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インフィニティ・ギア  作者: 雨乃時雨
プロローグ~第一部
6/122

第4話 巨人襲来

「AG…いやAGなのかアレ!?」


アリーナ内に警報音が鳴り響き、観客席が分厚い鉄の壁に覆われた。


『二番アリーナに敵勢力AG襲来、生徒達は教員の指示に従い避難してください』


「何なんだあれ…」


俺が考えているうちに黒鉄があの襲撃者について調べてくれた。

あの機体は『巨人(タイタン)markⅡ』、当たり前のようにインフィニティギアが搭載されていて大型建築や貨物輸送などに使われている大型の人型クレーン『タイタン』の改良機、元の機体にも改良型にも武装は無く変形機能も無くAGではない。

じゃあアレは何だ!?

俺らのAG並みに大きく灰色の装甲に全身が覆われており、殴られたらひとたまりも無さそうなアームと背に取り付けられた重火器のような物、アームならわかるが重火器は建築や輸送には使わないだろ!?何でついてるんだ!?


『警告、警告!敵が戦闘態勢に移行!』


ガチャガチャと変形し始めて背中についている重火器…というよりガトリングガンを装着した。


(マズい!撃ってくる!!)


やばい気がしてフレヤさんと一緒に逃げようとしたがフレヤさんの機体が動かない?

よく見るとライトレッグから煙が出ている、俺が叩きつけたときの影響で壊れたのか!?


「フレヤさん飛べる!?」

「無理ですわ!さっきの衝撃でライトブースターが破損して飛べません!」

「…分かった、失礼!」

「えっ!?」


タイタンが俺らに向かってガトリング掃射を始めたと同時に俺はフレヤさんの機体諸共お姫様抱っこして空中に飛び出す!


「うおぉぉぉ!?」


フレヤさん同様、容赦のない掃射。

空中で一気に加速し、壁を滑りながら旋回、弾を避けつつ距離をとる。


「…止まった?」


するとタイタンはガトリング掃射を止め、こちらに向かって歩いてきている。

何だあの動き…何でやめる必要があるんだ?


『九条!フレヤ!』


唐突に俺とフレヤさんの機体に通信が入る、声の主は御影先生だ。


『試合は中止だ!急いで脱出を!』

「そうしたいのは山々なんですが…ゲートがしまってます!」

『何!?』


そう、エントリーゲートが閉まったままなのだ。

エントリーと言ってはいるが一方通行というわけではない、AGの試合が終わり次第あそこから帰れるのだが…現在閉ざされている。

つまり帰れん!!


『九条君!フレヤさん!落ち着いて聞いてください!』


今度は声色がまた変わり柊木先生の声が聞こえる。


『解析したところあのタイタンの衝撃で付近の機器がダウンしていて遠隔からの開場は不可能で、手動で開場したいのですが…観戦者席にいた生徒たちの避難がまだ終わってないんです!』


