第53話 偶然な三つ巴
冬休みが終わり新学期が始まるころ、IGD学園の全校集会にて壇上の上に雪華が立っていた。
軽く咳ばらいをして、壇上に吊るされたモニターに画面が映る。
「それではこれより延期されていた修学旅行についての説明をさせていただきます」
おーっと声が上がる。各国のエリートが集められているIGD学園。
だとしても華の十代の乙女なのだ。
「本来は秋に行うはずの修学旅行だったのですが様々な事が起こり延期が重なりましたが、ここ最近のIGD学園や世間は平和になりつつあります。ある意味嵐の前の静けさと捕えていますし、またしても修学旅行にて第三者の襲撃がないとは言い切れません」
ぎらりと視線を鋭くしてぐるっと見回す雪華。
「そんなわけで既に教員や行動隊に話を通し下見を行ってもらいました」
先程の鋭い雰囲気は一瞬のうちに消えあっけらかんとした雰囲気に戻った。
「此処からは私が説明する」
マイクの主が雪華から御影先生に切り替わり話し始める。
「ある意味私たちで囮の修学旅行を行った結果第三者の襲撃はあった。だが…私たちが行動する前に動き出した方はタービュランスのストリーム」
「!!」
その通り名に反応する皆。
「知っての通り九条春斗だ。襲われた私たちを守り続けて敵勢力を単騎で破壊つくした、そして最近の世間やIGD学園の検査や監視の結果…この学園を守っていたのはあのストリームだ」
「春斗さん…」
「いったい何のためにストリームが動いているのか分からない。だがそれ以上に今のタイミングなら修学旅行を楽しむことが出来ると判断し、今に至るというわけだ」
今の修学旅行はある意味タイミングが良い。敵勢力は九条春斗ことストリームのせいで大打撃を受けており、表舞台には立てないような状態。
だからこそこのタイミングが最適であると生徒会と教員、学園上層部はそう判断した。
…そしてもう一つの目的があった。
このタイミングだからこそ出来る1つの作戦。
既に専用機持ちや教員に伝えられている作戦、名前は『ストリーム奪還作戦』。
現在ストリームの唯一の目撃情報がある修学旅行先の京都。
学園としても彼の行動は敵と判断しておらず、むしろ味方側だと判断しており…そして一番の理由が彼の退学が『第三者による圧力』の為、『九条春斗の退学は不正である』と判断され在学可能となった。
これは九条春斗をIGD学園に戻すための作戦。
…ちなみにこの作戦に異論を唱えたものは誰一人としていなかった。
「では京都修学旅行は1月の13日を予定していますので皆、きちんと準備してね」
雪華の声に反応するかのようにはーいと元気な声が体育館に反響した。
◇◇◇
「…あぁ、クソ」
激痛が走る右腕を押さえる。
正月には任務はなく爺さんと婆さんと過ごしたのだが…赫蝶の浸食が想像以上に早く、身体の自壊の意味を知った。
赫蝶の能力はしばらく使わないようにしたのだが…まさか正月明け一発目の任務先でIGD学園の教員が襲われていると思わなかったし、フルで使い俺の中に宿る赫蝶の数は増えていき…自壊が始まってしまった。
俺の右腕を見ると所々内出血のような模様が出来上がっている。多めにエネルギーを貰っておけば良かったと心の底から後悔しているところだ。
『春斗…大丈夫ですか?』
「まだ、大丈夫だ」
『…ですが』
「分かってる、打開案を探さないとな」
しばらく任務はないとテンペスタに言われたし、そのしばらくが過ぎるまでに俺が死ななきゃいいが…。
考え込んでいるとコンコンと俺の部屋の扉がノックされた。
「はるちゃん起きてるかい?」
「婆さん…?」
内出血の模様が見られない様に毛布を被りながら返答する。
「入ってもいいかい?」
「大丈夫だけど…」
と返答すると扉が開いて婆さんだけではなく爺さんも入ってきた。
「どうしたの?」
「いやなに、旅行に行かないかと思ってな」
「急だな」
「実はな、今日正月明けの買い出しに行った帰りにくじがあったんだ」
「…まさか」
「当たった」
そういい爺さんは懐から三枚の旅行チケットを見せた。
京都のグルメと旅館の宿泊券のセット、何というか流石の一言。
確か去年もあったんだよな。爺さんが旅行チケットを当てるとかいうヤツ。
「…まぁそれはいいや。それでいつ行くの?」
「1月の13日、休みが取れたからな」
「分かった」
そんなわけで俺の旅行が決まった。
◇◇◇
激痛に耐えながらも時間は過ぎていき1月13日。
俺は右腕を包帯でグルグル巻きにして黒のスウェットに白色のニットを下に着て黒色のコートを羽織っている。
