第58話 緑と過去
(…?)
そして何もない真っ暗な空間を落下していく。
さっきの広場でここまで落下する大穴が急に空いたとは考えられないし、なんだこれ?
(体は動く、でも赫蝶の声も聞こえないし何も見え…うん?)
何も見えないまま辺りを見回すと、一寸の緑色の光が見えた。
その光は俺に近づいてくる。
何故か俺はその光に右手を伸ばす。何かをつかんだような感覚が頭に伝播した瞬間目の前が光で包まれ…。
「…は?」
よくわからない実験施設?で目が覚めた。
「いや、見覚えがあるぞここ」
この真っ白の壁と床に身に覚えがあった。
確か、レベッカとの任務の時に大量の赫蝶を取り込んだ時に見えたアレに似ている。
てか思えばここ施設の中だな、ただ職員…っていえばいいのか?その人たちは俺に興味を示していないように歩いていく。
いや…俺が見えていないのか?
気になったので目の前で何かの書類を目がめている人の前で手をぶんぶん振ってみたが…反応がない。じゃあ次、両目を俺の手で覆ったが変化なし。
マジで俺のことが見えていないみたい。
「うん?」
すると、赫蝶と『緑色の蝶』が横切った。
緑色の蝶は初めて見たぞ?
でも、なんと言うか羽が刺々しい。
とりあえず、前の花畑と同じように蝶について行こう。
…この研究施設は何なんだ?
病院っぽいが何か様子がおかしい。雰囲気が…ねぇ。こう、怪しさ満点というかなんと言うか。
蝶について行っているうちにエレベータに乗り込む。
エレベーターのスイッチを確認して階数を確認する。地下階はなしで最上階が20階。んで俺が乗り込んだのは1階。そしてこのエレベーターは下に向かっている。
地下はないはずなのに。てか、勝手に動いているんだが?俺はスイッチに触れてないぞ?
考え込んでいるうちにエレベーターは止まった。
扉が開き蝶と一緒に出る、その先の光景を見てしまった俺は。
「こ、これは!?」
一歩後ろに下がる。
あまりにも想像を絶する光景だ。
窓ガラス…いや、ケージのような部屋の中には俺よりも若い子供たちが入っていた。
パッと見5とか6歳くらいに見える。
しかも、血だらけだ。
そんな状態でもその中を見つめる科学者たちの表情は変わらない。まるでモルモットを見ているような、そういう冷たい目だ。
…身の毛がよだつ。
「この先…か?」
蝶たちは進む。前へと。
左右を見てもどの子供たちも苦しみ、血に濡れ、者によっては倒れピクリとも動いていない。
何なんだよ…この場所は!!
こんな…地獄じゃ言い尽くせない場所は!!
誰か、助けてやれよ!!
と叫びたいが…叫んだところで届かない。
今の俺には赫蝶と緑色の蝶が導く先のものを見届けることしかできない。
できる限り付近を見ないようにする。あの子供たちを助けることができない自分が惨めになるだけだ。
「…ここか」
二匹の蝶は空中にとどまり、最奥のケージに俺を導いた。
白衣を着た連中はいない。人気もない。
そして俺は注意深くケージの中を覗く。
(!!!)
そこには『緑色の蝶を纏った少女』が。
赫蝶の少女の時の見た目と瓜二つだ。めちゃくちゃ似ている。
…泣いている?
