第97話 怒る龍は荒れ狂う
「…っと大丈夫か、青葉?」
「大丈夫です」
キャッスルに帰還した春斗と青葉。
春斗は抱えていた青葉を床に降ろす。
「…九条春斗」
「ん?」
すると青葉は春斗に問いかける。
「本当に良かったのですか?」
「何がだ?」
「だって、裏切ったんですよ?友を、家族を…」
「…そうだな」
アンノウンを解除し、春斗は床に座る。
「まぁアッチからしたら俺は裏切者だろう。でも賭けに負けたのは俺自身だし、お前たちとの約束を破るわけにはいかないしな」
「ですが…」
「でも丁度良かったよ」
「丁度良かった?」
座った春斗が一瞬天井を見て、直ぐに青葉に視線を向けた。
「忘れたのか?俺は青葉を救いに来たんだ」
「!」
「IGD学園として動いたが…無理だったしな、この際どんな手を使っても俺はお前を救い出す」
「…春斗」
「どうした?」
「貴方は何故こうも人を救いたいんですか?」
「これも約束だからな」
「誰との…?」
「椿」
「!!」
「…今じゃ声は聞こえないし、赫蝶も使えないけどな」
右手を眺めながら呟く春斗。
実は蘇生された時も確認されたのだが、右腕に宿る赫蝶の反応が微小ではあるが反応はあった。しかし、あまりにも小さすぎる反応でもはや死にかけの赫蝶が宿っている、という感じであった。春斗自身も赫蝶の力は使えず、椿の声も聞こえてこない。
「ですが、その右腕は」
「あぁ、何なんだろうな」
右腕を覆うアームを外し、春斗の右腕を確認する。
そこには…人の皮膚に赤色の閃光のような模様が刻まれていた。
そしてその赤い模様は今もなお脈打ち、時より赤く輝いている。
「椿お姉ちゃん…」
「せめて宿主が俺じゃなければ良かったかもな」
「な、何故…」
「何故って、そりゃ俺が弱かったからこうなったからだろ?」
「…」
「それよりも、これからどうするんだ?人間たちには受け入れてもらえなかったし、宣戦布告もしたままだしな」
「…考えます、とにかく春斗は身体を休めてください」
「あぁ、わかった。何かあったら呼んでくれ」
キャッスルの内部へと足を進めていった青葉を春斗は眺めながら、見送った。
「…行ったぞ」
と春斗が呟くと。
『――計画通りでしたね、春斗』
「…」
そこへ、無線でmotherからの通信が入る。
「何が計画通りなんだか…」
『すみません』
「それと聞きたいことがある」
『何でしょうか』
「…motherの訴えは俺も聞いてたぞ。だが予定していた話と違う、元々は…確か武力を捨て私たちに服従しなさいじゃなかったか?」
『…』
「だが、そのお陰でmotherの計画はある程度分かった。つまり…そういう事だろ?」
『確認のため聞いても?』
「体育館で話したお前の話が本当の計画だと思っているが?」
motherからの返事はない。
まぁ確定だろう。ハイエンドを受け入れてほしいのと青葉が普通な生活を送れるようになるという事がmotherの計画だろう。
「無言は肯定と受け取るぞ」
『ご名答です』
「良かった。その返答のお陰でmotherの事は信用できる」
『よろしいのですか?』
「あぁ、目的は同じだしな。俺も青葉には普通の生活を送ってほしいと思っている」
『ではここできちんとした私の計画を話します。よろしいですか?』
「い、今?前に話せないとか言ってなかったか?」
『元凶は今、青葉と話しています』
「!!」
『元々、青葉と私の会話は元凶には聞かれていましたから』
「なら今は…!」
『私が特殊なファイヤーウォールを作成し、特定状況下のみ会話を聞かれないようにできます』
「…もしかして」
俺が蘇生される前に青葉と戦っていた時の話だ。
戦いの最中、お互いに鍔迫り合いをしている時に…。
『今なら…!お願いです、これ以上戦わないでください…!』
あの時の『今なら』って奴はその特定条件下になって元凶に会話が聞かれなくなったというわけか。
