いざ蜀漢の陣へ
とりあえず、タイムジャンパーを降りて孔明と一緒に蜀漢の陣に向かう。
タイムジャンパーの遮蔽装置は、バッテリーから電源を取っているので、エンジンを停めても約一か月はもつ。
タイムジャンパーは俺以外の人物が近づいてもいいように、安全装置がついていて俺以外ではドアは開かない。
ドアが閉じると孔明が言った。
「まさに、奇跡だな。すっかり入り口が分からん様になってしもうた」
「はい、俺以外ではドアは開きません。孔明様、この事は内密に願います」
タイムジャンパーから半刻ほど歩いて、陣に着いた。中から一人の武将が駆け出してくる。
「丞相、一体どこにいって居られたのですか…一晩中皆で探し回りましたぞ!」
さらに、血で汚れた孔明の服を見た武将。
「それに、服に付いた血痕は一体⁉︎」
半分呆れ顔の武将を見て、孔明がいう。
「おぉ、伯約。心配かけたな。すまぬ。昨夜、ある事で大怪我を負ったが、彼の力により完治した。心配せずとも良い」
目の前の武将が誰か、俺にも分かった。
字は伯約。性名は姜維。天水郡の出で、もともとは魏の将であったが、今は孔明の腹心の一人である。
その姜維が、コッチに気づいたらしくたずねてきた。
「で、丞相。此方のお方は?丞相のお怪我を一瞬で治してしまう神のような…」
姜維、マジマジと俺を見る。
俺が言う前に、孔明が口を出す。
「おう、伯約。このお方は私が大変お世話になった方だ。あの空いている邸宅があっただろう。彼をそこに案内してくれ」
即座に姜維の返答が返ってきた。
「御意…」
俺は改めて、自己紹介をする。
「姜維殿、お初にお目にかかります。『石山』と申します。よろしく…」
姜維が返す。
「石山殿、この地へようこそ。天水の姜伯約と申す。では、丞相後ほど。石山殿、邸宅へご案内します。此方へ…」
姜維について行く。陣の内部を通りながら、邸宅に辿り着いた。
「石山殿、邸宅に着きました。家の中の物はご自由に使って構いません。では、後ほど」
姜維が去る。
俺は、邸宅の中で改めて考える。
まずは、諸葛孔明に自分の素性を話してしまった事。
これだけでも、規則第3条に反する行為だ。
しかし、第3条よりも第2条が、優先される。
『第2条 本隊員は歴史が改変されそうな場合は、全力でこれを阻止しなければならない』
孔明は自分のミスで怪我を負った。
死の間際の孔明を治療した事自体は、問題じゃないが…孔明に機内で目を覚まされた事の方が重大だ。
ええぃ!!悩むな…俺…!
そこに、姜維がまた現れた。
「石山殿、丞相が軍議を開くそうなので…おいで願いたいとの事です。軍議場にご案内いたします」
俺は、考えるのをやめた。どのみち歴史はもう変わっているのだから…
姜維について行く。邸宅をでて、軍議場のある幕舎へと案内される。
幕舎に入ると、十数人の武将がいる。何人かは資料でも見覚えのある顔だ。
全員が俺を見る。
魏延・王平・廖化・馬岱…俺が知っているのはこれくらいか…
俺は、廖化の隣りに案内された。
目の前にあるのは、酒と質素な昼飯。つうか、昼から酒飲んでいいんかよ⁉︎
「皆に今来た者を紹介する。昨夜、私はこの者に大変助けられた。名は石山殿という。私は、この者が魏との戦いで偉大な戦力になると判断し、ここに連れて参った。ささ、石山殿。諸将にご挨拶を」
孔明が、俺を皆に紹介する。
各将の反応はまちまちだった。
『こんな若僧が、戦力になるのか⁉︎』
『丞相がお認めになる位だから、とんでもない人物かもしれぬな』
『さて、此奴の実力は如何程か』
様々な考えが飛ぶ中で、俺は挨拶をする。
「皆さま、お初にお目にかかります。私の名は『石山龍平』と申します。皆様と生まれは違い、字はありませんが……」
俺は続ける。
「昨夜は、諸葛丞相とある事で出会いましたが、その辺の理由はご容赦ください。で、丞相の漢を復興したいという熱い願いを聞き入れまして、ここにはせ参じた次第です。よろしくお願い申し上げます」
俺の話が終わると、先ず孔明と姜維が拍手をし、後に皆の拍手があった。
武将の一人から質問が飛ぶ。
「石山殿、其方はどんな実力をお持ちかな?」
俺が返答に困っていると、孔明が助け舟を出す。
「この者の実力は、強いて言えば、文官向きじゃな…策略に於いては、この孔明と同等。もしやすると、それ以上かもしれぬ」
一同、あっと驚く。無理もない。孔明一人でも凄いのに…孔明と同等なレベル…………
って…おい⁉︎
この俺が、孔明と同等レベルだって、しかもそれ以上かもしれぬって………マジかよ。
孔明先生。俺は、そんなにアタマ良くねぇぞ…どすんだこりゃ…