メンバーとの出会い
先ほど手に入れたマップによると、「ジャック部」の部室は二階の講堂裏の音響室にあるらしい。そう言えばあの二人もそう言ってたっけ。私はホームルームが終わるとすぐに、そこへ向かうことにした。
講堂の二階には、窓から明るい光がさしていた。私はゆっくりとドアを開け、中に入る。端にある狭い通路の向こうのドアには、「音響室」と書かれた文字が見えていた。
さっきまでは大丈夫だと思ってたんだけど、こうして目の前にするとどうしても緊張してしまう。でも、行かないと。だって私は、ジャック部に入りたいんだし。よし、行こう。……と思ったその時だった。
「どうしたの?」
突然、後ろから誰かに声をかけられた。振り向くとそこには、さっきの新入生歓迎会で見た、ロングヘアに編み込みの女子生徒がいた。えっと確か、リオナ先輩っていう人だっけ。
「あっ、えっと……」
「あれ、もしかしてジャック部に来てくれたのかな?」
「はい、そうです。私、興味があって……」
すると、先輩の表情がぱあっと明るい笑顔に変わる。
「本当!? やったあ、じゃあついてきて!」
先輩は私の前を早歩きで進み始めた。ついていくといっても、ジャック部はもうすぐ目の前で、そんな必要もないのだけれども。
「みんな、新入生だよっ」
先輩が勢いよくドアを開ける。そこには、今日のオリエンテーションで見た部長と副部長らしき人。それと、初めて見る男子生徒がいた。
ジャック部の部室は、人が十人も入らないような小さな部屋だった。すると、部長が満面の笑みでこっちに近づいてきた。
「新入生!? ……えっと、こんにちは。部長の坂井広樹です。よろしくね。今日の部活紹介、ちゃんと見てくれた?」
「はい、見ました。すごかったです」
「そっか、それは良かった。でもちょっとびっくりさせちゃったかな?」
「そうですね、確かに驚きましたけど……でも楽しかったです」
「ほんとに!? なんか実際にそう言ってもらえると嬉しいなあ」
すると、その様子を見ていたリオナ先輩が笑顔で話しかけてきた。
「そう言えば、私も自己紹介してなかったね。私は二年生の結城理緒菜です。よろしくねっ」
「はい、よろしくお願いします」
すると、リオナ先輩が副部長の方に駆け寄って、その肩に触れながら顔を覗き込む。
「サエちゃんも、ちゃんと自己紹介してあげて!」
そう言われて、ずっと向こうの方を向いて機械をいじっていた副部長が、ゆっくりと体をこちらに向ける。
「今日はここまで来てくれて、本当にありがとう。私は三年生の氷室冴。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「私は基本的に機械……つまりは裏方を担当しているわ。たまに今日みたいにしゃべることもあるけど。私はあまり目立つのが得意ではないから、こっちの方が性に合ってるの。そうね、でも裏方で機械と触れ合い、みんなを支えるのもなかなか粋なものだから、興味を持ってくれたら嬉しいわ」
「ジャック部って、なんか目立つのが好きな人ばっかかと思ってました」
すると氷室先輩は、少しだけ笑顔を浮かべて言った。
「私だって、こう見えても面白いことが好きなのよ?」
「そうなんですか?」
「じゃないとここに入ったりしないわ」
会話が途切れ、少しの間沈黙が流れる。先輩はそんなこと気に留める様子もなく、機械の方に向き直ってミキサーを動かしていた。意外とよくしゃべる方なのかと思ったけど、きっと会話がなくても平気な人なんだろうな。
私はまだ一言も話していない、一番奥に立っている男子生徒に視線を移した。
「あっ、もしかしてあの方も先輩ですか?」
「……俺は先輩じゃない」
「えっ」
周りが答えるより早く、その人が口を開く。もしかして、同級生?
