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インフィニティ・ギア  作者: 雨乃時雨
第三部
63/122

第61話 前途多難な一日

皆様お久しぶりです。作者の雨乃時雨です…。

本当にお久しぶりです(二回目)…パソコンは直ったといえば直りましたがモチベーションダダ下がり状態が今だ継続中でして、書き切れないんですよね。

とりあえず書きますが『なんか違うな』となって消すみたいなことを繰り返していました。

現状、まだモチベーションが戻るかどうかの目途は立っていませんがこれからも頑張って書いていきますので応援をなにとぞお願いします!

俺がIGD学園に帰ってきてから半月経ち、一月末。もうそろそろ二月に差し掛かろうとしている。

その期間中ずっと勉学やら訓練やら俺の身体についての資料を読み漁ったりしていた。

ぺらぺらとめくり俺の身体についての情報に目を通す。今いるのは自分の部屋だ。


「…」


軽くお茶を飲む。

改めて思うが俺の父さんと母さんは偉大だった。

インフィニティ・ギアやアーマーギアを作り上げた天才の凄みってやつを感じる。


「にしても、『人体の活性化』ねぇ…」

「結構思い当たる節がありますよね」

「あぁ」


この書類を見て一番最初に知った情報。俺の肉体の活性化。

常人には出来ない肉体のリミッターを外すようなモノ。

俺の身体はこのリミッターを外すことが出来る。もちろんリミッターを外す行為自体、身に覚えがないわけではない。むしろ覚えしかない。

元カノを助ける時の戦いや、俺の記憶にないゼフィルスの破壊、正面からほぼ生身でAGに力で勝ち、赫蝶の力を使いつつモノレールを止めたりした。

何より活性化条件を見て直ぐにやっぱりかと思った。

俺の肉体の活性化条件は『渇望する』事。

助けたい、守りたい、負けたくない。

心の底から願い続けた結果、肉体が答えるといった感じだろう。


「AGの活性化も出来ますしね」

「本当何でだろうな?」


ただ俺がAGを活性化できる理由等は何もなかった。

恐らくだけどそれを決定的にする証拠やら化学的根拠が無かったのだろう。

他にも疑問点はいっぱいある。

何故俺は人の動きを見て学び活かせるような力があるのか、何故赫蝶を使役することが出来たのか、そして何処の何という所が俺を腕を引きちぎり家族を殺したのか。

特に後半、ぜってぇ許さねぇ。

見つけた瞬間、一発…いや十発くらいぶん殴らないと気が済まん。


「はぁ…」

「大丈夫ですか?」

「少し疲れた」

「ですよね、IGD学園に戻ってきてからは頭や身体に技能やら知識やら詰め込んで更には補強された身体の秘密などなど」

「俺にしては頑張ったほうだ」


椅子に座りながら身体をぐーっと伸ばす。

今日は学園は休み、訓練は元々休みにしてあるし資料にのめりこむことが出来る。

資料から得られる成果は少ないがな。


「…」


俺の右腕を見る。

人のような肌色、浮かび上がっている血管、自分の腕のように動く感触。

本当にこれがナノマシンなのか?

と考えていると俺の携帯電話が鳴り響いた。


「?」


相手は…不明?

いたずら電話的なアレか?学園の人ならビジョンシステムの通信アプリでいいしな。

家族や友人とかなら登録してある電話番号や通話アプリでいいし。


(無視でいいな)


携帯を机に置いて再度書類に目を通す。

プルルルルとまた鳴り響いた。

…やっぱり相手は不明。


「メンドクサイな…」

「出ます?」

「一応出るかぁ」


嫌々、電話に出ることにした。

応答ボタンを押して携帯を耳に当てる。


「…」


相手からの返答はない。いたずら電話かはたまた何かの組織か…。


『…九条春斗ですか?』

「!」


携帯から声が聞こえてきた。

声色的に女性だ、あと多分かなり若いと思う。

返事はしない。


「…」

『もしこの電話が…繋がっているなら…明日の夕方辺りに指定する座標の場所に来てください』

「…」

『その場所に来てくだされば…』


と気になるところで通話が切れ、差出人不明のメールから座標が送られてきた。

メールに記載されている座標を調べると、明日丁度俺が行こうとしていたショッピングモールの地下の駐車場。

しかもご丁寧に階数も指定か。


「椿、どう思う?」

「…」

「椿?」


相手の様子を考えつつ椿の意見を聞こうとしたが、ぼーっと俺の携帯電話を眺めていて返事がない。


「どうした椿」

「い、いえ…何でしょう、変な気持ちがありまして」

「変な気持ち?」

「こう…懐かしいというか何というか」

「?」


相手の声に対して懐かしいと感じたのか?