『私の…せいだ…』
『私が…守れなかったから…!!』
弱弱しい拳で床を殴りつける少女。
その姿はまるで昔の自分自身のようだ。
守れず、結果も変えることもできなかった自身の無力さに怒る。
そんな俺に。
「…」
すると緑色の蝶は俺の左手に止まり、パァッと塵となり消え、バッと景色が切り替わり彼岸花の花畑に変わった。
「おはようございます、春斗」
「…あぁ」
「どうしました?」
「いや…中々におぞましいものを見ただけだ」
あの光景はできれば二度と思い出したくない、俺が見てきた物の中で一番おぞましい。
悪夢の類じゃ済まねぇぞアレ…。
「それであの後、どうなったんだ?」
「春斗が疲労で気絶したのち病院に運ばれることになりましたが、私が春斗の身体を動かしIGD学園の宿泊施設のある部屋に避難させました」
「え、なんで?」
「病院では狙われてしまいます、命や春斗の人生も」
「…すまんな、手間をかけさせて」
そうだな、人間じゃない俺は研究者にとっても喉から手が出るほど欲しいサンプルだろう。
「いいんです、今は旅館の一室で寝ております」
「なら安心」
「それとかれこれ春斗が気絶してから軽く5時間ほど経ちました」
「そんなに経ったのか、ならそろそろ目覚めたほうがいいかもな」
「いや…流石に止めたほうがいいと思いますけど?」
「何で?」
「外傷は出来る限りこちらのほうで治しましたが、肉体の疲労はまだ回復しきっていません。恐らく目が覚めても動けないかもしれませんよ?」
「それでも、だ」
ーーー
目を開ける。
身体中に重りがつけられたような疲労感が襲う。
赫蝶の言った通り動けなさそうだ。いや、無理やり動かせば動けないこともないが…。
「ぐっ…いてて」
無理やり身体を起こす。
全身包帯だらけだ。あと…何だっけソナー?心拍とか脳波とか見るやつ、アレもあった。
「赫蝶」
『はい、どうしました?』
「俺の自壊ってどうなったんだ?」
『焔が帰ってきたので今の身体に自壊の兆候はほぼありません』
「そうか…でも、俺は退学しているから焔は返却しないと駄目じゃないか?」
『そこなんですが、どうやら違うみたいです』
「?」
俺の体から赫蝶が飛び出し、机の上におかれていた紙をこちらに持ってきてくれた。
重い左腕を伸ばし、紙を受け取り内容を読む。
「在学許可証…?」
軽く中身を通すが…薄暗くて読めない。
今ある明かりは月の光しかないんだが。
「赫蝶、電気をつけるスイッチって何処にある?」
「ここだよ、春斗君」
パチッという音が鳴り部屋に明かりが灯る。
音が鳴った方向を見ると柊木先生、御影先生、雪華さんが居た。
「目が覚めたようだな」
「はい…それより大丈夫でした?」
「何がだ?」
「いや、いくら緊急時とはいえ結構ド派手に戦いましたし、被害とかその辺…」
「はぁ…その辺は変わらずでいいがもう少し自分のことを考えたらどうだ?」
「…?」
「被害はゼロだ。赤い蝶を纏った青年がモノレールを受け止め、AGを装備し元凶を倒したからな」
そっか、良かった。
「それでですね九条君、その書類とこれを」
すると柊木先生が俺の枕元に何かを置いた。
それはIGD学園の制服だった。しかも男用の。
「何故制服を?」
「九条君の退学処分は不正であると判断されたからですね、第三者からの圧力もありましたし。というわけで再びIGD学園に在学することが可能になりました」
「えっ!?」
「既に九条君のお爺さんとお婆さんには話してあります、答えとしましては九条君の判断に委ねるとおっしゃっていました」
「…」
俺の答えは決まっていた。
「戻りたいです、もう一度みんなと一緒に」
戻りたい。もう一度みんなと一緒に笑いあって話し合って楽しく過ごしたい。
「わかりました、ではこちらで再度入学手続きを進めておきますね」
「ありがとうございます」
「さてと、九条。とにかく今は休め、傷は癒えているとはいえ無茶をしでかしたのは確かだ。旅館の温泉も自由に使っていいが女湯には入るなよ?」
「あ、当たり前ですよ!?」
「では柊木先生と私は事後処理などがあるから早めに休ませてもらおう。ではな」
「わ、分かりました…」
柊木先生と御影先生が部屋から退出した。
だが…雪華さんは俺の横に座ってから動いていない。
じーっと俺の顔を見つめている。
「えっと…雪華さん?俺の顔に何かついていますか?」
「何もついてないよ。ねぇ春斗君。お姉さんは今めちゃめちゃ怒ってるのよ?」
「へ?」
