第55話 人でなくても、人らしかったモノ
「と、止まりましたの?」
モノレールの速度は0を表示しており、残り7mのところで春斗が止め切った。
「た、助かった!私たち、助かったんだ!」
「良かった…!」
停止したモノレールから生存者たちが駅に避難する。
だが…。
「ぐっ!?ゴホッ!?」
ただ一人を除いて。
「春斗さん!」
「春斗!」
「九条…!」
先頭車両辺りで蹲る春斗。無理もない、元々自壊が始まっていたのにも関わらず無茶をしでかしたのだ。
それ相応の代償がその身に刻まれる。
『一度ホームに避難します!』
赫蝶がそういいながら春斗から生えた鎖を駅の天井に突き刺し無理やり春斗を駅のホームへ上げる。
「春斗さん!しっかりしてくださいまし!」
「フ…レヤ?助かった…のか?」
「はい…でも春斗さんが」
「…まぁだろうな」
所々破れた服の隙間から春斗の身体に内出血のような模様が出来ている。
『…フレヤ・アレクサンダー及び皆さま』
「!?」
赫蝶は駅のモニターにアクセスし己が声を響かせる。
『私は春斗の中に宿る赫蝶というものです。現在の春斗についてなのですが…もう、助かりません』
「え…?」
『私を宿し自壊が始まり、モノレールを力尽くで止めるという無茶をしでかしました…自壊は右腕だけではなく全身に巡っています。これでは…』
今の春斗の状態を冷酷に伝える赫蝶。だがこうするほかない。
現実を受け入れるためにはこれくらいストレートに言わなければ。
「九条…春斗ぉぉ!!」
空気を読まない犯罪者はその身をAGで包み込み現れる。
「お前のせいで…!!」
銃身を春斗に向ける。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
そして撃つ。無我夢中に怒りのままに撃ったせいか、狙いは外れとある少女に向かってレーザーが放たれる。
ーードォォォォォン!!
「がはっ…へっ…」
「な、何!?」
少女が爆炎に包まれたが次に現れた姿にこの光景を見つめるものは度肝をぬかす。
…防いだのは、九条春斗だった。
「約束くらい…守らねぇとな…!」
「お、おにいさん!?」
「…すまんな、また会ったのに遊べなくて」
春斗は本能的かあるいは記憶の中にあったのか分からないが、あのゼフィルスを守った際に近寄ってきた少女を思い出し赫蝶が纏われていない生身でレーザーを受け止めた。
外傷は内出血の模様だけではなく、火傷も追加された。
「お前の…お父さんにな…娘をお願いしますってお願いされたんだ…!」
口から血を流そうとも、全身が傷だらけだろうとも彼は守った。
「ゲホッ!?ガハッ!?」
しかし、限度はあった。
彼は世界で唯一AGを動かせても、赫蝶を宿しても、生身でAGに戦える人間。
だが不死身ではない。
膝をつき倒れこんでしまう。
「おにいさん!!」
「春斗さん!」
倒れた春斗の元へ少女とフレヤが駆け寄る。
「これでトドメだ…死ねぇぇぇぇ!!!」
無慈悲にその三人に向かって再度レーザーを放つルゥサ。
「ぬぐぉぉぉぉぉ!!」
「えっ!?」
限度があろうとも、不死身でなかろうと彼は立ち上がる。
そして守る。
その姿はまるで『ヒーロー』のようだった。どんな逆境でも決して屈せず己が身を顧みずに立ち向かう。
「は…ははっ…ゼフィルスに比べたら痛くねぇなぁ…!」
「化け物が…!」
全身から血を流しながら不敵に笑いを見せる春斗。
敵からすればもはや彼の存在は『アンデッド』。どれだけ打ち込もうともどれだけ切り刻もうとも絶対に倒れることのない屍。
