第3話
「ひどい世界だな……そんなに余裕がないのか?」
城下町を散策する俺は、一連の対応について愚痴る。
とりあえず彼らが勇者の活躍を懇願しているのはよく分かった。
俺が期待外れなのも理解できた。
その上でもう少し友好的に接してほしかった。
まあ、彼らのことは一旦置いておこう。
とにかく地球に帰る方法を探さなくてはならない。
たぶん城に戻っても門前払いなので、別の手段を見つける必要があった。
(まずは聞き込みかな。俺を呑み込んだ魔法陣の正体から調べるのもいいかもしれない)
その時、遠くから爆発と悲鳴が聞こえた。
周りの人々も不安そうな面持ちで落ち着きがなくなっている。
悲鳴は一向に止まらず、それどころから徐々に近付いてくる。
逃げてくる人々を見た俺は目を見開いた。
「なんだっ!?」
多種多様なモンスターが人間を襲っている。
悲鳴はモンスターに襲われた人々のものだった。
逃げ遅れた者から惨殺されるか無惨に食われている。
「魔王軍が来たぞ!」
「逃げるんだ!」
「結界の防壁をありったけ作れッ!」
人々は必死に抵抗するも、モンスターの勢いに押し流されて一方的に殺されていた。
燃える家屋が倒壊して逃げ道が塞がれ、隠れる場所もどんどん減っていく。
城から出てきた騎士がモンスターの鎮圧に挑むも、あっけなく倒されてしまった。
俺はすぐさま物陰に転がり込んで様子を窺う。
このままだと町は滅びそうだった。
「城の人達が焦っていた原因はこいつらか」
罪のない人々が理不尽に犠牲となる光景は、俺が戦ってきた悪の組織――アバスカンパニーの虐殺を彷彿とさせる。
結局、世界が変わっても悪は存在するというわけだ。
俺が戦いの果てに救ったのは、ほんの一部に過ぎなかったのである。
「……だったら、何度でも立ち上がってやる」
俺は右手に装着した腕時計型のデバイスを見る。
慣れた動作で歯車の形のダイヤルをカリカリと回していく。
「異世界でも使えるかは賭けだな……」
最後に中央のボタンを押し込む。
刹那、頭上から轟音が聞こえてくる。
ガラスが軋み、割れるような音が連続し、青空に亀裂が走った。
亀裂はどんどん広がっていく。
こじ開けようとしているのは金属の巨大な指だった。
やがて亀裂から人型兵器シグマが顔を出す。
数々の死闘を共に戦ってきた無敵のスーパーロボットは、俺の呼びかけに応えて次元の壁を破って現れた。