第90話 乖離
「春斗!しっかりしろ!!春斗ッ!!」
辛うじて原型をとどめている焔を身に着け、膝をつき、座り込んだ春斗の元に駆け寄り呼びかける葵。
返って来る声は、無い。
『時雨さん…九条君はもう…!』
「そんなわけないでしょう!!!」
『…』
「まだ…春斗は助かる!助かって…また、皆と…」
理解したくない葵。だが、本能的に理解できてしまう。
春斗は、もう助からない。
春斗の様態、バイタルサイン、全ての情報を見ても…春斗が助かる見込みは無し。
「うぅっ…」
血をどくどくと流し続ける春斗に腕を回し、きつく抱きしめる葵。
自身の機体やAGスーツが春斗の血で汚れようとも知ったことじゃない。
今抱き留めなければ、本当に何処かに行ってしまうと思った。
…それは今、春斗の様子を見て居る少女たちも同じ気持ち。
そして…湧き上がる感情があった。
「…ろす」
武装を握りしめたような音が響く。
「お前だけは…絶対に殺す…ッ!!」
一歩踏み出したのはアナスタシア。
ナイフを握りしめ、殺意と怒りの感情を思うがままに青葉に向ける。
誰だってそうだ。最愛の人間が傷つけられれば怒るに決まってる。
その怒りのままに力を振るえば、それは復讐となる。
復讐は何も生まないとは言うが復讐は様々なモノを生み出す。
殺意、憤怒、憎悪、絶望、虚無。
ありとあらゆる物が湧き出て溢れる。復讐を完遂しても、その先もずっと残り続ける。
それに復讐の先には何もないというが、だからと言って何もしないわけにはいかない。
「同感ですわ、許しません…!」
「はい…!」
「アナスタシアの言う通りだよ…!」
「…殺す」
「殺すわ、確実に」
このように感情で動いてなければ、春斗を失ったという悲壮に耐えられなくなってしまう。
『小娘ども、撤退だ』
その怒りに身を任せようとした少女たちに冷静に判断を下す御影紗月。
「…御影先生、これはもう」
『分かっている、だがこれ以上の戦闘は見過ごせん。今すぐ撤退しろ』
青葉相手に八機の最強が挑んでも敵わなかった。
であれば逃げるしかない。
「無理ですわ、このまま逃げるのは…!」
『これは命令だ。今すぐに撤退』
「御影先生はここで見過ごせって言うんですか!!」
『…』
「春斗さんが…致命傷を負ったんですのよ!」
『…私が九条に言ったことを覚えているか?戦場に私情を挟むな』
「なら…私一人でも残ります…!」
「それなら僕も!」
「私も…!」
復讐心がまざったまともな思考回路は消えていく。
確実に青葉を殺すために動き出す。
そこへ。
『お前たちは九条の命を無駄にする気かッ!!』
御影の怒りにこもった声が少女たちに響いた。
『九条が何のために動いたと思っている!お前たちを守るためだ!!それなのにお前たちは守ってもらった命を無駄に散らそうとしている!こんなことをして九条が喜ぶと思うのか!?』
「…!」
『ここでお前たちが死ねば、九条の死は…無駄になる。読んで字のごとく『無駄死に』だ。九条の死をそうしたいのか、お前たちは!』
春斗が動いた理由。
『この場にいる皆を守るため。』
守るために繋いだ命を無駄に散らせれば、春斗の守るために犠牲にした命が無駄になる。
そんなことをしたら春斗がどう思うか、それはこの場にいた少女たち全員が分かっていた。
『正気に戻れ、小娘ども』
「…」
『…私が薄情者に見えるかもしれないが、正直こんな命令下したくなかった』
無線で聞いている少女たちは知らないが、今御影紗月は泣いている。
瞳から涙を流し頬を濡らし、その涙を拭い、これ以上の犠牲を出さないために命令を下した。
『全員、緊急脱出用粒子化装置を用いて撤退せよ』
「ですが…どうやって30秒を稼ぎますか?これじゃあ…」
緊急脱出の為には30秒の準備時間が必要とする、更にその間は動いてはならない。
今いる場所は戦場、しかも元凶が目の前にいる状態。
敵は撤退は易々と見逃してはくれない。
「―――」
そんな会話を聞いていた、一人の少年。
◇◇◇
「ごはっ…!?」
口から思いっきり血を吐き出す。
何だこれ…。
「…」
あぁ、そうか。
青葉の一撃を防ぎきれず、くらったのか。
その結果が…この様か。
椿、すまなかった。
『謝らなくていいです、春斗は精一杯尽くしてくれたじゃないですか。それでも無理なら…』
いや、これは俺の落ち度だ。
もっと強ければ、良かったのにな。
それよりも、皆はどうなった?
