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終焉の聖女は皺を隠さない ~追放した若手パーティが、コスプレ老婆の神罰で塵に還るまで~  作者: La Mistral
第1章 : 聖女の解雇、老婆の処方箋

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第5話:沈黙の聖都と、偶像の終焉

聖都を支配する教皇の元へ辿り着いたアガサ。

しかし、彼女が手にしたのは破壊の魔法ではなく、たった一枚の紙切れと、一房の薬草でした。

「聖女」として誰よりも人の命と肉体を診てきた彼女は、誰よりも「人の壊し方」を知っています。

魔法という超常の力に頼らず、解剖学的知識と冷徹な知略で、神の代理人を「生ける屍」へと変えさせていく。

老司祭アガサによる、聖都解体の幕が上がります。

「魔法で私を裁く? ……いいえ、そんな高尚なものは必要ないわ」


アガサは大聖堂の最奥、教皇の私室の扉を静かに開けた。そこには氷の彫像ではなく、恐怖に震え、贅沢な寝椅子にしがみつく老人がいた。


鼻を突くのは、最高級の香香と、死を恐れる老人が縋り付く強い酒の、混ざり合った腐敗臭。


「ア、アガサ……。お前は追放されたはずだ! 警備兵はどうした!?」


教皇の叫びは、夜の静寂に虚しく吸い込まれる。


アガサは杖を振るう代わりに、懐から一通の書状――長年、彼女が治療してきた高官たちの『病歴』を記したカルテを取り出した。


掌に伝わるのは、長年人々の命を預かってきた、紙の重みとインクの乾いた感触。


「警備兵? 彼らは今、私が処方した『安眠の薬草茶』で深く眠っているわ。……魔法なんて使わなくても、人の体は、たった一杯の茶で御せるのよ」


プリシラが教皇の耳元でクスクスと笑い、彼の三重冠を指でつつく。


口の中に広がるのは、神聖な義務を全うしてきた自分が、裏切られた末に手にした、冷え切った薬の残り滓のような苦い味。


「この書状が公になれば、この街の清廉潔白なイメージは崩壊するわ。あなたが隠してきた『不治の病』も、不潔な情事の証拠も……すべてね」


視界に映るのは、魔法の力ではなく、たった一枚の紙切れによって、顔を土色に変えて崩れ落ちる「神の代理人」の情けない姿。


「お前……、聖女が、そんな……卑劣なことを……!」


「聖女は死んだわ。今ここにいるのは、あなたの体の隅々まで知り尽くし、いつ心臓を止めるべきかを知っている、一人の老いたプリーストよ」


胸の奥では、長年自分を縛っていた『慈愛』という呪いが、音を立てて崩れ去っていく。


「ひっ……! くるな、近寄るな! 誰か、誰かいないのか!」


教皇が金糸の施された法衣を振り乱し、後ずさりながら卓上の呼び鈴を掴む。


鼻腔を支配するのは、恐怖によって噴き出した脂汗の臭いと、暖炉で燃え盛る高級な薪が放つ、場違いなほど優雅な杉の香り。


「無駄よ。あなたの喉の震えも、指先の痙攣も……プリーストである私には、それがどれほどの絶望を示しているか、手に取るように分かるわ」


アガサは一歩、また一歩と、石床を杖で叩きながら歩み寄る。


その音は、死刑執行人が刻む秒読みのように正確だ。


掌に伝わるのは、古びた樫の杖が、教皇の放つ負の感情を吸い込んでいくような、重苦しくも確かな感触。


「あはは! 聖女様、見て! このおじいちゃん、冠を被る力も残ってないみたい。まるで首を吊るのを待ってる罪人だね!」


プリシラが教皇の頭上を旋回し、その鋭い爪で三重冠の真珠をチリリと弾く。


口の中に広がるのは、かつてこの男に「献身」を説かれた際に飲み込んだ、吐き気のするような泥の味――それが今、冷酷な勝利の美酒へと変わっていく瞬間。