先に言っておくが俺の知り合いの声じゃない。年下にも知り合いは居るが殆どは電話帳に登録してある。

まぁそんなことよりも椿が懐かしいと感じたのであれば先程電話をかけてきた相手が椿の過去に関係する人なのかもしれない。

行くべきか…?


「椿」

「ど、どうしました?」

「明日、元々俺は外出する予定だし会いに行こう」

「罠の可能性もありますが」

「分かってる。でも初めて椿が懐かしいと感じた声ならばその相手に会えば何かを思い出すかもしれないだろ?」

「…そうですね、可能性は何とも言えませんが」

「賭けてみる価値はあるぞ」


相手がどんな奴か分からないが…最新の注意をはらって会うこととする。

最悪、戦闘になる可能性もあるからな。


「一応、私の方で指定された地下駐車場の形状や脱出ルートなど調べておきます」

「ありがとう」


ーーー


そんなわけで時間は過ぎていき…日は落ちて月が昇り、また日が昇った。

現時刻は10時30分。

実は今日の予定は元々決まっていた。今日は服とか日用品の買い出し。

シャンプーやら洗剤やらそろそろ詰め替え用も買わないといけないくらいまで無くなってきていたからな。

…正直学園の購買部で買った方がいいかもしれないけど、特に今の学園でも買えないものがある。

洋服だ。流石に市販の洋服を扱うほどIGD学園の購買部は大きくない。

そんなわけで服と一緒に日用品も買っちゃおうと思ったわけだ。


「うーん…」


何かよく分からないけど今日はセールしている日だった。

割と値段も安いし、デザインも良いんだが…サイズが無い。

俺の身長は182cm、あと自慢じゃないが少し足が長い。あと学園の訓練の賜物かやや筋肉がついてきているのでズボンとか服がパツパツになりやすくなっていた。

もうさっきから試着とサイズ探しを繰り返してる。


『この店には春斗のサイズは無いのでしょうか』

「かもな…はぁ、よりにもよって服もか」

『服も?』

「あぁ。服選びにもサイズっていうのが邪魔してきたかって。なんなら靴もだぞ?俺のサイズがない」

『あー…』

「…しょうがない、他の店回るか」


渋々店から退店し、別の洋服屋に足を運ぶ。

この店もセールをしていて値段等も結構いいのだが…デザインが少し好きじゃない。

うーん、悪くはないんだがな。俺の好みの違いというか…。

てか、最初に寄った洋服屋は人気店だった。無かったのは俺の服のサイズは売り切れたんだろう。クソ、もう少し早く来ればよかったぜ。

また退店しエスカレーターを下っていき、歩く。


「次は…こっちか」

『…春斗』

「うん?」

『二人ほど付いてきています』

「え、マジ?」

『はい』


次の店へ歩いていると椿が俺に告げる。

二名か。


「一応聞くけど、IGD学園の関係者?」

『いえ、関係ありませんね。初めて見る顔…というより男性に二名です。片方はガタイが良く体格は大きめですがもう一人はややひ弱そうな見た目をしています』

「…」


男性二名か。

まぁIGD学園の関係者なら先に俺に連絡が来るはずだし、男の関係者を俺は知らん。

となると研究者、あるいは今日会う女の子の関係者か?


「まくべきか」

『ちょっと待ってください。春斗、逃げなくてもいい可能性があります』

「急にどうした?」

『春斗は見えてないと思うのですが、二人の格好です。ガタイの良い方はかなりお洒落でもう片方はカメラを持っています。それも高そうなものを』

「尚更謎が深まるんだが…」


と会話しているうちに店についたので散策を開始する。

マネキンに着せられている洋服を軽く見つつ値段も確認。

…あー、俺の真後ろに二人いるな。何というか気配を感じると思ったと同時に声をかけられる。


「あー、君?少しいいかしら」

「は、はい…」


うぉっ…確かにガタイがいい。筋肉質で来ている服のチョイスも今のシーズンにぴったりと合う色合いで滅茶苦茶お洒落だ。化粧も綺麗。


「急にごめんなさいね?ちょっと君に頼みたいことがあるの」

「え、えっと…どちら様ですか?」

「あら、私としたことが」


と少しオネエっぽい口調のまま胸元から…名刺を出して俺に渡してきた。


「こういうものなんだけど」

「『ポラリス』…え、ポラリス!?」


このポラリスというのは今人気絶頂のファッション雑誌の出版社の会社だ。

五十嵐 信之(いがらし のぶゆき)』…ちょっと流石に人名等は分からないが何故俺に?