『全員無事です、怪我ひとつなく』
そうか、よかった。
『ですが…春斗の怪我が』
俺の怪我は流石に自分でもわかる。
左腕欠損、左目の失明、そして大量出血。
…死ぬな、俺。
視界は歪みっぱなしで、左側が赤黒く塗りつぶされている。
『…春斗』
何だ?
『無線が聞こえましたか?』
すまん、何も聞こえない。
多分聞こえたとしても、ってやつかもな。
『撤退、だそうです』
撤退か、そりゃそうだよな。
あのHAGの強さはよく分かる。AG八機で挑んだとしても勝てなかった。
しかも、一名致命傷を負ったしな。
『しかし、緊急脱出用粒子化装置は30秒の準備時間が必要です。しかも敵は目の前にいます。どうしますか、春斗』
…分かってるだろ?
『聞くだけ野暮でした…でもどうしますか?今の肉体で30秒間耐えきり、逃げることは』
いや、逃げない。
『逃げない?』
どちらにせよ、死ぬ場所が変わるだけだ。
IGD学園からキャッスルに。
『…まさか、囮になるつもりですか?』
あぁ。
『…正気?』
当たり前だ。
『…』
後は椿、どうする?
『どうする…?』
俺はここで皆の為に自分の命を確実に散らす。
でも、お前はどうするんだ?
何から何まで俺と一蓮托生ってわけじゃないし。
最悪、何とか逃げても…。
『それも聞くだけ野暮ですよね?春斗が言うなら、私もここで命をかけます』
いいのか?
『はい。それに…元はと言えば春斗のお陰でここまで来れましたから』
…椿。
『はい』
俺はお前と会えて良かった。
だけど、約束は守れなかった。
本当にすまなかった。
『いいんですよ。それより…行きましょうか』
「あぁ」
『皆の為に、時間を稼ぎましょう』
「――あぁ!」
◇◇◇
『えっ…信号増幅!これは…!?』
柊木が声を上げる。
「ごほっげほっ!!」
意識がないはずの春斗の身体から咳き込むような音が鳴った。
「春斗!目を覚ましたんだな…よかった」
「あお…い」
――ここはまかせろ。
「まかせろ…?」
口から血を流し、任せろと言った春斗。
「つば…ぎ…!」
「はい!!」
座り込んだまま、椿の名を叫ぶ春斗。
すると春斗の身体から赫蝶たちが飛び出し、椿が姿を現した。
「椿さん!?」
椿は赫蝶となり、春斗と焔の中に入っていった。
やがて破損した部分、乖離された春斗の左腕に、新しい腕が形が形成されていく。
元の形とはほど遠いが、破損した部分は赤く、禍々しく、新たなモノが生まれた。
『椿、何をするつもりだ!』
「私は春斗と共に戦うだけです!春斗!焔と左腕は補強しました!存分に…戦いましょう!」
「あ…ぁ!!」
御影の問いかけに答え、春斗を呼びかける椿。
その呼びかけに対して春斗は、立ち上がる。
失った左目に赤い閃光を宿し、失った左腕に赤く禍々しい黒龍のような腕を生やして。
「そんな傷で動けるはずが…!?」
「こんな傷でも…動いてやる…!」
「春斗!?一体どうするつもりだ!」
「俺が時間を稼ぐ、だからみんな…逃げろ」
「は…?」
「暁光来光【禍津】!」
そして春斗は焔の専用アビリティの暁光来光を発動する。
AGが破損しているとはいえ破損した部位は左側のみ、右側はきちんと暁光来光の形状となった。
それに対して左側は。
「あれって…!」
白鉄の時に見た『羅刹』、あの形状が左側を支えていた。
それだけではなく、背中に合った輪は半分が赤く染まり、腰辺りから尻尾のようなものが生え、頭部の半壊したヘッドギアと共に黒龍の禍々しい角も生えていた。
焔の暁光来光に赫蝶の羅刹、黒龍を合体させたような姿。