反応したと同時に雪華さんが俺の上に跨り両手が俺の頬に添えられる。
「ちょ、ちょっと!?」
「春斗君、覚えてる?君が生身でAGと戦う訓練をしているときに私が言ったこと」
「…覚えてないです」
「はぁ…あのね?君は自分自身の存在の大きさを過小評価しすぎ。普通居ないよ?生身でAGと戦ってレーザーを受け止めてクラスメイト達の為に自分の人生を投げ出すの」
「でも」
「今はお姉さんのターン。君からしたら当たり前の事をしているなんて思ってそうだけどその『当たり前』は私たちにとって辛い物なの。君がこの学園から去ったとき立て直すのにどれだけの労力を賭けたのか分からないでしょ?本当に辛かったんだから…私もね」
雪華さんの表情が一気に暗くなる。
「…雪華さん」
「でも…戻ってきてよかった」
「ちょっ!?」
両頬に添えられた手が滑っていき俺の背に回り抱きしめられた。
「心配したんだからね?」
「す、すみません…」
こういう時どうすればいいのかよく分からなかった。
でも俺は重い両腕を動かして雪華さんを抱きしめ返した。
本能なのか分からないけど…こうすればいいのかなって。
「さて、次は春斗君のターン。何か私に聞きたいことはある?」
「聞きたいこと…あっ、俺が去った後はIGD学園に被害とかは」
「それは全部春斗君が防いでくれてたでしょ?ストリームとして」
「…それでも救えなかった人が一人でも居たらどうしようかと思って」
「大丈夫、一人もいない。春斗君の動きに感化されて私たち生徒会も色んなところに根回ししてたんだから」
「ありがとうございます」
「他には?」
「…これといってありませんけど」
「はぁ…」
物凄い大きなため息をつく雪華さん。
「春斗君、生徒会長にならない?」
「何でですか…」
「だって誰よりも生徒のことを考えてるし~」
「俺はそういうの向いてないですよ。それに雪華さんほど手腕も良くありませんし」
「案外いいかもよ?」
「だとしてもです、あと温泉行ってもいいですか?湯で疲れを癒したいです」
「背中、流そうか?」
「遠慮します!!」
「ちぇー」
重い体を無理やり起こし、温泉へ向かう。
今が何時だとか知ったことか。とにかく身体を癒すためだけに身体を引きずりながら廊下を歩き、男湯ののれんを見つけ、そこをくぐりさっさと服を脱いでロッカーにぶち込みタオルを持って中に入ると。
「あ?」
「い?」
「う?」
「え?」
谷氏、たそ、はちおくんが居た。
「なんでだよ!?何でここにいるんだ!?」
「いや…ぶっ倒れた春斗を運んだ後、様子を見に来たんだよ」
「そしたらまだ目は覚めてないし、とりあえず俺たちが泊まる旅館に戻ろうとしたらついでに温泉に入っちゃえと言われた」
「だから此処にいるのか」
「そうだぜ、てか身体は大丈夫?」
「傷は癒えたけど疲労はヤバい。廊下も身体を引きずりながら来たしな」
「そのまま寝とけよ」
「湯に入りたかったんだよ…」
近くのシャワーで身体を洗い流し、頭と身体を洗い三人の隣に座り湯につかる。
「あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁ…心地いい…」
「爺臭いぞ」
「今日くらいは多めに見てくれぇ…ああ極楽」
ぽかぽかと温かい湯が俺の身体中の疲労を癒してくれる。
やはり温泉はこうでないとな。
「てかそっちの学校も大丈夫だったか…?」
「あぁ、誰かさんのお陰でな」
「そうか、誰かさんに感謝しないとなぁ…」
「お前の事だよ、馬鹿たれ」
「誰が馬鹿だぁぁぁぁ…」
「はるちゃんってこんな爺臭かったか?」
「疲労が勝ってるんだよ、許してやれ」
「あぁぁぁぁ…」
温泉の気持ちよさに声が出る。まぁしょうがないだろ。
今、この場には仲のいい男しかいないし多少は無礼講だ。
◇◇◇
そんな話に聞き耳を立てられているとはつゆ知らず。
「「「「「…」」」」」
壁を挟んで女湯。
IGD学園の生徒たちと寝る前に温泉に入りに来た御影先生と柊木先生、そして春斗の元カノ明奈が湯につかっていた。
ちなみに明奈も男湯にいる三人と同じような感じで此処にいる。
(予想通りというか、春斗はやはりIGD学園でもライバルを増やしていたか…)
出来る限り壁に近い位置の温泉に入っている葵、フレヤ、レベッカ、アナスタシア、水津、アイヴィー。
気になるのだろう。想い人のプライベートな会話が。
(お、幼馴染だが知らなかったことも多い!出来ればここで何かしらの情報をつかめれば…!!)