確かに専用AGを持っていない生徒が狙われるのは危険だ。そこは最優先で避難誘導してもらった方が良い。

しかし、そうなるとここからの脱出と時間を稼ぐことが必要か…。


「試合場からの脱出はもですか?」

『一応非常用通路がありますが…』

「それは何処に?」

『位置の場所を転送します』


そうして送られたデータを確認する。

なるほどエントリーゲートの真下に非常用の通路があるのか…アレね、見つけた。


『しかしタイタンが逃がすと思いませんが…』

「大丈夫です。フレヤさん、残りエネルギーは?」


最後の確認としてフレヤさんのスプライトの残量エネルギーを聞きたい。


「…ヘルス324、パワー846、シールド467でライトブラスターの損傷大ですわ」

「分かった、柊木先生」

『は、はい!』

「避難ってどれくらいかかります?」

『およそ七分くらいで…待ってください!避難が完了次第教員達で鎮圧に当たりますが何をする気ですか!?』

「分かりました、ありがとうございます」


そういって俺は一方的に通信を切断して、一度着地しフレヤさんにこう告げる


「フレヤさん、非常用ゲートまで行って避難できる?」

「な、何をおっしゃってますの貴方!?」

「他の生徒の避難は終わっていない、エネルギーも装甲ダメージも少ないのは俺の方だ、先生たちも来るのに時間がかかるならここで時間を稼がないと」

「貴方の手を借りるわけにはいきません!どうせ借りを返せとかそういう」

「別に借りを作るとかそういうわけじゃない、ここで生き残る可能性を考えたうえでの発言だ」

「…」

「それにこの戦いは俺が負けてた」

「!」


あの時、俺は一心不乱にフレヤさんに特攻したが今思い出せば負けていたのは俺だ。

フレヤさんはもう一丁のスナイパーのトリガーに指をかけていたし、ビットも俺の後ろまで来ていた。

ブレードが届かなければ俺がスナイパーで撃ちぬかれ、仮に届いていたとしても背中からビットで撃ちぬかれて終わり、更にもう一度空に飛び出したらまた掃射の雨で終わり、俺の機体はホバー移動とかは出来るがまだフライト機能が無い、出来たとして空中ダッシュのみ。さっきの時点で詰んでいたのは『俺の方』だ。

それで俺が負けた時は自主退学…なら


「俺は負けて退学は決まったんだ、勝者であるフレヤさんはこれからの学校生活がかかってる、尚更逃げてほしい」

「な、何を言って…!」


よし、非常用ゲートの扉の前まで来れたけど…これじゃAGじゃ通れなさそうだ、一度降りる必要もあるし、一度も解除したことがない俺には逃げらんないな。


「いいから行って、俺は時間を稼ぐから」

「…正気ですの」

「あぁ、それに」

「?」


『俺は他の人を危険に晒して逃げるなんてしたくないから』


「!」

「動いたか!」


後ろから地面を蹴る音が聞こえた、振り返ると拳を振り上げ構えながらブースターで走ってきてる!

武器を構え直す。


「行けッ!!」

「わ、分かりましたわ!」


フレヤさんはすぐさまスプライトから降り、粒子化したAGを手についている指輪に吸収してゲートに入った。

俺は…


「ふん!!」


タイタンの拳を正面からブレードで受け止めた。


「っく!?」


ガードしたのに衝撃がこんなに来るのか!?


(ヤバい!もう一発!?)


もう片方の拳を振り上げ、俺にパンチしようとしていた所を確認し受け止めた拳をはじきながら横に回避。


「あっぶねぇ…!」


タイタンのパンチで非常用ゲートの扉がぐしゃぐしゃに潰された、これじゃ俺には逃げる術がない。

ここは一度距離を取ろう!後ろに向かって飛んで距離を取って敵を見定める。


「…所々動きが止まるのは何故だ?」


何というかパワーやスピードがあるのは分かるが、それに合ってない反応速度。

コイツの搭乗者は何者なんだ?


『…繋がった!九条君聞こえますか!?フレヤさんは!?』


柊木先生からの通信が飛んでくる、声が大きいな…一瞬耳がキーンってなったぞ。


「フレヤさんは非常用ゲートで避難させました!」

『じゃ、じゃあ今タイタンと戦っているのは…』

「俺ですね」

『な、何してるんですか!?早く非常用ゲートに』

「扉は潰されていて逃げれません」

『えっ!?』


事実だ、というか仮にもう一個ゲートがあったとしても逃げれないだろう。


「柊木先生、避難は?」

『所々終わり手が空いた教員がそちらに向かっていますが…最短ルートのゲートや機器が機能せずそちらに行くのにも時間がかかっています、恐らくEMPが』

「EMP…」


一般人でも流石に分かる、ゲームでEMPグレネードとかあったし。

…コイツの機体にEMPが搭載されているんだろう、一応AGも機械の一部にも入るがEMP程度で止まる機器じゃない。

どちらにせよ、より時間を稼ぐかコイツを倒す以外の俺が生き残る手段はない!

ブレードを構えなおす。


『九条君!出来ればこのまま説教したいですが…このままでは危険なので情報を伝達し、援護します!データを確認して突破口を見つけてください!』

「了解です」


何とも心強いバックアップ。

黒鉄に情報が送られてきた、アイツの名称はタイタンmarkⅡなのは間違いない、本来はこのような重火器は搭載されておらず戦闘も出来ないはずだが…どうやらあの装備品は外部の改造品で、戦闘能力も改造されて付けられたもののようだ、違法だろこんなの。