それが『暁光来光【禍津】』。
「行くぜ…それと青葉、1つ教えてやる」
「…」
「手負いの奴ほど脅威になるやつは居ない…てなぁ!!」
赤い閃光を靡かせ、少年は単騎で突撃する。
彼がやるべきことは30秒間、7人の少女を守り続けること。
その条件下において相手及び自分自身の生死は関係ない。
生きて守り切ってもよし、死んで守り切ってもよし。
とにかくその30秒を守り切れば、春斗の勝ちとなる。
「がぁぁぁぁ!!!」
「…!?」
『出力が上がっていないのにも関わらず、この性能…一体どうなって』
「はははははッ!!どうしたどうしたぁ!!?」
顔を笑顔で歪ませ、両手、両足に付けられた武装を使いこなし龍が如く、荒々しく攻め立てる。
『総員起動シーケンス開始!九条の意志を無駄にするな!』
「くっ!!」
御影の声を聞き、各々が緊急脱出用粒子化装置の起動シーケンスを開始する。
『起動シーケンスを受理、残り30秒』
ここでカウントダウンが始まった。
これから春斗は30秒間、何が何でも7人の少女を守り切らないといけない。
「行かせません…!」
それに気が付いた青葉が7人目掛けて、斬撃波を放とうとするが。
「ぎしゃぁぁぁぁ!!!」
「!?」
春斗のレーザークローによる引っ掻きで斬撃はあらぬ方向へ飛んでいき、7人には当たらなかった。
「本当…ッ!滅茶滅茶な事をしますね!」
「がぁぁぁぁ!!」
もはや彼自身にきちんとした意識があるのかすら分からない。
人の姿でありながらも、戦い方はまさに荒ぶる龍そのもの。
しかも…正面からアジ・ダハーカと殴り合っている。
互いに一歩も譲らない戦い。
「まだだ…まだ足りねぇ…!!」
お互いの魔剣と爪がぶつかり合い、互いに吹き飛ぶ。
「もっとだ…モット力を寄こせ!!椿!」
「はい!私も死力を尽くします…!」
「俺ガ…皆ヲ…守ル!」
春斗の雄たけびと共に禍津の様子が激変する。
隻眼から溢れる赤い閃光は寄り輝きを増し、左手に付けられたレーザークローは二本から各指に付け替えられ、腰から生えた尻尾は二股に別れ、尾の先にブレードのようなものが備わった。
そして…!
「がぁぁぁぁぁ!!」
彼は渇望した。
この少女たちを守ることを、心の底から渇望した。
故に身体は答える。
『な、何ですかこの数値!?AG…いえ、AGの何十倍もの力が今の九条君にあります!』
『…これが、九条の全てなのだろうな』
あの荒々しい龍こそ、春斗の全て。
力を惜しみなく出し切り、7人を守ることに尽力する姿。
『残り19秒』
「がぁぁぁァァァ!!!」
『青葉、マズいです。逃げられます』
「でも…どうしようもないでしょ!!」
青葉の顔が歪む。
明らかに異質な存在。唯一のAGを使える男、赫蝶を使役できる男、生身でAGと戦える男…などそれらを情報を一括りにしてもこのような姿になりえるはずはない。
(データでもこんな姿はない!九条春斗…一体何者なの…?)
だが、明確な隙はあった。
青葉はその隙をついて、春斗を目掛けて魔剣を突き刺す。
「ぐぅっ!?ガァァァ!!!」
「と、止まらない!?」
横っ腹に魔剣を突き刺してもなお、彼は止まらなかった。
むしろその突き刺しすらもカウンターのエサにされ、アジダハーカにダメージが入る。
「春斗さん!!」
「グルルル…!!」
「もう…まともな意識はないみたいね、春斗君」
「助けられないのがもどかしい…!」
少女たちは動くことはできない。
目の前に広がる戦いを見ても、春斗がどれだけ傷つこうとも、助けに行くことはできない。
ただ見ることしかできない。
(春斗…!)
