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インフィニティ・ギア  作者: 雨乃時雨
第三部
98/122

第96話 堕ちた太陽

『堕ちた太陽』


「…状況は?」

「全世界のほとんどが戦力を失ってる、はっきり言うけどAGが大破状態で修理が間に合ってないみたい」

「…」

「それはそれとして、何でその体でここに来たのさ」

「私は教員だ。それに私のせいで生徒たちが傷ついてしまったのだ、あんな場所で寝ている場合じゃない」


管制室で包帯や絆創膏、ガーゼなどが貼り付けられた御影と木手が会話している。

現在IGD学園で戦える者は…0。 

全AGが昨日の防衛線にて大破し、生徒や整備部門総動員でAGを修理中。

生身ならギリギリ御影が戦えるかもしれないが、防衛線で傷を負ってしまい今は治療を優先している。


「それで報告書はどうなったの?」

「書いたぞ」

「…」

「あまり書きたくなかったがな…これだ」


そうして御影は木手に提出する予定の報告書を渡した。


「全AG大破、負傷者多数だがほぼかすり傷程度、重傷者無し、死亡者なし…」

「あのアンノウン、何が目的なんだ…」

「そうだねぇ…見た感じ生徒とか人の殺害とかではなく無力化をメインとして動いてるよね」

「…あぁ、防衛戦でよく分かった。全てのハイエンドがそれならいいかもしれないがアンノウンのみが殺しを狙ってこない」

「そこは謎だね。他の国では重傷者なんてバンバン出てるのに。幸いなのは死亡者がいない…」

「…」

「…ごめん、九条君の事でしょ?」

「あぁ…」


死亡者がいないことを言おうとした木手の言葉が止まる。

忘れてはいけない。現在、ハイエンド殲滅戦にて唯一の死亡者九条春斗がいることを。


「本当、そっくりだよね。克樹と夏樹に」

「…」


御影は椅子にドカッと座り、上を見上げる。


「結局、あの後玉砕したのか?」

「…そうだねぇ、分かってたことだけど気持ちは伝えたかったから」

「…後悔は?」

「無いよ、未練はあるけど」


昔の話。

木手吾郷、御影紗月、歌方夏樹、九条克樹。

実はこの4人は小学校、中学校、高校と同じ学校へ通っていた。

所謂幼馴染に近い存在。

各々やっていたことは違ったが、息が合う所があった4人。

…それは女性であった3人もだった。

全員、九条克樹の事が好きだった。今の春斗のような明るく、元気がよく、友達の為に頑張るような優しさを兼ね備えていたのが克樹。

そんな彼へ想いを告げたのは夏樹と吾郷。

御影は二人に譲り、告白はしなかったが、一人で泣いていた。

そして告白の結果は今の世界を見ればわかるだろう。

九条春斗が生まれたのだ。


「…結局告白は失敗したけどね」

「負け試合か、所詮」

「負けることに意味があったかもね、あの時はさ」

「…」

「克樹にそっくりだよ、春斗君は。でも…やっぱり克樹じゃないところもあったしね」

「例えば?」

「あの子は自分の命を軽く見すぎ。克樹は自分も助けて相手も助ける精神だったでしょ?ほら、学校に不審者が来た時の話」

「あれか。人質になった生徒を拳で助けるために不審者を力で捻じ伏せた時のやつ」

「そう、自分が助かることを計算に入れて戦ったのに…春斗君はその計算の中に自分が助かるっていうのが入ってなかった」

「ある意味春斗らしいが、そこが難点でもあったな」


自己犠牲の塊。

彼を言い表すのならこれが一番合うだろう。


「…さて、これからどうするの?」

「今は整備を優先したいが、どうしようもない」

「アジダハーカに留まらず、アンノウンも出てきたし」

「正直、アジダハーカ以上に厄介なのはアンノウンだ。私たちの動きを熟知しているかのような動きをしてくる」

