表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

文化祭本番

 そしてついに、文化祭の当日がやってきた。

 その日、私たちジャック部は朝早くから音響室に集まっていた。この時間だとまだ生徒会は来ていない。校舎の外も人がまばらだ。でも大きな看板やオブジェが立ち、デコレーションされた校舎を見ると、いつもの何倍もにぎやかに見える。何だか、今日は特別な日なんだっていう感じがしてワクワクする。部長も今日はいつもよりすごく嬉しそうだ。

「それじゃあみんな、おはようございまーっす! 今日は待ちに待った文化祭だね。みんな、気合入れていこうなっ!」 

「はい!」

 部長の言葉に、みんなで一斉に応える。

「それじゃあ今日の予定だけど。お昼休みの後に音響室裏の屋上に集合。その後に午後の部が始まるから、そこで今日のミッションだ。内容はこの前言った通り。これで大丈夫?」

 みんなが一斉にうなづく。

「それじゃ、ひとまず解散。じゃあ、また後でね」

 みんながそれぞれ、分かれて教室に戻っていく。どうしよう。何だか、始まる前から緊張する。すると和泉君が追い抜きざまに私の肩をたたく。

「緊張してんの?」

「し、してないよ」

「してるだろ。足、引っ張んなよ」

「大丈夫だって」

私がそう言うと、和泉君はふっ、と優しい笑顔を浮かべる。

「……頑張ろうな」

「うんっ!」

 私は笑顔でそう答えた。

 その後私はクラスのみんなと午前のプログラムを見た。そして、ついにその時がやってきた。私たちは全員、講堂裏の屋上に集まる。

「もうすぐだな」

 部長がそうつぶやくのを聞いて、私は胸の鼓動が早まるのを感じた。

「できるかな……私に」

 私は思わず不安を口にする。

「大丈夫だよ。俺たちが付いてる」

 部長が私の様子を見てそう励ます。

「うんうん。一緒なら、平気。ちゃんと練習してきたもんね」

 リオナ先輩は、いつも通りの笑顔だ。

「私も後ろから、サポートするわ」

 サエ先輩も、無表情ながらそう言葉をかけてくれる。

「俺も、いるだろ」

 その様子を見ていた和泉君が、少し間を置いてからつぶやいた。

 みんなにそう言ってもらうと、ほんとにできそうな気がするから不思議だ。

「先輩、ありがとうございます。和泉君も、ありがとう」

 私は笑顔でそれに答える。

「私、頑張ります。いや、一緒に、頑張りましょう!」

 部長はそれを見て少し安心したような顔を見せてから、私たち全員の方を見据えた。

「よし。じゃあ、始めるか!」


 私たちは屋上の扉をほんの少しだけ開けて中をうかがう。音響室では、生徒会が休憩時間のアナウンスを行っているようだ。午後の部が始まるまで、あと五分。

「そろそろ、行くか」

 部長が扉の向こう側を見据えてそう言った。それを見た氷室先輩がうなづくと、勢いよくドアを開ける。生徒会の人たちがいっせいにこちらを振り返った。

「っ!? 誰!?」

「まさか、ジャック部!?」

「そうよ。この放送、ジャックしに来たわ」

 氷室先輩が表情一つ変えずにそう告げる。

「まさかそんなところに潜んでいたなんて……。でも無理だよ。こっちはもう準備ができてるんだから。もうBGM流しちゃって!」

 もう一人がBGMのボタンを押す。しかし、何も鳴らない。

「うそ、さっきは鳴ってたでしょ!」

 するとその生徒は叫び声を上げながら立ち上がる。

「すみません、私にはよく分からなくて……」

 もう一人も続けて席を立った。

「正解は、こっちよ」

 氷室先輩が隣にある、もう一つのプレイヤーのボタンを押す。すると、アップテンポの明るい曲が勢いよく流れ始めた。氷室先輩が、今日のために作ってきたBGMだ。

「校内放送ジャック部、文化祭special program!!」

 部長が手に持つマイクで思いっきり叫びながら、音響室の反対側のドアを開け、講堂の二階に飛び出す。その途端、会場から大きな歓声が聞こえ出した。