「あぁ…そうだよ…俺は化け物だ。だがな…根本的にテメェのような人間と違うところがあるんだよ」
「何だと…!」
「俺は化け物でありながらお前のような人間とは違って『帰る場所』があるんだ…!それに…」
「…?」
「守るべき人たちもな!だから俺は笑うのさ、絶対に負けないために!!」
「この…死にぞこないがァァァァ!!!」
「赫蝶!」
『はい!!』
ブレードを握りしめてボロボロの春斗に向かって接近し振り下ろすが…魔剣に受け止められる。
「なっ!?」
「ガハッ!?今更…俺の身体がどれくらい傷つこうとも知ったことか!死ぬまで付き合ってもらうぞ、赫蝶!」
『はい…!』
「行くぜぇぇぇぇぇ!!!」
赫蝶、鎖を纏い彼は立ち向かう。
「くっ!?」
もはや情もいらない。
約束を破ったこのものに罰を。死を。断罪を。
「ガァァァァ!!」
人から完全な黒龍へと姿を変えて襲いかかる。
「ぐほっ!?」
圧倒的な個の暴力。
絶対に負けることのない窮境たる存在。
それがこの黒龍。
「ギシャアァァァァァ!!!」
名の知らないAGを殴り飛ばし近くの山へ叩きつける。
「今の内だ…!総員、あの戦いに巻き込まれる前に避難しろ!専用機持ちは避難誘導を!」
「了解!」
今がチャンスと見越した御影先生は一般生徒および一般市民の避難を最優先にする。
敵勢力は現状あのルゥサのみ。それならば黒龍となった春斗が時間を稼いでいるうちに避難を完了させ、加勢すればいいと判断。
「九条…すまない、今は頑張ってくれ!!」
彼は信頼している教師のいうことは聞く、つまり。
「ガァァァァ!!」
黒龍は皆の為に時間を稼ぐことにした。
「クソ!化け物が!!」
「グリュリャァァァァ!!」
天に浮かぶ黒龍は翼を広げ己の力を誇示する。
所々に傷があろうとも、鱗が剥がれていようとも、翼に穴が開いていようとも。
敵へ、敗北を刻み込む。
「グォォォォ!」
一心不乱にそのAGを破壊するために拳を叩きつける。
どれだけ傷つこうとも関係ない。
吹き飛ばされたAGを掴み地面に引きずりながら空へ投げ飛ばし爪で切り裂く。
「ぐぅっ!?」
いくらAGと言えど究極の存在には適わない。
この黒龍には条理を不条理に変える存在が宿る。世界の『1』という存在そのもの、この龍以外全て『0』なのだから。
「ギシャアァァァ!!!」
比類する存在は無い。
「クソ…こうなったら…!!」
急にルゥサは方向転換し海へとインパクトブーストし飛んでいく。勿論黒龍も追いかけるが手負いの為流石に追いつけない。
すると
「ギッ!?」
海の真ん中あたりから何かが隆起してきている。いや、何かが海から押しあがっている。
黒龍よりも一回り大きい存在。
そのマシンは海から全身の姿を見せた。そしてその中に入っていき、AGとマシンが合体し完全体を見せつけるルゥサ。
『九条春斗!これはな…お前を殺すためだけに作り上げた殺戮マシン、名を『catastrophe-01』!』
そのよく分からない存在を凝視する黒龍。
『コイツにはお前の赫蝶が搭載されたギアが3つ搭載されている!並みのAGじゃ出せない出力を出せるんだよ!!』
「!!」
『手始めに…くらえ!!』
『デリート・レイン!!』
カタストロフィの胸部コアに粒子が集まり始め、放つ。
ーー次の瞬間、黒龍は黒い光線に包まれた。
ーーー
「御影先生!避難完了しました!」
場所は変わりとある広場。宿泊施設にも殆どの人が戦いに巻き込まれないように避難している。
そして、その場所へ。
ーードゴォォォォォン!!