「実際に自身の装甲を変形させて、各生徒のAGを模倣してたし…何なんだろうね」

「さぁな…」


と話していたところへ。


「み、御影先生!大変です!」


息を切らし、御影と同様に包帯やら何やらが巻かれた柊木志保が現れた。


「何があった?」

「…青葉です」

「!!?」

「青葉が一人で、IGD学園の前に居ます」

「何だと!?ハイエンドは!」

「…それが」


◇◇◇


避難民及び全生徒、全職員、AG行動隊が体育館に集められた。

そのステージの上には…青葉が立っている。


「…どういうつもりなんでしょうか」

「さぁ…」


御影先生の招集の元、IGD学園前で単騎で鎮座していた青葉の元へ走り、事情を聴いた。


『ここがターニングポイントです。私の…いえ、私たちの話を聞いてほしいのです』


勿論、断った。

忘れちゃいけないのが、コイツは春斗を殺したんだ。

例えAGが無くてもせめて…と思っていたが。


『安心してください、ハイエンドは近くにはいません。そもそも、この話合いにハイエンドは不要なので』


どうやら青葉は戦力を持たずして、この場に来たようだ。

実際に周囲のスキャンをおこなった所、ハイエンドはIGD学園の周囲には一機として存在していない。

…本当に話をしに来たと信じ、御影先生は青葉を通して体育館へ連れて行き…今に至る。


「そういえば水津さんと雪華さんは?」

「水津はAGの整備、雪華さんはその手伝いをしているようで体育館には来れないらしい」

「そうですの…」

「…」

「すまないが、青葉。話とはなんだ」

『こちらから話させていただきます。青葉専用のAI、motherです。お見知りおきを』

「…」

『単刀直入に結論を話せば必ず否定されるため、先に仮定を話させていただきます』


青葉ではなく、motherが話し始めた。


『前の宣言で述べた通り、私たちは変革をもたらします。別に今の世の中がどうとかそんな話はどうでもいいです。ですが現に今の世界ではAGを使用した物や管理された戦いなどが行われています。御影紗月、心当たりはありますね』

「…あぁ、多少はな」

『だからこそです、私たちは今一度貴方たちに戦う力を全て捨ててほしいのです』

「…」

『戦いのせいで何人の命が消えましたか?何人の人が涙を流しましたか?きっと数えきれないほどの量でしょう。数えきれない量の涙と血と命が零れたでしょう』


…心当たりがないわけじゃない。

根本を考えれば戦いのせいで春斗は命を落とした。戦いその物が起きなければ死者や悲しむ人は出ない。

それならばその根本を消せばいい。

ということで私たちに武装を捨てることを要求したのだろう。


「…それで私たちに武装を解除しろというのか?」

『はい。ですが、これだけではハイエンドが武装を持ち、そちらが不利な状況を作られる…そう思っていますよね』

「あぁ」

『…これが最後の提案です。私たちを』


――ハイエンドを受け入れてほしいのです。


「?」

『詳しい訳は話せませんが…青葉のハイエンドの力は自分自身の意志で手に入れた力ではありません』

「!!?」


自分の…意志ではない!?

体育館の中がざわついていく。


『そのことは、九条春斗は知っています。彼が助けようとした理由の中に、青葉を救うことを考えていました。恐らく…普通の生活を送れるようにと、そう願って』


春斗の願い…。


『それに…今の世界は全ての国が1つになっている状態です。それぞれにいがみ合っていた国同士が全世界の敵を見つけ、お互いに協力し、お互いに力を合わせている状態です。この状態が維持できるのであれば確実に世界は平和になるはずです。そして…貴方たち人間は武力での戦争ではなく、お互いの対話で互いを信じあい、共に歩んできたではありませんか。それは歴史が証明しています』 