(この壁の向こう側に春斗さんが…い、いえ!私はフレヤアレクサンダー、『淑女たれ』ですわ!)
(春斗の事をもっと…もっと知りたいなぁ。も、もしかしたらタイプの子とかわかっちゃうかもしれないし!)
(春斗の情報とあらば私の出番だな。ある程度はMS部隊から得ているが…本人からの情報が欲しい)
(王手…欲しい。みんなと差をつけられる何かが…!)
(…何故私もここにいるんだ?いや!春斗には恩があるだけで他意はないはずなのだが…)
と所々違うが狙いはひとつ。他のヒロインたちに一歩差を付けられる何かが欲しいとのこと。
「そういえばさ、はるちゃん」
「どうしたぁ?」
「IGD学園って美人が多いよな、何か気になる子とか居ないの?」
「!!!」
思いがけないタイミングで情報を得るチャンスが訪れる。
そこにいるヒロインたちだけではなく他の生徒も黙って耳を傾ける。
「…お前たちは知ってるだろ?」
「そういえば、そうだったな。すまん」
「いいよ」
「…やっぱりまだ無理か」
「当たり前だろ?俺は『元カノ』を守れなかった奴だぞ。恋人は…作りたくない」
(やっぱり、あの時に言った言葉は嘘じゃない!!)
心の中で叫ぶヒロイン含めた生徒たち。
そしてビクつく一名こと明奈。
その反応を見逃さなかったヒロイン含めた全員の視線が明奈に向けられる。
「でもほぼ守れる力は持ってるだろ?」
「そうかもしれないが…無理だ。失うのが怖い」
「まぁ俺たちからとやかく言うわけじゃないんだけどな」
「…普通に話してるけど女湯に聞こえてるんじゃないか?」
「ここまで喋っててもなおあっちから何も聞こえてないんだぞ?居ないだろ」
「それもそうか」
残念ながら滅茶苦茶居る、なんなら聞かれている。
男湯の壁の反対側では特定の者たちが明奈に詰め寄っていた。
「お前が春斗の元カノか…?」
「そうだよ、私が君たちが好きな彼の元カノさ」
「春斗に何をした…!」
「何をしたというよりされたというべきかな」
「どういうことだ」
アナスタシアに詰め寄られても顔色と声色1つ変えずに明奈は何故春斗と別れたのか、何故春斗は恋人を作りたくないのかを話した。
◆
「くっ…!」
「へ、へへ…いい女じゃねぇか。おい!コイツを好きにしていいんだよな?」
「そうらしいぞ」
時は遡り3年前。春斗と明奈が付き合っていて明奈が攫われた日。
明奈を縛り上げた者たちは化け物がこちらに向かってきていることを知らずに話し合う。
どれも下品な会話だ。
「…どれだけ虐げようとも私の気持ちは変わらないよ」
「へっ、言ってくれるじゃねぇか。おい、コイツの服を脱がそうぜ」
下品なものたちの手が明奈へと伸びていくが。
がしゃあん!と扉が開き門番をしていた生徒が血だらけで飛んできた。
「…何だ?」
そこに居たのは明奈の彼氏である春斗。だが様子がおかしい。
昔っから彼は優しくにこやかに笑いクラスの中心に立つ人間なのだが。
今の彼の目には光はなく、頬は返り血で染まり両手を血で染めている。
「明奈を…返せ」
笑顔はなく、ただ無表情で中にいる生徒たちに殺意を向ける。
「この人数相手に何ができる?やっちまえ!!」
これが…彼らの最後の言葉だった。
明奈はその惨状を知っている。
無表情のまま生徒たちに拳を振り下ろし、気絶するまでひたすらに暴力を教え込み人数の差なんてものを力でねじ伏せる彼の姿を。
「う、嘘だ…!?」
ラスト・マン・スタンディング。
立ち続けたものはただ一人、九条春斗。
それ以外の者は血で染まり顔面や身体をぐちゃぐちゃにされ倒れた者。
リーダー格の者はその中心に立つ化け物に恐怖していた。
「お前か…?実行犯は」
「い、いや…違ぐはっ!?」
「口答えするな、黙れ」
話すことも許されず生殺与奪をこの化け物に握られ蹴り飛ばされる。
「がはっ…ごほってごほっ」
「なぁ?お前らって何部だ?」
「は…?」
「まぁいい、お前たちの学生証を見ればわかる話か…ふぅん、野球部ねぇ…」
ーーバギャァ!!