そして無人機、この機体は人を必要とはしない。つまりAI、だから所々の動きがおかしかったのか、さっき俺とフレヤさんの会話中も攻撃してこなかったしね。

これで人が乗ってたら『隙だらけだぜぇぇ!!』みたいな感じで襲いかかってきそうだ。

どちらにせよ、敵は敵だ。AIだろうが人間だろうがな。


「こいよ…無人機!!」


ーーー


「はぁはぁ…」


白い肌に少し汗ばんで、金色の髪を靡かせながら小さなライトに照らされた通路をフレヤはひたすらに走る。

そんな中、さっきのあの言葉とあの顔を思い出していた。


『俺は他の人を危険にさらして逃げるなんてしたくないから』


(…あの時の言葉)


さっきの激戦よりも鮮明に思い出されるあの顔、言葉。今まで会ってきた男性達の中でも人に媚びず、真っすぐな眼差しに優しい声色、そして優しく微笑んでくれたあの笑顔。

フレヤ・アレクサンダーはイギリスの貴族の娘として生まれ、父や母の教育の元様々な事を学び経験し成長していき、流石アレクサンダー家の娘と称賛されるほどの知識や手腕を身に着けた。しかし、その過程で嫌な事も経験し男性が嫌いになる。

事の発端は彼女が10歳のころ、フレヤに求婚を申し込んだ者が居た、別の貴族の名家の息子。フレヤ・アレクサンダーの知識などには到底及ばないが年上で優しそうな雰囲気を醸し出した青年、それが彼女への求婚者。

フレヤもこの人ならと思い結婚を承諾しようとしたが…とある時に相手の思惑が判明。この青年…いや相手の名家はアレクサンダー家にある莫大な財を求めた金の亡者だったのだ。フレヤ自身も最初はそんなはずはないと思っていたが、化けの皮が剥がれた青年は元よりフレヤに対する愛や好意何てそんな感情は持っておらず、事が過ぎれば捨てると彼女たちの前で堂々と話したのだ。

もちろん、父や母を含めた全員は大激怒。二度と関わるなと告げ突き放したが…フレヤ自身の心に大きな傷跡を残してしまった。

これが今の彼女にとっては忌々しい記憶であり、男性に対して毛嫌いするほどの嫌悪感や疑心暗鬼を持つ切っ掛けになった出来事。

このせいで全ての求婚相手や父以外の男性の言う事は何一つ信じられなくなってしまった。そんな時に起きたのはAGの活性力適性検査。ランクはF~SまでありフレヤはAを叩きだし政府からアレクサンダー家にAGの製作許可が降りたのだ。これのせいでより求婚者は増大し、もはや忌々しいと感じる程までなっていた。いつも以上に勉学に励み、彼女の機体『スプライト』が作られた際もより鍛錬に励みIGD学園に主席として入学、これで男性の呪縛から解き放たれたと思っていたがそこに居たのはあの忌々しい男、絶対に追放してやると思い宣戦布告したが…フレヤの思惑とは違う事ばかり起きていた。

試合が始まる前に泣いて媚びす、試合中も一切諦めることのない瞳、そして一方的な試合になるはずだと思っていたが…一瞬の隙を突かれ地面に叩き落とされた。今までのフレヤ・アレクサンダーであれば殺意を抱くほどの感情を持つはずだが今は違う。

嫌いだったはずの男が…この学園から追放するはずだったあの男の表情や言葉が離れない。


(…九条、春斗)


一応覚えていたその名前を思い出すたびに高鳴る心臓の鼓動音。

出会ったのだ、嫌いなはずの男でも嫌いになれず好意を抱くほどの男性に。


「なんで…こんなにも…」


頬は熱く、考えるだけでドキドキしてしまう。

フレヤが願った通りあの人がこれから退学するという事に切ないと感じる。


(さっきの打撃で…もし)


大けがや死んでしまった、なんて考えこんだら胸いっぱいに悲しい気持ちが湧き上がってくる。


「私は、彼を…」


私は『九条春斗』という男を知りたい

何故ここまで優しいのか、何故敵だった私を逃がすのか、何故あの状況で自分自身を犠牲に出来るのか、何故結果も分からなかったのに試合の敗北を認めたのか


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フレヤは一度立ち止まり心臓辺りに両手をそっと添える。

そして何かを決意したかのように彼女はスプライトの通信端末を起動し、彼へ連絡した。


「…九条さん、聞こえますか?」


ーーー


「流石に…きつい!」


フレヤさんの機体に比べて近距離で戦えるのはいいが…パワーが違いすぎる!