…きっと過去の差別や迫害などのことを言っているのだろう。


『だから…貴方たちもハイエンドである青葉を受け入れてほしいのです』

「…」


体育館内が静寂に満ち溢れていく。

AIなのかもしれないが、その声はmother…青葉の母のような発言だった。

青葉を…ハイエンドを受け入れること。


『受け入れてくれれば、私たちはすぐさま武装を解除し、各場所に送られたハイエンド総員で国々の復興を行います。自分たちで残した傷は自分たちで埋めます』

「…」

『ですが…誰か一人でも受け入れてくれなければ私たちは再度攻撃を開始します。脅しに聞こえるかもしれませんが、私たちも普通の生活を送りたいのです…!』


私は願ってもないというかもな。

確かに青葉は春斗を殺した。でもその死は春斗が望んだものかもしれない。

春斗は死に際までも私たちを救おうとした、でもそれは青葉を含めたことかも。

…アイツは度を越して優しい。ありえない話じゃない。

敵であろうとも手を伸ばすのがアイツだ。

仮に復讐のために青葉を殺せば…私たちは晴れるかもしれないが、春斗は…私たちを軽蔑するだろう。


「葵さん…どう考えています?」


隣にいるフレヤが私に話しかけてきた。


「…了承してもいいんじゃないかとは思う」

「私もですわ、思えばキャッスルに乗り込んだ際も春斗さんは青葉さんに慈悲を持っていましたもの。恐らくその慈悲が救う事では?」

「あり得ると思うな」


レベッカとアナスタシアもこの話に入る。


「…確かにアイツは私たちの仇だ、でもそれは春斗自身が望んでいないのかもしれない」

「僕も。それにmotherの発言は春斗が言いそうなことだよ、実際に僕も…殺しかけたのに受け入れてもらったし」

「レベッカの発言には共感します」

「アイヴィー」

「私も…元は敵であるはずだったのに助けられましたから」


私たちの気持ちは同じだった。

受け入れる。

春斗らしい選択でもあり、変革でもあり、これからの平和に繋がっていくであろう選択。

それは…他の生徒や避難民、職員も含めてだった。

皆、春斗の優しさに感化され、受け入れるという選択肢が合った。


『だからどうか…私たちを受け入れて』


次の瞬間。


「誰がお前たちを受け入れるかよッ!!」


という怒声と共に青葉に向かってペットボトルのゴミが投げつけられた。

投げられたペットボトルは空中で蓋が空き、青葉の身体を水で濡らした。


「――は?」


ゴミを投げたのは…避難民の一人の女性。


「何であんな化け物なんかを受け入れなければいけないんだ!汚らしいし見たくもない!何が自分の意思で得てない力だよ!所詮化け物は化け物なんだろ!?」

「ふざけるのも大概にしろッ!!」


避難民の女性に声を上げたのは御影先生だった。


「守られているだけの人間が喚くな!!貴様一人のせいで何が起きるのか分かっているのか!」

「知ったことか!どうせアイツらは嘘をついてるに決まってる!」

「貴様…!!」


――そうか、それがお前たちの選択か。


「…え?」


急に体育館の扉が開く。

そこには…。


「…はる…と…?」


忘れるはずもない。

黒い髪に、優しい瞳。そして私たちの想い人である春斗がそこにいた。

だが左腕はなく、左の目元が痛々しく抉られたような傷跡があり隻眼になってしまっていた。


「春斗!」


私は喜びのあまり、春斗に駆け寄るが。


「触るな」

「――へ」


春斗らしくもない、真顔で私の喜びを言葉で切り裂いた。

行動を止めた私に眼もくれず、話し始めた。


『春斗』

「あぁ、俺の負けだ」

「負け…?」

「…俺はmotherによって蘇生された。その時に賭けたんだ…人間たちに戦う意思、未来を考える気持ち、そして共に歩んでいける意志があるのであれば、俺はハイエンドにはならないと」

「…」

「お前たちに戦う意思が無くなったのはわかる、ここまで完膚無きまでにボコボコにされたならな。それに未来を考える気持ち、歩んでいける気持ちがあったのもわかった…だが」