「ああ、あいつは今さっき来たばかりの新入生だよ」
部長が代わりにそう答える。しまった、全然分かんなかった。どうしよう、とりあえず謝っとかないと。
「ごめんなさい。なんか落ち着いてるし、奥の方に立ってるから先輩かと思っちゃって」
「別にいい。気にしないし」
そう言うとその人は斜め下に視線を戻した。すると、部長が歩いて私たちの方に近づいてきた。
「それじゃあ、新入生も二人来たことだし。あらためてジャック部の紹介でもしようか」
「はい」
「……よろしくお願いします」
私ともう一人が答えると、部長は自信ありげな表情で話し始めた。
「まず、ジャック部は正式には放送同好会って言って、去年俺が作った新しい部活なんだ。でも自然とジャック部って呼ばれるようになって、今ではこっちで呼ばれることの方が多いかな。俺たちもジャック部って呼んでるしね。俺一人で始めた部活だけど、今は俺と氷室、結城の三人で活動してる。
活動場所はここ講堂裏のスペース、つまりは音響室とこの奥にある屋上。そして屋上を通って講堂の向かい側にあるスペース。活動時間は火曜と木曜の放課後だけど、ここで一緒にお昼を食べたり、宿題やったり、後はたまにほかの日にも集まったりとかもするかな。ここまではOK?」
「はいっ」
「分かりました」
私に続いてもう一人の新入生も答える。部長は軽くうなづいてから話を続けた。
「それで、俺たちが放送をジャックする理由なんだけどさ。実は校内の放送業務は基本的にすべて生徒会が担っていて、放送室を使用する権利も生徒会に任されているんだ。それに生徒会ではジャック部に反発する動きが強くて、なかなか貸してもらうことも難しくてさ。それで、校内放送のジャックを始めたんだ」
「しかし、他に放送している組織があるのにどうして放送同好会を作ったんですか?」
同級生が冷静な口調で尋ねる。
「いい質問だね。じゃあ放送同好会ができた理由についてなんだけど。生徒会がやってるのは、あくまで生徒会の活動としての放送なんだ。それに対して放送同好会は、放送としての放送をすることを目的として作られた部活なんだよ。自分たちでプログラムを考えて、自分たちで放送する。放送っていう点では同じだけど、やってることは全然違うんだ。だから」
部長は誇らしげな笑顔を浮かべた。
「だから俺はそれがやりたくて、ここを作ったんだ」
そう言って部長は、私たちの方を見る。何の迷いもない、まっすぐな瞳。私は今まで、こんな視線を受けたことがあっただろうか。
私たちが何も言わないでいると、部長はふと目を伏せてまた口を開いた。
「でもやっぱり、生徒会とはうまくいかないみたいで。まあ活動の邪魔をしてるわけなんだから、当然なんだけどな。先生たちも、あまりよく思ってないみたいだし。先生はやっぱ、生徒会の味方だしな。生徒会の後ろについてるってわけだ。だからもしジャック部に入るなら……それを分かった上で、来てくれたら嬉しいかな」
部長はもたれかかっていた机から跳び上がると、私たちに向けて微笑んで見せた。
「ジャック部の紹介は、大体このくらいかな。何か質問とかない?」
「いえ、特に……」
まだよく分からないこ気もするけど、いざ質問するとなると思いつかない。
「大丈夫です」
もう一人の方もそう答える。
「それでさ、来週の月曜日から入部期間が始まるんだ。今度担任の先生からも配られると思うけど、とりあえず今入部届渡しとくから、よかったら入ってもらえると嬉しいな」
「ありがとうございます」
「……どうも」
私たちは部長から入部届を受け取る。私はそれを、丁寧にクリアファイルにしまった。
私たちはそのあと、部室の案内をしてもらったり、今までの放送原稿を見せてもらったり、他にも学校のこととか、いろんな話をしたりして過ごした。そして夕方になってみんなで帰ることにした。
先輩たちは私とは違う方向に帰るらしい。解散した後、私は一緒だった同級生の人と帰ることになった。
どうしよう、初対面の人と話すのは苦手だ。しかも無口なキャラっぽいし。でもとりあえず、話しかけてみようかな。
「ねえ、君は……ジャック部に入るの?」
「まだ、分からない。けど、面白そうだとは思う。お前はどうなんだ?」
「私は、入ろうかなって思ってる」
「そうか」
そこで会話が途切れ、お互い口を開かないまま時間が過ぎる。駅に着くまでずっとこんな感じだったらどうしよう。私がそう思っていると、今度は向こうの方から口を開いた。
「お前、名前は?」
「高崎千晴。よろしくね。君は?」
「和泉玲人。こちらこそ、よろしく」
そう言ってその人は、少しだけ微笑んだように見えた。こういう自己紹介とかは初めて会った時点でしとくべきだった気がするけど。名前、覚えとこ。
その後はまたしばらく沈黙が続き、そうしているうちに駅に着いた。この人は私と反対方面の電車に乗るらしい。私はもうこの気を使わなくて済むと思うと、ちょっと安心した。
階段のところで別れて、それぞれ違うホームに向かう。私はふと、向こう側のホームを見る。あの人は、私には気づいていないようだ。私はそのまま、ホームの奥の方へと歩いて行った。




