第81話 変革の時、来たれり
「ふぅ…やっと帰ってこれた」
「ご、ごめんなさい…」
「別に良いよ、気にすんな」
地面に足を付けたと同時に椿は俺の身体から飛び出してきた。
…意外と椿は甘えん坊だったんだなと思ったぞ。
「九条春斗!椿お姉ちゃん!」
すると青葉がこちらに向かって走ってきた。
「青葉!」
「大丈夫でした?」
「え…うん」
「…椿」
「えぇ。ねぇ青葉」
「な、何?」
「お姉ちゃん、記憶が戻ったよ」
「!!」
やっぱり椿の記憶は完全に戻ってきたみたいだ。
いつもの雰囲気と少し違い、朗らかな感じになっている。
これが本来の桐生椿という人なのだろう。
「って喜んでる場合じゃなかった!九条春斗、これを!」
「?」
青葉から小さな箱を渡される。
「これは?」
「貴方だけに公開すべき情報全てです!絶対に他の人には共有しないでください!」
「お、おう…」
「…どうしよう」
「まだ何か問題があるのか?」
「…はい」
青葉は箱を渡してもなお何か焦っていた様子だったので聞いてみると、やはり何かあるみたいだ。
「一体何が?」
「…ごめんなさい、九条春斗」
「?」
――間に合いませんでした。
次の瞬間。
――キィィィィン!!
「なっ!?」
ギリギリ反応できた。
青葉…ではなく、上からのレーザー照射。
『…』
「テンペスタ!?」
『ごめんね、ダーリン!!』
「!!?」
テンペスタとサイクロンの攻撃だと理解したと同時にハリケーンが突っ込んでくる。
あぁそうかよ!ハイエンドは倒したから契約関係はおしまいってか!?
「青葉!」
青葉に手を伸ばす。
しかし。
「ごめんなさい、その手は握れません…!」
「!?」
「AG起動。『アジ・ダハーカ・ラグナロク』」
俺の伸ばした手を振り払うかのように青葉はAGを纏った。
その衝撃に耐えきれず、俺は箱を抱えたまま吹き飛ばされる。
「くっ!?」
「大丈夫か、九条!」
「だ、大丈夫です!」
御影先生が俺を受け止め、何とか俺はそこまでの傷を追わずに済んだ。
「青葉!」
「椿お姉ちゃん…」
俺の身体から飛び出した椿は青葉に呼びかける。
その青葉は黒色の装甲と緑色の閃光。そして浮遊ジェットに二頭の龍の頭のような武装が展開されていた。
AGといえばAGなのだが何かが違う。
まるでハイエンドのような…。
「ストリーム」
「なん…だよ!」
「これも、私たちからのプレゼントよ」
「!」
テンペスタから何かを投げ渡される。
なんだこれ、ペンダント?
「…貴方だけよ」
「?」
「『彼女』との縁を持っていたのは」
「一体、何の話を」
「青葉さん、良いのね?」
「…はい、打てる手は…もうこれしかないんです!」
テンペスタと青葉の声が聞こえたと同時に、IGD学園からサイレンが鳴り響いた。
「なんだ!?」
『私は変革者』
「!?」
青葉の…声?
IGD学園だけじゃない、他の場所でもこの声が流れているみたいだ。
現に俺の通信端末からも青葉の声が聞こえてくる。
『私達は変革をもたらす。今の世界は腐っている、淀み切っている。故に変革を起こす』
「…」
『我々ハイエンドは…この世界に変革をもたらすために』
――全世界に宣戦布告する。
「!!」
「…九条春斗、椿お姉ちゃん」
――ごめんね。
その青葉の表情を見た瞬間、俺は突き動かされていた。
いつの間にか御影先生のAGから飛び降りて焔を展開し、青葉に向かって飛んでいっていた。
だがそれを止めたのは…。
「ごめんなさいね、ストリーム!」
「わりぃがこっから先には行かせねぇ!」
「だからダーリン、止まって!」
タービュランスだった。
だが
「邪魔をするなアァァァ!!!」
――ガキィィィィィン!!
「AG三機で押されるの!?」
「何て力だ!?」
「邪魔だ!退けッ!!」
ここで止まっちゃだめだ。
本能的に理解した。多分、椿と同じことを考えている。
青葉を止めないと!
