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一度きりの放送

 テスト最終日の放課後。私はホームルームが終わるとすぐに、放送室へ向かった。普段は生徒会が、お昼の放送で使っている部屋だ。ドアを開けると、先に和泉君が来て準備をしてくれていた。

「……緊張するね」

「いつも通りにやってれば大丈夫だ。練習しただろ」

「そうだね。……これが最後の放送になっても、恨まないでよ」

「そんなことしない。っていうか、お前そんなことになるなんて、全然思ってないだろ」

「あれ、分かった?」

「何となくな。あと、この前お前が言ってたことなんだけど」

「えっ?」

「俺も、お前と放送がしたい。俺たちならきっと、最高のコンビになれる」

 和泉君にそんな風にはっきり言われると、なんかすごく変な気がする。でも、私はその言葉を、素直にすごく嬉しく思った。

「じゃあ、始めるぞ」

「うんっ」

 私は防音室に入り、ドアを閉める。マイクの電源を入れ、和泉君の指示を待つ。

 和泉君が、ミキサーのボタンを押す。すると、氷室先輩が作ったBGMが流れ出した。これを聞いていると、気持ちが高まる気がする。私は教室のざわめきが、ここまで届いてくるような気がした。私は防音室の外を見る。その瞬間、正面のガラス越しに和泉君と視線が合う。

 和泉君はそれを確認して、左手でレバーをスライドさせながらゆっくりと右手を挙げて、私に向けてサインを送る。

 つながった。その時、私はなぜかそう思った。私はそれを受け取って、マイクを握りしめて息を吸った。

「ジャックのみなさんこんにちは! 校内放送ジャック部です!」

「今日は一年生コンビでの、初めての放送です。至らないところも多いと思いますが、よろしくお願いします」

「皆さん、テストお疲れ様です! もうすぐ夏休みですね。皆さんは何か予定は立てましたか? わたしはですね……なんと何も立ててませんっ!」

「バカかお前は」

「バカじゃないよ。それにノープランっていうのはフリープランっていうことでもあって、なんでもできる、ってことなんだよ?」

「そうして、何もできずに夏が終わる……と」

「そんなことないよ! とにかく、今回のテーマは夏! 夏トークで夏を始めちゃいましょう!」

 こうして話してると、すごく楽しい。ずっと不安だったはずなのに。私の声がみんなに届いてるんだと思うと、嬉しくなる。たぶん不安を感じずにいられるのは、ガラス越しに和泉君がいてくれるおかげだと思う。


