第22話 彼方より蝶は舞い降りる
「では現状の説明をする、投影化されたモニターを見てくれ」
旅館の一番奥の大座敷で俺たち専用機持ちと教員たちが集められ、中心と俺たちの目の前にモニターが浮かび上がった。
「昨夜、23時36分正体不明のAGが太平洋の中心辺りの海上から出現し暴走している」
「正体不明のAG…」
「あぁ、どうやら国連の検査によればその出現地の海底に違法研究施設があったらしい」
正直とんでもないことを聞いてぽかーんと驚いているが…俺以外真剣な目付きでモニターを見ていたので変に騒がない様にしよう。
それにしても正体不明AGに違法研究施設とか普通は聞かない単語ばかりだ。
「そして衛星からの追跡の結果、ここから約3キロメートル先の空域を通過することが分かった、予定通過時刻は13時24分、およそ今から2時間後。学園上層部からの通達により我々でこの事件を対処することになった」
淡々と話す御影先生。
「ここからが本題だ。本作戦の教員たちは海域の全面封鎖の為に行動するため正体不明AGの対処は専用機持ちのみで行う事となる」
…つまり、俺たちで正体不明AGを止めろってことか。
「…春斗」
「?」
「大丈夫か?」
隣に座っていた葵が話しかけてきた。
「正直、どういう気持ちか自分でも分からない…」
「そうか…」
ちょっとパニック状態でもあるが、それ以上に専用機持ちはこういうものであると再認識させられた。
「では意見のある者は挙手を」
「はい」
一番最初に挙手したのはアナスタシア。
「その正体不明AGのスペックデータはありますか?」
「あぁ、あるといえばあるがほぼ破損されているデータしかない。どうやら暴走した際に一部破壊され、データがロックあるいは消滅している」
「それでも知るべきことは知っておくべきかと」
「わかった、ただしこの情報は国家機密だ。漏洩した場合、裁判後最低二年の監視がつくことを覚悟しておけ」
「了解です」
そうして俺たちの目の前のモニターにその正体不明のAGのデータが写った。
…機体名『不明』製作元『不明』武装、専用アビリティ『不明』か、だがスペックのデータはほぼ全て残っている。不幸中の幸いというべきか…。
しかし俺が考え込んでいるうちにドンドン話が進んでいく、これが本来の専用機持ちの気持ちやら何やらってやつなのか。
「特殊射撃型ですのね、しかもスプライトの性能を大きく上回っていますわ」
「それだけじゃない、このスペックとなると単体というよりはオールレンジ型…」
「偵察は行えないのですか?」
「無理だ、早すぎて追えたものじゃないと」
あぁ…多少はデータを見ていたやつだから分かる。俺の白鉄よりも正体不明AGの方がスペックは上だ。こんな機体があるなんてな…てか作ってどうするつもりだったんだ?
『操縦者』
「ん?」
考え込んでいると左手首に装着された白鉄から声が聞こえてくる。それと同時に他の教員やみんなの視線がこちらに移ってきた。
「どうした?」
『データ内にあるロックされた項目をハッキングで全て解除しました』
「…はい?」
『表示します』
表示します、じゃねぇぇぇ!!何とんでもねぇことしてんだ!?ありがたいけどねぇ!!
「はぁ…まぁいいや見せてくれ、それと他の人にも共有を」
『それがこのロックが特殊でした』
「というと?」
『他者への伝達と共に強制的にロックあるいはデータが削除されるプログラムが仕込まれていました』
「…ならしょうがないか」
まぁハッキングしてくれたこと自体感謝だ、そんなわけで白鉄がハッキングしてくれたデータを確認する。
「識別名…『ゼフィルス』?」
「ゼフィルスか、他には?」
「えっと専用アビリティは表示されていませんが、武装は10連ビットと二丁のレーザーライフル『ディザスター』とレーザーブレードが搭載されています」
「…なるほど」
「それと?何だこれ、初期状態?」
その初期状態と言った瞬間、全員の顔が驚きの顔に変わる。
「く、九条君?今なんて」
「このゼフィルスは初期状態と」
「しょ、初期状態でこのスペック…!?」
一気に会議がざわついてきた。
「九条、初期状態は知っているか?」
「い、いえ…」
「初期状態、お前の専用機でいうところの黒鉄。それも一番最初のな」
「一番最初の黒鉄…?」
「あぁ、普通の専用AGは初期状態から始まり武装や拡張パーツを用いて専用機として仕上げていく。その過程が初期状態であり、黒鉄から白鉄になった瞬間が初期状態が終了した状態、それで完全な専用機となる」
待てよ?それが初期状態なら…コイツはまだ完全な専用機化していない。
更に俺は黒鉄から白鉄になった瞬間を知っている。武装も出力もパワーも全てが変わる。
つまり…このゼフィルスは完全体ではないという事だ。
(こ、このスペックで完全体じゃないのか!?)
