第107話 桜の芽吹きを待つばかり
「お姉ちゃん!!」
「ただいま、青葉」
椿が避難区画に帰ってきた。
IGD学園の生徒や教員の一部は椿という存在を見たことがある。
いつも春斗の中にいる赫蝶の元となった人が、今帰ってきた。
青葉は椿をぎゅっと抱きしめ、椿は青葉の頭を優しく撫でる。まさしく姉妹のよう。
「それと皆様も、こちらの姿では初めまして」
「初めましてですわ、椿さん」
「…よかった、てっきり忘れ去られていたと思っていました」
「そんなわけないよ、学園祭の時や色々な所でお世話になったしね」
専用機持ち全員は椿の事を知っている。
学園祭の時もそうだが、春斗の自壊の時もよく話を交わしていたりしていたので。
「…すまん、水を差すようで悪いが少々いいか?」
御影先生がやや申し訳なさそうな顔をしながら椿に話しかける。
「はい、御影さん」
「お前は春斗の中にいた赫蝶の元となった人、『桐生椿』であっているか?」
「合っています」
「となればあの元凶と思われるあの二人は桐生青葉と桐生椿の実の親となるが、否定意見はあるか?」
「「ありません」」
「姉妹揃って無し、か…分かった」
椿と青葉の実の親である二人が元凶であるということに何一つ否定せず、言う二人。
「両親の名前は?」
「母が『桐生萎羅』父が『桐生枯葉』です」
「…わかった。AG行動隊や警察にも情報を流そう」
「お願いします」
「それと青葉」
「はい…?」
「お前がどれほどの地獄を味わったのか私には理解できないが…よく頑張った」
青葉は受け入れてもらえた。
ハイエンドとしてではなく、一人の少女として。
青葉を被害者として受け入れたIGD学園。
「椿」
「はい?」
「九条は何処にいるんだ?お前を復活させたと聞いたが」
「あっ!そうです、迎えに行かなければ」
「何処へだ?」
「IGD学園地下区画の私の専用機の前の機体『ゼフィルス』が停止していた場所です」
「――何?」
御影の顔はこわばった。
「どうしました?」
「いや…IGD学園の全ての監視カメラを確認しても九条の姿は無かった。勿論、ゼフィルスが停止していた場所もだ」
「…え」
信じられない椿はIGD学園の監視カメラの映像を確認する。
すると…本当に春斗の姿が何処にもなかった。
蘇生した場所である地下区画のゼフィルスが停止していた場所にも…人がいたという痕跡すら綺麗さっぱりなくなっている。
「まさか…!」
「どうしたの?お姉ちゃん」
「ねぇ青葉、春斗の身体の中に翠蝶は居た?」
「ううん、左腕に翠蝶が宿ってたけど…」
「なら尚更おかしい…」
「どうかしたのか?」
「…春斗の目元にヒビがありました」
「「「えっ!?」」」
椿の声に各々が驚く。
「ヒビってことは…自壊!?」
「待て!でもそれは…」
「思った通りだと思いますけど…体内に宿る赫蝶あるいは翠蝶の影響を受けた春斗に現れる物が自壊なのですが翠蝶は宿っておらず、赫蝶はそもそも右腕に集中していてその部位にヒビのような傷跡があったのは分かります。ですが赫蝶を全て外に出したとしても春斗の両目辺りにヒビがありました」
「じゃあ…また何かが…?」
「ありえない…私とお姉ちゃん以外の蝶なんて存在していないはず。もし新しい蝶がいるなら分かるけど…」
本格的に春斗が消えた謎が深まる。
何処かへ歩いていったのならIGD学園の監視カメラに映るはず。
それにIGD学園の監視カメラに死角はない、隠れるということも不可能。
となれば考えられる結論が一つ。
「まさかとは思うけど…春斗が自壊の影響を受けて…」
「消滅…ってこと?」
青葉は縦に頷く。
「そんなはずが…」
「そ、そうですわ!春斗さんが…春斗さん…が」
各々が否定するが…ありえない話ではないと思ってしまう。
『春斗だから』という理由だけで納得できるほどの無茶や無謀な事をするのが春斗らしさでもあり、悪い所でもある。
「でもかなりあり得ます。春斗にヒビの事を聞いた際にも話をはぐらかされましたし」
「…」
青葉の意見を肯定する椿。
何処までも無茶をする人間こそ春斗なのだが…今回は何のために無茶をしでかしたのかが不明。青葉を助けてもらうためなら春斗自身が動いていたのだが途中で消えたとなると…椿を蘇生するためにヒビの影響で消滅した可能性がある。
「春斗…私は何度お前を失えばいいんだ…?」
監視カメラの映像を見て、呟く葵。
その映像には、密室となった地下区画の部屋が映し出されていた。
(…?)