と轟音を鳴らしながら巨体が落ちてきた。
幸いにもそこは広場の中心で誰も居なかったため、踏みつぶされるようなことは無かったが。
「グ…ルル…」
「は、春斗!!?」
力なく弱り切った黒龍がぐったりと倒れていた。
圧倒的な個の暴力が何かによってここまで傷を負わせたのだ。
「おい、春斗!しっかりしろ!」
黒龍の元へ駆け出し春斗の安否を確認する葵。
「ア…オイ…」
弱弱しい声と共に黒龍は赤い粒子に包まれ、姿が消えてゆく。
やがて赤い粒子が無くなっていくと、中心に一人の少年が全身から血を流しながら倒れていた。
まぎれもない、九条春斗だった。
「…ぅぅ」
今まででも見たことがないくらい彼は力なく横たわっていた。
呼吸も浅い。
「春斗!!」
一斉に駆け寄る葵、フレヤ、レベッカ、アナスタシア、水津、雪華、アイヴィー。
身体中に内出血のような模様が広がり誰がどう見ても彼はもう助けられないという現実をつきつけられる。
「…まさかこうなるなんてね」
今度は空から3機のAGが下りてくる。
「九条春斗…いやストリーム」
「テンペスタ!!貴様…!!」
「誤解しないで頂戴。今回は私たちじゃないわ、まぁ…やらされたけど」
「ふはははははっ!!」
次は件のものが降りてきた。AGではない巨大なマシン。
「ルゥサッ!!」
想い人をここまで傷つけたものに対して鋭い視線を送る皆。
「なんだその目付きは?これからお前たちは死ぬのだぞ?AGも使いないようなゴミに構う暇はない」
「くっ…!」
今だAGは使えず、何故かテンペスタのみが使えているがそんな謎はどうでもよく今は春斗を含めたこの場にいる全員の命が危ない。
「まぁいい、復讐ついでだ。この場にいる全員皆殺しだ!!はははははっ!!手始めにお前から殺してやるぞ…九条春斗ォ!!」
先程と同じように胸部に粒子が集まっていく。
だが
「…」
「…?」
春斗とカタストロフィの間に入り両手を横に広げた
少女の名は、フレヤ・アレクサンダー。
「やらせませんわ」
「人間の身体で何ができる?」
「えぇ何もできないでしょう、でも春斗さんは違いましたわ。彼は私と少女を守るために生身でレーザーを受け止めましたの。それに想い人を守らなくて何が惚れた者ですか!」
「ぼ、僕も!」
「私も行くぞ!」
「私もだ!」
そうして続々と立ち上がっていく人たち。
彼に想いを寄せる者。彼に守ってもらった者。彼にお礼を告げたいものが集結し彼を守ろうと動く。
「…ふん、くだらないな。今更何人死のうが知ったことか」
容赦なく大量殺人を行うためのトリガーを引くルゥサ。
「死ね」
そして彼を守ろうと動いた者たちに黒い光線が浴びさせられる。
ーーはずだった。
「…?」
その光線は目の前で受け止められている。
受け止めたのは。
「は、白鉄!?」
なんと白鉄。
操縦者も居ないのに何処からか飛んできた白鉄が光線を受け止め、上に弾き返した。
「何だおま」
『排除します』
誰も乗っていないはずの白鉄が勝手に喋り動き出し、カタストロフィに攻撃を仕掛ける。
どうせ効かないだろうとルゥサは思っていたが…。
ーーパキッ
「なっ!?」
『装甲の亀裂を確認』
無垢の斬撃でカタストロフィの装甲にヒビが入る。
「がはっ!?」
そして白鉄に蹴られ、吹き飛ばされるカタストロフィ。
「な、何故白鉄が…!?」
「おーい!!」
状況が読めない御影先生の元へ木手吾郷、吾郷技研の研究所長が走りこんできた。
「な、何故お前が!?」
「はぁはぁ…ど、どうしたもこうしたもないよ!急に白鉄が動き出したんだ!」
「その結果がアレか?」
指を指した方向には搭乗者がいない白鉄がカタストロフィを一方的に攻め立てる。
「どういうこと…?」
「こちらが聞きたい」
二人が話している間にカタストロフィが吹き飛ばされ体勢を崩して膝をつく。
