第十二話 学術都市ソフィア
「わぁ……! すごい、本がいっぱいです!」
俺とルナは、国境を越え、大陸有数の知識が集まる学術都市「ソフィア」に到着した。
道中、ルナの【不幸招来】によって「橋が落ちる」「落石が降ってくる」「突然のゲリラ豪雨」といったトラブルに見舞われたが、俺のステータス5000の力で全て「ハイキングのついで」のように解決してここまで辿り着いた。
「ここなら、ルナの呪いを解く手掛かりが見つかるかもしれない」
「はい! 私、諦めません!」
ルナも旅を通して少しずつ明るくなっている。
俺たちはまず、この街での活動許可を得るため、ギルド支部へと向かった。
「いらっしゃいませ。この街での活動登録ですね?」
ギルドに入ると、眼鏡をかけた知的な雰囲気の受付嬢が対応してくれた。
カウンターには、高価そうな『鑑定水晶』が鎮座している。
「では、ステータスの確認をさせていただきますので、こちらの水晶に手を……」
(マズいな……)
俺は冷や汗をかいた。
この高性能な水晶だと、「レベル-50」なんていう異常数値が出たら、即座にバレてしまう。
どうやって誤魔化そうか……と考えていた、その時だった。
ガタッ!
ルナが不安そうに俺の背後に隠れようとして、うっかり近くの棚に肘をぶつけてしまった。
「あ……!」
その瞬間、ピタゴラスイッチのような連鎖が始まった。
棚の上に置いてあった重たい本がバランスを崩して落ちる。
↓
落ちた本が、床に置いてあったモップの柄を弾く。
↓
モップがシーソーのように跳ね上がり、カウンターの上の花瓶を倒す。
↓
倒れた花瓶から大量の水が溢れ出し……
バシャアアアアッ!!!
「ひゃあっ!?」
大量の水が、高価な『鑑定水晶』に直撃した。
魔道具は水に弱い。水晶はビカビカッと嫌な光を放ち、プスン……と煙を上げて沈黙してしまった。
「あ、あわわわ……! す、すみません! ごめんなさい!」
ルナが真っ青になって謝る。
受付嬢は、ずぶ濡れになった水晶を見て呆然としている。
「こ、故障……!? まさか、ちょっと水がかかっただけで……!?」
ギルド内が騒然とする中、俺は「これ幸い」と助け舟を出した。
「す、すみません! 連れがドジなもので……! 修理代は払います! だからその、登録の方は……」
「あ、いえ……こちらの管理不足もありますし……。水晶が使えないとなると……」
受付嬢は困った顔で、手元の羊皮紙を見た。
「仕方ありません。今回は特例として、自己申告のデータで登録させていただきます。以前のステータス通りでよろしいですか?」
「はい! レベル1のままです! 全く成長してないんで!」
「……そうですか(レベル1でここまで来るなんて、運がいいのね……)。では、手続き完了です」
俺は修理代として金貨を置き、ペコペコと頭を下げてルナを連れ出した。
「ふぅ……なんとかなったな」
ギルドを出て、俺は大きく息を吐いた。
ルナはすっかり落ち込んで、猫耳をペタンと伏せている。
「うぅ……ごめんなさい、カイさん……。また私のせいで……」
「いや、むしろ助かったよ。あのまま測定してたら、もっと面倒なことになってたからな」
俺はルナの頭をポンポンと撫でた。
結果オーライだ。彼女の【不幸招来】は、時として俺の「隠蔽工作」の役に立つらしい。
「さて、気を取り直して。この街には『あらゆる呪いに精通した変わり者の賢者』がいるらしい。まずはその人の研究所を探そう」
「は、はい……! 次こそはご迷惑をおかけしないように、じっとしてます……!」
そう言って歩き出したルナが、何もないところでつまずきそうになるのを、俺はサッと支えた。
前途多難だが、退屈はしなさそうだ。
俺たちは、街外れにあるという賢者の研究所を目指して歩き出した。




