第108話 蝶々たちは少女たちと舞う
青葉が受け入れられ、春斗が色々なところへ根回しをしてくれたおかげで、様々な物資が各地に送られるようになった。
かというIGD学園も医療用の薬品、食事等も普通に取れるようになり、軍事物資等もある程度は送られるようになったが…各国は封鎖状態にさせられている。
物資を送る飛行機や船等は未だにハイエンドに制圧され、各国の連携は情報共有のみ。
だが悪いことばかりではない。
各国が共通の敵を目の前にしたことにより、国々の協力体制がより緊密になった。
いがみ合った国も今は手を取り合い、敵に立ち向かう。
皮肉なものだが、ハイエンドのお陰で実現しなかった『平和』に近づきつつあった。
今、私が居るのはIGD学園の整備室。
「これがアジダハーカとティターニア…」
「うん、何というか姉妹だから色々似てるかもね」
今回の整備は専用機全てと新しく仲間になった椿と青葉の専用機。
『アジ・ダハーカ・ラグナロク』と『ブラッド・ティターニア』だ。
「HAG…なるほど…こうなってるんだ」
「水津ちゃん、あまりいじっちゃだめよ?青葉ちゃんの物だし、本人曰く拘束具なんでしょ?」
「はい、私の翠蝶のエネルギーの暴発を防ぐものです」
「…でも構造は知りたい」
「なら機体データを差し上げます」
「ありがとう…ってこんな数値してるんだ」
「私のエネルギーを吸収して放ちますからある程度は耐久力がないと」
「説得力が…すごい」
水津は青葉から渡されたアジダハーカの出力の数値データや機体構造を受け取り、目を輝かせ確認する。
私も少しチラッと見たが…本当にAGの何倍もの出力があった。
それはAGのゼフィルス以上の。
「お姉ちゃんは?」
「基本はゼフィルスと同じみたい」
「えぇ、私のスプライトに近いレーザーライフルがありますし参考になりそうですわ」
「それは光栄です。それに春斗も評価していたフレヤの射撃精度…是非見てみたいです」
「は、春斗さんが評価していましたの?」
「はい」
「ここに本人がいてくれたら良かったのですが…」
「…本当に何処に行ってしまったのでしょうか」
結局春斗は見つかっていない。
地下区画を教員やIGD学園の警備員でくまなく探索したがそれらしい痕跡はなく、ゼフィルスが居た部屋も頑丈な扉で閉ざされていて開きそうにもない。
その部屋に居ると踏んだが…部屋内の監視カメラを見ても誰も居ない。
「そういえば、青葉さん?」
「青葉でいいです。何ですかレベッカさん?」
「なら僕のこともレベッカでいいよ。その、春斗はハイエンドにいてどういうことをしていたの?」
「…動けない私やmotherの代わりとして様々な事をしていました。勿論、前に来た救急車や物資の数々は春斗が色々と根回ししてくれたおかげです」
「じゃあやっぱり最初から裏切ってなかったんだ」
「ですが…妙な事があったのも事実です」
「妙な事?」
すると青葉はある画像を見せる。
それは『butterfly』と書かれたラベルが貼られた瓶だった。
「青葉…それは」
「うん…でも言わないと」
「それがどうかしたのか?」
「この薬品こそが私とお姉ちゃんを蝶にした原因です」
「えっ!?」
「ラベルに書かれた通り名前は『butterfly』。私たちの両親が作り上げた禁忌に等しい劇薬、それの回収を春斗に命じたのですが…これが一つも見つかっていないのです」
「一つも?」
「はい…」
今の春斗…というより今までの春斗の事を考えると失敗することや命令違反すること自体かなり珍しいと思う。
…いや一度だけ命令違反はあったが、あれはしょうがない。
「アレが存在すれば、元凶を倒しても意味が」
「青葉ちゃん、その『butterfly』っていうのはどういうものなのかしら?」
「…」
雪華さんが青葉にbutterflyという代物がなんなのかを問う。
すると青葉は手を止めて、一瞬顔を暗くしたのち
「皆さんに聞きます。butterflyという代物を知る者は元凶と私とお姉ちゃん、そして春斗のみです。私が他の人に話さない理由はあまりにも現実味がなく、惨い話です…それでも聞きますか?」
私たちに理由を話す前に警告してきた。
現実味がなく、惨い話…。
一応春斗がどういう反応をしたのか聞きたい。
「聞きたいんだが、春斗は…どういう反応をしたんだ?」
「私は話していませんがmotherが話したそうです。その時の反応としては…『双眸を真っ黒に染め、目のハイライトが消え去り、怒りの感情が汲み取れた』と」
…激怒か。
春斗が怒ることはあまりない。
あまりないのだが…友人の事や人が関係することに関しては沸点がとても低い。
…この場にいるほとんどが春斗の『怒』を知っている。
となれば、butterflyという代物は人が関係するということになる。
「僕は聞きたい」
レベッカが言う。