各スペックの数値がはっきり言って超越している。俺たちの機体のスペックを足し算してやっと同じくらいになるレベルの数値だ。
だがそれは初期状態の話、俺の白鉄と同じように進化したらと思うとあまりにも恐ろしい。
「今の情報をまとめると、一回限りの短期決戦が絶対だ。初期状態でもマズいが進化されたりされれば本当に手が付けられなくなる」
ゲームのレイド戦のように何回にも分けて戦えば、進化する可能性があることを考慮した短期決戦。
「…やはり専用機全員で戦うしかないのでは?」
「僕も春斗と同じ意見です。とても一対一じゃかなわないと思います」
「だがその分の不利を背負うことになるな」
「そうですわね、迎撃地点はここから3キロメートルですもの」
「私も同じ意見です、御影先生は?」
「…そうだな、それしかない。では本作戦は全専用機持ちでの殲滅作戦とする!作戦中の行動は各員に任せるがバックアップは教員が行う。作戦開始時刻は13時、それまでに機体の整備やセットアップをしておけ!」
「「「「了解です!!」」」」
そうして全員、大座敷から出ていきお借りした庭にAGを展開して整備を始める。
「…」
コンソールを確認してエネルギーの状態を確認する。よし、全部満タンだ。エネルギー系の問題は無さそうだ。他の部位の確認もする。
…ずっと思うことが一つ。これは訓練とか生易しい物じゃない、実戦だ。もしかしたら命を落とすかもしれない戦いだ。俺みたいなただの一般人が経験するはずのない事。
「…はぁ」
「春斗さん、大丈夫ですの?」
考え込んでため息をついていると隣で整備をしていたフレヤから声がかかる。
「まぁ大丈夫と言えば大丈夫なんだが…」
「…無理強いはしませんが作戦の辞退は今でも大丈夫だと思いますわ、元より春斗さんは一般人ですもの」
「分かっているけど…それでも俺だけ隠れてみんなに戦わせるのは気が引ける、俺も戦うよ」
あぁそうだ、これは戦いなんだ。
今更俺だけが隠れたところで絶対に助かるとも思えないし、何より仲間だけを戦わせるのはもっと嫌だ。
…よし、他の部位にも異常は見当たらない。完璧だ。
「ねぇ春斗」
「うん?」
「何か聞きたいことはある?作戦までまだ時間はあるんだし、分からないことは聞いてほしいな」
「…すまんな、気をかけさせてしまって」
「ううん、いいんだよ」
「な、なら私も協力しよう。全員での作戦だしな」
「あぁ、作戦開始前のブリーフィングやコミュニケーションは必須事項だ」
「みんな…ありがとう」
みんななりの気遣いを俺にしてくれている、戦闘前とはいえ少し嬉しい物がある。
(絶対に、成功させるんだ)
俺の中でそう決意した。
ーーー
時刻は13時丁度、砂浜に簡易的な射出装置が設置されていて、それにレッグを装着し待機。
7月に差し掛かった気温に晴れ渡った空、日に照らされながら呼吸を整える。
明らかに今までと雰囲気が違う、これが実戦なんだと再度認識する。
『全員聞こえるか』
AGのオープンチャンネルから御影先生の声が聞こえてきた。
『今回の作戦は一回限りの短期決戦だ。出し惜しみはするな、全力で望め』
「了解」
『それと九条、お前には柊木先生がサポートする。初めての実戦だ、何が起きるかわからない。一つ言うなら無理はするな』
「了解です」
『では九条君、お願いしますね』
プライベートチャンネルで柊木先生の声が聞こえて来た。柊木先生のサポートは身をもって知っている。そのおかげでほんの少し落ち着いてきた。
『では…作戦開始!!』
御影先生の号令が聞こえた瞬間射出装置が上の方に向きを変えて俺たち五機のAGを空中へ射出し、全員でゼフィルス迎撃ポイントまで飛んでいく。
衛星からのリアルタイムの中継を確認すると猛スピードでその迎撃ポイントへ向かっている。何を思っての行動なんだろうか。
それと後で知ったことだがあのパイロットはAI、完全にゼフィルスとは一体化していないようでまだ行動にムラがあると聞いた。その隙をついた攻撃を仕掛けよう。
『目標ポイントに到着』
全員空中で停止し、周囲を見渡す。ぱっと見は何処にも居ない、衛星の中継も変わらず飛んでいるゼフィルスを移しているが他に見えている物は青い海のみ。
『搭乗者、南東方向に高速で飛来する反応』
「…!」
穿千を展開して構え、弦を引きながらスコープでその方向を確認する…。
(居た…!)