視界に映るのは、あまりの恐怖に白目を剥き、豪華な椅子の上で震えが止まらない、権力の残骸。


「魔法? そんな贅沢なものは使わない。あなたは、あなたが長年蔑ろにしてきた『老い』と『病』によって、自ら崩壊していくのよ」


アガサは教皇の目の前で、彼が密かに服用していた心臓の薬の瓶を、ゆっくりと床に落とした。


パリンと砕ける音と共に、教皇の最後の希望が飛び散る。


胸の奥では、神に仕える者としての慈悲が、氷のように冷たく、しかし鋭利な「復讐」という名のメスへと研ぎ澄まされていた。


「あ……、あぁ……」


教皇の喉が喘ぐように鳴り、床に散らばった薬の粒へ、震える指先が這い進む。


鼻を突くのは、割れた薬瓶から漂う独特の苦い生薬の香りと、教皇が漏らした失禁の、鼻を刺すようなアンモニア臭。


「その薬がなければ、あなたの心臓はあと半刻も持たない。……でも安心なさい。私はプリースト。死なせはしないわ」


アガサは冷徹な眼差しで、這いつくばる老人の手の甲を、杖の先で静かに踏みつけた。


掌に伝わるのは、杖を通じて伝わってくる、権力者の脆い骨が軋む感触と、必死に生きようと足掻く心臓の、醜く不規則な鼓動。


「あはは! 聖女様、このおじいちゃん、死ぬより辛い目に遭ってるよ! 助けてほしいのに、助けてくれるのが『一番恨んでる相手』だなんて!」


プリシラが教皇の背中に降り立ち、耳元で残酷な真実を囁きかける。


口の中に広がるのは、他人の命を弄んできた男が、今度は自分の命を「一介の老婆」に預けざるを得ないという、皮肉に満ちた蜜の味。


視界では、教皇が涙と鼻水で顔を汚し、プライドの欠片もなくアガサの靴を舐めんばかりに許しを乞うている。


「……生きて、生き恥を晒し続けなさい。私が処方する『延命の呪い』の中でね」


アガサは、教皇の喉のツボを的確に突き、無理やり呼吸を安定させた。


魔法で消し去るのは簡単だが、それでは足りない。


プリーストとしての知識を使い、彼が最も恐れる「老い」と「無力」の中に、永遠に閉じ込めてやるのだ。


胸の奥では、かつて自分を聖女という檻に閉じ込めたこの街への、静かな、しかし決して消えない復讐の火が青く燃え上がっていた。


「ひ、ひぃ……たす、け……」


教皇の掠れた声が、広大な私室の天井に虚しく吸い込まれていく。

鼻腔を支配するのは、かつては「聖なる癒やし」と信じられていた薬草の香りが、今や死を先延ばしにするための「鎖」の臭いへと変貌した、重苦しい空気。


「助けてあげるわ。ただし、あなたの意思に関係なくね」


アガサは懐から、一房の枯れかけた薬草を取り出した。


それは彼女が長年、戦地や貧民街で見てきた、肉体を強制的に活動させる「劇薬」だった。


掌に伝わるのは、乾燥した葉が指先で砕け、プリーストとしての知識が『毒』へと反転していく際の、ゾクゾクとするような確かな手応え。


「あはは! 聖女様、このおじいちゃんの顔! 生き返ってるのに、死にたいって言ってるみたいだよ!」


プリシラが、教皇の引き攣った口角を揶揄するように指でなぞる。


口の中に広がるのは、他者の生命活動を完全に掌握した瞬間に込み上げる、冷え切った紅茶のような、淡白でいて鋭い背徳の味。


視界に映るのは、意識ははっきりしているのに、一指も動かせないまま玉座に固定された、生けるとなった教皇の姿。


「あなたは今日から、この国の『不滅の象徴』になるのよ。私の言葉に従って頷くだけの、豪華な飾り人形としてね」


アガサは教皇の喉に指を当て、声を出す筋肉だけを一時的に麻痺させた。


魔法で肉体を弄ぶのではない。神経の繋がりを、筋肉の反応を、プリーストとしての解剖学的な知見で完璧に支配したのだ。