「あああああっ!?」
「バットを一般人に振りかざしている時点でこんな腕『いらない』よな?」
春斗は転がっていたバット拾いリーダー格の左腕に芯を叩きつける。
血が吹き出し、断末魔が飛び出すがそんなことはどうでもいいと言わんばかりに無表情のまま叩きつける。
叩く。叩く。叩く。
「…ぁ…ぁ」
生きた心地のしない拷問のような事をされたリーダー格はぐったりと床に倒れ気絶する。
だが。
「何寝てんだよ」
「ぐあぁぁぁぁぁ!!!」
容赦なく春斗はみぞおち辺りを踏みつけ無理やり起こす。
「ゆ、許してください…!!俺たちは依頼されたんです!!」
「それで?」
「へ」
「それで…何?」
血でぬれたバットを再度構えて見据える。
光が無い双眸を向けて。
「そんな理由で俺の彼女を傷つけていいと?へぇ?」
「い、いや…そんなつもりじゃ」
ーードゴォ!!
春斗のハイキックがリーダー格の顔面を捕らえる。
「何様だよ、お前」
「お、お願いします!!許してください!!」
今のリーダー格のやつに出来ることは1つ。許しを請う事だけだった。
ひたすらに頭を地面にたたきつけ化け物に許しを請うが…。
「そもそも聞くけど許されると思ってるのか?」
否。
許されなかった。
無慈悲、無常、残酷、惨忍、冷酷。
それが今の春斗を表現する言葉、優しさを完全に捨てきった怒りに染まりし彼の姿。
大切な物の為に自分の中の全てを捨てきった人間の姿をした化け物。
それから春斗は一人一人の学生証を確認し部活にあった部位を破壊していった。
腕を、足を、心を、尊厳を。
ただ無慈悲に。怒りのままに。
「明奈…」
「春斗…?」
リーダー格を含めた全員を破壊しつくした春斗は明奈を縛っていたロープを引きちぎり彼女を助けた。
「無事で…良かった」
「春斗のお陰でね」
血だらけでも明奈は春斗を抱きしめた。
どんな状況とはいえ助けてくれた事は事実、お礼を込めてぎゅっと春斗を抱きしめるが…。
「明奈、別れよう」
「は…?」
明奈を引き剥がし、春斗は言い放った。
「ど、どうしてだい!?私たちは」
「あぁ俺たちは普通に付き合っていたな。デートもした、ハグもした、キスもした。でも俺のせいでお前は傷ついた。知らないと思ったか?お前がアイツらに虐められていることを」
「そ、それは…」
「俺が…付き合ったせいでお前は危険にさらされた。守れなかった、俺がもう少し早く行動出来ればお前は怖い思いをせずに済んだのに…!!」
春斗は両手を握りしめ、その手から血が流れる。
「春斗…」
「もう…良いんだ。別れよう、そうすればお前は傷つかずに済む。だから俺じゃなくてもっといいやつを見つけてくれ」
バットを投げ捨て明奈の元から去ろうとする春斗。
「ま、待って!!」
慌てて駆け寄り彼を止めようとするが
ーートン…
「えっ…」
「おやすみ、明奈」
「俺が…全部終わらせてやる…!」
春斗によって明奈は気絶し、次に目を覚ましたのは彼女の私室のベッドだった。
最後に目にした彼の瞳。
真っ黒な双眸の奥には怒りと殺意が籠っていた。
◆
「…そんなわけで私と春斗は別れたってこと」
「…」
空気は、最悪だった。
彼の知られざる過去。恋人を作りたくない理由。
両手を血で汚し、怒りで染まった彼の姿。
