治療〜覚醒
俺は、目の前で倒れている孔明を見て考える。
『このまま、ほっとくと間違いなく死ぬな…』
目の前の孔明は僅かに呼吸はあるが、意識はない。
ここで死なせるわけにもいかない。
俺は機内で、孔明を治療する事にした。
孔明を背中に担ぎ、機内の治療室に運び込む。
彼の血が、服に着くが気にせず運ぶ。
まずは、麻酔で深い眠りにさせる。
スキャンをかけると、怪我の状態がわかった。右足太ももの複雑骨折、左腕から上半身にかけての熱傷。
さらに、脳出血も見られる。
先に、脳出血を治さないと…
棚から治療器一式を出し、脳出血用の治療器を孔明の額に乗せる。
25世紀では、医療技術も大幅に発展し医師じゃなくとも治療器で調査隊員が行えるよう様になった。
治療器が、脳内の出血点をスキャンし止血を行い、更に血腫も除去してくれる。
これに並行して、足の複雑骨折も治す。
これも、骨芽細胞を再構築させる治療器で骨折部分に光をあてる。
コンピュータの画面に表示された彼の骨折部分を見ながら、治療する。
骨折部分の骨芽細胞の活性化で、瞬く間に骨がくっ付いてもとの形にもどっていく。
骨折部分の治療が終わる直前に、脳出血の治療器が終了を知らせる。
どうやら、無事に完了したようだ。
続いて、火傷の処置を行う。
これもまた、細胞活性治療器で火傷の損傷を修復する。
一通りの治療が、終わる。一応何種類かの薬を注射して…………
「ふぅ……なんとか………おわったな」
安全なバイタルが確認出来るまで、しばらく観察する。
治療終わってすぐ、外に戻すわけにもいかず、俺は寝ている孔明を見る。
彼はぐっすり眠っている。
俺は、緊張の糸がほぐれたせいか…眠り込んでいた。
あれから、数時間がたったのか…俺は目が覚めた。
『‼︎‼︎‼︎』
孔明が、覚醒している…‼︎
おそるおそる彼に近づく。
その彼が呟いた。
「私は、とんでもない大怪我を負ったはずだ…ここは…あの世なのか?」
俺は孔明に話した。
「いいえ、あの世じゃありませんが…確かに、あなたは大怪我を負って亡くなる直前でした。その大怪我を作った原因は…」
全てをぶちまける。俺。
25世紀から来て、機械の故障であなたを跳ね飛ばしてしまった事、助けるべく治療した事……
って。俺自ら極秘事項まで、喋っちゃったじゃねぇか。
これで良いのかよ、俺。
孔明はだんだん状況が飲み込めてきたらしい。流石は蜀の丞相だ。
「なるほど、この時代の出来事を詳細に記録する為に、遠い未来からやって来たが…運悪く、この孔明にぶつかってしまったと、いうわけか…」
そのとき、孔明の頭にある考えが湧いた。
『この者の力を借りれれば、漢の復興も夢で無いな。仲達の奴、腰が抜けるだろうて…ククク』
「改めて、自己紹介させて頂く。私は蜀漢の丞相。諸葛亮、字を孔明と申す」
孔明が、おき上がろうとする。
それを、俺は制止した。
「孔明様。まだ暫く数刻は寝たままでいて下さい。あ、俺の名前は『石山 龍平』字は無いですが〜石山と呼んでください」
大人しく、孔明はベッドで横になった。
「石山殿、相済まぬな。後で一緒に我が陣にお出でくださらぬか?」
意外な誘いに俺は、戸惑った。
孔明と話すだけでも、大三規則を破っているのに更に、陣までも来て欲しいと…
俺は、孔明の嘆願に対してこう返事をした。
「孔明様、貴方と会ってこう話をしているだけでも、規則に反します。なんとか、それはご遠慮願います」
孔明は目を閉じて考えている。
その口から出た答えがこうだった。
「ここで、この孔明と出会うたのも何かの縁。石山様、漢の復興の為。貴方のお力をお貸しくださいませ」
オイ、孔明。歴史思いっきり変えちゃって良いのかよ⁉︎
彼の言い分によると…
自分が3年後に亡くなるのも、蜀が滅ぶのも、歴史の一辺の可能性であり…
出来るものなら、魔の力を得ても漢の復興を成し遂げたいのが、彼の誠実な願いであった。
「孔明様。とりあえず、着替えますので…返答はしばらく待ってください」
俺は、治療室を出てコクピットの横で着替える。
俺は、着替えながら考えた。
『見たところ、タイムジャンパーは損傷をおっていて、修理しようにも今ある物では出来そうにもない。保存してある食料も3か月は持たないだろう。本部へ事故発生の連絡をしようにも、通信機が逝かれちまってるし…』
血で汚れた隊員服を脱ぎ捨て、別な服を着る。
『ここで、一人で死を待つならば…どんなに淋しい事だろう。ならば、いっその事…………』
ここで、俺の心に魔がさした。
『孔明の奇跡を、蜀漢の復興をこの目で見たい』という、考えが………
どのみち、タイムジャンパーも接触時のショックで故障し、このままでは25世紀に戻れそうにもない。
俺は、孔明の前に戻って彼に告げた。
「孔明様、あなたのお言葉に甘えさせて頂きます」