そうして私たちが見れるように向きなおした春斗。


「お前…いやお前たちは俺たちと歩んでいけないと突き放した」

「!」

「言ったよな?誰か一人でも受け入れなければ、攻撃を開始すると」

「い、いや…それは」

「人間らしく言うなら連帯責任だ。言葉一つ一つに責任は伴う、それに一人受け入れなければ、もう二人…いやもっといるだろうし、この世界の事はお前たちがよく分かっているだろう?たかが人が1人死んだところで関係ないやつらは気にしねぇんだよ」

「―――」

「現にそうだろ?そこにいる青葉にゴミを投げた奴」

「…」

「自分は関係ないから、そう思ってやったんだよな?」


ゴミを投げた避難民は一言も話さない。


「…はっきり言おう。俺はお前たち人間に」


――失望した。


「!!」


春斗はやや悲しそうに、下を見ながら言った。


『春斗、よろしいのですね?』

「賭けに負けたのは俺だ。結果に対する異議は問わない」


私たちに背を向けて青葉のもとに歩き出す春斗。

私はその背中を、止めることが出来なかった。 


『青葉』

「…うん」

『春斗、この場から青葉を脱出させます。お願いしますね』

「了解」


そうして春斗から緑色の閃光があふれる。

無いはずの左腕と左目には…ハイエンドのような色身や装甲の義手、義眼が出現し、全身を装甲で包んでいく。

そして、その装甲には身に覚えがあった。


「あ、アンノウン!?」


防衛戦で戦っていたのは、アンノウン…ではなく春斗だったのか。


「へぇ?アンノウンか、お前たちがそう名付けたのならそれでいい」

『では春斗、お任せします』

「あぁ、分かった」


アンノウンのアーマーを着用した春斗は青葉を抱える。


「さて、俺はお前たちの武力を壊した。抵抗もしようもないだろう?」


全身フルアーマーだったアンノウンは今は顔の部分のみ外している。

だが目を合わせようとしない。


「待て、九条!」

「…何ですか御影先生」

「…きちんと名を呼んだということは操られているというわけではないんだな」


そんな春斗に声をかける御影先生。


「何故…こんなことを」

「こんなこと?」

「何故世界に宣戦布告した奴らと」

「じゃあ、受け入れなかったお前たちに聞くが何故受け入れなかった?」

「!」

「あの時、受け入れろということに対して反対したものは一人、それに対して怒った者も一人…じゃあ他は?簡単だ、『関係ないから』だ」

「九条…」

「そんな自分は関係ないからと動かない奴らが蔓延るこんな世界なんぞに興味はない。むしろこいつらの反応を見て理解したぜ。俺の死は軽い物だったと」

「何…?」

「何一つ学ばねぇ、こんな戦況でも命を軽く見るAG行動隊及び政府…何を学んだんだ?現に勝てるはずもないキャッスルに特攻し、これからを考えなかったろ?それで何を知った?勝ち方か?命の落とし方か?それとも、命を落とせばハイエンドを倒せると?…馬鹿かよ」


私たちに向けられなかった春斗の顔がこちらに向けられる。

無表情、怒り、殺意、呆れ。

そんな感情が分かる。


「そんな奴らだから俺は失望したんだ」

「九条…!」

「…俺を恨みたいなら恨めばいい。ですが、俺もお前たち人間を恨んでいる。俺の死を、無駄死にしたのは誰でもないお前らだろう」

「違うッ!!」


◇◇◇


「違う…!」

「何が違う」


春斗の言葉を否定したのは…葵だった。


「私は…春斗のお陰で戦えたんだ。この場に…立てているんだ!」

「…」

「お前が…お前自身の死を否定するな!」

「ならどうする気だ?殺すか?俺を」

「…!」

「それに何ができる?武力も何も持たないお前らに」


蔑んだ双眸を向ける春斗。


「それに俺を捨てたのは…何者でもないお前たちだろう?」

「!」

「…春斗」

「あぁ、そうだな。帰還しよう」


アンノウンの背中の翼に、エネルギーがチャージされて行き、春斗は青葉を大切そうに抱えて体育館の壁を突き破り、空に浮かぶ城へと…帰っていった。


「春斗…」

誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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