しかし心当たりがないわけではない。IGD学園の皆は彼の怒り狂った姿を知っている。
「後日、春斗に君は悪くないって言ったんだけど頑なに聞いてくれなくてね」
「…春斗さんらしいといえばらしいですわね」
彼は自己犠牲を問わない。自分が傷ついても皆が生きていればそれでいいと度が過ぎて優しいモノ。
「だからといって私は彼を諦めたわけじゃないけどね」
「え?」
「今でも私は春斗が好きだ」
大胆な明奈の告白に皆がたじろぐ。
「例え春斗が恋人を作りたくないと言っていても知らない、私は彼が心の底から大好きだ」
「き、貴様…」
「止めるの?やってみればいい、私は絶対に止まらない。彼ともう一度恋人同士になるまで」
明奈の精神には凄みがあった。
絶対に春斗と恋人になろうとする意志、想いなどが込められている。
「私もだ…」
「へぇ?」
「私も春斗と付き合いたいのだ…その、昔から春斗が好きだからな」
その明奈にカウンターをしたのは葵。
「私もですわ」
「僕も」
「私もだ」
「わ、私も…!」
「…」
一名声を出していないが彼女たちは春斗を奪い合うライバル。
「てか春斗」
「何さ」
「何というか、こうコイツ俺の事好きなのかなーみたいなやつ居ないの?」
「…数名、心当たりがある」
「!!?」
壁越しの春斗たちの会話。
あまりにも衝撃的な発言だった。春斗に気持ちがバレているかもしれない。
温泉の湯の温度と同化し、頬がぽっと熱くなるヒロインたち。
「お、マジ?」
「もしかしたらみたいな感じだ、あと仮に告白されても断るぞ」
「前途多難だな」
「お前らはどうなの?こう青春な事とかないのか?」
「「「ない」」」
「…悲しいまでに息ピッタリだな」
「うっせ」
ヒロインたちは気が付いた。
現状、どれだけ春斗にアタックを仕掛けても意味がない。
彼は守れなかったことを今でも悔み、二度と起こさないように恋人を作らないようにしている。
本当の意味で彼と付き合うとするならば彼の精神が治ることを祈るしかない。
だとしても彼女たちはアタックを止めない。諦めない。
うら若き乙女たちの戦場を止められるものは居ないのだ。
「…あちぃ、のぼせた」
「外の空気吸ってくるか?」
「あぁ…」
春斗は湯船から上がり露天風呂への扉を開けて外へ行く。
「あれ、待って今はるちゃんどっちいった?」
「え?左の扉だろ?」
「…あっち混浴だぞ」
「は?」
「え」
聞いてしまった、いや聞こえてしまった。
今、春斗は意図せずに混浴の方へ進んでいった。
幸いにもIGD学園貸し切りなので変な輩等は居ないので、混浴は春斗しかいない。
そう、チャンスなのだ。
一気に距離を詰めることが出来るかもしれない千載一遇のチャンス。
一歩混浴へ足を進めたのはアナスタシア。
「何処に行こうとしてる」
その足取りを止めたのは葵。
「決まっている春斗の所だ」
「…なら私も行こう、ついでに外の空気を吸いたい」
「なら女湯の露天風呂に行ってはどうだ?」
互いににらみ合い、火花を散らすアナスタシアと葵。
その争いの中しれッとレベッカが混浴の扉に手をかける。
「あらあら、レベッカさんそちらは混浴ですのよ?」
「フレヤこそ、どうしたの?」
こちらも互いに扉に手をかけてにらみ合う。