ふと椿は思う。
(何故密室になっているのでしょうか…ゼフィルス起動前には既に扉は空いていましたし、私が飛ぶ時も開いていたはず…春斗が閉めたのでしょうか、ですが何のために?)
誰もが監視カメラから視界を外す。
その一瞬のうちに映像内に、異変が起きた。
――閉められた扉が少し動いたことに。
◇◇◇
…どこだここ。
身体を起こして周囲を見回す。
今まで気絶やらなんやらで謎の空間に意識が吹き飛ぶことはあったが…。
「真っ白だ…」
何もない。
空は真っ白で床は足首辺りまで水が張り巡らされているがそれ以外何一つない。
前も後ろも、右も左も真っ白で地平線が広がっている。
海も、桜も、花畑もない。
言うなら『無』だ。
「…」
歩く気力はこれっぽっちも残っていない。
考えられるほど頭が働かない。
…俺は大の字で倒れる。
「はぁ…」
死後の世界か?ここは。
何もない、ただ虚無が存在するばかり。
「…」
なんか…頭が真っ白になっていく。
「―――…。」
身体が動かない、ゆびがうごかない。
俺は…おれは?
「―――」
おれは…だれだ?
なにもかんがえられない。
すると、ぴちょぴちょとあしおとがきこえてくる。
『九条春斗』
だれかのなまえをつげられる。
くじょうはると?
それがおれのなまえなのか?
『そう、貴方の名前は九条春斗』
そうか、おれはくじょうはるとというのか。
あなたは?
『私は篝。貴方のAGの中にいる存在です』
AG?
『貴方の親が作り上げた世界を救う神器です』
おれのおやはそんなものをつくったのか。
すごいな。
『…貴方は守るために力を欲しました。確かに守れたのかもしれません、ですがまだ守り切れていない者たちがいます』
まもる…?
『貴方は未来の子供たちを守るといい、butterflyをこの世から消そうとしました』
ばたふらい…そうだ。
俺はbutterflyを消すために…。
「だが、死んだんだろ?俺は」
『いいえ』
「俺は、生きてるのか?」
『貴方の意思は生きていますが、肉体は完全に消えました』
「肉体?」
『貴方の身体は蝶となって消えています』
蝶となって?
は!?蝶となって!?ということは…!
「俺は『適合』したのか?」
『はい、しかもbutterflyとなってしまった中にいる子供たちとも』
「マ、ジか…」
ということは、俺は因果や運命に勝ったってことか?
「…どうすればいい」
『貴方の自由に』
声が聞こえる方向に体を起こす。
そこには…桜の風景で見た炎を纏った白袴の女性がいた。
「自由にって言われても…」
『私から言うことはありません。ですが貴方に一言告げることは出来ます』
「?」
白袴の女性は話し始めた。
『春斗がやりたいことをしなさい、そのために力を振るってほしい。』
「!!」
俺のやりたいことをする、そのために力を振るってほしい…。
…そうか、そうだったな。
「俺は守るために力を振るう、もう犠牲者を出さないために俺は戦う!」
全身に力が溢れ、俺は立ち上がり…白袴の女性に言う。
「まだ戦いが終わってないのなら…俺は守る。友も、家族も…それに青葉や椿も!」
『それでこそ、自慢の息子』
「!!?」
自慢の息子…!?
ちょ、ちょっと待て!