「青葉の表情を見れば本当に惨い話ってことは分かるけど…聞くべきだと思う。戦うものとしても、友人としても」
「ゆ、友人?」
「あれ、違った?春斗ならもう青葉と椿の事を友人って思ってそうだけど」
「そ、そういうものなのお姉ちゃん?」
「そういうものよ、それが春斗だから」
「…彼、何なんですか?」
「「「「「「「人の気持ちを知らない唐変木」」」」」」」
春斗に対する評価を正直に話したら青葉と椿以外、発言が被った。
「ま、まぁ…何というか春斗さんは何でもかんでも受け入れますし、ある意味一番親身に話を聞いてくれる人でもありますわ」
「うん、敵だとしてもまずは話を聞いてくれます」
「そこから判断してくる辺り、ある程度の慈悲があるだろう」
「基本的に仲間や友人、受け入れた人にはかなり甘いですから…」
「…でも怒ったら最後」
「怒りを向けられたものはもう造形を残さないくらいに」
「何なんですか春斗って!?」
春斗の評価を詳しく話すと青葉は声を上げ、また問いかける。
実際、掴みやすいようで掴みにくく、一番近くにいるのに一番知らない存在が春斗と言える。
…春斗は優しく、誰にでも手を伸ばすからな。
「…皆さん1つ思ったことがあります」
「?」
すると椿が声を出した。
「私が友人?いいえ、違います」
「違う?でも椿は」
「私は春斗の『相棒』ですので」
「!!」
椿が小さく微笑む。
しかし、その笑いには他の意味が含まれていそうだ。
何というか勝ち誇ったような…。
「あ、相棒…!?」
「えぇ。皆さんの知らない春斗の一部や無茶を叶え、何より一心同体という言葉のごとく、一緒に生活していましたから…これらの理由により私は『ただの友人』ではなく『唯一の相棒』です」
今度ははっきりとわかる。
勝ち誇った笑みを私たちに向けてきた。
「つ、椿さん?」
「何ですか」
「まさかとは思いますが…そういう事ですの?」
「えぇ、分かりやすくいうなら…皆さんの『ライバル』です」
ライバル発言してきたということは、椿も春斗の事が…『好き』なんだろう。
「はぁ…またライバルが一人増えたよ」
「全くだ、アイツは何人ライバルを生み出せばいい」
「…一回春斗に問い詰めるべきだと思う、拘束して」
「水津ちゃん。それ、いいわね…戦いが終わったら拘束して聞いてみましょうか。うふふっ…うふふふふふふふふふっ」
水津と雪華さんが悪い顔をしている…。
本当にアイツは何人のライバルを生み出せば気が済むんだ。
「お姉ちゃん」
「なに?青葉」
「本当に春斗って何者…?」
「優しくて、すごく強い人って思えばいいと思う」
「???」
青葉が椿に春斗のことを聞くが結局、頭の上にはハテナが浮かんでいた。
全く…当の本人はどこに居るのか。
「と、とにかく話を戻しますが…butterflyのことは聞く、という事で間違いないですか?」
「うん、青葉ちゃん聞かせて」
そうして青葉はbutterflyについて話し始めた。
聞き始めた時からかなり身の毛がよだつ程の悍ましい話で、butterflyの誕生や何で出来ているのかなど全てを聞き切った私は…恐怖に埋めつくされていた。
「――ということがあり、それがbutterflyというものです」
「…」
私を含め、聞いていた全員が言葉を失っていた。
「…えっと、ごめん…質問してもいい?」
「どうぞ、レベッカ」
「…前に適合手術っていうものがあったけどそれは…?」
「お姉ちゃんの赫蝶を直接体内に埋め込む行為です。もちろん、butterflyも一緒に投与される為…結果は言うまでもないです」
「そう…なんだ」
レベッカの質問に対しても淡々と答える青葉。
適合手術もbutterflyも…とてもじゃないが人間が考え付いた発想とは思えない。
そして春斗が怒った理由もわかった。
春斗の両親は青葉と椿の両親に殺されたことと、子供たちの死に怒っていると。
…正直、春斗の気持ちもわかる。
「…つまり元凶の二人は実の娘すら実験のモルモットにしたと?」
「はい」
「それで、なんの因果なのか適合率が私と青葉に出ました」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!他の子どもたちは…?」
「適合率0%の影響で塵となり、butterflyにされ次の子供たちの身体を蝕む薬…となりました」
「なんて…こと…」
フレヤが力が抜けたかのように椅子にドッと座る。
「そしてそのbutterflyの所在がわからないと」
「はい…春斗に命じられたものはbutterflyの回収や子供達の遺体の回収です。しかし回収されたものは遺体のみでbutterflyはわかりません」
「butterflyが一滴でも残っていればまた繁殖する…なんて残虐で惨い薬品なんでしょうか」
「だからこそ、butterflyの回収が必要だったんです…」
アイヴィーのいう通り、butterflyという劇薬をそのままにしておくわけにはいかない。