「皆さん今日は今までお付き合いありがとうございました!」

 私は息を吸って、もう一度マイクを握りしめる。まだ、伝えなきゃならないことがある。

「あと最後に……先輩、聞こえてますか!? 私は、私たちは……先輩がこの放送を聞いてくれてたら、すごく嬉しいです!」

「先輩のおかげでデビューできたもんな」

 和泉君が珍しく素直なことを言う。

「それでは、またいつかお会いしましょう!」

 BGMがフェードアウトし、最後の音が消える。私たちの放送が、終わった。すごくドキドキした。でも、やりきった。


 私はゆっくりと防音室を出る。すると外では、和泉君が立ち上がって、ドアの前で待っていてくれていた。

「和泉君?」

「お前……今の、すごく良かった。楽しかったよ」

「和泉君も、すごく上手かったよ。そうだ」

「なんだ?」

「デビュー、おめでとう」

「お前が言うことじゃないだろ。でもまあ、おめでとう」

 そう言って、私たちはお互いに笑顔を浮かべた。ここに先輩がいたら、一体なんて言っただろうか。そう思った、その時だった。

 バンッ、という大きな音がして、放送室のドアが開いた。そこには部長が息を切らして立っていた。

「何やってんだよ……ジャックするなら、俺たちにも先に言えよ! 寂しいだろ……。まあ、俺が悪いんだけど……」

「部長……」

 するとその後ろから、結城先輩がやって来るのが見えた。

「私が、聞いてないわけないじゃん……。あと私も、嬉しいよ」

 さらにその後ろには、いつの間にか氷室先輩が立っていた。

「今の放送。すごくよかった。客観的に見ても……主観的に見ても」

 先輩は視線をそらしながら、でもはっきりとそう言ってくれた。その時私は、ずっと先輩たちに会いたかったんだなって思った。

 すると、和泉君が先輩たちの前に歩み寄る。

「先輩」

 そう言うと和泉君は先輩に向かって深く頭を下げた。

「本当に申し訳ありません。全部俺のせいです。でも俺、やっぱりジャック部で、放送がしたいです。だから、もし許してくださるなら……もう一度、仲間にしてください」

 すると、部長は一瞬驚いた表情をした後、笑顔になって言った。

「俺たちは、お前の仲間じゃなかったことなんてないよ。なあ」

後ろにいるもう二人の先輩たちもうなずく。

「さすがにあの時はショックだったけど……」

 結城先輩がそう言うと、氷室先輩がそれに応えるように口を開いた。

「そんな悪いやつじゃないってことはわかってたわ」

「ありがとうございます……」

 和泉君がようやく体を起こす。

「不思議な人たちだな……」

 和泉君が私の隣で、そうつぶやいたのが聞こえた。


 私たちはしばらく、無言のまま立ち尽くしていた。するとギィッ、と音がして放送室のドアが開いた。そこには、あの生徒会長がいた。

「何のつもりだ。どういうことなんだねこれは!」

 荒々しくドアを閉め、こちらへと向かってくる。そして和泉君を見るなり、その科をは鬼のように変わった。

「和泉! お前はいったい何をやっているんだ。お前は生徒会の一員だろう。だったら早く……」

「申し訳ありません、会長」

 和泉君がまっすぐ会長を見据える。

「俺は、ジャック部で……放送同好会で、放送がしたいです。だから、それはできません」

 会長は歯を食いしばると、今度は部長の方を向いて睨み付けた。

「坂井!」

 会長の大きな声が響く。

「お前が……お前が生徒会をやめてジャック部なんて始めるから! だからこんなことになったんだ!」

「……ごめん」

「謝ってすむと思ってるのか!?」

 部長はまっすぐ、生徒会長を見つめる。その視線は、少しさみしそうにも見えた。

「俺はもう、戻れないんだよ。生徒会にはさ。俺は生徒会の仕事が、嫌だったわけじゃない。ただ、これは自分のやりたいことじゃないんだって、このまま過ごしたら絶対後悔するって、そう思った。だから、放送同好会を作ったんだ」

 部長はそこまで話してから、下を向いてふっ、と笑みを浮かべた。そして、また会長の方を向いて話し始めた。

「俺はさ。ジャック部を始めたばかりのときは大変だったけど、少しずつ仲間が増えて、活動するのが楽しくなった。ジャック部で日々を過ごしているうちに、だんだんとそれが生活の一部になっていってたんだ。俺にとってジャック部は、本当に大事な存在なんだよ。だから俺はもう、後悔はしてない」

「……っ」

 会長はそれを聞くと、うつむいてつぶやき始める。

「私は……生徒会は、お前がいなくなってから、どれだけ大変だったか。私は、お前みたいにならないように一生懸命努力して、生徒会を創り上げていけるように……」

「お前……」

「どうして私の仲間はみんな裏切るんだ。どうして生徒会の邪魔をするんだ……! お前ら、そこまでして放送がしたいか!」

 部長はそれを聞いて、ゆっくりと会長に語りかける。

「放送するだけなら、生徒会でもできた。でも俺は、自分の好きな放送がしたくて、ジャック部を作った。……俺は、お前を裏切ったつもりも、生徒会の邪魔をするつもりもなかったんだ」

「そんなこと、分かっている……」

 すると部長は少しさみしげな、でも柔らかい表情を浮かべた。

「でも俺は今でも、お前といつかまた放送ができたらいいなと思ってるよ」

 部長は少しの間会長を見つめていたけど、私たちの方に向き直ると笑顔で言った。

「それじゃあ、行こうか」

「どこへ?」

「機械室。ほら、五人そろってるだろ? 早く書類取りに戻ってさ。部活申請、して来ようぜ」

 私たちは少しの間顔を見合わせると、すぐにみんな笑顔に変わった。

 すると、うつむいたままの会長がつぶやいた。

「鍵は私が返しておく。……早く行け」

「いいの? じゃあ、よろしく。……あと、ありがと」

 私たちは、講堂に向かって歩き出した。



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