第七話 崩壊の始まり
一方、その頃。
カイを追放した勇者パーティーは、次のダンジョンを目指し、森の中で野営をしていた。
パチパチと焚き火が爆ぜる音が響く。
だが、その場の空気は最悪としか言いようがなかった。
「……なんなの、これ」
魔術師のリリアナが、手に持った干し肉を忌ましそうに睨みつけた。
「食事がこれだけ!? 硬くてマズい干し肉と、生ぬるい水だけ!? どういうつもり!?」
「あぁん? 文句があるならてめえが作れや!」
剣士のガレスが、イライラした様子で怒鳴り返す。
「カイがいた頃は……あいつが狩った新鮮な肉で、いつも温かいシチューを作ってくれたわ! 野菜もちゃんと入ってた!」
「うるせえな! 俺は料理なんて知るか! それより問題は素材の解体だ!」
ガレスは、足元に転がっている魔物の死骸を蹴飛ばした。
「俺がやったら、素材がズタズタになっちまってよ! ギルドに持っていったら『こんなクズ肉、買い取れねえ』って買い叩かれただろうが!」
今までは、カイがいた。
どれだけ激しい戦闘の後でも、カイが黙々と完璧に魔物を解体し、血抜きし、丁寧に保存処理までしていた。
だから、彼らは常に最高額の報酬を得ていたのだ。
「あ、あの……」
聖女のセラが、おずおずと声を上げた。
「テントがうまく張れません……。風で倒れてしまって……。それに、今夜の見張りの順番も……」
カイは、こういう雑務をすべて、文句一つ言わずに引き受けていた。
野営地の設営、索敵、見張り当番の管理、朝食の準備……。
「「「…………」」」
全員が、いかにカイに頼り切っていたかを、今さらになって痛感していた。
「黙れ!!!」
その沈黙を破ったのは、勇者アレクサンダーだった。
「雑用係が一人消えたくらいで、ガタガタ抜かすな! あんなレベル1の寄生虫、いなくなってせいせいしただろうが!」
アレクサンダーは強がるように叫ぶ。
だが、彼もまた、内心では焦っていた。
(おかしい……)
カイの「索敵」がなくなってから、魔物の奇襲を受ける回数が明らかに増えている。
そのせいで、パーティーは無駄に消耗していた。
「足手まといがいなくなって、むしろ効率が落ちてるじゃない! どうしてくれるのよ、アレク!」
「あ? それはてめえの魔法の威力が、なんか最近落ちてるせいじゃねえのか? リリアナ」
ガレスが、リリアナを睨みつける。
「なんですって!? 私のせいだっていうの!?」
「違えねえだろ! さっきの戦闘でも、オークの一匹も仕留めきれてなかったぜ!」
「そ、それは……!」
リリアナも気づいていた。
レベルは上がっているはずなのに、なぜか魔法の威力が以前より落ちている気がする。
「全員、黙れ!!!」
アレクサンダーが、剣の柄で地面を叩きつける。
「いいから進むぞ! 次のダンジョンを攻略すれば、あいつ(カイ)がいなくても俺たちだけでやれると証明できる!」
彼らは、まだ気づいていない。
カイの【神寵】スキルには、「周囲の仲間のレベルが上がりすぎる(=神々の寵愛を失う)のを防ぐ」という隠れた効果があったことを。
カイという「重し」を失った勇者パーティーが、レベルアップするたびに「神々の寵愛」を急速に失い、取り返しのつかない弱体化の道を歩み始めていることに、まだ気づいていなかった。
他にも転生したら魔女狩りの世界だった件。嫌なので全力で抗います〜絶望少女と魔王達〜という作品を書いています。
ダーク寄りの異世界ファンタジーがお好きな方はぜひ