思えばそうだ、青葉の行動には色々と不審な点があった。まるで多重人格のような感じで正確や雰囲気に違いが顕著に表れていたのは元凶に聞かれている、聞かれていないで分けていたからなのか。ということは…聞かれていないときの青葉が本来の青葉なのだろう。
「だからか…」
『どうかしました?』
「確認なんだが、IGD学園…いや俺を含めた専用機持ちと青葉で戦っているときは元凶に会話は聞かれていたのか?」
『はい。ですが、一瞬だけ通信が途切れました』
通信が途切れた時が、あの鍔迫り合い…か。
「…俺の会話は聞かれるのか?」
『いいえ。貴方を蘇生する際に盗聴器及び発信機は既に摘出済みです。聞かれることは一切ありません』
「信じても?」
『信じても貰わなければ困ります。それに…意志を持つハイエンドの中で唯一自由に動ける存在が貴方ですよ?』
「…なるほどな、俺が必要なのはそういう事か」
会話や場所を知られるうえではmotherは動けないし、青葉も全てを知られるとなれば変に動くことはできない。他のハイエンドも意志を持っておらず、盗聴器とかその辺は付けられているのだろう…となれば自由に動ける駒が必要だ。
そこで俺に白羽の矢が立った、というわけか。
「待てよ…タービュランスは?傘下なんだろ?」
『傘下と言えば傘下ですが、正確に言うと違います。タービュランス達は自分たちのやりたいことをするといいハイエンドとの通信端末を全て破棄して何処かへ飛び去って行きました』
「…」
十中八九、ストリームの敵討ちだろう。
『それに貴方を選んだ理由は他にもあります』
「他に?」
『はい。貴方は青葉と椿さんの過去を知る者の中の一人であり、その者達の中で最も優しい人間です』
「優しいかどうかはさておいて、motherと青葉の計画に賛同するかどうかって所だろ?」
『はい、残りの二名は不可能ですから』
「残りの二名って?」
一瞬、motherからの声が聞こえなくなったがすぐさま聞こえてきた。
――青葉、椿さんのご両親です。
「!!」
そのmotherの回答で全てを察した。
「…一応聞いてもいいか」
『はい』
「その元凶ってやつ…そういう事か?」
『…はい』
あー…。
何というか、驚きもしない。
ある程度予想はついていたしな。過去を見る限りあの両親がこんなことをしていてもおかしくはない。
「そいつらは今どこに?」
『IGD学園内です』
「!!?」
『先程の計画通りでしたね、というのはあの否定してきた者こそが…青葉の母親です』
「…マジかよ」
じゃあ、最初から仕組まれていたのか。
『正直、予想外でした。まさか否定してくるとは』
「何故だ?」
『否定しなければIGD学園の完全武装解除が狙えたはずです、ですが』
「否定してきた、というわけか」
確かにそういわれると謎だ。
(…しかし、どうするか)
元凶はIGD学園に居る。どうやって元凶を潰すのかだな。
しかもただ潰しても意味は無い、誰もソイツが青葉と椿の母であり元凶であることも知らない。となれば俺が元凶を潰しても…結局のところ何も変わらない、むしろ立場が悪くなるだけだ。
どうすればいい…。
『春斗』
考え込んでいるとmotherに話しかけられた。
「何だ?」
『元凶から青葉への指令です。日本国内の全ての医療施設の破壊が命じられました』
「…けが人が多い今だからこそ医療施設を狙うのか。策士、とは言えないな」
『違うのですか?』
「外道だろ、ただの」
『とにかく、青葉の指令を使わせていただきましょう』
「え…はぁ?」
そうして左腕のハイエンドの義手の中にあるコンソールにデータが送られてきた。
送られたデータを展開すると、日本国内の医療施設の場所が示されたマップと目的の理由が記載されていた。所謂、医療施設の破壊により医療薬品とか技術を持つ者を消せるからだろう。
…敵としては外道だな、本当に。
『そこで、そのデータを改ざんします』
「?」
マップデータにノイズが走り、内容やマーキングされていた位置が変更されていく…?
