第66話 想いを込めて
次の日。
春斗が弱り、一人で泣いたという情報はすぐさま学園中に広がった。
いつも前向きでどんな困難にも立ち向かい、みんなと笑って過ごす彼が弱ったということを。
「…九条君は本日もお休みです」
1つの席だけ空いた1年1組の教室で柊木先生がそう告げる。
学園の判断としては
『彼は死と真正面から向き合い、心や身体の弱りを感じている。無理に登校させれば悪化させると見たため、落ち着くまでの間は休学とする』
とのこと。
あながち間違いではなかった。前に葵、フレヤ、アイヴィー、アナスタシア、レベッカ、水津、雪華が私室に赴き様子を確認したが…両目の隈は酷く、食事も喉を通っていないのか全身がやせ細っていた。
勿論、学園もクラスメイトも皆も彼に何かできることはないかと模索したが時間だけが流れた。
今日も何事もなく授業は終わり、放課後。
しかし、今日の各クラスには甘い匂いが漂っていた。
そう、2月14日。本日は『バレンタイン』である。
ある者は友に、ある者は想い人にチョコを贈る日。
最も、その場に想い人が居ればいいが。
「はい、アナスタシア。ハッピーバレンタイン」
「うむ、ならこちらからもこれを渡そう」
1年1組でもチョコの交換を行ったりしていた。
「…」
「心配ですかフレヤ様」
「えぇ…でも。それは貴方もですわね?」
「…はい」
お互いにチョコの交換をし終えたアイヴィーとフレヤ。
ちなみにアイヴィーの机の上には大量のチョコが並んでいる。実は学園内でもアイヴィーの騎士道溢れんばかりの行動に心を奪われた乙女たちがかなり居る。噂ではファンクラブも出来ているとのこと。
「春斗…」
◇◇◇
(私は、どうすればいいんだ…)
気にしているのは勿論春斗のことだ。
彼には…返しきれないほどの恩がある。春斗のお陰で今、私はフレヤ様とクラスメイトの皆様と笑って過ごせている。
私とフレヤ様を守り抜いたこの学園の騎士とも言える春斗は今もずっと苦しんでいるのだろう。
皆様の言っていたように彼は無鉄砲で自己犠牲も厭わない、だが勇敢で優しい。
そんな彼が…。
私はやや開いてあったバックの中にある黒い箱に赤いリボンの包装がされた箱をチラッと見る。
これは春斗に渡す予定だったチョコだ。
(渡せるわけがない…)
勿論、恥ずかしいとか緊張するとかもある。だがそれ以上にあるのが今の春斗を見たくない。
何もできない自分が嫌になってくる。私を守ってくれた誇り高き騎士が…ただ一人で苦しむ姿を見たくない。出来ることならその苦しみから解放してやりたい、苦しみを私にも分け与えてほしい。
もう、何もできずに立ち尽くすのは嫌なんだ。
「…アイヴィー?」
「は、はい」
考え込んでいるとフレヤ様が私に声をかけた。
「悩んでいるの?」
「…はい、これを春斗に渡すべきなのか」
そうして私はバックの中から春斗に渡す予定だったものを机の上に出す。
「アイヴィーもなのですね」
「フレヤ様は?」
「朝の時点で既に渡しておきましたわ…でも」
「でも…?」
「…あのような春斗さんの笑顔は初めてみましたわ」
フレヤ様からのお話によると、春斗はあからさまな作り笑顔をしていたとのこと。
その笑顔はいつものような明るく元気なものではなく、暗く酷い笑顔だった…。
「本当に辛そうでしたわ」
「…」
「もし、まだ渡したいという想いがあるなら動くべきですわ、手遅れになる前に」
「フレヤ様…」
「それに貴方と私は良い友人関係だけではなくライバルですわ。一人の騎士を取り合う、ライバルなんですから」
「…行ってきます」
私は机の上に置いたモノを両手で握りしめ、春斗の元へ走っていった。
「本当、不器用ですわね。アイヴィー…」
「…」
「はぁ…春斗さん…私はどうすれば…」
ーーー
走っているうちに春斗の部屋の前についた。
そしてノックしようとしたが…止まる。
(…)
思い出すあの弱った春斗の姿を。
『春斗さん…!?』
『み…んな、か。どうした?』
『ど、どうしたもこうしたもあるか!?何があった!』
『何が…か。はっきり言うと分からないんだ、俺は何でこうなったのか』
『春斗…』
『…聞いたと思うけど、悪い。しばらく教室には行けねぇ。御影先生と柊木先生に休めって言われたしな』
各々が春斗の姿に驚き声を荒げた。
今にも死んでしまいそうだった春斗の姿を。
…怖い。
私はもう友人を、恩人を失いたくない。
ましては想い人を…。
(いや…手遅れになる前に!)