シールドエネルギーは無いからパンチの衝撃が全身に伝わる。

だが…パワーはあるだけだ!


「くらえ!!」


右パンチを受け流してタイタンの胴に一閃、よしヒビが入った!

というかコイツどうやったら止まるんだよ!


『九条君聞こえますか!』

「聞こえます!」

『タイタンのインフィニティギアの位置が分かりました、ギアを壊すか取ることが出来れば止まります!』

「了解です!」


俺の視界に映るタイタンに赤色のマーカーが見える、これも黒鉄…というよりAGに搭載されているマーカーシステムか。

確かこのマーカーシステムは医療関係でも活躍している、特に患者の手術に。

切除手術の際に切除部分にマーカーシステムでマーキングすると場所も分かりやすく、判断もしやすいのだとか、これが軍事にも使われるのは…なんだろう、何とも言えない気持ちになるな。


(マーカーは…アイツの心臓辺りか!)


タイタンの心臓部分に赤くマーキングされている、あそこの装甲を剥がして壊すか取り出せば俺の勝ち…だが。

胸部装甲がかなり分厚い!さっきヒビを入れたところも胸部の下あたりの方なのだが、ヒビが入っても内部機器は見えない、結構分厚いぞこれ!

俺のブレードでもやれないことは無いけど…全体的なエネルギー残量が少ない。

ヘルスも500きってるし、パワーもダッシュやスラスターなど使いすぎて残り200近く…シールドは元から0だから問題ないな!くらったらとんでもないことになりそうだけど!


「決め手が欲しい…」


このままじゃジリ貧だ、負ける。

ここで逃げる手段を見つけるか、停止させるかしかない…どうすれば。


「…ん?」


すると通信が来た、でもこれは柊木先生じゃない?

…いや助けになってくれるなら何でもいい!通信を許可すると


『九条さん聞こえますか?』

「ふ、フレヤさん!?」


通信相手は意外も意外、なんとフレヤさん。さっきまで敵対していたのに…いや待て無事なのか!?


「無事なのか!?」

『大丈夫です、大事ありませんわ』

「それは良かった…」


ふぅ…と安堵する、てか俺の事を『九条さん』って俺の名前を覚えてること自体驚いてるけど!?


『まだ安心しないでくださいまし、タイタンはどうなってますか?』

「動いてる、今のところライトアームと胸部装甲辺りにヒビが入っただけだ」

『なるほど…柊木先生、この辺りに一直線上の通路ってありますか?』

『え?えっと避難経路で使ったコンテナへの一本道なら』

『分かりました、九条さん』

「何?」

『そこにそのタイタンをおびき寄せることは可能ですか?』

「おびき寄せる?」

『はい、私の機体スプライトの専用アビリティである高出力電磁砲『アクセラレータ』でタイタンを破壊しますわ』


アクセラレータって…アレか!叩きつけた後に出したあの武器!


「了解!」

『ま、待ってください!生徒たちを危険に晒すことになるのは』

『いいんじゃないか?』


柊木先生ではなく御影先生が肯定する。


『生徒たちが学ぼうとしているんだ、背中を押してやれ』

『ですが…!』

『九条、フレヤ。やれるか?』

『出来ますわ』

「フレヤさんが出来るって言うなら出来ます」

『わかった、最悪の事態に備えて教員たちは待機させておく。それと避難経路までのルートを出して送る、参考にしてくれ』

「ありがとうございます」

『では健闘を祈る』


柊木先生と御影先生からの通信が切れたと同時に黒鉄にマップデータとマップルートが送られてきた。


「…俺の後ろにもあったんかい!」


どうやらフレヤさんを逃がした反対側にも非常用ゲートがあったようだ、まぁさっきの戦い中で気が付いても逃げられなかったからどちらにせよだったけどね。

ってことは一回この黒鉄から降りないといけないのか、確か『降りるイメージ』だったか?また感覚系だよもう…。


「そんなこと考えてる場合じゃないか!」


タイタンがこっちに向かって走ってきた瞬間、黒鉄で一気に加速しながら非常用ゲートまで飛んで…


「黒鉄、解除!!」


途中で解除して地面を転がりながらゲートをくぐり


「来い!」


左手を伸ばすと粒子化した黒鉄が俺に向かってきた、そして手首辺りに集まると…そこに黒色のブレスレットが出来た。


「これも黒鉄なのか…?」


ってそんなこと考えてる場合じゃない!!急いで非常用ゲートを閉じて後ろに下がった瞬間、ゲートがベコンと凹み轟音が響いた。


「ふぅ…殴られるかと思った」


あんな剛腕にぶん殴られたら死んでしまうわ。

よし、とにかくこのマップルートを進もう。いやでも俺のことを追ってくるはずだ、現にゲートの扉をこじ開けようとしている。AGでもぎりぎり通れるか分からないくらいの通路を駆ける。