「な、何用ですか?」

「そうね…移動しながら説明でもいいかしら?」

「は、はい…」


五十嵐さんに言われた通りついていきつつ、何故俺に声をかけたのかを聞かせてもらった。


「モデルですか?」

「そうなのよ。実は今回のポラリスの雑誌は今のシーズンで流行りの男女の服の写真を撮る予定だったんだけどね…この子知ってる?」

「あ、はい。舞薗(まいぞの)キアラさんですよね。よくテレビとか雑誌とかで見ます」

「今回女性のモデルがこのキアラさん。それで男性の方なんだけどね?まだ来ていないのよ」

「…?」

「はっきりと言うと撮影開始時間になっても音沙汰無しで来る気配もなし。しかもこれが初めてじゃないから男性の方のマネージャーにも結構厳しく言ったけど…無理そうなの」

「はぁ…」

「でも貴方を見た瞬間ビビッと来たのよ!だからこそ、モデルとしてお願いできないかしら」

「う、うーん…」


正直言わせてほしい。

俺には…荷が重い!!さっきも言ったがポラリスというファッション雑誌はマジで人気なんだ。俺も時々買う。

そんな人気なやつに俺がモデルとして出れると思うか?

否。無理だ。

自分の容姿に自信がねぇよ…。

でも…困ってそうだし、助けてあげたいのも山々なんだよな。


『春斗、やってみてはいかがですか?』


頭の中で椿がそういう。


(む、無理があるだろ!?助けてやりたいけど、流石にこればっかりは…)

『でもそれでいいんですか?』

(え?)

『どんなことにも挑戦ですよ、こういう刺激的な体験が今後に生かせるようになるかもしれません』

(…理にはかなっているけど)

『それに…仮にこれで男性のモデルがおらずポラリスの新作の雑誌に何かしらの影響が出るのも嫌じゃないですか?』

(た、確かに…なら、しょうがないか)


俺の頭の中の脳内会議の結果、手伝うことにした。

自信はないけどねぇ!!


「分かりました、俺に何かできるなら喜んで手伝います」

「本当!?」

「は、はい…」


俺の両手をぎゅっと握りしめられ、若干圧を感じつつも俺はこの手伝いを承諾した。

五十嵐さんの後をついていき付いた場所はショッピングモールの中心部分ともいえる場所。モニュメントやら噴水やら色々ある所だ。

そして、控室?のようなところに連れていかれ、用意されていた洋服に着替える。


「ぴ、ピッタリだ…」


自分でも驚くくらい洋服のサイズがピッタリだった。


ーーー


パシャパシャとカメラのシャッター音とフラッシュが俺を襲う。

正確にいえば『俺ら』だな。


「いいわよ、二人とも!!すごくいいわ!!」

「…」

「その…大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です…」


ある意味着せ替え人形とかしている自分自身への羞恥心…でいいのか分からないが滅茶苦茶恥ずかしいし、心臓が緊張のあまり鳴っている。

写真には俺の顔がどう映っているのか分からないのも中々に怖い。

それとね?超ド近距離に舞薗さんがいるんだぞ!?写真でしか見たことなかったけど、こう生で見ると際立つ美しさってあるよね!

ファンじゃないけど、綺麗すぎて直視出来ねぇんだよ…!

お、落ち着け…俺はド素人のモデルだ。今までにやったことはない。だが迷惑をかけるわけにはいかない。

心頭滅却、そうだ、心頭滅却すれば火もまた涼し。


「結構撮れたわね、一度休憩を挟みましょうか。あ、あと舞薗ちゃんと君はちょっとこっちに来て」


心臓の鼓動を抑え、心を殺してモデルに望んでいるうちに時間は過ぎていき休憩を挟むことにしたそうだ。

あぁ…しんどいな。それに比べて舞薗さんは本当にすごい。

パッと見俺と歳は変わらないはずなのに、正面から仕事に望んでいる。

…俺も緊張している場合じゃない。きちんと頑張らないと!


