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文化祭の後で

 文化祭が終わった次の週の火曜日。昨日は代休で休みだったから、久しぶりの学校だ。教室に入ると、向こうの方にエミの姿が目に入った。そう言えば文化祭のときはお互い忙しかったし、こうやって会うのは久しぶりだなあ。エミは私に気付くと、真っ先にこっちに駆け寄ってきた。

「チハル! 文化祭お疲れさま」

「エミも、お疲れさま」

 するとエミは満面の笑顔を見せてから口を開いた。

「ジャック部、見てたよ。すごかったね」

「ありがとう。でもすごい緊張したよ」

「そう? そんな風には見えなかったけど」

 そう言うとエミが私の肩をポン、と叩く。

「まさかチハルが、あんなふうにステージに立てるなんて思ってもみなかった。これからも楽しみにしてるよ」

 やっぱり、聞いてくれる人がいるっていいなあ。ただ楽しいことがしたくて、目立ったりしてみたくて始めた部活だけど。よし、これからも頑張ろう。私はそう思って握り拳を作った。


 授業を終えて、私は真っ先に音響室へと向かう。放課後の講堂にはいつも通り柔らかい日差しが降り注いでいた。風に揺られてカーテンのすそが少し揺れる。

あの文化祭のステージが、嘘のような静けさだ。遠くからは運動部の掛け声が響いてくる。二階の隅には私たちを照らしたスポットライトが、静かにたたずんでいた。 

 私はゆっくりとした足取りで、奥の音響室まで向かう。中をのぞくと、もうみんなが揃っていた。

「あっ、やっと来た~!」

 結城先輩がドアの近くでこっちに笑顔を送りながら言う。

「遅いぞ」

 和泉君はいつも通りそっけない感じだ。でも心なしか少しだけ態度が柔らかくなったように見えるのは気のせいだろうか。

 氷室先輩は無言でちらっとこっちを見てから、ふっと微笑んだ。

「それじゃあみんな、さっそくミーティング始めるぞ」

 部長がみんなに呼びかける。

「この前は文化祭お疲れ様! いろいろ大変だったけど、上手くいってよかったな」

 部長は一呼吸置くと、もう一度みんなの方を向いて言った。

「それで、これからの活動についてなんだけど、それについて俺から提案があるんだ。聞いてくれるかな?」

 提案って、いったい何だろう。私がそう思っていると、部長はいつもの自信ありげな表情で私たちを見渡してから言った。

「俺は、この放送同好会を、部活動にしたいと思うんだ」

 みんなが一斉に、意外そうな表情で部長を見る。

「今年で新入部員が二人加わって、全部で五人になった。そして部活動として認められる条件は、部員が五人以上であること。だから、申請すればジャック部を、正式な部活にすることができる。でもだからそれについて、みんなの意見を聞きたいと思うんだ」

「それで、部活動として認められれば何らかのメリットがあるのかしら?」

 氷室先輩が腕を組んだまま部長に尋ねる。部長はそれを見て得意げに、でも真剣な表情で答えた。

「まず、部費がもらえるため活動の幅が広がる。今は新しい機材が欲しくてもなかなか買えないだろ? それが一つ」

 部長は一呼吸置いてからまた口を開く。

「もう一つは、放送部として認められれば、学校の放送組織として認められることになる。もしかしたら生徒会の放送より優位に立てるかもしれない」

 部長の言葉に、部室の空気が静まりかえる。氷室先輩が少し笑って、落ち着いた声で答えた。

「そうね、確かに一理あるわ。なかなかいい案なんじゃないかしら」

「うんうん、ちょうど、新しいマイク欲しいって言ってたとこだし!」

 結城先輩も嬉しそうに答える。

 私は、どうだろう。でも私も部費が増えるのは嬉しいし、これからの活動のためになるならこれはきっとチャンスだよね。それに、ジャック部が正式に放送部として認められるって思うとなんかわくわくしてくる。 

「私はよく分からないけど、今よりもっと放送でいろんなこと出来るなら、いいんじゃないかなって思います」

「そうか、分かった。和泉、お前はどう思う?」

 すると和泉君は少しビクッ、としてから何とも言えないような表情をした。

「えっ、俺ですか? 俺は、別に……まあ、いいんじゃないですか?」

 どうしたんだろう。いつもは口数は少なくても、割とはっきり自分の意見を言うのに。まあ、そんなこと急に言われてもよく分かんないよね。私はそう思うことにした。

「そうか、分かった」

 すると部長はそう言いながら、和泉君の表情をうかがうような仕草をする。部長も様子が気になるみたいだ。それに気づいた和泉君が部長の方を見てうなずくと、部長は安心したような表情を浮かべた。

「それじゃあ、今度みんなで申請しに行こう」

「はいっ」

みんなは笑顔でそう答える。しかし和泉君は、少し硬い表情のままだった。


 放課後。私はいつも通り和泉君と二人で駅まで歩く。

「和泉君」

「なんだ」

「さっきジャック部を部活にするって話をしたときにね。ちょっと様子がおかしかったけど、どうしたの?」

 和泉君は私の方を見て少し驚いたような表情を浮かべて、一呼吸置いてから口を開いた。

「俺も……ジャック部が正式に部活として認められれば、いいと思う」

「じゃあ、なんで……」

「それは、まだ言えない」

「でも……」

「いずれ話す。近いうちに」

 和泉君は視線を遠くに向けたまま、はっきりと私にそう言った。なので、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。そしてそのまま、その次の木曜日がやってきた。


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