第3話 レベル、マイナス50
あれから、どれくらい時間が経っただろうか。
俺は夢中で、森の魔物を狩り続けていた。
ベチャッ!
「ふぅ……」
木の枝でスライムを叩き潰す。
もう何匹目か分からない。
最初はあんなに怖かったスライムが、今ではただの経験値にしか見えない。
ピコンッ。
『【神寵】が発動。経験値を取得しました』
『レベルが -50 になりました』
『神々の寵愛により、全ステータスがさらに 100 上昇します』
「……ついにマイナス50か」
俺は自分のステータス画面を開き、そこに表示された数字を見て、改めてゴクリと唾を飲んだ。
【カイ】
レベル: -50
スキル: 【神寵】
筋力: 5000
魔力: 5000
防御: 5000
素早さ: 5000
「ステータス、オール5000……」
スライムを50匹倒しただけだ。
それだけで、こんなとんでもない数値になってしまった。
確か、勇者アレクサンダーのレベルは55。
彼のステータスで一番高かった「筋力」でも、せいぜい400か500くらいだったはずだ。
「……軽く10倍以上あるぞ、これ」
自分がどれだけヤバい力を手に入れたのか。
その事実に、喜びよりも先に戸惑いが来る。
ザワッ…
その時、森の奥から、明らかにスライムとは違う、重い気配が近づいてきた。
俺が強くなったことで、逆に俺の気配に最弱の魔物たちが怯え、一斉に逃げ出し始めたのだ。
「あれ、もう経験値稼ぎも終わりか?」
そう思った矢先。
ズシンッ! ズシンッ!
地面が揺れるような、重い足音が近づいてくる。
「な、なんだ!?」
木々をなぎ倒しながら現れたのは、身長3メートルはあろうかという巨大な影。
緑色の肌、鋭い牙、そして手には丸太のような巨大な棍棒。
「Bランクモンスター……オーガキング!?」
最悪だ。
あれは、かつて俺たちがいた勇者パーティー(レベル50台)が、全員でかかっても倒しきれず、リリアナの最強魔法でなんとか撃退した強敵だ。
「なんでこんな浅い森に……!」
俺は本能的な恐怖で、すぐに逃げ出そうとした。
レベル1の頃の感覚が、全身に「逃げろ!」と叫んでいる。
「グオオオオオオ!!!」
オーガキングが俺を見つけ、獲物だと認識したのか、巨大な棍棒を頭上に振りかぶった!
「うわあああっ!」
間に合わない!
俺は(レベル1の頃のクセで)とっさに両腕をクロスさせ、頭を守る体勢をとった。
次の瞬間、オーガキングの棍棒が、俺の腕めがけて振り下ろされる!
ゴギャンッ!!
凄まじい衝撃音。
しかし、俺の体に痛みはなかった。
「……え?」
俺は恐る恐る目を開ける。
俺は、無傷だった。
「グギャ!?」
驚いたのは、俺よりもオーガキングの方だった。
見ると、オーガキングが持っていた巨大な棍棒が……
俺の腕に当たった場所から、粉々(こなごな)に砕け散って(くだけちって)いた。
(うそだろ……俺の防御力、5000……)
オーガキングは、自慢の武器が壊れたことに動揺し、一瞬動きを止めた。
「…………」
俺は、自分の腕を見つめる。
そして、目の前で怯えているオーガキングを見つめる。
(もしかして……いけるのか?)
試してみるしかない。
俺は、おそるおそる、右手の拳を握りしめた。
そして、オーガキングの分厚い腹に向かって、力を込めて……パンチを繰り出した。
ドゴォォォォン!!!
「あっ」
パンチが当たった瞬間、オーガキングの巨体が「く」の字に折れ曲がった。
いや、それだけじゃなかった。
オーガキングは、まるで大砲の弾のように吹き飛ばされ、森の木々を何本も、何十本もなぎ倒しながら、空の彼方へ。
最後は、小さく「キラーン」と光って、星になった。
「…………」
俺は、自分が突き出した拳を見つめたまま、その場に立ち尽くした。
森には、静けさが戻っていた。
「…………や、やりすぎた」
Bランクモンスターを、ワンパン。
しかも、殴った相手が星になるなんて、漫画みたいな展開だ。
(こんな力……絶対にバレちゃダメだ)
俺は、勇者パーティーでの日々を思い出す。
目立つとロクなことがない。
俺は、あいつらみたいに「勇者」だ「英雄」だともてはやされたいわけじゃない。
(そうだ、この力は隠そう。絶対に隠して……静かに、平穏に暮らしたい)
俺は強く決意した。
ひとまず、この森を抜けて、一番近い街のギルドに行こう。
力を隠して、目立たず、普通の冒険者として……いや、冒険者じゃなくてもいい。
街の片隅で、スローライフを送るんだ。
俺は、オーガキングが飛んでいった空とは逆の方向へ、ゆっくりと歩き出した。