『様になっていましたよ、春斗』

「…若干皮肉に感じるのは気のせいか?」

『いいえ、ちゃんとカッコよかったので』

「そうか…」


椿の発言が褒めているのか馬鹿にしているのかも分からないくらいまで疲弊していたようだ。

近くのベンチに座り、どーッと力を抜く。


「お疲れ様です、こちらをどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


と先程声をかけてきた五十嵐さんではなく、その近くに居た男性からコーヒーを頂いた。

軽く飲むとカフェオレのようだ。糖が全身に染み渡る…。


「ふぅ…」

「疲れました?」

「えっ!?あ、えっと…少しだけ」

「ふふっ、そうですよね」


俺の隣に座ってきた舞薗さんがそう言った。


「いや…本当に舞薗さんってすごいんだなって思いましたよ」

「褒めても何も出ませんよ?でも、今の貴方の気持ちは分かります。私もモデルとしてお仕事を始めたころは緊張しっぱなしでしたし」

「え、そうなんですか?」


何というか少し意外だ。


「…最初は結構ぎこちない笑顔やミス等もありましたけど、五十嵐さんたちやファンの皆様に支えられてここまでになりましたし」

「…」


と綺麗な笑顔を俺に向けてくれた。

…思えば今俺と舞薗さんは休憩しているが先程の五十嵐さんなどを含めた皆さんはまだ動いていて何か話し合っていて、ギャラリーとして集まっていた人たちも舞薗さんに携帯を向けて撮っているのだろう。

こういう人たちに支えられたんだろうな、舞薗さんも。

でも。


「やっぱり舞薗さんも凄いと思います。こうやって休憩している間に俺にも声をかけてくれましたし」

「そうですか?」

「はい、いつも雑誌買っていますしちょっといつもと違った景色も見れるので」


改めて思う。あの雑誌一枚に舞薗さんのプロモーションや五十嵐さんを含めた皆様の努力の結果がつまっているんだと。

どうすれば売れるのか、どうすればうけるのか、最近の流行は?最近の流行りのファッションは?みたいなことを話し合って場所を決めてどのように撮る…とかね?

本当にすごい、尊敬する。


「あ、それと話しかけたのは理由があるんです」

「?」


どうやら俺に話しかけてきたのには理由があるみたいだ。


「その、何処かでお会いしました?」

「え?」


急に言われた。何処かで会ったことがあるかと。

いや…無いはずだ。仮に舞薗さんがIGD学園に来たことがあったとしても学園祭はまともに回れてないし、演劇祭も俺は途中で消えたし…。

まさか、京都にいたとか?


「いや…心当たりがありません」

「うーん、貴方を何処かで見たことがある気がするんですよね…お名前を聞いても?」

「あぁ、えっと」


名前を答えようとした所で。


『春斗、どうやら来たみたいです』


椿が何かが来たことを俺に報告する。


(来たって何が?)


と頭の中で椿に返事をしていると舞薗さんの表情が少し曇り、五十嵐さんや他のスタッフの皆さんも舞薗さんと同じように顔が曇る。一部、迷惑そうな呆れたような表情になっていた。

その表情の矛先を見ると一人の男性がいた。

歳も俺と近い気がする。金髪で男としてもかなり体格もよく足が長い。

まぁ明らかにモデルだろうが…この人か?五十嵐さんが言っていた人は。


『春斗、この人で間違いないです』

「何で分かるんだ?」

『…あの人の携帯電話に侵入してみました』


小声で話しながらもしれっととんでもないことをしてるな、椿と心の中でツッコむ。


「それで、何かわかったのか?」

『えぇ、色々と。それと春斗』

「?」

『不本意ですが舞薗さんを守ってください』

「何で不本意…?てか何でさ」

『アルバムや連絡の履歴などを調べ上げた結果、舞薗さんを含めた様々な女性に付きまとっているようで』


クソ野郎じゃねぇか!?えぇ、勿体ない。

顔とかビジュアルも結構いいのにな。


(守る…ねぇ)


軽くその人を見ていると舞薗さんを見つけたようでこちらに向かって歩いてくる。

舞薗さんもそれに気が付いたのか立ち上がり、やや後ろへ後ずさりする。

何処まで付きまとったんだコイツは…。


「ちょっと待ちなよ」


うわ、声も結構いいのに…。

よく見たら五十嵐さんも止めにかかろうとしているが動きが止まっている。止められない理由があるのだろう。


(…俺が行くしかないか)