二つの火花が散っているなら少し混浴の扉が開き、その隙間から水津が混浴に突入しようとするが。
「待てい」
「…バレた」
火花を散らしていた4人が水津の腕をつかみ止める。
「何のつもりだ」
「春斗の背中を流す…」
「なら私が行く」
「いいえ、ここは私が」
五人がにらみ合い、再度火花が散る。
…この騒ぎに乗じて一名混浴に入ったことも知らずに。
◇◇◇
「ん”ん”ー!!やっぱ露天風呂も最高だな…」
夜空を眺めながら身体を伸ばし、一人でつぶやく。
今日だけで色々あったなぁ。
色々ありすぎて全部思い出せないぞ。でも悪いことではなかったことは確かだ。
それに風呂が疲れを癒してくれる。心地いい…。
『春斗』
「んお?どうした」
『改めて思いましたが、春斗の身体って結構がっしりしてますよね』
「そうか?あーでもIGD学園に来てから訓練やら何やらあったから必然とこうなるよ」
『…気にしないのですか?』
「何が?」
『私、女性ですよ』
「それが?」
『へ?』
「今いる所は公共施設の温泉だろ?裸になるのはしょうがないし、誰が好き好んで俺の身体を見るんだよ」
『…そうですか』
急に赫蝶が変なことを聞いてきたな。
『そういえば春斗、焔の専用アビリティの暁光来光のデータは見直しましたか?』
「いや…俺、気絶してたじゃん」
『…そうでした』
「今見とくか、大体は知ってるけど」
少し濡れた焔を操作し、データを見直す。
AG待機状態含めAGは防水持ちだ。
焔専用アビリティ『暁光来光』
能力はAGの機体スペックの上昇、変形、放熱機構の促進、そして『AGのエネルギーの活性化』。
この活性化が凄い。少ないエネルギーで滅茶苦茶AGが動けるようになり赫蝶のエネルギー吸収能力が備わった武装が装備される。
つまるところ…敵が倒れない限り俺と焔は倒れない。
ただ欠点として放熱機構を露出するため被弾した際のダメージは馬鹿にならない。
所謂、諸刃の剣ってやつだ。
『基本的には篝火で戦い、フィニッシャーで専用アビリティ…という戦い方になりそうですね』
「あぁ、てか剣術だけじゃなくて軽く格闘技もやらないとな」
『そうですね…え?』
「どうした赫蝶?」
と疑問を説いた瞬間、俺の首に腕が回される。
「!?」
「や、春斗」
「あ、明奈…!?」
なんと相手は明奈。何でここに居る!?
「な、何でここに?」
「理由は谷氏、那由多、蜂と一緒だよ。私も心配になって見に来たからね」
「それもそうだが、ここ男湯だぞ!?」
「知らないのかい?この場所は混浴、男湯も女湯も関係ないよ」
「マ…ジかよ」
知らぬ間にとんでもないところに来てしまったようだ。
ここから出ないと。出来る限り早く。
「すまん明奈、少し目を瞑っててくれるか?混浴から出る」
「え?どうして」
「どうしてってお前…」
「別にいいじゃん、私と話そうよ」
「…」
…提案を飲まざる負えないか。
今、俺の首には明奈の腕が巻かれている。無理やり引き剥がそうとしても、もし反撃にあったら俺の地位が終わる。
いや、今でも十分危ないけどね?
何て考え込んでいると有無も言わさず明奈は俺の隣に座った。
「なんで隣に入ってくるんだよ…」
「私だって人間だ、寒い」
「なら戻れよ…」
「ヤダ、春斗の隣にいる」
何言っても無駄か。てかコイツは俺が男だと分かっているのか?
