夏の別人
目の前の水面に明かりが写りこんでいる
夜のプールなんて初めてだなと思った
私の足もとは涼しくて、
今水着を着ているのだと理解した時、
奥に見える豪邸の方から話し声とともに
長身の男性2人がこちらに向かって階段を降りてくる
私はとっさに木の陰に隠れて2人の様子を見ていると
スーツを着た1人はしばらくして足早に去った
もう1人がこちらに体を向け、
目が合った時、
その姿を見た私ははっとしてしゃがみこんだ
やばい!
さっきまでスーツの男性に隠れていて見えなかったけれどもう1人は“あいつ”だったんだ
どうしてもっと早く気付かなかったのだろう
いつも私にいやーなことをしてくるあいつを!!
私の日課は、天敵であるあいつを真っ先に見つけて近付かないようにすることだし
ことごとく接触してくるから、
あいつの耳の形もほくろの位置も匂いだって覚えていたはずなのに!
こうして小さくなっていれば見つからないかも…なんて のんきに考えてみても、
やっぱりこわくて
目をつぶって気配を感じようと耳をすました
あの速さで歩いてくればもうここに着く頃だけど何も起こらない
その時、
寒気がして、くしゃみが出てしまった
「立てる?」
優しい声にバッと振り向いて後悔した
あまりにもいつもと違うからあいつじゃないかもと期待したけど
そこにいたのはあいつで…
態度を豹変させた彼に豪邸へと手を引かれながら
この不可解の原因を考える
しかし、ガラスの窓に写るのは他の誰でもない私の顔だ
肩にかけてくれた上着も
私に合わせてくれる歩幅も
優しいまなざしも
ぜんぶ意味がわからない