椿に言われた通り立ち上がり舞薗さんとその男の人の間に立ちふさがる。


「え?」

「誰、アンタ?」

「軽くモデルの手伝いをお願いされたモノだ、どっかの誰かが遅刻したみたいでね」

「あっそ、じゃあ俺が来たからアンタは帰っていいよ」

「へぇ?やっぱりこういう界隈でもお前みたいなやつっているんだな」

「は?」

「いやなに。確かにビジュアルとか声とか顔もいいのに、それにすがって調子に乗って迷惑とかそういうの顧みないやつ」


満面の笑みで言ってやったぜ。

…何か、皮肉とか使うのが上手くなった気がする。


「何?何様なの?」

「ただの一人の一般人として…ね」


一般人じゃないけどねぇ!!それ以前に人じゃねぇし!


「…退けよ」

「断る」


やや苛立った声が俺に向けられる。それと同時に舞薗さんに危害が加わらない様に左手を横に出し、後退させる。


「邪魔なんだよ!!」


そのまま走り出し、右手を握りしめて俺に殴りかかってきた。

IGD学園の対AG用の訓練の成果が出てきてるかも。止まって見えるってこういう事なんだな。

その止まって見える右ストレートを片手で握りこむように受け止める。


「なっ!?」

「…いきなり殴りかかるなんてこともあるのか」


握りこんだ手をパッと放して、男性の右手首を掴みこちらに引き寄せそのまま背負いこみ背負い投げ。


「がっ!?」


背中から床にたたきつけた。もちろん、少しだけ手加減はしたぞ。


「舞薗さん、下がって」

「えっ…?」

「貴方が後ろに後ずさるのが見えたので、もしかしたらと」


そういうと、そのまま五十嵐さんの方へ走っていった。

ってことは椿の情報は本当ってことか。まぁ疑わなかったけど、俺の相棒の情報とか100%合っているしな。


「て、テメェ…!」

「椿、どうすればいい?」

『そうですね、とりあえず無力化しましょう。出来る限り傷を負わせないように』

「了解」


床に這いつくばり立ち上がってまた俺に走りこんで来た。

愚策が、と一瞬思ったが


(…?)


走りこみながらポケットの中に手を突っ込んでいる。

あー、分かった…俺は構える。

そして予想通り銀色の輝くモノが見えた瞬間、右足のキックでそれを払い、左足の裏回し蹴りで足を狙って転ばせる。

男性が転んだと同時にやや遠くでカランと音が鳴った。


『やはり、ナイフを持っていましたか。しかしよく分かりましたね?』

「まぁな。IGD学園で訓練していれば隠し刃くらい予想着くさ」


俺の予想通り取り出したのはナイフだった。

怖すぎるだろ。


「な、何でだ…!」

「止めておけ、これ以上自分自身の人生に傷を付けたくないのなら今すぐ投降したほうが身のためだ」

「くっ!!」


俺の言葉が届かなかったようで、また懐からナイフを取り出し投げつけてきた。

流石に予想外で躱しきれず、頬に少し切り傷が出来てしまった。


「本当に愚か、ですね」

「は?」


急に俺の身体中から赫蝶が飛び出し、形を形成していき椿が表に出てきた。


「つ、椿!?」

「何ですか?」

「何で出てきた!?」

「逆に聞きますが相棒が傷つけられて我慢できるとでも?」

「…何も言えない」

「それより」


椿はナイフを投げてきた男性を凝視する。


「コイツ、どうしてやりましょうか。舞薗キアラさんを含めた様々な女性に付きまとい、この仕事も遅刻し更には相棒を傷つけたコイツを」

「怖いぞ、椿」

「春斗も怒ると大体こんな感じですよ」

「マジ…?」


少し驚く。

俺って怒ったらこんな感じなのか…?