「日本国内の医師、薬品の奪取…?」
『はい、それと…ここもです』
「おい、三か所の医療施設の破壊ってどういうこと」
『破壊してください、それと地下にある遺体も』
「い、遺体!?何言ってんだ…?」
『その7か所は実験施設です』
「はぁ!?実験施設って…まさか」
『青葉と椿さん、そして子供たちが命を散らせた極悪非道の墓場です』
あぁ…極悪非道の墓場だな…!
しかも医療施設にあったのかよ。
『春斗には遺体の回収、及び実験施設の完全破壊を命じます。研究員たちの処分はこちらにお任せください』
「…了解した」
俺はそのデータを受け取り、受託した。
…燃えてきたぜ。
『では、お願いします』
「あぁ。それと…えっと、HE-3…何だっけ」
『機体番号は覚えなくていいです。アンノウンで構いません』
「じゃあ…アンノウンを借りて行っても?」
『勿論。高速ジェットも貸しますよ』
「高速ジェットじゃなくて鴉とか龍だろ?それに俺の意思じゃ運転…いや操作か?それは出来ないからそっちに任せたいんだが…」
『おや、そうですか。ではお任せください』
―――
雨が降り注ぐ病院。
そこの裏の顔は子供たちを苦しめる実験施設。
「おい!進捗はどうなってる!」
「そ、それが…適合者ゼロ人です…」
「そんなわけないだろう!居るんだぞ!?赫蝶、翠蝶を操る者が!早く成果を上げろ!!」
「し、しかし…もう子供の数が」
「そんな消耗品の事なんぞどうでもいい!生き残っている奴でさっさと実験を進めろ!」
外道たちが住まうこの実験施設に。
――…シャン…カシャン…ガシャン…!
片目から緑色の閃光を輝かせ、二本の尻尾を靡かせ、雨で爪やボディーを照らし、獣は迫ってきていた。
『作戦開始、殲滅せよ』
「―――!」
獣は走り出す。
目の前に広がる障害を爪で切り裂き、突入する。
「な、何だ!おま」
ブレードの尻尾で目の前の男を巻きつけ、壁に叩きつける。
「がはっ!?」
「―――」
警備ロボットが動き出しても結果は目に見えていた。
3秒も経たぬうちに全ての機械は活動を停止し、その状況を見て居た外道たちは逃げ出した。
しかし。
「と、扉が!?」
非常口、出入口が何もかもが塞がれていて唯一の出口はあの獣が破ってきた壁のみ。
しかもその穴も一瞬も経たぬうちにハイエンドの装甲で埋められてしまった。
『アンノウン、地下に向かってください』
「―――」
涙を流し、懇願する者。
この理不尽に打ちひしがれる者。
そんな外道たちに眼もくれず、地下へと歩み始めるアンノウン。
「…」
やがて後ろから断末魔が聞こえてくるが、気にすることなく地下へ進む。
抵抗してくる者たちを一方的に捻じ伏せ、力の差を見せ付けつつ研究者や警備員たちがアンノウンを避けて階段を上り上へと逃げ出していく。
それでもなおアンノウンは気にしない。
とにかく、進む。
「…」
やがて分厚い鉄の扉に当たったアンノウン。
その扉の隙間に爪をねじ込み、横へこじ開ける。
そこには。
「―――…!」
子供たちが。
「な、何だ貴様!」
「退けッ!!」
「がっ!?」
驚いた研究員の顔面を掴み、壁に壁に押しつけ引きずる。
やがて壁に血痕が現れ始めたところでアンノウンはその研究員を床に叩きつけ、腹を踏みつける。
「ぐぉっ!?き、貴様…!?」
「貴様、だと?」
「ひっ!?わ、悪かった!私が悪かった!」
その男を見下し、ブレードを研究員の喉に向ける。
「…まぁお前なんぞどうでもいいか」
男を蹴り飛ばし、壁にたたきつけられたことを確認したアンノウンは子供の元へ歩く。
椅子に縛り付けられているのは3人。
一人を除いて脈がない。
「…ぁ…ぁ…」
「…」
アンノウンは自身の装甲を脱ぎ、九条春斗として意識のある子供の手に自身の手を添える。
「…ぁ…?」
「どうか、静かに眠ってくれ」
「しずか…に…?」
「今の君に害を加えるものは誰も居ない」
「…ねれる…?」