 生徒会の人たちがあっけにとられている間に、氷室先輩はもうミキサーの前に座っていた。

「ちょっと、何勝手に座ってんの!?」

 すると氷室先輩が、ミキサー付属のマイクの電源を入れる。

「プログラムはもう始まってるわ。静かにしてもらえる?」

「こいつ、ジャック部のくせに!」

「これ以上騒ぐと、マイクを通してみんなに聞こえるわよ」

「っ……!」

 氷室先輩の威圧感に押されて、二人は何も言えなくなった。

「俺たちも行こう」

 和泉君が小声で伝える。

「うんっ」

 私たちは階段を降り、ステージ横へと向かった。

 ステージの様子をうかがうと、部長は慣れた手つきで二階の手すりに縄ばしごを取り付けている。そしてなんと、それを伝って一回の客席まで下り始めた。会場からは悲鳴とざわめきが聞こえてくる。途中まで下りたところで、部長は客席の方を向いてマイクを構えた。

「Hi,みんな、元気してる? 文化祭、楽しんでるかい!?」

 左手で縄ばしごをつかみ、右手にマイクを持って部長が叫ぶと、講堂中からより大きな歓声が聞こえた。

 すると部長は、縄ばしごを背中に観客の方を向くと、腰につけてあったワイヤーで一気に一階まで飛び降りた。会場が再び悲鳴に包まれる。

 部長はその悲鳴をよそに、軽々と地面に着地してみせた。見ると、何事もなかったかのように笑顔でこっちに手を振っている。本当になんというか、すごい人だ。

 それから音響室の方へと、手を広げて合図を送った。それと同時に、真っ暗だったステージが突然ライトに照らされる。

 そこには、結城先輩が立っていた。それを見た観客から、また大きな歓声が上がった。そのステージに向かって、部長が客席中央の通路に向けて駆け出す。部長がステージに上がると、結城先輩とハイタッチしてからマイクを構えた。

「皆さんこんにちは! キミのハートをハイジャック! 校内放送ジャック部です! DJは俺、部長のヒロキと?」

「二年のリオナです!」

「そして、機械担当が?」

「……副部長のサエです」

「今回は、ジャック部に新しく入ってきた一年生を紹介しちゃいます!」

 リオナ先輩が、私たちに目くばせする。

「それじゃあ、準備はいいかな? 二人ともCome on!」

 部長が私たちに、勢いよく合図を送った。和泉君が、小声で私に呼びかける。

「じゃあ……行くぞ」

「うんっ」    

 私たちはステージへと飛び出した。

 

 ステージは予想の何倍も明るくて、思わず目がくらみそうになる。もう一度顔を上げると、そこには満員のステージが広がっていた。

「……すごい」

 私は誰に話しかけるでもなく、自然とそうつぶやいていた。

「すごいな」

 それに、隣に立っている和泉君が答える。

 普通の学校の、文化祭のステージなのに、こんなにまぶしいなんて。でも、私たちにとっては最高のステージだと思った。

「それじゃあ、自己紹介してもらえるかな?」

 部長の言葉に、私は自然とマイクを手に取っていた。あんなに緊張してたのに。私、大丈夫だ。

「はいっ! 一年の高崎千晴です! 私はジャック部に入ってから放送を始めて、今までステージに立ったこともほとんどなくて……。だから今すごく緊張してるけど、でも……すごく嬉しいです! 頑張りますので、これからもよろしくお願いします!」

 するとその瞬間、会場から大きな拍手と歓声が起こった。

「同じく一年の和泉玲也です! 俺は普段は機械担当で、こうしてステージに立って話す機会はあまりないと思っていたので、こうして文化祭に出れることをとても嬉しく思います。これから機械を中心に、トークの方も頑張りたいと思うのでよろしくお願いします!」

 和泉君が自己紹介を終えると、再び会場から拍手と歓声が起こる。私はふと、隣を見る。そこには和泉君が今まで見たことのないような、充実した笑顔を浮かべていた。私もそれを見て、思わずつられて笑顔になった。