胸の奥では、神の威光を傘に自分を使い潰した男が、今度は自分の「技術」の奴隷になったことへの、静かな、しかし深い充足感が渦巻いていた。


「……さて。これで舞台は整ったわ」


アガサは、指一本動かせなくなった教皇の横を通り過ぎ、部屋の大きな窓を覆う重厚なカーテンを乱暴に引き開けた。


鼻腔を突くのは、夜風と共に流れ込んできた、聖都の冷え切った石畳の匂いと、遠くで鳴り響く「平和」を象徴する偽りの鐘の音。


「あはは! 聖女様、見て! 下の広場には、まだ何も知らない子羊たちがたくさんいるよ! 明日の朝、このおじいちゃんが『引退』を発表するのを楽しみにしてるんだね!」


プリシラが窓枠に飛び乗り、眼下に広がる街の灯火を指さして、悪意に満ちた声を上げる。


掌に伝わるのは、窓の冷たい真鍮の取っ手越しに感じる、この街が積み上げてきた欺瞞の歴史そのもののような、鈍い重み。


口の中に広がるのは、長年、誰にも言えずに飲み込んできた「真実」という名の苦い毒が、ようやく甘い報復へと熟成された、芳醇な味。


視界の先では、教皇が動かない瞳だけを激しく左右に動かし、これから自分が公衆の面前で「操り人形」として晒される未来に、狂わんばかりの絶望を浮かべている。


「魔法で焼き払えば、あなたは殉教者になれる。けれど、私はプリースト。……あなたの尊厳を、生きたまま少しずつ、確実に『解剖』してあげるわ」


アガサは教皇の机から、聖都の印章が刻まれた白紙の羊皮紙を手に取り、迷いなくペンを走らせた。


魔法使いの杖ではなく、一介のプリーストが使う筆跡が、一国の歴史を塗り替え、かつての仲間たちを地獄へ叩き落とす「処方箋」を書き進めていく。


胸の奥では、義務感で動いていた心臓が、今はただ、目の前の男を完璧に破壊するためだけの、冷徹なリズムを刻んでいた。


「さあ、署名を。あなたの指は動かなくても、私の指があなたの神経を直接弾いて差し上げるわ」


アガサは教皇の震える右手を取り、その節くれ立った指に、権力の象徴である羽ペンを握らせた。


鼻を突くのは、高級な没食子もっしょくしインクの鉄臭さと、死への恐怖を無理やり抑え込まれた教皇が漏らす、混濁した吐息の臭い。


「あはは! 面白い! 聖女様が指を動かすたびに、おじいちゃんの腕が操り人形みたいにピクピク動いてるよ!」


プリシラがアガサの肩から身を乗り出し、教皇の顔を覗き込む。


そこにあるのは、自らの肉体を他人に「操作」される屈辱に、涙さえ流せない男の絶望。


掌に伝わるのは、麻痺させた筋肉が、アガサの緻密な圧力に従って無理やり動かされる際の、グギリとした不自然な抵抗感。


口の中に広がるのは、プリーストとして学んできた「リハビリテーション」の技術を、真逆の「支配」に転用する、歪んだ悦楽の味。


視界では、羊皮紙の上に「勇者ガイル一行の追放」と「全ての権限を聖女アガサへ委任する」という、偽りの、しかし絶対的な命令が綴られていく。


「魔法なら抵抗もできたでしょうに。でも、これはただの肉体の反射……あなたの意志なんて、もうこの体には届かないのよ」


アガサの指先が、教皇の手首のツボを鋭く突く。


最後の一筆が、まるで教皇自身の決意であるかのように、力強く羊皮紙を飾った。


胸の奥では、かつてこの手で救ってきた数多の患者たちの記録が、今、目の前の敵を社会的に抹殺するための精密な武器へと書き換えられていた。


「これでよし。……ふふ、見てなさい。あなたが積み上げたこの美しい都が、あなたのその『手』によって瓦解していく様を」


アガサは完成した委任状を教皇の目の前に掲げ、ゆっくりと、しかし残酷に、その文字を読ませた。


鼻を突くのは、部屋の隅で燃え尽きようとしている蝋燭の芯が放つ、焦げ付いた死の臭いと、夜が明ける直前の冷え切った大気の匂い。