結局、任務は一度もなく内出血のような模様が消えることもなかった。むしろ痛みは増す一方。
…もちろんだけど、爺さんと婆さんにはこのことは言ってない。
聞けるわけがない。今でも俺のあの龍がどう思われてるか分からないし…。
「春斗、大丈夫か?」
「えっ!?な、何でもない」
「上の空だったが…本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって」
新幹線に揺られながら外の景色を眺める。
…そういえば谷氏、たそ、はちおから言われたけど今日が修学旅行らしい。しかも京都。
もしかしたら会うかもな。
俺の龍の事をどう思ってるか知らないけど。
『春斗、綺麗ですね』
「あぁ」
しばらく乗っていると停車駅に到達、俺たちが乗っている場所は指定席なので幾ら混んできても関係ない。
すると
「なぁ知ってる?」
「どうした?」
俺の後ろに座った男性二人の声が聞こえてきた。
「今日さ、IGD学園修学旅行らしいぜ?しかも京都」
「!!?」
「え、マジ?てか何で知ってるん?」
「いや…妹が通ってるの知ってるだろ」
「そういえばそうだったな」
とんでもない情報が後ろから聞こえてきた。
よりにもよってIGD学園も今日修学旅行なのかよ、はぁ…会わないといいが。
タービュランスに入ってから皆と会うのが嫌になってきている。まぁ敵勢力だし、何よりフレヤの様に止められる可能性もある。
…止められたくない。本当だったら断りたくない、でも断らないと皆に危険が及ぶ。
断るこっち側にもなってほしいよ。
『…春斗』
「分かってるよ」
ーーー
それから新幹線に揺られ、京都にたどり着いた。
やや肌寒いが対して気になるほどでもない。
「駅弁、美味かったな」
新幹線に乗る前に買って食べた駅弁が想像以上にうまかった。
湯気も出ていて出来立てほやほや感があったのもまたいい。
まぁそんな駅弁談義はどうでもいい。
宿泊する温泉旅館はまだチェックインは出来ないので、早速京都観光へ。
爺さんがまずは清水寺に行きたいとのことで清水寺へ足を進めていく。
歩いてて思うがやはりこの和風な雰囲気が良い。
携帯電話を取り出してカメラで風景を、景色を撮っていく。
『春斗』
「うん?」
『前にタービュランスのハリケーンに言われていた言葉について考えたことがあります』
「私と同じだとかの奴か?」
『はい、そして1つ…見つけたものがあります』
「見つけたもの?」
意を決したように赫蝶は語り始めた。
『春斗の身体なのですが、妙な部分を発見しました』
「妙な部分?」
『詳しくは分からないのですが、春斗の右半身側にその何かが密集しているのです。まるでコーティングされているような物が痕跡があり、全身の血液にも何かと混ざっているような…』
「?」
俺の右半身側と血液…?
今なら右腕に赫蝶の自壊の影響が出ているが、思えばそれ以外に影響は身体に出ていないしな。
…もしかして、まだ俺が知らない秘密が俺の身体にあるのか?
そう考えこんでいるうちに清水寺についた。
所々に高校生がいる。そりゃそうだけど…IGD学園の皆やアイツらは居ないみたいだ。少し安心する。
「はるちゃん?」
「あぁ、ごめん。ぼーっとしてた」
「大丈夫?次は金閣寺行くつもりだけどいい?」
「もちろん」
婆さんに呼ばれ、二人についていく。
俺の身体に眠る何かを考えながら。
◇◇◇
IGD学園、修学旅行一日目。
代理のクラス委員長であるフレヤの元、皆班行動に勤しんでいた。
もちろんフレヤもなのだが…。
「…はぁ」
京都の鴨川を眺めながら1つ思う。
春斗を止めた際に言われた言葉や一緒に過ごしてきて思ったことがあったのだ。
フレヤ自身、春斗の事をよく知らない事に。
出会いは最初から険悪だったがそこから彼の優しさに触れ、フレヤの色々な事を彼に教えたが…彼からは根本的な何かを教えてもらったことがない。
知ったことも誕生日程度。しかも盗み聞きで。
「フレヤ、大丈夫?」
「…ごめんなさい、少しぼーっとしていましたの」
流れる川を眺めていたら後ろからレベッカに声をかけられハッとなり、少し微笑む。
「やはり春斗の事か?」
「えぇ…思えば私は詳しく春斗さんの事を知らないと思いまして」
「確かに…春斗は自分の事を語らない」
「葵さんは何か知っていまして?」
「いや…途中から春斗は転校したし、そこから先は」
「そうですか…」
…フレヤ、レベッカ、アナスタシア、アイヴィー、葵、水津そして雪華の班の雰囲気が少し静かになる。