私たちにも影響しかねないし、何よりこれ以上の犠牲は見逃せない。
「そういえば…春斗は適合手術を受けていないのに赫蝶を使えたんだよね…?」
「そこは本当に謎です。ですが、今はっきり言えることがあります」
「?」
「春斗は兵器だった赫蝶を受け入れてくれたんです。多分、受け入れることがトリガーだったと思います」
「受け入れる…」
「確かにそれは春斗さんにしか出来なさそうですわ…私も、急に言われても多分受け入れることは出来ないと思いますわ」
「私もだな…流石に兵器に受け入れてほしいと言われても否定してしまうかもしれない」
何一つわからないことを受け入れろなんて言われたら流石に私も拒否してしまう。
何かしらの情報があれば考えるかもしれないが、情報なしで受け入れたのが春斗。
優しいといえばいいのか…もう少し考えろと考えるべきなのか。
「ねぇ、青葉」
「はい?」
「この戦いが終わったら…何処か一緒に出かけよう?今まで遊べなかった分」
「い、いいの?」
「勿論」
蝶となった二人の姉妹はこの戦いが終わった後の約束をする。
私たちは今日、二人の存在の重みを知った。
人はそれぞれ別の人生を歩むが二人の道はあまりにも険しく、人が歩むような道ではない。
故に人らしい道を歩みたいのだと私は思った。
「二人の為にも、世界の為にも…元凶を倒すぞ」
「言われるまでもありませんわ」
「うん!僕たちの底力を見せてあげる」
「軍人とは民を守る者だ、守って見せよう!」
「本気…出す…!」
「お姉さんも今回ばかりは死力を尽くすわ!」
「騎士であるが故の力を見せましょう!」
なぁ春斗。
今度は私たちの番だ。
お前が帰ってくるまで椿と青葉は任せてくれ。
だから頼む…早く戻ってきてくれ。
◇◇◇
「…mother、貴方には失望したわ。まさか私たちに隠れてこんなことを」
『雋エ譁ケ縺碁搨闡峨r謨代≧豌励′縺ェ縺九▲縺溘°繧峨〒縺』
「何を言ってるかわからないが、こんなゴミはいらないだろう。何故残す」
「これは高度なAIなの、兵器程度にはなるわ。それに…こっちには『翠蝶』のギアがある」
「…そういう事か」
真っ二つに切られ、落ちるはずだったキャッスルの内部。
その中央には『真っ黒のAGのような物』が鎮座しており、操縦席部分のモニターにmotherが映し出されていた。
「ねぇ、mother…貴方のAIは素晴らしい物。でも私たちに協力しないのならそんな感情必要ないわね?」
『螟夜%縺』
「もういいんじゃないか?会話をしているだけ無駄だ」
「そうね。さっさとこんな世界壊して私たちが新しい神として世界を作りましょう」
motherのシステムに何かが送り込まれる。
『險倬鹸繝輔ぃ繧、繝ォ縺ォ逡ー蟶ク逋コ逕溘?√え繧」繝ォ繧ケ縺』
motherの中にあった感情、記憶ファイルに異常が発生し、徐々に消えていく。
青葉を守るために動いたバグも、青葉の為に作り出した演算プログラムも何もかもが消えていく。
(青葉…春斗…)
残ったメモリーにある二人の名前を考えるmother。
(せめて…せめて…!)
人間で言う一矢報いるために、何かをしようとする。
(…!!アレを破壊すれば…!)
motherは何かを思いつき、近場にあるコンソールに侵入し、『アレ』を破壊しようとする。
しかし。
(!!?)
motherの狙いであったbutterflyのポンプの中には液体が一滴も残っていなかった。
それだけではない、ポンプどころか横にあった籠もこじ開けられている。
(中身がない!?そんなはずは…!!)
春斗の予想通りbutterflyが入っていたポンプを破棄するためにキャッスルを見捨てたが、キャッスルは落ちず未だ空中に鎮座している。
butterflyの破棄は失敗かと思われたがそもそものbutterflyがない。
まさか萎羅と枯葉が既に活用したのかと思われたが、そうでもないようだ。
使用痕跡もなく、よく見ればポンプも一本だけ管が無理やり引きちぎったような跡があった。
(何故…?ッ!!?まさか!)
残された演算プログラムで導き出された答え。
その答えはあまりにも現実味がなく、確認できる方法もない。
(…いえあり得ます)
だが…答えがあり得る可能性がmotherの中にはあった。
今までの行動やデータ、そして協力関係により知った行動原理。
(信じましょう、機械である私が言うのもあれですが)
motherは導き出した『答え』を信じる。
(春斗、後は任せました。そして…青葉)
――ごめんなさい。
そうして一人の少女に寄り添い、一人の青年を援護したAIは感情、記憶、演算の何もかもが消去された。
「mother?」
『――ハイ、マスター』
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