「あはは! 聖女様、このおじいちゃん、目が真っ赤だよ! 叫びたいのに喉が動かないなんて、まるで自分で自分の首を絞めてるみたい!」


プリシラが教皇の首筋を冷たい指でなぞると、男の喉仏がヒクヒクと、無意味な痙攣を繰り返す。


掌に伝わるのは、もはや権力の欠片も感じられない、ただの肉の塊と化した教皇の腕の、力ない弛緩した感触。


口の中に広がるのは、長年この街に尽くし、清廉潔白を演じ続けてきた日々が、今この瞬間の「愉悦」のためにあったのだと確信させる、極上の毒の味。


視界の先、東の空が白み始め、聖都の美しい輪郭が闇の中から浮かび上がる。


それはもう、アガサを守る盾ではなく、彼女が解体すべき巨大な「患者」でしかなかった。


「夜が明けるわ。……さあ、最高の『引退会見』の準備をしましょうか。一介のプリーストが、いかに慈悲深く、あなたの最後を看取ってあげるかをね」


アガサは教皇の乱れた襟元を優しく整え、かつての聖女のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


その瞳の奥には、狂気すら孕んだ、底知れぬ静寂が横たわっている。


胸の奥では、義務という名の鎖が千切れ飛び、誰にも縛られない「自由な老婆」としての鼓動が、かつてないほど力強く響いていた。


「さあ、行きましょうか。この街が信じてやまない『完璧な秩序』に、最後の一撃を添えるために」


アガサは玉座の影に座り込む教皇を一瞥し、重厚な扉へと歩き出した。


鼻を突くのは、夜明けの冷気が運んできた朝露の匂いと、大聖堂の地下から立ち上る古い石造り特有の、埃っぽい死の臭い。


「あはは! 聖女様、みんな待ってるよ! 『聖女様が僕たちを救ってくれる』って信じてる、哀れな子羊たちがさ!」


プリシラがアガサの影に潜り込み、耳元でクスクスと不吉な笑い声を響かせる。


掌に伝わるのは、冷たく硬い大聖堂の扉の取っ手越しに感じる、外側に詰めかけた何千という信徒たちの、熱狂的で盲目な期待の振動。


口の中に広がるのは、これから始まる壮大な「茶番」への期待感と、自分を使い捨てた世界を内側から崩壊させる、冷え切ったミントのような清涼な復讐の味。


視界の先、左右に開かれた大扉の向こう側には、昇り始めた太陽の光が溢れ、純白の聖女(偶像)の帰還を待ちわびる群衆が、地平線まで埋め尽くしていた。


「……これからは、神の言葉ではなく、私の『処方箋』がこの世のことわりよ」


アガサは眩い光の中に一歩を踏み出し、かつてないほど清らかな、そして底知れぬ悪意を秘めた微笑みを浮かべた。


胸の奥では、救済を説いていた心臓が、今はただ、目の前の愚かな群衆と裏切り者たちを、一滴の魔力も使わず「言葉と知識」だけで支配するための、冷徹なリズムを刻み始めていた。

第5話をお読みいただき、ありがとうございました。

教皇を殺すのではなく、意識を残したまま自分の肉体の主権を奪い、操り人形に変える。

アガサがプリーストとして積み上げてきた「救済の技術」は、今や最も効率的で残酷な「支配の技術」へと反転しました。

逃げ場のない絶望の中で、自らの手で自らの権威を壊していく教皇。

そして、朝日を浴びて「聖女」として微笑みながら、その裏で全てを掌握する老婆。

物語は、一個人の復讐を超え、国家そのものを「処方」する段階へと進みます。

この知略と執念による転覆劇を面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価、感想などで応援いただけますと大変励みになります。

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