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第十三話 ゴミ屋敷の賢者


街外れの森の奥。

地図に記された場所には、ツタに覆われた古びた塔がそびえ立っていた。


「ここが……賢者の研究所?」


「みたいだな。……というか、これじゃお化け屋敷だな」


塔の周りは雑草が生い茂り、怪しげな紫色の煙が煙突から漂っている。

入口の門には「猛犬キメラ注意」「無断侵入者は実験体にします」という物騒な看板。


「こ、怖いです……。帰りたいです……」


ルナが俺の背中に隠れて震えている。


「大丈夫だって。ただのおどし文句だよ」


俺はそう言って、錆びついた鉄の門に手をかけた。


「ごめんくださーい!」


ギィィィ……

門を開けようとした、その時だった。


「あ……!」


ルナが足元の小石につまずいた。

蹴飛ばされた小石が、コロコロと転がり……門の蝶番ちょうつがいの隙間に挟まっていた「留め具」にカチンと当たった。

ガキンッ!

その微かな衝撃が、複雑に組み上げられていた防犯装置のスイッチを入れてしまったらしい。

『侵入者検知。排除モード起動』

無機質な声と共に、地面から巨大なゴーレム(泥人形)が3体、ズズズッと競り上がってきた。


「ひゃあああ! 出ましたぁぁぁ!」


「おっと、やっぱり罠があったか」


ゴーレムが巨大な拳を振り上げる。

普通の冒険者なら即死レベルの防衛システムだ。

だが、俺はため息をつきながら、前に進み出た。


「悪いな、俺たちは客なんだ」


俺は一番手前のゴーレムの足を、デコピンで軽く弾いた。

パァンッ!

衝撃波が走り、3体のゴーレムがドミノ倒しのように転倒。

そのまま地面に埋まり込んで、動かなくなった。


「……よし、これで通れるな」


「カ、カイさん……今、何をしたんですか……?」


「ちょっとつまずいただけだよ。行こう」


俺たちが崩れたゴーレムの上を歩いて塔の扉に近づくと、

バンッ! と勢いよく扉が開いた。


「ちょっとおおおお! 僕の可愛い『泥人形三号』たちに何してくれてんだよおおお!!」


飛び出してきたのは、ボサボサの黒髪に、分厚い丸眼鏡、そして寝不足で目の下にクマを作った、ひょろりとした男だった。

年齢は俺と同じくらいか。

白衣は薬品のシミだらけで、サンダル履きという、いかにも「研究の虫」といった風貌だ。


「あ、すみません。襲ってきたのでつい」


「つい、でSランクのゴーレムを瞬殺するバカがいるか! 徹夜で組んだ術式が台無しじゃないか!」


男はギャースカとわめきながら、壊れたゴーレムの破片を拾い集めて泣きそうになっていた。

だが、ふと俺の後ろに隠れているルナを見て、ピタリと動きを止めた。


「ん……?」


男は眼鏡の位置をクイッと直し、ルナをじっと凝視する。

そして、みるみるうちにその表情が「激怒」から「狂気じみた興奮」へと変わっていった。


「……すごい」


男は気持ち悪い笑みを浮かべながら、ルナににじり寄った。


「なんて濃密な『因果律いんがりつの歪み』だ……! 存在しているだけで周囲の確率をねじ曲げている! まるで歩く災害! 生ける特異点シンギュラリティ!」


「ひっ……!」


ルナが怯える。

しかし、男は構わずまくし立てた。


「素晴らしい! こんな希少なサンプル、初めて見たぞ! ねえ君、僕の研究室で解剖……じゃなくて、データ取らせてくれない!? 今なら三食昼寝付きだよ!」



「え、ええええ!?」


どうやら、この変な男が、噂の「異端の賢者」レインで間違いないらしい。

俺は頭を抱えた。

やっぱり、まともな奴はいなさそうだ。

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