「あぁ…ゆっくり眠りについてくれ」
横に乱雑に付けられたソナーの画面を見る春斗。
画面には徐々に消え行く脈拍が表示されている。
(…せめて苦しみなく眠れ)
「ぱぱ…ま…ま…」
そう掠れた声で言い残し、子供は…天へと昇っていき、その子供の身体に一瞬のうちにヒビが入った。
(やはり、butterflyを投与されていたか…)
春斗は子供たちの遺体を確認する。
痣が出来ている者、注射の痕がある者、遺体の半身が塵となっている者などとても見てられない光景が目の前に広がっていた。
(見たくねぇ…)
地獄にしか見えなかった春斗はその場で立ち尽くし、目線を下に降ろす。
そこへ。
『春斗、状況は?』
motherからの通信が入る。
「あぁ、すまん。子供の遺体は全部で…7人、それで1名塵になりかけてるのもある」
『分かりました、屋上にコンテナと龍を待機させていますので屋上へ運んでください』
「わかった」
春斗は通信を切って周囲を見回すと、近くに車輪の付いた医療用のベッドが置いてあった。
丁度いいと思い春斗は子供たち一人一人の遺体を懇切丁寧に持ち上げてベッドに寝かせる。
「寝かせ終わったがどうやって屋上に…ん?」
子供たちをベッドに寝かせ、周囲を確認しているとコンと春斗の右足に何かが当たった。
下を向いてその当たった物を拾う。
「butterfly…」
『butterfly』と記載されたラベルが貼られている瓶を拾った。
(誰がこんなもん作り出したんだよ…てか、何で出来てるんだ?)
まじまじと瓶を確認するが中身は透明で水にしか見えない。
このままじゃ何も得られないと思った春斗はその瓶をアンノウンの装甲の中にしまい込む。
再度、周りを確認するとエレベータを発見した。
(エレベーターあったのかよ…)
と内心ツッコミつつ、エレベーターにベッドと一緒に乗り込み、スイッチを押してエレベーターで上へと向かう。
「…」
ごうんごうんと低く鳴り響く薄暗いエレベーターの中で春斗は眠っている子供たちを見る。
「…君たちは何か悪いことをしたのか?」
ベッドのふちに手を添えて呟く。
「して、ないだろうな」
安らかに眠っている子供は一人だけ。
春斗が手を添えた子供のみ、その他の子供たちの顔は歪み切っていた。
「何で、こんな理不尽を君たちに振りかざすんだろうな…」
春斗が手を添えていたベッドのふちにヒビが入っていく。
――ピンポーン。
「…屋上か」
エレベーターからベッドに寝かされた子供たちを出して、先に屋上の扉を開ける。
そこには雨の中にコンテナと龍が鎮座していた。
「ゴォォォォン…」
「ご苦労様」
春斗はアンノウンを起動し、装甲を全身にまとった瞬間、直ぐにパージした。
そしてベッドをコンテナに運び込んでいく。
その運び込む道中でも未だ雨は降り注いでいる。この子たちを雨に濡らさない為にも春斗は自身のパージした装甲でベッドを覆い、雨に濡らさないようにする。
例え自分の身体が濡れようとも。
「…こちら九条、運び終えたぞ」
『分かりました。後は龍に任せますので春斗は次に向かって』
「なぁmother」
『どうしました?』
motherからの指令を聞き切る前に春斗は疑問を問いかけた。
「…『butterfly』って何なんだ」
雨に濡れながらもその場で立ち尽くし、motherに問う。
数多の命を散らさせたこのbutterflyという薬品についてを。
『回答できますが、人にとってかなり惨いお話になりますが…よろしいですか?』
「人にとって惨い?」
『はい』
「じゃあ聞くが、元凶である親たちは人ではないと?」
『AIとして導き出された答えとしては人ですが、思考回路が逸脱しています』
「…」
『話を戻しますが…聞きますか?』
春斗の返答は決まっていた。
「聞かせろ」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