『残り8秒』
すると。
『ERROR ERROR 起動シーケンス失敗』
「なに!?」
なんと時雨葵の緊急脱出用粒子化装置のみ、起動シーケンスが失敗した。
『何だって!?おい、吾郷どうなってる!!』
『どうしたもこうしたもないよ!エラー何て起きないはず…まさか!?』
吾郷は何か心当たりがあったのか端末を操作し、葵の飛脚の様子を見る。
『やっぱりだ…!さっき、アジダハーカの魔剣をくらったでしょ!その時に装置が破損してる!』
『何だと…!?』
『起動シーケンス完了、転送開始』
「ま、待って!まだ葵が!!」
とレベッカが言うがもう遅い。
葵を除いた全員の装置の起動が完了し、IGD学園に強制的に帰還させられてしまった。
「…!」
すると、春斗の動きが変わった。
バックステップし、葵の元へ。
「葵…」
「す、すまん…」
「いい、エラーはしょうがねぇ…げほっごほっ!?」
「春斗…!」
春斗の方にも肉体の限界が近づいてきたのか口から血を吐き出す。
「俺の心配はいい。どのみち、もう助からん…」
「だが…!」
「お前は優しいな」
「…お前ほどじゃない」
「…俺が逃がす」
「どうやってだ…それに私一人で逃げるのは」
「葵」
「…」
「昔、言えなかったけど、ありがとう」
「えっ」
春斗は飛脚と葵を右腕に抱え、切り離された春斗自身の左腕に付けられたレフトアームを回収する。
「行かせません!」
「無理やりにでも行かせてもらおうか!!」
左腕に力を込めて、地面を叩き割る春斗。
――バギャアァッ!
「何て馬鹿力!!」
地面が叩き割れ、隆起してきたキャッスルの床を斬りながら青葉は元々春斗と葵が居た位置に魔剣を振るう。
そこには…。
「…」
誰も居なかった。
『逃がしましたね』
「…いえ、大丈夫です。確実に…九条春斗はここに残るはずです」
ーーー
「はぁ…ッ!!ゴホッゲホッ!!」
「春斗!もうこれ以上無理をするな!」
「無理なんて…してない」
「嘘を言うな!何回口から血を吐いた!」
「…」
葵の肩を借りながら、進んでいく春斗。
だが…もう春斗の身体は限界だった。
お互いにAGを待機状態にしたまま進むが、もう春斗の左腕や赫蝶は徐々に形を保てなくなってきている。
「ぐっ…!」
「春斗!」
その道中、遂に春斗は倒れてしまった。
すぐさま彼を抱える葵。
「す、すまん…葵…」
「いい…!もう、無理をするな…!」
「…腕を…俺の血で、汚してしまった…」
「そんなことを…言わないでくれ…!」
葵は自身の身体は春斗の血で汚れようとも気にしなかった。
ただ、今はずっと一緒に居たい。それだけの為にきつく抱きしめた。
「葵…」
「頼む…もう…」
「…」
揺らいでいく、春斗の意識と消えかけている命の灯。
もう一度、風が拭けば消えてしまうくらい淡い炎。
「なぁ…葵…」
「…」
「俺が死ぬ前…に…聞きたいことがある」
「…お前が死なないと誓えるなら言ってもいい」
「はは…それはきつい…」
「…」
葵の返事に答えることなく、春斗は聞く。
「話…って…何なんだ」
「…」
葵は答えない。
でも、答えなくてはならない。もう、このタイミングでしか伝えられるタイミングがないからだ。
春斗の左腕はもう、形を保てていない。
「私は…私は…!」
「…」
「春斗…が…好き…なんだ…!」
「!」
恥ずかしの涙か、悲しみの涙か、もう葵の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
とにかく想いを告げることに全神経を注ぐ。
「小学生のころ…からずっと…好きなんだ」
「…」
「守ってくれて…私と一緒にいてくれて…ずっと笑ってくれて…いつしか私は春斗のことが好きになっていたんだ」
泣きながら想いを告げる葵。
「そう…だったんだな」
「…気が付かなかったのか?」
「…もしかしたら、とは思っていた…でも」
「答えられない、か」
「…あぁ」
葵は忘れていない。春斗の過去を。
自分自身が守れなかったからと、失う事が怖くなり恋人は作らないと考えていたことも。
だが、葵は伝えたかった。想いを、気持ちを。
「…葵」
「…なんだ」
「俺からも…1つ、言わせてくれ」
「…」
「俺も…」
――お前が好きだった。
「――え?」
◇◇◇
幼いころを思い出す。
俺も…お前が好きだった。
