第一話 レベル1の寄生虫
「おい、カイ。お前はもう用済みだ。今日限りでパーティーを追放する!」
その声が、静かに響く森の中に木霊した。声の主は、輝く金色の髪と自信に満ちた瞳を持つ、このパーティーのリーダーであり、世界を救うと謳われる勇者アレクサンダー。
彼の言葉は、まるで絶対的な真理であるかのように、周囲の空気を震わせた。
俺――カイは、何も言わずにただ立ち尽くしていた。背中には、冒険で得た魔物の素材がぎっしり詰まった巨大なリュック。
つい先ほどまで、俺たちが激戦を繰り広げていた巨大なミノタウロスの死骸が、少し離れた場所に横たわっている。
アレクサンダーは剣を鞘に収め、得意げな顔で続けた。
「考えてみろ。俺たちがレベル50を優に超え、この世界の希望として名を馳せているというのに、お前だけがずっとレベル1のままだ。何の貢献もせず、ただ俺たちの後を付いて回るだけの『バグ』。いつまでも寄生虫をパーティーに置いておくほど、俺たちは甘くない!」
その言葉に、パーティーの他のメンバーも同調するように頷いた。
「アレクの言う通りよ。カイがいると、どうにも空気が澱むのよね。それに、荷物持ちの分の報酬が浮くと思えば、むしろ助かるわ」
艶やかな黒髪を靡かせ、冷たい眼差しで俺を見下ろすのは、天才魔術師のリリアナだ。彼女の指先から放たれる魔法は、いつも敵を瞬時に焼き尽くすほどの威力を持っていた。
「ったく、本当にせいせいするぜ! 戦いもしねえ穀潰しがよ。今まではお前が解体した素材で金を稼いでやってたんだ、感謝しろよな!」
脳筋剣士のガレスが、乱暴に大剣を肩に担ぎ、口汚く罵る。俺が狩りの後、誰よりも丁寧に解体し、少しでも価値が上がるようにと気を遣っていたことなど、彼らの記憶には一切ないのだろう。
彼らが身に着けている防具や武器の材料も、その大半は俺が手塩にかけて解体し、売却して得た金で賄われているのだが。
唯一、俺に優しい言葉をかけてくれていた聖女セラだけが、顔を伏せて沈黙していた。だが、彼女がアレクサンダーに好意を寄せていることを知っている俺には、彼女が俺の追放を止めないだろうことは最初から分かっていた。
いや、もしかしたら彼女も内心では、レベル1の俺を不要だと思っていたのかもしれない。
「…分かった」
俺は静かに、それだけを答えた。抵抗する気力も、言い訳する気持ちも湧かなかった。
彼らの言うことは、表面上は確かに正しかった。俺は、ずっとレベル1のまま。どれだけ経験値を得ても、一切レベルが上がることはなかった。いつからか、それは
「【レベル固定】という、とんでもないバグスキル」だと認識されるようになっていた。
彼らが言う通り、俺はパーティーの雑用を一手に引き受けていた。魔物の素材解体、野営地の設営、食事の準備、荷物の運搬、索敵、罠の解除、薬草の採取、魔法の杖の修理……。しかし、それは決して目立つ役割ではない。戦場で華々しく活躍する彼らから見れば、俺の働きなど取るに足らないものだったのだろう。
俺はゆっくりと、背中のリュックを下ろした。中には、ミノタウロスの角や毛皮、薬草、そして彼らが今日食べた昼食の残りが詰まっている。
「これは、置いていく」
俺の言葉に、アレクサンダーは鼻で笑った。
「当然だ。お前はもう、俺たちのパーティーとは無関係だ。二度と俺たちの前に姿を見せるなよ、レベル1の寄生虫が」
リリアナが嘲笑し、ガレスが唾を吐き捨てる。セラは、一度も俺の方を見ようとしなかった。
俺は何も持たず、ただ、着の身着のままでその場を去った。
森の木々の間を縫って歩きながら、ふと、空を見上げた。高く昇った太陽が、木漏れ日となって地面に降り注いでいる。その光は、俺の心には届かない。
(結局、俺は…役立たずだったんだな)
そんな自嘲にも似た思いが、胸に広がる。
温厚で、目立つことを嫌う俺は、ひたすらパーティーの役に立つことだけを考えてきた。だが、結果はこれだ。
これからどうすればいいのか。どこへ行けばいいのか。
途方に暮れながら、俺はあてもなく森の奥へと足を進めた。
他にも転生したら魔女狩りの世界だった件。嫌なので全力で抗います〜絶望少女と魔王達〜という作品を書いています。
ダーク寄りの異世界ファンタジーがお好きな方はぜひ