「まぁまぁ今は旅行を楽しみましょ?…もし今の雰囲気を春斗君に見られたら彼だって戻りずらくなっちゃうわ」
「…お姉ちゃんの言う通り。春斗は私たちを守るために去った。だからこそ明るく有るべき…帰ってきたら、怒る」
「…!?」
水津の唐突な怒る発言に皆が驚く。
「春斗が自分自身の存在の意味を知らずに…私たちに黙って去ったから怒る。そして抱きしめる」
「だ、だきっ!?」
「二度と失わない様に」
「…そうだね。春斗には存在の重みを知ってもらわないとね」
「あ、私もメイスで一発やっちゃおうかな?」
「せ、雪華さん…それは春斗が死んでしまうのでは?」
あくまでこういう建前で春斗に会おうとしている。そう、建前なのだ。
彼女たちには一人一人会いたい理由が違うのだ。
感謝したい者、謝りたい者、行動に移したい者。
まさに十人十色。
「…そういえば班行動の班を決める際に思ったのですが何故雪華さんが一年生の班に?」
「うん?今年から学園クラス問わずにしたのよ、ほら延期が重なっちゃったし4年生の為にも、ね?」
「な、なるほど…」
きゅぴんと擬音がなりそうなウィンクをする雪華。
なお、実際の理由は不明である。理由を聞き出そうとしてもつかみどころのない存在の為、難しい。
「ほら、集合時間まで時間はまだまだあるし何処か行きましょうか」
「うむ、そうだな。私は和菓子を食べてみたい」
「ならアナスタシアちゃんの案の通り和菓子屋さんに行ってみましょうか」
そうして彼女たちは足を進めていく。
すると
「うーん…はるちゃんへのお土産どうするか」
「やっぱり菓子?」
「ありじゃない?甘い物好物だしな」
見知った顔が三人。
「あ、あの!」
声をかけることに躊躇もなく三人に話しかけるフレヤ。
「は、はい!って…貴方ははるちゃんの連れの?」
「は、はい…フレヤと申します」
「夏祭りの時にあった人だよな、どうしてここに?」
「…修学旅行中でして」
「そうなんですね、こっちもですよ。この後モノレールに乗りますが」
「え?」
なんと色々話しているとどんな偶然か貸し切りのモノレールが三人の学校と同じだったのだ。
フレヤは修学旅行が始まる前に貸し切りのモノレールがとある高校と共同になったという話を先生から告げられていた話を思い出す。
なんという因果なのか。
「…こんなことあるのか?」
「そう…ですわね」
お互いにどのような会話をすればいいのか分からない雰囲気が立ち込める。
「おい、三人」
その雰囲気をぶった切ったのはアナスタシア。
「春斗は知らないか?」
「ちょっ!?アナスタシア!?」
とんでもないド直球な質問を三人に投げかける。
「今は分からない。こっちに帰ってきてたのは良いが俺たちが修学旅行に来ちゃったからな」
「…そうか」
「だが…最近、会わなくなったんだよな」
「最近?」
「あぁ、何て言うか元気があるような素振りを見せていたんだよ。アイツ、無理していたり嘘をついているとき分かりやすい癖があるから」
「…目を合わせなくなる」
「せ、正解。何で知ってるんだ?」
その癖を一発で正答したのは葵。
流石幼馴染と心の中で葵を褒める5人。
「…っとすみません、そろそろ班行動に戻るのでこの辺で」
「わかりましたわ、こちらも急にすみません」
「いいえ、それでは」
谷氏が軽く会釈をして7人から離れる3人。
「…元気がないってことは」
「えぇ…春斗さんの言っていた自壊が?」
「可能性は…捨てきれない」
「これは想像以上にまずいかもしれない」
フレヤのパーティーの際、彼が去り際に言った一言。
『身体の自壊を抑えられる』
この場にいる7人は今の春斗は自壊が抑えられていないと予想し焦り始める。
どんな自壊が起きているのか分からないし、本格的に春斗と二度と会えなくなる可能性が爆発的に上がる。
その時。
ーーふよふよと赤い蝶が目の前を横切った。
「赤い…蝶?」
その蝶は何処かへと飛んでいっているが…場所は不明。
だが分かったことがある。あの赤い蝶はまぎれもない赫蝶。
春斗は…この京都に居る。
「…もしかして本当に」
「お、追いかけようよ!」
「私は先に先生に連絡するわ。皆は先に追ってて」
そうして先に雪華は先生に連絡するが驚きの回答が帰ってくる。
「こちら雪華、御影先生赫蝶を発見しました」
『…あぁ、分かっている』
「分かっている?」
『…こちらは九条を見つけた』
「!!?」
なんと御影先生の方で既に春斗を見つけたとの事。
「今どちらに!?」
『伝えたいが…別の問題がある』
「別の問題?」
『…』