『九条春斗、聞こえる?』
「青葉!」
『お願い、止めないで。もうこれしかないの』
「訳も分からずこれしかないって言われてもわからねぇよ!」
『今の貴方が知るべき情報はその箱の中に入ってる』
「!!」
『…だからごめん』
『今は、消えて』
「は」
タービュランスが一斉に俺から離れた瞬間。
俺の目の前に広がったのは黒と緑色の光。
それを認識したと同時に俺の全身に衝撃と激痛が走った。
「があっ!?」
地面を転がり、倒れる。
『春斗、大丈夫ですか!?』
「大丈夫、だけど」
シールドエネルギーはさっきの龍の衝撃で無くなり、ヘルスももう底をついてしまった。
動けない…。
『…』
そうして青葉とタービュランスたちは俺に眼もくれず、天へ飛び立った。
「ま、待ってください!?上空に巨大なエネルギー反応!」
柊木先生の声とともに空を見上げる。
そこには。
「何だ…アレ」
超巨大な宇宙船のような何かが空の上から現れた。
あまりにも巨大すぎるのか…まともな距離がつかめない。
『ごめんね。』
あの表情。あの言葉。片目だけ泣いていて、涙ぐんだ声だった。
私は変革者とは言ったが…明らかに声色がおかしかった。
全世界に宣戦布告するなら俺と椿に謝らないはずだ。
何故、俺たちにだけ…。
だが…!
拳を地面にたたきつける。
(止められなかった…ッ!!)
青葉を止め切れなかった。
止められる…はずだったのに!
「クソ…!」
――クソォォォォォォォォッ!!!!
天空に浮かぶ要塞を見て、一人の少年の咆哮が空に響いた。
ーーー
ハイエンド。
終わりの先を見据える者たち。
あの者たちが全世界に宣戦布告してから、2日経った。
世界各国はハイエンドに対する対抗手段として様々な手を打ったがどれも失敗に終わった。
そもそもハイエンド相手に普通の兵器は通用しない。
ダメージは与えられるかもしれないが…再生され、攻撃そのものが無駄になる。
必然的にAGでの戦闘を強いられるが、勝ち切ることはできない。
あくまで俺たちが戦っていたのはハイエンドの下っ端のような存在達。
本丸であるあの飛行船と変革者と言った青葉には対抗できない。
しかし諦めるわけにはいかなかった。あのハイエンドたちを倒すことでこの世界は平穏になると言われ、ハイエンドと思われる生物の殺傷及び傘下だと思われるタービュランスと桐生青葉が指名手配となった。
これが…世界の見解。
「…」
俺は薄暗い自分の私室で箱とペンダントを見ていた。
俺はどうすればよかったんだ、絶対に救うと約束したのに…!
「クソッ!!」
机を思いっ切り叩く。
手に衝撃と激痛が走る。
「春斗…」
「誰も…!誰も分かっちゃいない!椿と青葉がどれくらい苦しんだと思ってるんだ、どれほどの地獄を歩んだと思っているんだ!」
「…」
「本気で宣戦布告したいのなら、泣かないはずだろうが…あんな分かりやすい嘘なんか付くわけないだろうが…!」
俺はずっとあの青葉の顔が忘れられなかった。
今にも泣きそうでごめんねと謝ったあの時の顔が…。
「春斗」
「何だ…」
「…箱の中身とペンダントを見ませんか」
「…」
「このまま後悔してても何も始まりません…それに、私も春斗と同じ気持ちです」
「そう、だな」
煮え滾る何かを無理やり押さえつけて、箱を開ける。
カチャッと音が鳴り箱の中を見ると。
「これは?」
小さなデータチップのようなものが入っていた。
それを慎重に取り出す。
「…パソコン」
パソコンの横にそのデータチップを突き刺して中身を確認する。
音声データファイルと画像データが2つそして、『九条春斗へ』と書かれたファイルが1つあった。
「俺宛てのファイル?」
「どういう事でしょうか」
「とりあえずこれは最後だ。他のを見てみよう」
そんなわけで音声データファイルを開き、中に入っていた音声を再生。
『この音声を聞いているということは、無事に九条春斗の元へ情報が伝達出来たのかと思われます。初めまして九条春斗様。私は桐生青葉専用AIの『mother』と言います』
「専用AI?」
「ごめんなさい、私は何も…」
ということは椿が赫蝶になった後に作られたAIってわけか?
『このデータについてご説明します。まず画像データの中には飛行要塞『CASTLE』の見取り図及び内部のマップが1つ、そして二つ目にはキャッスルの攻撃手段や用いる武力が記されております。こちらは他の人への情報の共有を許します。しかし最後の『九条春斗へ』というファイルはご本人のみ閲覧ください。勿論、中にいる椿さんやクラスメイト、教員たちへの共有も禁止です』
「俺だけ、か」
「私もだめなんですね…」
どういう意図があるのか知らないが、俺にしか知らせたくない情報があるらしい。
『では九条春斗様』
――信じております。
「?」
その一言を聞いたと同時に音声は終了した。
「信じております?」
「なにかあるのでしょうか?」
「さぁ…」
とにかくまずは確認だ。
キャッスルと言われるあの空中を飛んでいる要塞の情報を確認する。
これは、凄いな。
「全7階層、コアの位置…その他もろもろが細かく記されているな」
「お、覚えきれません…」
「完全に覚えなくていいぞ、椿。データとして保存したときにいつでも焔で見れるようにする」
さて、やはり…というか思ったことが一つ。
この情報は確かなのか?ということ。
忘れているかもしれないが、この情報の提供先は今世界に宣戦布告したハイエンドたちからの提供だ。
信用に値する情報なのかと言われると、何とも言えない。
仮に本当だとしたら何故俺たちに情報を明かすのか?