『本当に立派に育ってくれたな、春斗』
『えぇ、本当に』
炎を纏っていた篝という女性の炎が完全に剥がれ、顔を見せる。
そして剥がれた炎も人体の形を成して、顔を見せる。
その顔は…忘れるはずもない。
「父さん母さん!!」
俺は勢いよく二人に抱き着く。
『うぉっと…こういう子供っぽいところは変わっていないんだな』
「当たり前…だろ」
『本当にごめんね?寂しい思いをさせて』
「あぁ…全くだ」
二人の手が俺の身体に回される。
『身体は大丈夫?』
「母さんの言う通りなら…俺はbutterflyと適合してるはずだから多分大丈夫」
『適合、か。親として聞きたいが何故そんなことを?春斗が知っている通り禁忌ともいえる薬品のはずだが』
「もうこれ以上の犠牲を出させないためだ。見たんだ、泡と消え行く子供たちの姿を」
『そう…どんな顔なんて聞かないわ。春斗の顔を見れば一目瞭然だもの』
『その為に戦うのか?』
「それだけじゃない…もし、現世に帰れるならもう一個策がある」
『策?』
「さっき話した椿っていう相棒を復活させるときに掴んだんだ。蝶で子供たちを復活させる方法を」
俺が椿を蘇生した時、あの時はゼフィルスのギアを核に人体を蘇生した。
そのギアの中には赫蝶が居たからかもしれないが、俺は今完全にやり方を理解している。
ギアを核として蝶で人体を戻す方法を。
だが…俺の身体の中には数多の子供たちがいる。全員を蘇生するとなると今の世界にあるAGやインフィニティギアを全て蘇生に使うとしても数的にも不可能で、ギアが無くなってしまった世界に問題が出てしまう。
『なら…どうするんだ?ギアの数は足らないんだろう?』
「足らないのはあくまで世界の話だ、丁度あるんだ。数多のギアが」
『何処に?』
「…ギアが入った人工血液だ」
俺の血液にはギアが入った人工血液がある。
ギアの入った人工血液には一個のギアがちりばめられて入っていると俺の身体のレポートに記載されていた。
それならば…ちりばめられた一個一個のギアを核に子供たちを蘇生すればいい。
不可能に近いかもしれないが、今の俺なら子供たちの蘇生はできると確信している。
…その代わり。
「まぁ…本当に終わりだと思うけど」
確実に俺の身体の半分以上の血が持ってかれる。
それにどれほどの蝶が俺の身体の中に居るのか分からないが、身体の維持の問題も出てくる。
そうなれば、死ぬ可能性は十分にある。
『春斗は』
「うん?」
『春斗はそれでいいのか?』
父さんが心配してそうな声で俺に聞いてくる。
「それでいい。人間の俺はもういない、それに死んだのに蘇生されたんだ…もう十分生きたよ」
『…』
「子供が言うのはアレなんだが、親からしたら子が死ぬのは一番嫌かもしれないが俺は父さんと母さんのしてきたことを知ったんだ。俺の為にレポートやらなんやらを燃やし、俺の為に黒鉄を作り出し…世界の為に奮闘した親の姿を」
『『…』』
「俺は二人の息子で、二人を一番近くで見て居たんだ。二人のようになりたいって思うのも息子らしいだろう?」
『『…』』
「…俺は守りたいものも守れなかった、だが今度こそ守って見せる!友達も!家族も!二人が守った世界も!」
俺は死ぬために戦いに行く、無謀と言ってもいい。
だが俺は戦いに行く理由がある。
子供たちの蘇生と未来の子供たちの為には元凶二人を潰さないといけない。
青葉と椿の為に元凶を消さなければならない。
友達の為にも元凶を倒さなければならない。
世界の為に戦わなければならない。
なら…俺は立ち上がろう。
『…本当に立派な息子になったな、春斗』
『うん、見てるからね?』
「あぁ…!見て居てくれ、天国に轟くくらい凄い勇士を見せてやる!」
『楽しみにしてる』
そういうと父さんと母さんの身体が薄く消えていく。
『頑張ってね?』
『俺たちは息子の道を応援する、悔いのないように頑張れ!』
「あぁ!それと」
『『?』』
俺は目元を拭い、自分が出来る最高の笑顔でこう言ってやった。
「――俺を生んでくれて、ありがとう!最高の親を持てて俺は幸せ者だーッ!」
そういうと父さんと母さんは二人そろって笑いながら…。
――天へと帰っていった。
「ッ…いつまでも泣いてる場合じゃない」
空を見上げ、また泣きそうになるが我慢し後ろを向く。
そこには空は暗く、多くの子供たちが泣いて下を向いていた。
この子供たちの為に俺の身体を贄とする…。
「子供たち!よく聞け!!」
俺は腹から声を出し、子供たちに呼びかける。
「家族に会いたいか!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんに会いたいか!」
「父さん母さんに会いたいか!」
「なら…俺がゴミのような地獄から解放して、親に会わせよう!」
「だから、俺に力を貸してくれ!君たちも背負って俺は戦うッ!!」
そう言うと泣いていた子供たちは目をうるうるしながら俺の元へ歩み寄り、俺の身体を握る。
子供たちの悲しみを受け止め、守りたいという意志に火をつける。
「行くぞ…!」
俺は白い空と黒い空の境目に手を伸ばす。
震えて待っていろ元凶…!
「赫蝶にも、翠蝶にも適合し、butterflyすらも我が物とした化け物の…。恐ろしさを!」
――決意を固めた青年は燃える。
――双眸を黒く染め、黄色い閃光を靡かせながら。
――『黒色の蝶』が彼を覆う。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