「こっちか!」


走る、とにかく走る。捕まったら終了の鬼ごっこ。

この先にもう少し広い通路がある、そこでもう一度黒鉄を展開してフレヤさんの言う一直線上の通路まで向かう。


「…む?」


走っている中また通信が来たが…これは個人通信、いわゆるプライベートチャンネル。さっきまで柊木先生、御影先生と通信していた学園のオープン通信とは別の個人的な連絡などをするときに使うやつだが…とりあえず応答。


『九条さん?大丈夫ですか?』

「フレヤさん!?」


またしてもフレヤさんからの連絡に驚きを隠せない。


『どうされました?』

「いや…びっくりしただけ、無事だし今通路を走ってる」

『それは良かったですわ』


走りながらもこのタイミングでフレヤさんに聞きたいことがあった。


「なぁフレヤさん、何で俺を助けるんだ?」

『…』

「さっき敵同士だったし、フレヤさんは俺を退学にさせたいんじゃ…」

『もういいんですわ』

「え?」


今までとは違い、フレヤさんの少し優しい声が聞こえた。


(もういいってどういう…)


と考えている時、俺の後ろの方で鉄が裂ける音が聞こえた。やばいゲートが壊れたか!?


「フレヤさんごめん、少し走ることに集中する。ゲートが壊れてタイタンが入ってきたかも」

『分かりましたわ!お気をつけて』

「分かった」


プライベートチャンネルを切断し、全力で走る!

…なんか後ろからキャタピラーで走る音が聞こえるような?


『敵タイタンmarkⅡ戦車のような形に変形し、こちらに向かって来ています』

「マジ!?」


黒鉄が先に結論を出してくれた、ディスプレイビジョンに画像が映る。


(別の物に変形とか、マジかよ!!)


アリーナで戦った人型とは違い、今は小さな戦車に変形しているようだ。しかも主砲はあのガトリングガン…それならこの狭い道も通れるが、撃ってこないのは俺を視認してないからか?

いやもう少しだ、これなら俺の方が早い!


「ついた!」


さっきの狭い通路とは違い大きい通路に出た、ここが何なのかは分からないが…とりあえず


「黒鉄、展開!」


左手首に装着されたブレスレットが粒子化してまた俺を包み込んで黒色の装甲が俺を包んだ。


『警告、残りヘルスエネルギー478、パワーエネルギー162』

「うーん、やっぱり使いすぎたか…」


フレヤさんとの戦いの後でこの状況だからアレだけど、パワーエネルギーの使いすぎが目立つな。その辺も生きてたら次の課題にするか。

よし、行くか!ホバー移動しながらマップルートの通りに進もう。

次の瞬間


「え?」


通路を照らしていたライトが切れて真っ暗になる。


『非常用電源に切り替え中』


足元に淡い光が点る、何で急にライトが切れるんだ?


(…そういえば、アイツEMP持ってる!)


近距離で戦っていたから忘れていたけどあのタイタン、EMPを持っている。

多分…何かの端末にEMPを?もしくは範囲のEMP?


『射出物接近中!』

「は!?」


今俺の上を何かが通り過ぎて行って…壁に着弾、そして青色の稲妻が走った瞬間俺が進むべき通路の上から頑丈な壁が現れた。

何だこれ!?試しに殴ってみたがびくともしない!