海を裂くように動く機体を。
識別機体名『Zephyrus』色あせた茶色の装甲に蝶のような背中に生えた翼もといジェット機構。ハッキング下データによれば10連ビットとレーザーライフルにブレードが搭載されているが今は何も装備していない、好機かもしれないぞ。
「南東方向に敵機を確認」
『了解、戦闘を開始せよ!』
『行くぞ!』
「あぁ!!」
フレヤ、レベッカ、アナスタシア、そして俺がロングレンジの一斉射撃を放ち着弾。黒煙に包まれたことを確認した俺は穿千を無垢に替えて葵と合流して様子をみる。
『敵機確認』
「…敵機反応有り、来るぞ!!」
オープンチャンネルから機械の声が聞こえた。感情の無い声だが敵意がある。
次の瞬間、黒煙を翼で掃きその翼から10個のビットが射出され…。
『殲滅開始』
「!!」
一斉射撃が開始された、五人全員を狙ったビットの攻撃。一斉にばらばらの方向へ動くが、全員を捉えるようにビットで攻撃してくる。
どんな頭の構造してたらこんな攻撃できるんだよ!しかも狙いもフレヤ程ではないが精密だ。
『くっ!何てスピード!』
フレヤのスターダストの射撃が空を切り裂く。さっきまで俺と葵の前にいたのにいつの間にか空中に飛び出していた。やっぱりスペックデータの通り滅茶苦茶早い、それに全身をぐりんと回転させ回避している。かなり難度が高い操作をしている。
ゼフィルスがレーザーブレードを展開し、フレヤに斬りかかるがレベッカの盾で防ぎアナスタシアの砲撃と合わせて背中目掛けて葵と俺の斬撃。
だが…
『きゃっ!?』
「ぐおっ!?」
ゼフィルスは無理やりブレードを薙ぎ払い、レベッカが吹き飛ばされアナスタシアが受け止めたが俺はもろに左腕に攻撃をくらい吹き飛ばされた。
(なんてパワーだよ!?)
何とか空中で体勢を立て直すが間髪入れずにブレードがレーザーライフルに変わっていて俺に撃ってくる。
「くっ…!!」
何とかぎりぎりで回避するが…なんてとんでもない物を作ったんだと作成者に心の中でキレる。
「葵!」
『任せろ!』
とにかく時間をかけてられない!俺が狙われている間に葵が攻撃を仕掛けられれば…!
『このっ…!邪魔だ!』
接近したところをビットで邪魔されビットに攻撃に転じられない。
とてもじゃないがここまで頭の早いAIとなると本当に攻撃を当てるのは至難の業だ。
なら意外性で攻めるしかない!
(初めてだが…!)
無垢から穿千に切り替え、ゼフィルスを中心に捉えた遠距離型AGの戦闘スタイル、サークルターンの動きをする。
昨日の夜に柊木先生から教えてもらった動き、訓練でも実戦でもしたことはないが…今、ビットは葵、ライフルとヘイトを買っているのは俺の方だ。なら回避しながらサークルターンで弓で攻撃するしかない!弦を引きながらゼフィルスの攻撃を躱し続ける。
『私たちで本体に攻撃を仕掛ける!』
アナスタシアの声が聞こえた。どうやら俺の意図を汲み取ったようだ、流石だぜ!
フレヤ、レベッカ、アナスタシアが今のうちにゼフィルスに攻撃を仕掛ける。
フレヤのレベッカの射撃をスレスレで回避し、アナスタシアのナイフを舞うように交わす。
だが…!
(今だ!)
その回避の隙を見逃すほど俺は弱くない!
弦を離し、矢を穿つ。その矢はゼフィルスのレフトアームに突き刺さった。
(シールドが…ない?)
本来のAGにはシールドエネルギーがあるはずなのに防がれず装甲に突き刺さった。マジで俺とまんま同じか?
『今だ!!』
ビットの攻撃の雨から抜けた葵が村雨と白露の切り下げをゼフィルスに食らわせる!いいぞ!