「馬鹿な!?」
『搭乗者九条春斗らしい回答。宝の持ち腐れであると、どれほど強いモノでも扱うことが出来なければ無駄です』
「貴様!何者だ!!」
『私は戦闘効率強化AI、そして白鉄に搭載された緊急装置が発動しました。搭乗者九条春斗のバイタルサインが極限まで下がった場合搭乗者の命を最優先と判断しどのような状況であれ自動操縦に切り替わり救出に向かい、最後の伝言の再生を試みます』
体勢を崩したカタストロフィに背を向けて倒れている九条春斗の元へ歩いて向かう白鉄。
そして座り込み倒れている春斗の元で座る白鉄。
『音声データ再生、開始』
ピピッと音が鳴り白鉄本体から声が流れ始める。
『春斗』
「夏樹!?」
一番最初に反応したのは御影紗月。忘れもしない戦友の声が流れ始め驚く。
『このデータが再生されているなら私とパパはもうこの世におらず…AGを使える様になっているはず』
「夏樹って事は…春斗さんのお母様!?」
『よく白鉄まで進化させましたね。流石私の息子です。そしてごめんなさい、貴方に責任転嫁させるようなことをして』
「…」
意識があるのかどうか分からない春斗に声をかける夏樹。
『貴方も驚いたでしょう。何故男である春斗がAGを使えるのか…実は予想だけど理由があるの』
「理由…?」
『本当は言いたかったんだけど…春斗、貴方は人工ナノマシン『Another』で身体の一部を補強されているの』
「!!?」
人工ナノマシン『Another』
今の時代によく使われているナノマシン。
用途としては人造兵隊のボディや機械の補強をする際に使うもの。人体には使えないはずのAnotherが春斗の身体を補強しているとのこと。
『…貴方は昔、私とパパのAGやギアの開発の成績を横取りしようとした組織によって赤子でありながら殺されかけていたの。今でもその怒りは沈下されていないわ。実の息子の右腕と右半身を引きちぎったゴミのような組織には』
赫蝶が気が付いた春斗の身体の補強のような後。
その謎がこれだったのだ。
赤子だった頃の春斗は夏樹と克樹の成績を横取りしようとした組織によって右半身を引きちぎられ、赤子の身体にはそれ相応の再生能力もない為、敵勢力は大量出血でそのまま放置して赤子の春斗を殺そうとした。
『実の息子を殺されるわけには行かなかった私たちは貴方の身体にAnotherとギアが入っている人工血液を移植し、何とか一命を取り留め生活できるようになったけど…AGを動かせるようになってしまった。本当は私たちの手で守りたかったけど…出来そうに無いわ。だから貴方を守るために実験結果やその情報が乗っている資料全てと共に研究施設ごとこれから燃やす』
全ては春斗が安心して生活できるよう、母として父として息子を守るための行動だった。
『…でもどのように告げられるかわからないけど、今この技研には襲撃者が来ているの』
「!!」
『恐らくだけど…実験による死亡と報じられそうだけど、私たちは貴方にしてしまった罪を背負って私たちは死』
と言い切った瞬間、銃声が聞こえ音声が消えた。
「まさか…実験による事故死ではないのか!?」
明らかに今のはおかしかった。
実験による事故死なら銃声が聞こえるはずもないし、変なところで音声が途切れることもない。
つまり…九条夏樹と九条克樹の死亡は事故死ではなく、他殺。
『以上になります。白鉄のデータの中には九条夏樹、九条克樹から『春斗がやりたいことをしなさい、そのために力を振るってほしい。そして許してほしいとはいわないけど、本当にごめんなさい』と保存されています』
寝込んでいる春斗に手を伸ばす白鉄。
『貴方はどうしますか?』
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