『九条君聞こえますか!たったいまB2区画のシャッターが閉まりましたが何が起きたんですか!?』


急に柊木先生からの通信が入る。


「柊木先生!あのタイタンの射出物が着弾し、爆発したと同時にシャッターが閉まりました!」

『恐らくですが、投擲型のEMPだと思われます』

「投擲型の…」

『はい、今付近の監視カメラもダウンしたのでシャッターのロック機能がダウンし強制的に閉じられた…と考えられます』


だから閉まったのか、納得。


『あとEMPの影響でマップのルート案内が出来なくなってます…』

「分かりました、ここからは自分の判断で動きます」

『気を付けてくださいね!』


そうして通信はきれた。

一応まだ左右の通路は空いてる、ここから自分でルートを考えないと。


「ここまでだったら、左に行った方が早いな」


閉ざされたシャッターから左側の方へ進む、最短距離は潰されたし回り道はしょうがない。

てか投擲型のEMPか、俺の逃げ道を潰すために撃ったと見ていいだろう。


「ちょっと飛ばそう…!」


スラスターとブースターの出力を上げて進む、パワーエネルギーが持ってくれると信じて。


ーーー

それからは特にEMPによるシャッターの封鎖も無く、もうすぐで到着地点まで来た。


(…なんか静かだな)


ずっと追われているはずなのに黒鉄のスラスター、ブースターの音しか聞こえない。

あのタイタン、どこ行った?


『警告、タイタンが黒鉄を捕捉。人型に変形』

「げっ!?」


今まで聞こえなかったガチャガチャと音が聞こえたと同時に黒鉄が警告音を出した。

変形したとなると…


「何っ!?」


後ろを振り向いた瞬間、タイタンが拳を構えていた。

足元の明かりしかない性でこんな近くまで接近しているとは思ってなかった!?マズイ!パンチが!?


「ぐっ!?」


ブレードで正面から受け止めきれずそのまま通路の壁に背中から激突する。


「いってぇ…!」


よろよろと立ち上がるが…さっきの衝撃で意識がヤバい!

黒鉄が俺の意識を飛ばさないように保護しているが、間髪入れずにもう一発来る!?


「がはっ!?」


今度は防御しきれずフックをくらいそのまま通路を飛んでいく


「うぅ…」

『警告、警告!残りヘルス83、操縦者の横腹に損傷』


視界が…揺らぐ!?痛い…!

痛さのあまりその場で蹲り、前を見るとタイタンがこちらに向かってきていた。


(タイタンが来てる!は、早く防御を…)


身体が動かない…!?やばい本当に死ぬ!?

拳が目の前に広がった瞬間、死を覚悟した…

次の瞬間


「九条さん!」


タイタンは俺の後ろからのレーザーをくらい、後ろへよろけた。

あのレーザーは…!


「フレヤさん!」

「大丈夫ですか!?」


やっぱりフレヤさんのスターダスト!間一髪で助けられたけど…アレは?確かアクセラレータは何処に?


「だ、大丈夫…それよりそれはスターダストだけど」

「アクセラレータは撃破ポイント前で充電中です」

「充電は…間に合うのか?」

「九条さんの到着と同時に完了する予定ですわ」

「流石…エリート!よいしょ」


地面に落ちたブレードを拾って、構えなおし深く深呼吸…。

よし、揺らいだ意識が戻ってきた!残りヘルスは100きってる…一発200近くもっていくのと俺の身体にもダメージを与えるのがアイツのやばさを醸し出している。


「…とにかく今は逃げよう」

「そのつもりです、ですが!只では逃げませんわ!」


フレヤさんの機体の浮遊シールドからビットが射出されてタイタンを撃った。

あれにさっきまで撃たれていたのか俺は、でも味方になると心強い!


「すっご…」

「さぁ行きますわよ!」

「あぁ!」


フレヤさんの後に続く、てか早いな!?

アレが浮遊姿勢なのかな…俺はまだフライト機能持ってないし、ホバーで何とか追いつくしかない。


「大丈夫です、置いていくなんてことはいたしませんわ」

「すまん…」


俺の状況を見たのかフレヤさんのスピードが少し下がった。

…てか今思ったけど、滅茶苦茶フレヤさんって呼んでたな俺!?


「あ、あとフレヤさんって馴れ馴れしく呼んでたな…ごめん」

「いいんですのよ、もしよろしければフレヤと呼んでくださってもよろしくてよ?」

「そ、それは…」

「ふふっ、その辺は追々で良いですわ」


失礼かもしれないが誰だこの人。

俺の事を退学させようとした人だよね?何でこんな優しいんだ?

まさか、これから退学になるからせめて…みたいな感じなのか!?