『このまま押し切りますわ!』
「俺も続く!」
三機の一斉射撃に二機の斬撃を食らわせ続ける。流石のゼフィルスもこの猛攻に防御し始めた。
『ゼフィルスのヘルスエネルギー残り40%をきりました!』
(いけるぞ!!)
このまま押し切れば作戦成功、破壊までいける!そう思い刀を握りしめたがビットがゼフィルスの周りを舞うように集まり、回転するように10方向のビットのレーザーが発射される。
まるでドレスのように見えるが…あの裾に当たった瞬間ダメージを受ける激やばドレスだ!
全員一旦距離を取るがビットの攻撃が止んだ瞬間、また接近しようとしたが…。
「!?」
急にゼフィルスが両手にビームライフルを装着し、チャージし始めた。
『今がチャンスだ!一気に押し切れ!!』
御影先生の声が聞こえた瞬間、俺以外が一斉に攻撃し始める。しかし、ゼフィルスはチャージを止めない。ここまで攻撃されているのに何故だ。
まさか…!?
「白鉄!」
『はい』
「…今、最悪なことが浮かんだんだ、確認させてくれ。フルチャージのディザスターの有効射程距離は?」
『元のデータ、観測データを照合。結果3200メートルです』
「もし、最大チャージでここから大陸まで撃ったら何処に着弾する?」
『演算結果。桜花荘の宿泊施設丁度に着弾します』
「やっぱりな…!!」
ゼフィルスのチャージされたディザスターが俺らを狙わず明後日の方向へバレルを向ける。
俺が浮かんだ最悪な事。それは…。
(俺が…止めないとッ!!)
俺らではない、別の誰かを狙う事!!
次の瞬間、正面から赤い閃光が俺に向かって放たれる。それを無垢で正面から受け止める!!
「うおぉぉぉぉ!!!??」
レーザーの方向とは逆方向にインパクトブーストしているが…一方的に俺が押されている!?
『九条君、何をしているんですか!?』
「この…ゼフィルスの攻撃の狙いは俺らじゃない!!桜花荘を狙っての…攻撃です!!」
『えっ!?』
「だから…止めないと!」
凄い勢いで桜花荘まで押し戻されていく、だが引くわけにはいかない!
正面から防いでいるが、ガンガンシールドエネルギーがなくなっていき…。
『警告警告!シールドエネルギー残量:0』
「があっ!?」
『春斗ッ!』
無くなった瞬間、俺の全身が燃えるような温度で熱く焼かれる。
熱い、痛い、辛い…そんなことどうでもいい!!
「あぁぁぁぁ!!」
俺のそばで…俺の近くでこれ以上傷つくところを見たくない!!嫌だ…嫌だ嫌だ!!
ーーー嫌だァッ!!
「これ以上…俺の周りで!!」
「傷付く人を出して…たまるかァァァァァッ!!!」
パワーエネルギーも、もうなくなる…なら最後のインパクトブーストだ!!
白鉄…無理をさせてすまない。だが許してくれ…!
俺も最後の力をふり絞る!!
「うぉぉぉらあぁぁ!!」
無垢を思いっ切り振りぬきレーザーを横へいなした。幸いにも桜花荘の宿泊施設から大きく外れた誰も居ない山に着弾した。
(よかった…)
だが…ゼフィルスは無慈悲にも。
「ッ!?」
俺のことを見下していた。
(間に合わない!?)
10連のビットが俺に一斉に射撃され、防ぎきれない。
「がはっ!?」
あの閃光が俺を貫く、シールドはほぼなく皮膚が焼き切れる感触が全身に渡る。悲鳴を上げる筋肉、きしむ音が聞こえる装甲。気が狂いそうな激痛が俺をもう一度襲う。
「春斗から…離れろッ!!」
一番最初に葵が駆けつけ、ゼフィルスを蹴とばし地面に叩きつけた。
それに続くように全員が帰ってきてゼフィルスに攻撃を仕掛けるが…また海の方へ飛び去って行った。
(あぁ…クソ…俺以外を狙いやがって…!絶対に許さな…い)
言葉が口から出ることもなく、体がピクリとも動かず、世界がぐらりと傾く。
ーーあぁ違う、俺が落ちているのか。
地面に向かって真っ逆さま、白鉄のエネルギー残量を見たが…ヘルスは1、パワーは123、シールドは0。白鉄、よく耐えた。そしてごめんな、俺みたいな奴が操縦者で…。
大きな衝撃音と共に伝播する激痛。俺は7月の快晴の青空を見つめながら。
ーー意識を失った
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