ーールゥサも居る。
「…え?」
『申し訳ないが九条は追うな。アイツがいるということは十中八九フレヤもしくは学園の誰かが狙われている可能性が高い。だから一度全員モノレールに集合させ、宿泊施設に向かい一般生徒の避難そして敵勢力の殲滅を優先しろ』
「しかし…!」
『分かっている。折角見つけたチャンスを無駄にする事くらいはな、だか…これ以上生徒を失いたくないんだ』
「…分かりました」
御影先生の言葉には重みがあった。
これ以上生徒を失いたくない気持ち、それは雪華も分かっていた。
唐突に告げられた九条春斗の退学。それに反抗した者たちの中の一人、雪華。
彼という存在の重みを知っているため退学にさせたく無かったが…彼が自分の意志で去ってしまった。
「みんな…聞いて」
「お姉ちゃん…?」
「春斗君を追わないで、そして今すぐモノレール乗り場に行くわよ」
「えっ!?」
「なっ!?諦めろというのか!?」
「…ルゥサが居るみたいなの」
「「!!」」
雪華が告げる理由に人一倍早く反応したのはフレヤとアイヴィー。
お互いの憎むべき相手も此処にいるのだ。
「ルゥサ…!」
「…また邪魔をするのですね」
「先生の見解だとフレヤちゃん、もしくは他の生徒が狙われる危険性があるから宿泊施設に避難させることを最優先。いいわね」
「了解」
全員の意見は一致した。
「…それじゃあ行くわよ」
何処かへ飛んでいく赫蝶に全員背を向けてモノレール乗り場へ走っていった。
◇◇◇
『…!?春斗』
「ど、どうした?」
『嫌な予感がします』
「え?」
『何故かよく分からないのですが、この京都の何処かで私の一部がギアとして使われました』
「何?」
赫蝶がギアとして使われた…もしかしてあのゼフィルスみたいな感じか?
「どのあたりだ?」
『詳しい位置は分かりません…ですがロクなことに使われていないかと』
「…」
「はるちゃん、大丈夫?」
「大丈夫、ごめん。昨日楽しみで寝れなくて…」
婆さんが俺の目を見て話してくるが一瞬目線をずらし下を向く。
モノレール乗り場にて次に乗るべきモノレールを三人で待っているのだが…赫蝶の言っていることは俺にも分かる。
俺も何故か知らないが
ーー強い胸騒ぎを感じている。
◇◇◇
雪華や御影先生、柊木先生の指示のもと、IGD学園の生徒全員がモノレールに乗り込んだ。
だが…。
「何故、動かない…?」
人数確認も終わり、今すぐにでも出れるような状態なのだが…出発時間になってもなお、モノレールが動かないのだ。
同じモノレールに乗っている谷氏、那由多、蜂の高校も全員そろっているらしいが…。
すると、急にモノレールの扉が閉まり、モニターにジャミングのような物が映し出され、何の前触れもなくモノレールは発車した。
「きゃあっ!?」
しかも通常のモノレールの速度ではない。ぐんぐんと速度を上げていき…モノレールの車輪から火花が散っている。
「ど、どういう事…!?」
「しゃ、車両の制御システムに侵入を試みます!」
焦っている水津が先に行動に移し、制御システムへ侵入を試みるが。
ビーッと音が鳴り、侵入拒絶。
「水津、メインフレームに侵入し強制的にモノレールのシステムダウンを実行しろ」
「分かりました」
御影先生の指示の元、メインフレームに水津は侵入を試みるが…失敗。
「め、メインフレームその物が乗っ取られています!」
「クソ…!手の込んだことを…!」
ーージ、ジジッ
アナウンスにノイズの走る音が聞こえてくる。
『フレヤ・アレクサンダー』
「ルゥサ!!」
その声の主はルゥサ・ガリアルド。
『お前は僕との結婚を破棄し、ガリアルド家を終幕まで追い詰めた…許さない』
「当然の報いですわ!あのような犯罪組織なんて!」
『…まぁいい、お前の責任だ。今、この車両は僕とタービュランスが完全に乗っ取り次の停車駅へ超高速で向かっている。その停車駅には動かせない様に停車させておいた車両がある。ついた瞬間…正面衝突しフレヤを含めた全員が即死だ』
「何だと…!?」
『アイヴィー、お前も居たのか。好都合だ、今更あの男との約束なんぞどうでもいい。お前らが死ねば僕の復讐は完璧に終わるのだからな!安心しろ、その車両全体にAGが展開できなくなるよう特別な磁場装置も付けてある。精々命乞いをするんだな』
この男はあの九条春斗との約束を破った。
去れば殺さないという約束を自分の意志で破棄した。
「ルゥサ…」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