しかも俺は元カノだぞ、元カノ。
こう…危ないだろ。
「…知ってるよ」
「へ?」
「君が男だからこそアタックするんじゃないか」
「口に出てたか?」
「いいや?でもそんな気がした」
コイツのテンションにもついていける気がしない。
今時の女性って何考えているのか分からないな、理解できてない俺が悪いんだけど。
「…それで、何で混浴に来たんだ?男探しか?」
「うん、運命の相手が丁度いたからね」
「お前は…はぁ、何で諦めない?」
「春斗が好きだから」
「…変わらずか、いい加減諦めてほしいぞ。それに諦めたほうが得だろ、お前は傷つかずに済むし、俺よりいい男なんざ腐るほどいる」
「本気で言ってるのかい?」
ずいっと俺に近づき、目を合わせてくる。
「な、何をだよ…」
「春斗よりいい男なんて腐るほど居るわけない、それに私が好きなのは春斗だけ。他の男なんてどうでもいい」
そこで言い切っちゃうのかコイツは。
「人の為に自分を捨てるなんてこと普通の人じゃできない、それほどの勇気とか決意がないと出来ないこと。それを春斗は出来るし、優しいし一途だから」
「…」
「ねぇ、本当にダメなのかい?私は春斗と恋人になりたい」
「…明奈」
「君が願うならどんなことでも叶えてあげるよ、欲しい物なら買ってあげるし私の身体も」
「明奈、少し落ち着け」
「私は本気だよ」
より顔を俺に近づけ、身体がくっつくくらいの距離まで接近された。
「…何で俺に固執する?」
「好きだから」
「理由に」
「理由になってるよ、私はそれくらい君が大好きなんだ」
「…俺は怖いよ。もし恋人が出来たとしても守れるかどうかも分からない、また失うかもしれない、俺の手の届かない所で何かされるかもしれない、なんて思うたびに恐怖で狂いそうになる。あの時、明奈が攫われたって聞いた瞬間、俺は学校で軽く発狂したよ。何ですぐ動かなかった、何で近くに居なかったって」
「春斗…」
「ずっとだ、今も怖くて怖くてしかたない。多分俺は恋人を作ることも含め失うことが怖くなった、もう友も恋人も家族も失いたくないんだ」
「それが…春斗の『守る』っていう動機?」
「かもな」
すると、明奈の片手が俺の頬に添えられる。
「だったら私がずっと一緒に居る」
「出来ない約束はするもんじゃないぞ」
「出来るさ」
「いや出来ない。分かってるだろ?そもそも俺が別れを切り出した理由は守り切れなかった。もしもう一度起きて…最悪会えなくなったりしたら約束は終わりだ」
「…」
「…もう、それくらいにまで俺は堕ちてるんだよ」
俺は二度と失いたくない。
全てを。失った悲しみを知らないわけじゃないがその人たちの気持ちは多少なりともわかる。
家族を失って、恋人を守れなくて…やっと守れたのが友達だ。
AGのブレードを持ち上げて振りかざした、俺にできた精一杯の行動。
でも…今なら違う。AGは使えるし、生身でも戦えるようになった。アイツらが言った通り守れるかもしれない。
だがそう簡単にはいかない。いつ幸せが奪われるかもわからない、そんな戦場に俺はいる。
だから…怖いんだ。
「私が知らない間にそこまでになっていたんだね」
「…あぁ」
「でも私は諦めるつもりはないよ、春斗の恐怖も全部私色に染め上げるまで」
「なんで前向きなところを此処で活かそうとするんだよ」
「別に何処で活かしてもいいだろ?」
「否定はしない。あといい加減離れてくれ」
「どうして?」
「…俺、男って言ったよな?」
「えっち」
「はぁ!?」
不可抗力極まれり。
何とか明奈を引き剥がし、少し距離を離したが。
「何故距離を詰めてくる…!!」
「好きだから」
「理由がそれだけだとむしろ怖ぇよ!?」
すすっと俺に近づきピタッとくっついてくる。
「あ、今誰も居ないよね?」
「なんだその質問!?」
「…居ないか、よし」
「いや、今よしって言ったよな!?」
「春斗」
「…何?」
「既成事実作ろう、そしたら一緒に入れる」
ザバァと勢いよく風呂から上がり俺を見て笑いながらそういい放った。
明奈の双眸には…俺しか映ってないみたいだ。
てか暴論過ぎるだろ!?
「何言ってんだおめぇ!?ば、馬鹿!隠せ隠せ!!」
「春斗なら大丈夫!!」
「お前はもう少し恥をしれ!!」
「据え膳食わぬは男の恥!」
「お前は女だろうが!」
「あ、女って意識してくれるんだね?」
「もういいから止まれ!その両手をグーパーしながら俺に近づいてくるな!!」
「安心して、夜空の星を数えているうちに済ませるさ」
「本当にやめろ!!止めろ来るな!!」
ーー来るなぁァァァァァ!!!!
風呂から飛び出して、男湯ののれんをくぐり事なきを得た。
「明奈、座れ」
「…はい」
あと風呂から完全に上がった際、軽く明奈に怒った。
「反省した?」
「した」
「絶対にしてないだろ…」
俺が葵、フレヤ、レベッカ、アナスタシア、水津、アイヴィーに問い詰められるまで残り3分。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
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超絶不定期更新ですがご了承ください…