私は自分自身を奮い立たせ扉をノックする。
『はーい』
「あ、アイヴィーだ。入っても…いいか?」
『どうぞ』
春斗の声が聞こえたのでひとまず安心し、扉を開き中に入る。
「こんにちは、アイヴィー」
「…あぁ」
今朝のあの姿は夢であってほしかったと心の中で思う。
変わらず彼は辛そうだった。
「身体は大丈夫か?」
「まぁ…ぼちぼちくらい」
「そうか…」
「…」
部屋が静寂に包まれる。
「それで…どうしたんだ?」
「あ、あぁ…えっと、だな」
春斗から要件を聞かれる。
やや答えづらくなったが…言った。
「これを」
「これは…?」
「今日はバレンタインだろう。だからチョコレートを渡そうと思ってな」
「…」
「どうした?」
「いや少し意外だなって思っただけだ。とにかくありがとう」
そういって春斗は『笑った』。
あぁフレヤ様が言っていた笑顔は『これ』だったんだな。
私も知っている、春斗の笑顔を。
だが…ここまで見ていて辛い笑顔があっただろうか。
「…春斗」
「ん?」
「何故お前は…そこまでして戦おうとするんだ」
私は彼にとっても酷いことを聞いているのかもしれない。
だが聞かなくてはならない。春斗の事を。
「俺は家族や友人たちの為に戦う。もう二度と失わないために」
「…」
「そのためだったら俺は自分の命すら捨てるよ。元カノすら守れなかったこんな命くらい」
「…」
春斗の言葉には重み、そして恐怖のような物が感じ取れた。
雪華さんや春斗本人からも聞いている、俺は元カノすら守れなかった化け物だと。
…私だってそうだ。
元は私もフレヤ様を守るためにこの学園に来たんだ。
私にとっての光を二度と奪われない様に。
春斗が居なければ私はこの場にはいない。それにフレヤ様も笑って過ごせていない。
だが…お前は今笑えているのか?
フレヤ様を守った時のように。私を守ってくれた時のように、みんなを守った時のように…。
(お前は…今、笑えてるのか?)
私はそんな作り笑いなんぞ見たくもない。
自然と出てくるお前の笑顔と明るいお前が…好きなんだ。
なのにお前は…平然と自分を捨てる。
私よりもお前の方が立派な騎士だ。
「…春斗」
「うん?」
私は春斗の手を握る。
今までならこんなことは出来なかった。男が嫌いな私に取ってこんなことをするくらいなら自分の手すら切り落とすくらい。
でも…こうでもしないと離れていきそうなんだ。
私にとってのもう一つの光が。
「…死なないでくれ…!」
自然と私の瞳からは涙が零れた。
「あ、アイヴィー!?」
「頼む…死なないでくれ!もう、私は…私は…!」
「アイヴィー…」
春斗が私の手を握り返してくれた。
力が無くなっていようとも、私を励ますかのように力を込めている。
(何故、なんだ。何故、春斗がここまで苦しまないといけない。何で…神は春斗を選んだんだ…!!こんなにも…こんなにも)
春斗は今まであってきた男性の中でも優しく、誰にでも手を差し伸べるような人だ。
そんなお前が…私は好きなんだ。
(春斗…!)
居なくならないでくれ。
◇◇◇
「…」
『春斗…』
アイヴィーを落ち着かせ、俺がいつも寝ている物とは別のベッドに寝かせ、椅子に座る。
「そろそろ…かもな」
俺は上に来ていた上着を脱ぐ。そこには、夥しい量のヒビと黒く変色した皮膚があった。
正直、限界が来ている。
AGはまだ乗れるが俺の身体が先に壊れてしまいそうだ。
でも戦いを止めるわけにはいかない。
「椿の方は大丈夫か?」
『はい、むしろ今まで以上に元気です。恐らく』
「俺の生命エネルギーを吸っているから、か?」
『…はい』
前にもあった自壊と症状は同じだ。AGのエネルギーのみならず俺の生命エネルギーすら吸いつくそうとする。しかも椿自身もどうすることもできない。
今でも疑問に思うが何故一定期間、AGが無いのにも関わらず自壊が起きなかったのだろうか。
そして…俺にはまだ救えていない人物がいる。
椿の妹である青葉だ、あれから連絡がない。着信の通知を見るが…全て知り合いや学園の人、そして爺さんや婆さんからだった。
『とりあえず身体を休めましょう』
「そうだな…」
そうしてベッドにまた寝っ転がる。
こんな何もできない日々が終わると信じて。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