(…まぁいいか、仲間になってくれるのなら心強いのは確かだしね)


その辺も追々考えればいいか、今はあの問題を何とかしないと。

フレヤさんの後ろについていきながらもルートを確認する、このままアクセラレータがあるところまで行ってそれでタイタンを撃てば止まるはず。

ある意味フレヤさんに対する賭けだがな…まぁ行けるだろう。


「ありましたわ」

「あれが…アクセラレータ」


空中にフレヤさんのスターダストよりも一回り大きなレーザーライフルがあった。

黒鉄からの情報によると、高出力電磁スナイパーライフル『アクセラレータ』、スプライトの専用アビリティであり、最高火力を有するレーザーライフル。

直径はスターダストと同じ40cmだが、それを凌駕する射程範囲と速度、そして威力。射程範囲は3000mで最高到達点である3000mまでに2秒とかからないらしい。うーん、凄い。

そのかわり撃つ前のチャージと撃ってからのオーバーヒート冷却に時間がかかるというデメリットがあるみたい。


「狙えるか?」

「大丈夫ですが…ここまで暗いと」

「だよねぇ」


アイツは灰色の装甲に身を包みEMPの影響で付近の明かりは足元の非常灯のみ。

出来れば明るいところの方がいいか、しかしここで明るい場所なんて何処にあるんだ?


『九条、フレヤ、聞こえるか』

「御影先生」

『無事合流した様で安心したが、どうした?』

「非常用の明かりだけでは外す可能性がありまして、この付近に明るい場所はありませんか?」

『フレヤ、スプライトのスキャンはどうなっている?』

「実は九条さんとの戦闘で破損してしまいましたわ」

「うっ…」


俺…壊しちゃってたのか、スプライトのライトブースターだけじゃなくてスキャンまでも。


「すまん…」

「気にしなくていいですわ」

『この付近で明るいところか、一応あるが…大丈夫か?』

「大丈夫とは?」

『他の生徒たちや教員が避難している、避難エリアしかないぞ』

「え?」

『あそこなら非常灯は足元だけではなく全体に明かりがあるが、失敗すれば他の生徒にも影響が出るかもしれないし、何より失敗したとき恥を晒すことになるかもしれないぞ』

「…」


なるほど、恥うんぬんより他の生徒や教員に被害が及ぶ可能性があるのか。

であればここで仕留めたいのも山々だが…失敗する可能性もあるのか、うーんどっちを取ればいいのか。


「九条さん」

「ん?」

「私は絶対に撃ちぬけますわ」

「!」


スプライトのアームが俺のレフトハンドに添えられる。

フレヤさんを見ると真っすぐな瞳で俺を見ていて、それは絶対的な自信でありアクセラレータならやり切れるという武具を信じる気持ち。これなら信じるのに十分な理由になるな。


「御影先生、避難エリアで終わらせます」

『分かった、一応聞くが理由は』

「もちろん色々ありますが一番の理由はフレヤさんなら撃ち抜けるからです」

『…撃ちぬけない可能性もあるぞ?』

「その可能性はありません、それにこういう時仲間を信じれなくて何を信じるんですか?」

『ふむ…なるほどな、わかった。ルートは送る、くれぐれも気を付けるように』

「了解です」


御影先生との通信はきれ、ルート案内が送られてきた。

ここがケリを付ける場所か…てか思ったよりちけぇな!?


「いいんですの?」

「あぁ、フレヤさんなら撃ちぬけると言えば絶対に撃ちぬける」

「…疑わないんですの?」

「さっきもいった通り仲間を信じれなくて何を信じるんだ」

「分かりましたわ、では…」

「それと先に行っててくれ、もう少し時間を稼ぐ」

「な、何故稼ぐ必要が?」

「中での生徒たちの避難とフレヤさんが構えるまでの時間が必要だろ?それくらいの時間は稼がないと」

「…分かりました、死なないでくださいましね」

「あぁ」


そうしてフレヤさんはルートの通りに飛んでいった。


(さてと、やるか)


ブレードを両手で構える。

外とかで戦ったおかげである程度の動きは分かった、後はどれくらい活かしてどれくらいダメージを減らせるかだな。


『警告、敵タイタンが黒鉄を捕捉』

「うし…黒鉄、初戦で結構消耗したと思うけどもう少し付き合ってくれ」


さっきの外の戦いがファーストラウンドならこれがセカンドラウンドだ。


「次のファイナルラウンドで終わらせてやる…来い!!」

資料集更新

追加内容:フレヤ・アレクサンダー 『スプライト』


誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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