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ハザマの世界  作者: 柴崎菖蒲
【第2章 初・依頼編】

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第7話 雅な御方


私を縛っていた縄は燃え尽き、手足が動かせる状態になる。

反対に、扇子を持っていた人は炎が衣着に移り、気付けば燃え広がっていた。




「なんだこれは! まさか、我が術を失敗するなど有り得ん!」




その人は扇子を横に振り切ると、炎は息を吹きかけたように消え去る。

前に立っていたその人が息を切らしながら、ゆらりとこちらを見上げた。


その目に、私は咄嗟に動けない。

とてつもない殺気を向けられている。


だが、それは私の背後にいた人も同じようだった。




「これはどういうことなのだ。我はお前に死者を連れて来いと言ったぞ!」




私は咄嗟に振り返る。そこには、驚いたようにこちらを見る彼と目が合った。


どちらも意味が分からず突っ立っていた。

そんな私たちに、扇子が向けられる。


そのとき、「やっべ」という声が、後ろからこぼれたように聞こえた。

気付いたときには遅く、彼は瞬く間に吹き飛ばされる。






突風だ。






境内に風が吹き抜け、彼は鳥居の柱に打ち付けられていた。

咄嗟に振り返った私も遅かった。遠慮のない風に巻き込まれ、手水舎の方へと飛ばされる。






でも、そんなときに。誰かの手が、肩に乗せられたような気がした。






「誰であろうか。部外者は入らぬ方が身のためだぞ」







私は、自分のことを抱え、静かに地面におろす人物に気付いて顔を上げる。

見上げた先には、見知った人物が立っていた。




「本当に部外者だと思うか? こんな面倒な結界に、用もなく入りたい奴はいないだろ」




黒布を被った管理者さんが、すぐそばに立っている。

私が思わず見つめていると、管理者さんは後ろ手で私に合図をした。


どうやら離れた方が良いようで、私は手水舎の奥へと移動する。

それにしても、猛スピードで連れて行かれた私を、すぐに見つけだすなんて。




「……ほう? そうか、お主もしや、同業の者であるな?」


「生憎とそうだな。それより、お前は自分が規則を破っていることを分かっているのか」


「ふふ、規則のことを申すか。こちらは“あの方”のもとに付く者ぞ。他言すればどうなるか、分かっておろうな?」




扇子を軽く仰ぎながら管理者さんを見るその目は、いかにも人を見下す目をしていた。


彼の言うあの方は分からないけれど、お偉い人なのかもしれない。


だけど管理者さんは、一切の動揺を見せることはなく、彼から目を離すこともなかった。




「喧嘩を売るのなら、こちらも遠慮なく買わせてもらう」




管理者さんがパチンと手を叩くと、ガラスの砕けるような音が境内を響かせた。

目には見えないが何かが起こっているようで、周辺にいた鴉たちが、一斉に空へと飛び出していく。


管理者さんの前に立つ彼はあんぐりと口を開けていた。ただ、そんな暇はなく彼は一直線に飛ばされ、賽銭箱に激突する。


砂埃が舞うなかに、ぐったりと横たうその人は、先程までおしとやかに立っていた人だ。


管理者さんは蹴り上げた足を何事もなかったように降ろした。カツンと、心地の良い靴音が響く。




「大丈夫か、お前。防御くらいは出来ると思ったんだが」




横で見ていた私も唖然としてしまった。

心配するにしても、一切容赦がないと思うんですが。


顔色ひとつ変わってないし。

管理者さんが圧倒的に強すぎて、これでは飛ばされた人が可哀想だ。




「《生の世界》で担当区域を守護する者、死者を従者にしてはならない。この規則を破っているのがお前なんだが、俺は的外れなことを言っているか?」


「同業の者と、はっ……規格が……」


「話を逸らさないでほしいんだが」




管理者さんの状況把握が早いだけで、たぶん普通なら喋れないほど痛いと思う。


そんなときに、管理者さんの後ろから軽い身のこなしで駆ける姿が。


持ち構えられたそれが刃物の類いだと分かったとき、私は咄嗟に声を上げていた。




「管理者さん後ろ!」




私の言葉のすぐあとに、刃物の当たる音が鳴り響く。


刃物を持って襲ったのは、私を攫ったその人だった。

不意打ちができず、彼は後方へと下がる。




「急に邪魔しやがって! そいつさえうまく燃えていたら、俺はっ……!」




鋭い眼光で離れていた私をキッと睨むと、彼は胸元から札のようなものを取り出し、管理者さんへと掲げた。


管理者さんはそれを見てか、彼に銃口を向ける。その様子を見て、札を出した彼はにやりと笑ってみせた。




「なあ、あんたほど強い奴なら、ここに封印された姉貴を救ってくれるだろ?」




その札が、地面へと強く打ち付けられる。

すると黒い煙が、モクモクと溢れ出てきた。


見えたのは、黒い影だった。

だらりとした手足に、髪の長い人が立っている。


その人が、着物姿へ、また女性の姿見に変わっていく。でも、普通の人じゃなかった。




「ナカマニイレテェ……」




酷い悪臭と強い殺気。


それが、ゆらりと私の方を見る。


ぞわりと悪寒が走った。だめだ。今すぐ逃げないと。




「マズハコッチ」




私は咄嗟に避けた。

背後を見遣れば、手水舎が粉々に粉砕している。


そのとき、ぐっと腰の辺りを掴まれる。

物凄い速さで移動して、ぴたりと止まった。


私を抱えて運んだのは、管理者さんだった。




「菫は気を失っているこいつの後ろにいろ。これでも防御にはなる」


「蹴飛ばした人を盾にするんですか!?」


「今は自分の身のことだけを考えろ。あれが、今回の依頼対象だ」




私を地面におろして、管理者さんは銃を手に持ち構えている。

目の前を見ると、こちらを振り返っている女性が、にたりと笑っていた。


一方で、札を地面に叩きつけた彼は、石畳の上で倒れている。

どうやら、今この場で気を保てているのは、私と管理者さんの2人だけのようだった。




「菫」


「……は、はい!」


「お前はしっかり、見ておくように」




そう言って、管理者さんの姿が消える代わりに、靴底が軽快に鳴り響いた。

黒布がふわりと舞い上がり、風に飛ばされ、空の彼方へと飛んでいく。


すでに管理者さんは境内中央にいて、左手で銃を持っていた。

反対に、右手は後ろに隠して札を持っている。


確か、彼の利き手は右手だったはず。




スパンッ。




管理者さんの手から離れた銃は、真っ二つに折れた。

女性が真っ先に銃を潰したみたいだ。


でも、それは罠でしかないもの。


背後に回った管理者さんは、隠していた右手の札を、女性の背中に貼り付けた。




「……在るべき場所へ還れ」




管理者さんの言葉に、女性はすうっと札に吸い込まれていく。

その札は、女性を吸い込んだ途端ぼうっと火が燃え盛り、焼き切れるように消えていった。


灰が頭上高くに昇っていくところを、管理者さんはじっと見上げ、息を吐き出す。




「依頼完了。やっと終わった」




空は徐々に薄明るくなっていた。先ほど飛んで行った鴉の声が、遠くから聞こえ始める。


管理者さんはこちらへと振り返ると、境内中央に立ったまま、腕組みをして私のことをじっと見ていた。


私は静かに目を逸らした。

これから、怒られる気だけがしてならない。




「おい。目を逸らすな。こっちを見ろ」




気付いたときには、私が盾にしていた人を踏ん付ける管理者さんに、両頬を摘むように掴まれていた。




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