今は…すまない。怖くて無理だ。
幼馴染であるお前が、一緒に剣道で高め合い真剣な表情で何事にも打ち込む葵が好きだった。
その時が俺の『初恋』。俺は葵の姿勢やたまに見せてくれる笑顔、全てが好きだった。
だから俺は葵が虐められていたということに我慢が出来ず、虐めっ子たちを力でねじ伏せた。
後悔はしていない。
あの時は子供過ぎて付き合うとかそういうのを知らなかったからな。
告白なんてものはしていない。
…だから後悔した。
俺が転校するときにでも、せめて伝えればよかったと。
それからしばらくの時が立ち、お互いに経験を積んで学園で巡り合い…あの時の想いを告げられると思えば…こんな俺が死ぬときとか。
ムードとかが最悪過ぎるだろ。
「…」
戦場は何が起きるかわからないが…初恋は最期まで守り切ることが出来た。
満足だ。
消えゆく意識の中、俺は倒れたまま切り離された俺の左腕からある装置を取り出し、葵に渡す。
「これは…」
「緊急脱出用粒子化装置…だ」
「…」
「お前が使え、そして逃げろ」
「いや…だ…!」
「葵…」
「何故だ…何故いつもお前だけが苦しむ!!」
◇◇◇
葵は叫ぶ。
「私は…何度お前を失えばいい…!これで…三回目だ!」
「…」
「しかも…もう一生会えない場所に春斗が行ってしまうなんて…もう嫌だ」
両目から涙を零し、春斗の身体に零れる。
「葵、お願いだ。俺を置いて逃げてくれ」
「…」
嫌だと感じられるように葵は思いっ切り春斗を抱きしめる。
「…このままじゃ、俺が浮かれねぇよ…」
「なら…死ななければいい…」
「…」
「…」
「そうだな…死なずに帰れるならなおのこと良かったが…こんな身体じゃ無理だ。葵にも分かるだろ…?」
「分かりたく…ない」
時間が少なくなってきた春斗。
「葵、せめて…これを」
すると春斗は右手で首辺りを何かをし始め、葵の手に緊急脱出用粒子化装置と共に何かを置く。
「これ…は?」
「俺の家族の…形見だ」
「夏樹さんと克樹さんの…?」
「あぁ…形見だけど…俺は…もう持たない。だからせめて、葵…お前が持っていてくれ」
「…」
「…無常だと思うかもしれないが、もう時間がない…だから、頼む」
「…!」
春斗は葵に緊急脱出用粒子化装置と形見であるネックレスを受け取ってくれたことを確認して、葵の頬に手を添えた。
「ありがとう…お前と再会できてよかった…想いの返事とか出来なくてごめん…」
「本当にお前は…昔から今も…変わらず人を困らせる」
「は…はっ…本当に…俺は酷いやつだな」
「…」
「あと…ちょっと嬉しいんだ…」
「嬉しい…?」
「俺はこれから…一人だと思ってたけど…葵が最期に一緒にいてくれたから…嬉しい」
「春斗…」
「あり…がとう…あお…い…おれは」
「一人じゃ…なかっ…た…」
と言い残し春斗の右手は葵の頬から落ちて、床に落下した。
…そうして笑顔のまま、彼は眠った。
「本当に…お前は…うぅっ…」
優しいやつだと思いながら葵は春斗の後頭部に手を添えて、春斗の唇に自分の唇をそっと…落とした。
『ううっ…』
『だいじょうぶ!ぼくはあおいのみかただからね!』
『はると…』
昔を思い出す葵。
いじめから解放され、泣いていた時も春斗はずっと葵を励ましていた。
ずっと一緒にいてくれた。
あの時に葵は春斗とファーストキスをお互いに交わした。
(春斗…感謝したいのは私の方だ。ずっと一緒にいてくれてありがとう…)
久々の想い人とのキスは初めての時に比べて、冷たく悲しい物だった。
ーーー
「!!」
「葵!無事だったんだね!」
「…あぁ」
『すまない。やはり緊急脱出用粒子化装置は二人用とか範囲を拡大すればよかった…』
『時間がなかったんだろう…?』
「そういえば…春斗さんは?」
「そうだ!葵、春斗は…?」
「…待って、葵ちゃん…そのネックレスって…」
「みんな…聞いてほしい…」
葵は告げた。
春斗の最期の言葉を。
「う…そ…」
「…ッ!」
「春斗…さん…」
「春斗…」
「…気が付くのが…遅いのよ…!」
「…」
各々が涙し、各々が泣き崩れた。
そうして学園中の全生徒及び教員陣、そしてAG行動隊全員に通達された。
【1年1組 九条 春斗】
――死亡。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




