第二話 レベル・リバース
パーティーを追放された俺は、あてもなく森の中を歩いていた。
「……これから、どうしよう」
もう日は傾き始めている。
野営の準備なら得意だが、荷物は全部置いてきてしまった。
食料も、水も、寝袋も、テントもない。
もちろん、武器もない。
俺はもともと戦闘要員じゃなかったからだ。
(このままじゃ、夜になったら魔物に食われて終わりか……)
そう思った、まさにその時だった。
ぷるんっ
目の前の茂みが揺れ、半透明の青いスライムが飛び出してきた。
この森で一番弱いとされる、最弱モンスターだ。
だが、今の俺にとっては脅威だ。
「うわっ!?」
俺は慌てて後ずさる。
スライムは、そんな俺を獲物だと思ったのか、ゆっくりと(本当にゆっくりと)近づいてくる。
(逃げるか? いや、逃げ切れるか?)
俺は戦闘訓練なんて受けていない。
でも、このままじゃジリ貧だ。
「……やるしかない!」
俺は足元に転がっていた、手頃な大きさの石を拾い上げた。
そして、スライムに向かって思い切り投げつける!
ベチャッ!
石はスライムの核に直撃した。
スライムは数回ぷるぷると震えた後、光の粒になって消えていった。
「……倒せた」
ホッと息をついた、その瞬間。
ピコンッ。
俺の頭の中に、今まで一度も聞いたことのない無機質な声が響いた。
『【神寵】が発動。経験値を取得しました』
『レベルが -1 になりました』
『神々の寵愛により、全ステータス(筋力・魔力・防御力・素早さ)が 100 上昇します』
「…………え?」
俺はぽかんと口を開けた。
(今、なんて言った?)
レベルが……マイナス1?
マイナスってなんだ?
レベルが上がるんじゃなくて?
それに、ステータスが100上昇?
意味が分からない。
俺のスキルは【レベル固定】じゃなかったのか?
ぷるんっ
「あ、また出た!」
考えている間に、別のスライムが茂みから現れた。
さっきより少し大きい。
俺はゴクリと唾を飲む。
もう一度だ。もう一度、確かめないといけない。
「えいっ!」
今度は、近くに落ちていた木の枝を拾い、思い切りスライムを叩く!
ベチャッ!
一撃だった。
さっきは石を投げてギリギリだったのに、今度は木の枝の一撃でスライムが消滅した。
そして、再びあの声が響く。
『【神寵】が発動。経験値を取得しました』
『レベルが -2 になりました』
『神々の寵愛により、全ステータスがさらに 100 上昇します』
「ええええええええええ!?」
俺は森の中に響き渡るような大声で叫んだ。
レベルが、また下がった!
そして、ステータスがまた上がった!
(そういうことか……!)
俺のスキルは、【レベル固定】なんかじゃなかった。
経験値を得ると、レベルが「上がる」んじゃなくて「下がる」スキルだったんだ!
そして、レベルが下がれば下がるほど、全ステータスが爆発的に強くなる!
それが、俺のスキル【神寵】の本当の能力……
【レベル・リバース(反転)】だったんだ!
「はは……はははは!」
俺は乾いた笑いを漏らした。
今まで「バグ」だ「寄生虫」だと馬鹿にされてきた。
レベル1から動かない俺を見て、勇者たちはいつもあざ笑っていた。
でも、それは全部間違いだった。
俺はレベルが上がってなかったんじゃない。
パーティーにいたせいで、経験値が分散されて、レベルが「下がりきってなかった」だけだ。
俺はニヤリと笑う。
目の前には、ちょうど3匹目のスライムが「ぷるん」と現れたところだった。
「……さてと」
今までとは違う。
それはもう、ただの最弱モンスターじゃない。
俺にとって、最高の「経験値」に見えていた。
「狩りの時間だ」




