第2話
(異世界? 一体どういうことだ)
俺は困惑する。
突然の事態に頭が追いついていなかった。
地球の平和を救ったばかりだというのに、夢でも見ているのか。
ただ、この場に立っている感覚は紛れもなく現実だった。
あの魔法陣で連れてこられたのだろう。
俺は周りの人々を観察する。
槍を持った鎧の騎士や中世の貴族っぽい人間など、服装が明らかに日本とは違う。
コスプレ会場でなければ異世界しかない。
頭の整理をするうちに、最初に話しかけてきた男が詰め寄ってきた。
「では勇者様のステータスを確認しましょう!」
「ス、ステータス?」
「世界法則により、個人の能力を可視化したものでございます。勇者様は凛々しい顔立ちですし、さぞ素晴らしい力をお持ちでしょう。さて、拝見いたします」
ぺらぺらと早口で説明を済ませた男が俺のことを凝視する。
目が少し光っているのは、照明の反射ではなさそうだ。
おそらく何か特殊な力を使っている。
集中する男の顔が、徐々に、汗ばんで歪んでいく。
やがて不快感を隠さなくなってきた。
「むう、これは……」
暫し沈黙した後、男がいきなり俺を蹴り飛ばした。
不意に腹を蹴られた俺は倒れて咳き込む。
その間に男が俺の髪を掴んで怒鳴り散らす。
「この役立たずがァッ! レベル5で固有スキル無しだとぉ!? そこらのガキより弱いではないか!」
髪を放した男が今度は頭を執拗に叩いてくる。
よほど苛立っているらしい。
周りの人間も止めようとせず、俺は無抵抗に叩かれ続けた。
反撃してもよかったが、そうなると本格的な殴り合いになると思ったのだ。
気の済むまで俺を叩いた後、男は咳払いをして落ち着く。
それから俺に背を向けて騎士達に命じた。
「次の勇者召喚の準備を始める。その無能は外に捨てておけ。顔を見たくない」
「えっ、ちょ――」
「口答えするな! 反吐が出るわッ!」
男に発言を遮られた俺は、騎士に掴まれて部屋から引きずり出される。
そのまま敷地の外まで連れられた末に放り投げられた。
地面に頭を打った俺は後ろを見る。
大きな城の門が閉じるところだった。
まったく容赦がない。
俺に何か期待していたようだが、能力不足で失格だったらしい。
それにしてもこんな扱いはないだろう。
門番に睨まれた俺は肩をすくめつつ、仕方ないので歩き出す。