「な、何者だよ…!?」

「俺の名前は九条春斗、まぁ覚えなくていい」

「九条春斗って…まさかあのニュースの!?」

「ご存知か、まぁいい。個人的にお前には怒りたい部分があるしな」


と言いながらその男の前に座り、言った。


「別に俺に傷を付けようが知ったことはない。だがな、無関係の人間を傷つけようとし、更には付けまとうような迷惑極まりないその行動は許せん」

「は、はっ…?」

「五十嵐さん、コイツはどうすれば?」

「え、あぁ…もう終わりね、証拠としてこちらも撮影してましたし凶器を持ち歩くようなモデルとは契約できないわ」

「…だとよ」

「く、くそっ!!」


と勢いよく立ち上がり脱兎のごとく走って逃げ去っていった。

後悔するならこんなことをしなければよかったのにな。


「春斗、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。それより早く戻れ、舞薗さんより目立ってどうする。此処にいるファンの人たちは舞薗さんを目当てで来てるかもしれないんだぞ?」

「…むー」

「そんな不貞腐れるなよ…」


嫌そうな顔をしたが俺の身体の中に戻っていった。


「ふぅ…」

「九条春斗さん」

「は、はい」

「本当にありがとうございました!」

「へっ?」


舞薗さんに後ろから急にお礼を言われた。


「何処かで見覚えがあった理由が分かりました、あの京都の事件の際私たちもあの場にいたんです」

「はぁっ!?」

「九条君が知らないのは当たり前。丁度あの時私たちは京都で撮影してたのよ、そしたら急に避難誘導が起きて避難したら、君が私たちを助けてくれたからね」

「そ、そうだったんですね…」


こんな偶然あるのか…。

もしかして思った以上にこの世界って狭いのか?


「ってそうだ、九条君」

「は、はい!」

「個人的には色々お礼したいところだけど、1ついいかしら」

「何でしょうか?」

「君、IGD学園出身よね?卒業した後、なりたいものはあるかしら」


卒業した後なりたいもの…。

思えば将来の夢なんてまともに考えたことがないことに気が付いた。


「今のところは特にありませんが…」

「よかったらなんだけど、この仕事続ける気はないかしら?」

「え?」

「もちろん、在学中は無理も承知よ。でも貴方には華があるの、きっとこの業界が向いていると思うわ」

「…」


この業界…というよりモデルとしてどうかという事か。

正直、今日の撮影は楽しかった。色々と経験になったし。でも…。


「五十嵐さん。撮影を含め様々な事をありがとうございました。もちろん、誘いも含め嬉しいのですが…モデルとしても技能を何一つ持ち合わせていない俺なんかが勤まるとも思いません。ですので…」

「ふふっ、真面目ね」

「え?」

「やっぱり君はあの時と同じように正義感に溢れて優しい青年ってことがわかるわ。私もあわよくばみたいな感じで誘ったから断ったことをそこまで気に病まないでね?」

「わかりました」

「それはそうと、今回のお礼を渡さないとね」


五十嵐さんがそういいながら後ろへ手を伸ばした。

その先にある机の上に、如何にも高そうな店の袋が三つ並べてある。


「それは?」

「今回のお礼よ。確かIGD学園はバイトとかで金銭を受け取ることは許可がない限り禁止って規則にあるわよね?」

「そ、そうですね。賄賂やら何やらと間違う可能性や金銭の受け取りによる脅迫などもあり得るらしいので」

「そんなわけで、今回のお手伝いの報酬は『洋服』として渡すわ。はい、これ」

「わわっ」


両手に先程の袋を握らされる。


「で、でも…受け取れないですよ。そこまで大層なことはしてませんし」

「ダメね、九条君。仕事をした者にはそれ相応の報酬が払われるのが社会の常識よ。遠慮なく受け取りなさい」

「…分かりました、本当に今日はありがとうございました」

「こちらこそ、手伝ってくれてありがとね?」


遠慮はしたが、そういわれると受け取らざる負えない。

五十嵐さんを含めた今回のお手伝いの報酬を頂いた。


「とりあえず撮影も終わったことだし、撤収するけど九条君は?」

「俺はこの後寄らないといけないところがあるのでこのまま向かいます」

「分かったわ、本当に助かったわ」

「こちらこそ、楽しかったです」


もう一度挨拶をしたのち俺は撮影現場から離れ、エレベータに向かって歩き始めた。

目指すのはこのショッピングモールの地下駐車場。

何が待っているのか、はたまた何者が待っているのか。

ほんの少しのわくわくと警戒心を持ったままエレベーターに乗り込みボタンを押した。

ーーー


「ふぅ…何とかギリギリ終わったわね。もうすっかり夕方よ」

「そうですね」

「でも心残りは残るわねぇ…。九条春斗君、彼ならたちまち人気モデルに昇りつめられるというのに」

「五十嵐さん。それ、ずっと言ってますね」

「それくらい惜しいのよ」


誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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