そもそもそんな必要はない。共有せず黙っていればいいはずだ。
次に武装を確認する。
「うわぁ…これは」
「はい…流石に」
一言。
難攻不落にもほどがある。
詳しいデータとかも載っているが、これは…酷い。
まず攻撃できる武装についてになるが、まず砲撃。
リボルバー型のレーザー照射連装砲がキャッスル全体に装備されており、一発撃ったら回転し次の一発が放たれる如何にもリボルバーのような構造をしているのだが、一発撃った照射機はオーバーヒートするため冷却のために回転するようだ。
…普通に考えてみよう。
ハイエンドのテクノロジーははっきり言って今の世界と同等もしくは上。
そのテクノロジーで作られたレーザービームがオーバーヒートするくらいの出力で放たれるんだぞ?
多分、AGのシールドエネルギーじゃ耐えられないと思う、一瞬で塵になりそうだ。
しかもこれが1つならいい。今見る限りだと100を超える量がある。
更にミサイルやビットなど攻撃面はこの時点で絶望的だ。
そして防御面。
キャッスル全体を覆うバリア。
AGのシールドエネルギーと同じ作用を持っている。本当にきれいに丸で包んでいるが…問題はこれが何階層もあることだろう。
1枚ではなく5枚重ねられている。
…。
「無理だろうが…」
机に突っ伏す。
「こ、これは…勝ち目が無いですよね」
「あぁ、俺が知る限りの高火力はフレヤのアクセラレータ。だが…この枚数を一発で全部ぶち抜いたとしても」
「数多の武装で叩き落とされると」
「…そういう事だ」
いくらなんでもひどすぎる、勝てるわけないよォ!
…はぁ、この事は皆に言っていいのだろうか。
戦力差に絶望する人が何名か居そうだが。
「さて、次は…」
俺へのファイルは最後にしよう。
次はテンペスタから渡されたペンダント。
粗方予想はついている。多分、仕事の報酬としてタービュランスの目的について記されているのだろう。
ペンダントの横についたスイッチのようなものを押す。するとパカッと開き一枚の写真とボロボロの紙があった。
写真の中では4人の女性が仲良く笑っている。とても綺麗だ。
真ん中にいるのはテンペスタ、左右の二人はハリケーンとサイクロンだが…もう一人は知らないな、見たことない。
考えつつボロボロの紙を開く。
「契約書?」
色褪せた文字、やや薄れているが解読不能というわけではなかった。
契約者『ストリーム』って、俺のタービュランスの名前!?
いや待て、違う。俺の字じゃないし、そもそもこんな契約書を書いた覚えがない。
これは俺ではないストリームとテンペスタの契約みたいだ。
内容は…。
『貴方たちは3人は私を置いて幸せになりなさい。』
『私は一足先に消えちゃうけど、貴方たちなら大丈夫。』
『もし代わりのストリームを見つけたら、その縁を大切にするのよ?』
『ストリーム。』
と記されていた。
何があったのかは分からないが、このストリームは居なくなってしまったらしい。
…代わりのストリームか。
文字の通り俺の事なのは分かる。だが、一体何の縁が?
俺は元のストリームは聞いたこともないし、見たこともない。
本当に何者なんだよ。
「でも大雑把な目的は分かったな」
タービュランスの目的。
それは、『幸せになること』。
元のストリームとの契約に沿った目的なのだろう。
だが…どう幸せになるつもりなんだろうか。幸せの定義は人それぞれだ。
仕事こそ幸せ、安楽こそ幸せ、快楽こそ幸せ、平和こそ幸せ。
人それぞれの幸せを持ち合わせている。
タービュランスにとっての幸せが分からない以上何とも言えない、どこに着地するのかも。
「これしか分からないか」
「えぇ、ですがタービュランスが幸せを手にするために戦いに身を投じたという事ですよね」
「そうだな」
今のタービュランスはハイエンドの傘下あるいは協力者。
これが幸せなのか…?
謎は深まるばかりだ。
「さて、最後だ」
俺だけに宛てられた何か。
メッセージなのか音声なのか。
「椿、悪いが」
「はい、一足先に眠ります。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
椿は俺の中に入っていった。
…ふっと身体から何かが眠るような感覚を感じた。
あの時以来から赫蝶や椿の反応やら何やらを感じられるようになった、原理とかは知らないがな。
「よし、ファイルオープン」
ファイルを開く。
中には『計画』と書かれた動画、『信じています』と書かれた文のファイル。
俺はその動画を再生した…。
◇◇◇
『―――』
「!?」
『―――』
「…」
『―――』
春斗は動画を完全に見終わった後、そのまま次の文を読む。
「信じていますってこういう事かよ…」
「俺に――」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




