第六話 不幸を呼ぶスキル
俺はルナを連れて、街で一番安い宿屋「木漏れ日亭」のドアを叩いた。
追放されたばかりで、まともな金は持っていない。
「……一部屋、お願いします」
「あいよ。一泊、銅貨5枚ね。前払いで」
無愛想な宿の主人に、なけなしの銅貨を渡す。
これで財布はほぼ空っぽだ。
案内されたのは、屋根裏の小さな部屋
ギシギシと音が鳴るベッドが一つあるだけだ。
「……汚い部屋ですみません。でも、もう大丈夫ですよ」
ルナは部屋の隅で小さくうずくまったまま、俺を怯えた目で見ている。
ボロボロの服から覗く肌は、痛々しいアザだらけだった。
「じっとしてて。薬を塗る」
俺は、宿に来る途中で薬屋に寄り、有り金をはたいて買った一番安い「回復軟膏」を取り出した。
「ひっ!」
俺が手を伸ばすと、ルナは「殴られる」と思ったのか、ビクッと体を震わせ、ぎゅっと目をつぶった。
「……殴らないよ」
俺はできるだけ優しい声で、軟膏を指に取り、ルナの腕のアザにそっと塗っていく。
「…………」
ルナは、殴られないこと、そして優しく手当てをされていることが信じられないのか、ただ黙って俺の手つきを見ている。
「あの……」
しばらくして、ルナが口を開いた。
「どうして……私なんかを助けるんですか?」
「……」
「私と関わったら、カイさんも不幸になる。私のスキルは【不幸招来】なんです」
「不幸招来?」
「はい……。私の近くにいると、なぜか悪いことばかりが起きるんです。買った食べ物がすぐに腐ったり、道で転んで大怪我したり、商売が失敗したり……」
ルナはうつむき、服の裾を強く握りしめた。
「だから……村からも『疫病神』って追い出されて、奴隷商人に売られて……。あの男(さっきの男)も、私を持ってからロクなことがないって、いつも私を殴って……」
なるほど。
「不幸を呼ぶスキル」か。
それは確かに、周りから気味悪がられるだろうな。
「カイさんも、早く私を捨てないと……ほら、きっともう……」
ルナがそう言った、まさにその時だった。
ゴゴゴゴゴ……!
「え?」
宿屋の天井が、不吉な音を立てて揺れ始めた。
ガタッ! ドンッ!!
「うそっ!?」
俺たちの真上、屋根裏部屋の天井が……崩れた。
木材や瓦礫が、ルナの頭上めがけて一斉に落ちてくる!
「あ……! やっぱり! ごめんなさい!」
ルナは死を覚悟したのか、再び目をつぶった。
「――っ!」
俺はルナの前に立ち、腕を上にかざす。
ズガガガガガッ!!!
落ちてきた瓦礫のすべてが、俺の右腕一本に受け止められていた。
「(あっぶな……! ステータス5000じゃなかったら、二人ともペシャンコだったぞ、これ!)」
冷や汗が背中を伝う。
【不幸招来】、恐るべし。
「…………あれ?」
ルナが、恐る恐る目を開けた。
そして、目の前の光景に、ぽかんと口を開けて固まっている。
(そりゃそうだ。自分の頭上に落ちてきた天井を、男が片手で止めてるんだから)
「え? え? なんで……?」
「……いやあ」
俺は冷や汗を拭いながら、何でもないフリをして言った。
「どうやら、君のスキルのせいじゃなくて、ただのボロ宿だったみたいだ。運が悪かったな」
俺は受け止めた瓦礫を、そのまま「エイッ」と横に投げ捨てた。
(もちろん、力加減は最大限にした)
「え? あ……でも……」
自分の「呪い」が(物理的に)効かなかったという初めての経験に、ルナはまだ混乱している。
「(マズい、また目立っちまった……)そ、それより腹が減ったな! 薬草採取の依頼もまだだし、何かサッと稼いで食い物を買ってくる。ここで待っててくれ」
俺はそう言い残し、バツが悪い思いで部屋を飛び出した。
一人残されたルナは、俺が投げ捨てた瓦礫の山と、天井に開いた大穴を、ただ呆然と見つめていた。




