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第八話 3分で終わるクエスト

「さて、と」

宿屋を出た俺は、街の外にある平原へと向かった。

目的は二つ。

ギルドで受けた「薬草採取」の達成と、手っ取り早く現金を稼ぐことだ。


「薬草採取か。昔は一日中歩き回って、やっと規定量が見つかるくらいだったけど……」


今の俺のステータスは、全てが5000を超えている。

それは「視力」や「動体視力」、そして「索敵能力」も例外じゃない。

俺は平原を見渡した。


(……あった)


100メートル先の草むらの中に、目的の薬草が光って見える。

いや、あっちにも。そっちにも。


「よし」


俺は地面を蹴った。

シュバッ!

風になる。

全速力ではない。ほんの少し、ジョギング程度のつもりだ。

それでも、景色が後ろへすっ飛んでいく。


「はい、確保。次、確保」


俺は通りすがりに薬草をむしり取っていく。

Fランク冒険者が一日かけて行う作業が、ものの数分で終わってしまった。


「こんなもんか。あとは……」


その時だった。


「ブモオオオオオオオ!!!」


地面を揺らすような咆哮ほうこうと共に、巨大ないのししが突進してきた。

Cランクモンスター「マッドボア」。

鋼のように硬い毛皮と、岩をも砕く突進力を持つ、初心者殺しの魔物だ。


「お、ちょうどいいところに」


普通のFランク冒険者なら、悲鳴を上げて逃げ出すところだ。

だが、今の俺には……


「晩飯と、宿代になってもらおうか」


俺は突進してくるマッドボアを避けもせず、正面から待ち構えた。

そして、鼻先にデコピンをするような感覚で、軽く手刀しゅとうを振り下ろす。


スパッ


「ブヒッ!?」


鈍い音がして、マッドボアの巨体が沈んだ。

一撃必殺。

首の骨をきれいに折ってあるから、素材としての価値も下がらない(はずだ)。


「よし、これなら高く売れるだろ」


俺は巨大な猪を軽々と担ぎ上げると、来た道を引き返した。

所要時間、わずか10分。

まさに「朝飯前」の仕事だった。


「おい見ろよ、さっきの新人だぞ」


「もう帰ってきたのか? 怖気づいて逃げ帰ってきたんじゃねえか?」


ギルドに戻ると、またガラの悪い冒険者たちがニヤニヤと俺を見ていた。

俺は無視して、カウンターへ向かう。


「すみません、依頼完了しました。あと、買い取りお願いします」


「えっ? も、もうですか?」


受付嬢さんが目を丸くする。

俺は背負っていた麻袋から薬草の束と、担いでいたマッドボアをカウンターの横に「ドサッ」と置いた。


「なっ!?」


ギルド内が静まり返った。

そこに転がっているのは、傷一つない綺麗な状態のCランクモンスター、マッドボア。


「お、おい……あれ、マッドボアじゃねえか!?」


「ソロで倒したのか!? しかも無傷で!?」  


ざわめきが広がる。


(やばい、ちょっと派手にやりすぎたか?)


俺は慌てて言い訳を考えた。


「あー、いや、運が良かったんです」


「運、ですか?」


「はい。こいつ、猛スピードで走ってきて、勝手に木に激突して死んだんですよ。俺はそれを拾ってきただけで」


「は、はぁ……木に激突して……?」


受付嬢さんは疑わしそうな顔をしたが、マッドボアの体には確かに剣傷も魔法のあともない。あるのは首の骨折だけだ。


「木に激突して首が折れた」と言われれば、そう見えなくもない……か?


「けっ、なんだよ。ビギナーズラックかよ」


おどかせやがって。たまたま死体を拾っただけか、運のいい奴だ」


周りの冒険者たちは、勝手に納得してくれたようだ。


「Fランクの雑魚が強いわけがない」という思い込みが、俺の正体を隠すいい煙幕えんまくになってくれている。


「……わかりました。素材の買い取りと、依頼達成報酬。合わせて銀貨10枚になります」


「ありがとうございます」


俺は金を受け取ると、逃げるようにギルドを出た。

銀貨10枚。これならしばらく宿代には困らないし、ルナにうまい飯も食わせてやれる。


「待ってろよ、ルナ」


俺は屋台で温かいスープとサンドイッチを買い込むと、彼女が待つ「木漏れ日亭」へと急いだ。

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