「新入生の二人には、これからいろんなところで活躍してもらう予定だから、皆さんよろしくお願いしますね!」

「それじゃあ次のプログラムは……有志バンドの皆さんによるスペシャルライブです!」

「みんな、盛り上がってこうぜ!」

 部長が拳を高々と上に突き上げる。すると、会場にみんながそれにつられるようにしておおーっ、と拳を挙げた。

「それじゃあみんな、またどこかで会おうな!」

 私たちはそのまま、部長の後について舞台袖まで走って行った。


 こうして、私たちの初めてのステージは終わった。

「お疲れ様!」

 ステージを降りるなり、部長が大きな声でみんなに呼びかける。

「うわー、大成功だったね!」

 結城先輩もこっちを振り返って言う。

「楽しかった……」

 私はふとそうつぶやいた。緊張した、疲れた、びっくりした……。この短い時間の中で他にもいろんなことを感じたはずなのに、自然と私の口をついて出たのはそんな言葉だった。

 すると、隣に立っていた和泉君が少しだけこっちを見ながら言う。

「お疲れ。お前がいてくれて助かったよ。おかげで、そこまで緊張せずに済んだ」

「それは私もだよ。ありがと」

 そして少し後から氷室先輩も戻ってきた。

「みんな、お疲れ様。すごく良かったわ。見ていて、なんだか爽快だった。……心配しなくて良かったみたいね」

 すると、結城先輩がいたずらっぽい笑顔で言う。

「あっ、やっぱり心配してくれてたんだ?」

「……別に、私は自分の立場として、あるべき態度をとったまでよ」

「そんな、照れなくてもいいのに~」

 結城先輩はにやにやしながら、指で氷室先輩の方をつついている。私はそれを見て、なんとなく微笑ましくなって笑った。


 それから私たちは、しばらくみんなでさっきのステージのことや、明日のことなどをいろいろと話していた。

 私がふと前を見ると、誰かこっちに向かって歩いてくる人がいるのに気が付いた。よく見ると、生徒会長だ。もしかして、さっきのジャックのことで話があるのだろうか。見ると、明らかに苛立った表情をしている。

「なんだ、会長か。お疲れさま」

 部長はその様子に気づいていないかのように笑顔で答える。

「……なんださっきのは」

「あっ、もしかして聞いてくれてた?」

「もちろんだ。全く、こんなふざけた真似をするとはな。こうなってくると、私もタダでは済ませられない」

「その割には、最後まで続けさせてくれたな」

「下手に止めると、騒ぎを起こす可能性がある。不本意ではあるが、止めるのは自粛させてもらった」

「違うな」

 部長が生徒会長に向き直る。

「止めなかったんじゃなくて、止められなかったんだろ?」

 会長はその言葉に、少し眉をひそめた。

「なっ……どういうことだね」

「あの会場の様子を見て、思ったんだろ。これを止めたらみんなからの反感を買うって。違うか?」

「……ジャック部ごときが調子に乗るな」

 その言葉に、部長がもう一度生徒会長を見据える。いつもの明るい笑顔からは想像もつかないような、真剣な表情。

「俺たちは自分のしたい放送をするために、ジャック部の活動をしているだけだ。俺は……間違ってるとは思わない」

「そんなことが言えるのも今のうちだ。……十分気をつけろ」

 生徒会長はそう言って体を翻し、もと来た方へと去っていった。


「部長、今のは……」

 私の言葉に、部長は少し考え込むような顔をしてから答える。

「そう言えば、言ってなかったっけな。俺さ、ここに来る前は生徒会にいたんだ。あいつとは同学年だから、よく一緒に仕事をしたりした」

「えっ?」

「俺が生徒会をやめてジャック部を作ってから、やたらと突っかかってくるようになったんだ」

 私はその言葉に、驚きを隠せなかった。そうだったんだ。全然知らなかった。

「でももう、昔の話だよ。今はもう俺、ジャック部の部長だし」

 部長はそう言って微笑んでから、少し下を向いてつぶやいた。

「でも、そろそろ考えないとな……」

 どうしたんだろう、なんだかいつもと様子が違う気がする。みんなの方を見ると、何だか暗い表情をして黙りこんでしまっている。部長もそれに気付いたのか、明るい笑顔ででみんなに呼びかける。

「それじゃあみんな、今日はもう解散にしようか。明日は午後にみんなで模擬店回って、その他は自由で。じゃ、また明日!」

 私はもっと聞きたいことがあったけど、そのまま家に帰るしかなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