突然の出来事
今日はみんなでジャック部、もとい放送同好会を部活にしてもらうように申請する日だ。今日はみんなで集まって、五人で一緒に申請しに行くと約束していた。でも放課後が始まってから結構時間が経ったのに、和泉君はまだ来ていない。
「あいつ……遅いな」
部長がそうつぶやく。
「いつも結構早くに来てるのに」
結城先輩も不思議そうにしている。氷室先輩はドアの方をちらっと見てから視線をもとに戻した。
どうしたんだろう。もしかして、この前言ってたことと何か関係があるのかな。私はなんとなく不安に思った。
すると、ガチャリと音響室のドアが開いた。私は一瞬和泉君かと思って振り返る。しかしそこにいたのは、あの生徒会長だった。私たちはそれを見て、思わず体をこわばらせる。
「何で、お前がここに」
それを見た部長が、すぐさま前に進み出る。
「何でって、分かっているんだろう。最近君たちは、特に悪ふざけが過ぎるようだ。まあ、元からひどかったが」
「それがどうしたんだ。俺たちは今から、ジャック部を放送部として認めてもらうように申請しに行くところなんだ。邪魔しないでほしいな」
すると、生徒会長は口だけで笑みを浮かべた。
「それはもう聞いていたよ。こいつからね」
生徒会長が、音響室のドアを開ける。そこにはなぜか、あの和泉君が立っていた。
「君も、入りたまえ」
会長に呼ばれて、和泉君は表情一つ変えずに部室の中に入る。どうして、和泉君か会長と一緒にいるんだろう。私は、何もわからなかった。
すると、部長が私の気持ちを知っているかのように口を開いた。
「どういうことだ。和泉はジャック部のメンバーだよ。何でお前と一緒にいるんだ」
すると、会長がもう一度笑みを浮かべる。
「何を言っているんだ。彼は元から生徒会執行部のメンバーだよ」
会長の言葉に、私は身動きが取れなくなった。一瞬、あたりが静まりかえる。それって、どういうこと? 和泉君は、ジャック部の仲間でしょ? この前だって、一緒にステージに立ったんだし。
「和泉君、本当……?」
私は恐る恐る尋ねた。すると、和泉君はうつむきがちに、重い口を開く。
「俺はこの学校に入学してから、すぐに生徒会執行部に入りました。それからしばらくしたある日……。あの新入生歓迎会で、ジャック部がステージをハイジャックして、放送を行った。その後俺は会長に呼び出されたんです。ジャック部について調べてくるように、と」
私はその時すぐに、和泉君がいったい何を言っているのか理解できなかった。そこまで話して、和泉君は少し吹っ切れたような表情で顔を上げた。
「そしてその日、すぐにジャック部に見学に行きました。最初はそれだけで終わらせるつもりでしたが、なかなか分からないことが多くて。それでこんなに時間がかかってしまいました」
和泉君は普段からは想像もつかないほど流暢に、でも冷たい口調で話し続ける。
「でも生徒会の方の放送ではまだ担当を任されていませんでしたし、機械の練習もこれからのためだと思えば苦にはなりませんでした。まあ、まさかコンビを組んだり、文化祭でステージに出たりすることになるなんて思ってませんでしたが。でもおかげでジャック部のことがよく分かりましたよ」
そしてそう言うと、口元で笑顔を浮かべた。でも、その瞳は全く、冷たいままだった。
「何で、何のためにそんなこと……」
結城先輩は信じられないという様子で和泉君を見る。少しだけ、声が震えているような気がした。
「生徒会にとって、ジャック部が邪魔だからだよ」
すると、会長が口をはさんで代わりに答える。
「ジャック部の活動を阻止し、動向を探るために、彼にはいろいろと働いてもらったよ。まあ、我々も対応できなかった部分も多いのだが。それにね、実は私たちも放送部の創設を目指しているんだ。そのために君たちが、部として活動するつもりがあるのかを調べる必要があった。君たちに、先を越されないようにするためにね。でもこれで君たちが放送部を目指していることがはっきりしたよ。そして、君たちが我々にははるかに及ばないということも」
会長が、私たちに向き直って言う。
「放送部は、二つもいらない。当たり前だろう。そもそも、放送する組織自体二つもいらないんだよ。全く、どうして先生方は放送同好会を認定したのか。まあ私たちが放送部として認められれば、あなたたちの肩身が狭くなることは間違いないだろうがな」
そう言って会長はハハッ、と笑い声を上げた。部長は拳を握りしめると、会長と視線を合わせる。
「でも、俺たちは今年から、5人で活動してきて。だから、これからも一緒にやっていけるって……」
「どの口が言ってるんだね? 元生徒会役員で、生徒会長の最有力候補だった君が」
その瞬間。部長がその言葉に、明らかに息を飲んだのが分かった。
「それは……」
「お前が生徒会をやめてから、生徒会はもう、バラバラ。まあ、私がここまで立て直してきたのだが」
そう、だったんだ。私はそう思って、部長の方を見る。生徒会にいたっていうのはこの前聞いてたけど。そんなことは初めて知った。じゃあどうして、部長は生徒会をやめたんだろう。
会長があきれたように息をつくと、声のトーンを上げて大げさに私たちに語りかける。
「少しだけ、猶予を差し上げよう。七月の、期末テスト最終日の放課後。その日に私たちは放送部を設立する。そして今からじっくり反省して、もし私たちに従うというならば、新しい放送部のメンバーとして認めてやろう。まあそれまで、じっくり考えるといい」
そう言って会長はにやりとした笑みを浮かべ、私たちに背を向けて部屋を出て行った。和泉君も軽く礼をしてから、それに続いた。
音響室には、私たちだけが取り残された。しばらくの間、あたりが静寂に支配される。それを切り裂くように部長が声を上げた。
「何で、なんでだよ! 何でこんなことになるんだよ……」
「どうしよう、もう……何がなんだかよく分かんない……」
結城先輩もそれにつられるようにして口を開く。
「彼なら、素晴らしい機械担当になれると思っていたのに。あれだけ、熱心に練習して……」
氷室先輩もさすがにショックを隠せないようで、うつむいて小さな声でつぶやいた。
「和泉くん、どうして……」
私も思わず、そう口にしていた。
ついこの間。本当についこの間に、やっと仲良くなれたって思った。まだ、始まったばかりだと思ってた。これからコンビとして、ずっと一緒に活動していくんだって、そう思ってた。なのに、何で。
すると部長は私たちの様子に気付いたのか、笑顔を作ってみんなに呼びかける。
「……なあ、みんな。そんな暗い顔するなよ。和泉だって、また戻ってくるかもしれないし。それに四人でも、これから頑張ればなんとかなるって……なあ、どうしたんだよ……」
しかし、その言葉に応えた人はいなかった。
「私はもう帰るわ」
氷室先輩の声が音響室に響く。
「だってしょうがないでしょう? 部員が一人、減ってしまったんだもの。しかも、こんな形で……」
すると、結城先輩もそれに続いた。
「私も……今日はちょっと頑張れる気分じゃないから、もう帰るね」
「そんな……お前ら……」
部長はしばらく悲しそうな表情をしたまま、ぼんやりと二人の背中を見つめていた。しかし二人が帰ってしまうとカバンを持って、そのまま部室を出て行った。私は何もできず、しばらくそこに立ち尽くすことしかできなかった。




