入するようなヤツがいたら、俺様が消し炭にしてやる」


「そういう時だけは、ムダに頼もしいですね」


 ボソリとつぶやいたレリアへ、アロガンの鋭い視線が飛んだ。


わらわが必要なのは、あの子だけじゃ。アドラシオン! どこじゃ!?」


 エルヴィーヌの呼びかけに、顔を見合わせるアロガンとレリア。すると、彼女の声に誘われて、一抱えほどの純白毛玉がふわりふわりとやって来て。

 それを目にしたレリアの瞳が爛々と輝き、満面の笑みを浮かべる。


「すごい! もっふもふした〜い!!」


「待つのじゃ!」


 毛玉へ手を伸ばしたレリア。直後、毛玉へ不意に、二つの目玉が現れて。


「ウギー!!」


 牙の並んだ大きな口を開き、レリアを飲み込むような勢いで飛びかかる。


「きゃあっ!」


超絶ちょうぜつキック!」


 頭を抱えて縮こまった彼女を守るように、アロガンの鋭い蹴りが毛玉を弾いていた。


「アドラシオン!?」


 毛玉は壁に激突し、その弾力を見せ付けるように、ぽよんぽよんと浮き沈み。


「アロガン様ぁ! ありがとうございます!」


「うるさい! 勘違いするな! せっかくの奴隷がいなくなったら困るだろうが! それより、その毛玉は何だ?」


 レリアから慌てて目を逸らし、謎の生物へ視線を送るアロガン。


「この子は、アドラシオンじゃ。生命体以外を何でも吸い込み、体内に溜め込む。妾のペットであり、道具袋のようなものじゃ」


「便利な魔獣だな。俺様の蹴りを受けてもビクともしないとはな……」


「戦闘能力はないが、代わりに異常なほど丈夫なのじゃ。可愛いであろう? 警戒心が強いのが玉に瑕じゃがな」


「もふもふしたいのに……」


 恨めしそうな視線を送り続けるレリア。


「とにかく、そいつを連れて行けば、荷物の収納にも困らないということだな。話がまとまったところで、さっさと行くぞ」


 こうして、三人と一匹の冒険が始まる。転生者を根絶やしにするという、暴虐ぼうぎゃくに満ちた大波乱の幕開けであった。

 アンチ異世界転生・転移の作者が考えた問題作。いかがでしたでしょうか?

 本命作の合間に息抜きで始めた作品でしたが、なにぶん勢い任せで書き始めてしまったので、適当プロットになってしまいました。

 実験作であったことに加え、本命作に全力を注ぎたいので、こちらはひとまず完結とさせて頂きます。

 先日公開したエッセイ。それと併せて、異世界転移・転生ものへ一石を投じる作品と捕らえて頂ければ幸いです。

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