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第十五話 世界に嫌われた少女

「それじゃ、解析を始めるよ。ルナちゃん、そこの台に座って」


研究所の奥にある部屋。

レインは、ルナを魔導回路が刻まれた椅子に座らせると、巨大な眼鏡のような装置を装着した。


「痛くはないからね。ただ、君を取り巻く『魔力の流れ』を見るだけだ」


レインがスイッチを入れると、部屋中の計器がチカチカと光り始めた。


「……ふむ」


レインの表情が、変人から科学者のそれに変わる。

モニターに表示される波形を見ながら、彼は独り言のようにつぶやき始めた。


「おかしいな……。通常、『呪い』というのは、術者が対象に魔力を絡みつかせて発動するものだ。でも、彼女には『外部からの魔力干渉』が一切ない」


「え? じゃあ、呪いじゃないってことか?」


カイが尋ねると、レインは首をかしげた。


「いや、現象としては起きている。……見てごらん、これ」


レインが指差したモニターには、ルナを中心にして、周囲の空間の数値が真っ赤に染まっているグラフが表示されていた。


「彼女自身の魔力じゃない。『世界そのもの』が、彼女を排除しようと動いているように見える」


「世界が……排除?」


「ああ。例えるなら、彼女は『異物』だ。人間の体がウイルスを追い出そうと熱を出すように、この世界システムが、ルナちゃんという存在をエラーと認識して、全力で消しにかかっている」


レインは、ぞっとするような仮説を口にした。


「看板が落ちてくるのも、橋が崩れるのも、偶然じゃない。『世界』が、確率を操作して彼女を殺そうとしているんだ」


ルナの顔が青ざめる。

「世界に殺されそうになっている」なんて言われて、平気なはずがない。


「……なんで、そんなことになってるんだ?」

「分からない。彼女の魂に、『この世界の管理者が気に入らない何か』が混ざっているのかもしれないね」


レインは興味深そうにルナを見たが、すぐに溜息をついて装置を止めた。


「結論から言うと、これは魔法や薬で『治療』できるものじゃない。世界のシステムそのものが敵なんだからね」


「そんな……じゃあ、私は一生このまま……」


ルナが絶望に目を潤ませる。


「でも、『誤魔化す』ことならできるかもしれない」


レインはニヤリと笑い、作業机の引き出しをあさり始めた。


「僕が昔、『鑑定水晶』の仕組みをハッキング……じゃなくて研究していた時に作った試作品だ。これをつけてみて」


彼が取り出したのは、銀色のチョーカー(首輪)だった。


中央に、小さな赤い宝石が埋め込まれている。


「これは『認識阻害ジャミング』のアーティファクトだ。これを着けている間は、君の魂から発せられる『エラー信号』を偽装して、世界システムの目をあざむくことができる」


ルナがおずおずとチョーカーを首につける。

すると、不思議なことに、先ほどまで部屋の隅でガタガタと揺れていた棚が、ピタリと静まった。


「……すごい。空気が、軽くなった気がします」


「成功だね! まあ、完全に排除できるわけじゃないけど、『橋が落ちる』レベルの不運は防げるはずだ」


「ありがとうございます、レインさん……!」


ルナが涙ぐんで礼を言う。

レインは照れくさそうに鼻をこすった。


「礼には及ばないよ。君みたいな面白いサンプル……いや、友人の頼みだからね」


レインはちらりとカイを見た。

そして、声を潜めて言った。


「……カイ君。ついでに君も解析しようとしたんだけどね」


「ん? 俺もか?」


「ああ。でも、測定不能エラーだったよ。君の力は……なんていうか、『この世界のルールブックを書いた奴』と同じ匂いがする」


レインは冗談めかして言ったが、その目は笑っていなかった。


「気をつけてね。君たちの存在は、この几帳面きちょうめんで潔癖症な世界にとって、相当な『目の上のたんこぶ』みたいだからさ」


こうして、ルナは「認識阻害のチョーカー」を手に入れ、ひとまずの平穏を得た。

だが、レインの言葉は、これから始まる過酷な運命――世界そのものとの戦い――を予感させるものだった。

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